辺戸岬は、那覇から車で約3時間、国道58号線を約110km北上した本島最北端の観光地だ。
長距離ドライブを経た人たちは駐車場に車を止め、祖国復帰の闘争碑から遠く与論島を望み、断崖に打ち寄せ砕け散る荒波を見つめ、草原と岩場の散策コースを歩き、トイレや自販機で用を済ませると、再び乗車して帰路につく。
この繰り返しで、駐車場は車が入れ替わる。
やがて、夕闇が迫り、波の音、風の音、激しく打ち寄せる波の音だけが暗闇を支配すると、車の台数は少なくなり、たまに近づいてくるヘッドライトの灯りが新たな訪問客の到着を知らせる。
どうやらここで夜を過ごせそうだと、缶ビールを開け、早めの夕食をとり、音楽を聴きながら、あたりが静かになるのを待つ。
数えると駐車場には乗用車が5台いた。入り口に近い東側に1台、中央部に2台、奥の西側に1台だ。
東側の車は、先ほど記念碑で夕暮れの写真を撮っていた年配のカップルで、しばらくすると立ち去った。中央部の2台は、待ち合わせをしていたのか、やがて仲間の車の到着とともにそろってどこかへ消えていった。一番西側の車は、一人で来ていた男性で、やがていなくなった。
エンジンを切りエアコンを止め、全ての窓の上部を5cm開けて外気を取り入れ、座席のシートを後ろに倒し、くつろいでいると、そのまま眠り込んでしまったようだ。
「ボコン!ボコン!」
車のボンネットがへこむようなイヤな音に驚いて、目が覚めた。
辺りは暗く、どこから聞えてくるのか見えないが、音の方角からすると東側に駐車している車が、場違いな音を立てているようだ。
「わぁ、きれい!」女性の声になぜか安心する。暴走族や物取りじゃあ、困る。
体が動かなくて良くわからないが、どうやら、車上に人影らしきものが感じられるので、カップルが車の屋根に上り、星空を見上げているようだった。
軽量化された今の車は、人の重みで簡単にへこむ。
その時、新たなヘッドライトが近づき、斜め後方に乗用車が止まった。
ドアを開け、「着いたぁ!」「星がきれい」など、口々に話す声は女性達で、安心する。
と同時に、車の傍を通る際、私の存在に気づかれないか、急に心配になる。
野宿する変人と騒がれたら迷惑だ。ここはひたすら気配を殺して、寝るしかない。
「辺戸岬」とかかれた石碑の横で記念撮影をしているのか、カメラのフラッシュ光で辺りが浮かび上がる。車の屋根に寝そべり星を見上げる2人の人影があった。
時計を見ると22時。土曜日の夜だからか。
やがて、真っ暗な散策を終えた後方の車も立ち去り、隣の車上のカップルも、再び「ボコン!ボコン!」と車内から天井の凹みを元に戻して、駐車場からいなくなり、一人となった。
車外に出てみると、満天の星。天の川。ひときわ銀河系が星の数が多い。
星も、太陽と同じように、海からのぼり、天空を横断し、再び海に沈むのだ。
風が心地よい。聞えてくるのは、岬にぶつかる風の音、砕け散る波の音。
今まで、天の川を何回見ただろう。
こどもの頃は、田舎で随分見たような気がする。街灯も少なかった。
山のキャンプ場で、星の数の多さに驚いた。
山の天気は、不安定で雲がかかりやすい。星は見えても、月がまぶしく、天の川がきれいに見えるチャンスは少ない。数えるほどしか見ていないのか。
流れ星も見つけた。発見してから願い事を唱えても、間に合わない。願い事をずーと反復しながら、流れ星を見つけるものだろうか。
夜は長い。再び車内に戻り、横になり眠り込む。
何やら、騒々しいカーステレオの低音に目覚める。2台の車がすぐ隣に止まった。
ドアを開け、聞えてきたのは男性グループだった。
「着いた!」「那覇から3時間かかった!」
人数が多く光不足のため、横付けした車のヘッドライトで、記念撮影をしているようだ。音も光も騒々しい。
どうやら、石碑近くの、落ち着かない場所に止めてしまったのか。
散策を終えた若者達が去り静かになったと、うたた寝しながら考えていると、ふたたびヘッドライトが近づいてくる。そんな繰り返しだったが、やがて暗闇と沈黙が辺りを包んだ。午前2時だった。
車外に出ると、天の川の流れる向きが変わっていた。
風上の西の方は、雲が流れてきたのか、星が見えない。もう見納めかな。
朝まで静かに眠れるだろう、と思ったら、午前3時過ぎになって、休憩所近くに新たな車が到着した。ルームミラーを見ると、自販機の灯りを頼りにテーブルで話を始めた男女4人がいた。
結局、このグループは夜明けまでいた。
やがて、夜が明け、水平線の上の雲間から、朝陽が辺戸岬に届いた。
長距離ドライブを経た人たちは駐車場に車を止め、祖国復帰の闘争碑から遠く与論島を望み、断崖に打ち寄せ砕け散る荒波を見つめ、草原と岩場の散策コースを歩き、トイレや自販機で用を済ませると、再び乗車して帰路につく。
この繰り返しで、駐車場は車が入れ替わる。
やがて、夕闇が迫り、波の音、風の音、激しく打ち寄せる波の音だけが暗闇を支配すると、車の台数は少なくなり、たまに近づいてくるヘッドライトの灯りが新たな訪問客の到着を知らせる。
どうやらここで夜を過ごせそうだと、缶ビールを開け、早めの夕食をとり、音楽を聴きながら、あたりが静かになるのを待つ。
数えると駐車場には乗用車が5台いた。入り口に近い東側に1台、中央部に2台、奥の西側に1台だ。
東側の車は、先ほど記念碑で夕暮れの写真を撮っていた年配のカップルで、しばらくすると立ち去った。中央部の2台は、待ち合わせをしていたのか、やがて仲間の車の到着とともにそろってどこかへ消えていった。一番西側の車は、一人で来ていた男性で、やがていなくなった。
エンジンを切りエアコンを止め、全ての窓の上部を5cm開けて外気を取り入れ、座席のシートを後ろに倒し、くつろいでいると、そのまま眠り込んでしまったようだ。
「ボコン!ボコン!」
車のボンネットがへこむようなイヤな音に驚いて、目が覚めた。
辺りは暗く、どこから聞えてくるのか見えないが、音の方角からすると東側に駐車している車が、場違いな音を立てているようだ。
「わぁ、きれい!」女性の声になぜか安心する。暴走族や物取りじゃあ、困る。
体が動かなくて良くわからないが、どうやら、車上に人影らしきものが感じられるので、カップルが車の屋根に上り、星空を見上げているようだった。
軽量化された今の車は、人の重みで簡単にへこむ。
その時、新たなヘッドライトが近づき、斜め後方に乗用車が止まった。
ドアを開け、「着いたぁ!」「星がきれい」など、口々に話す声は女性達で、安心する。
と同時に、車の傍を通る際、私の存在に気づかれないか、急に心配になる。
野宿する変人と騒がれたら迷惑だ。ここはひたすら気配を殺して、寝るしかない。
「辺戸岬」とかかれた石碑の横で記念撮影をしているのか、カメラのフラッシュ光で辺りが浮かび上がる。車の屋根に寝そべり星を見上げる2人の人影があった。
時計を見ると22時。土曜日の夜だからか。
やがて、真っ暗な散策を終えた後方の車も立ち去り、隣の車上のカップルも、再び「ボコン!ボコン!」と車内から天井の凹みを元に戻して、駐車場からいなくなり、一人となった。
車外に出てみると、満天の星。天の川。ひときわ銀河系が星の数が多い。
星も、太陽と同じように、海からのぼり、天空を横断し、再び海に沈むのだ。
風が心地よい。聞えてくるのは、岬にぶつかる風の音、砕け散る波の音。
今まで、天の川を何回見ただろう。
こどもの頃は、田舎で随分見たような気がする。街灯も少なかった。
山のキャンプ場で、星の数の多さに驚いた。
山の天気は、不安定で雲がかかりやすい。星は見えても、月がまぶしく、天の川がきれいに見えるチャンスは少ない。数えるほどしか見ていないのか。
流れ星も見つけた。発見してから願い事を唱えても、間に合わない。願い事をずーと反復しながら、流れ星を見つけるものだろうか。
夜は長い。再び車内に戻り、横になり眠り込む。
何やら、騒々しいカーステレオの低音に目覚める。2台の車がすぐ隣に止まった。
ドアを開け、聞えてきたのは男性グループだった。
「着いた!」「那覇から3時間かかった!」
人数が多く光不足のため、横付けした車のヘッドライトで、記念撮影をしているようだ。音も光も騒々しい。
どうやら、石碑近くの、落ち着かない場所に止めてしまったのか。
散策を終えた若者達が去り静かになったと、うたた寝しながら考えていると、ふたたびヘッドライトが近づいてくる。そんな繰り返しだったが、やがて暗闇と沈黙が辺りを包んだ。午前2時だった。
車外に出ると、天の川の流れる向きが変わっていた。
風上の西の方は、雲が流れてきたのか、星が見えない。もう見納めかな。
朝まで静かに眠れるだろう、と思ったら、午前3時過ぎになって、休憩所近くに新たな車が到着した。ルームミラーを見ると、自販機の灯りを頼りにテーブルで話を始めた男女4人がいた。
結局、このグループは夜明けまでいた。
やがて、夜が明け、水平線の上の雲間から、朝陽が辺戸岬に届いた。