ケイの読書日記

個人が書く書評

倉知淳 「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」 実業之日本社

2019-02-20 16:44:45 | 倉知淳
 倉知淳といえば、猫丸先輩。6編が収められているこの短編集を読めば、猫丸先輩にいっぱい会えるかも、と楽しみに読み始めたが、結局、最終の第6話『猫丸先輩の出張』に登場したのみ。
 そういった意味では期待外れだったが、ノンシリーズもそれなりに面白い。特に『変奏曲・ABC殺人事件』は秀作だと思う。

 クリスティの名作『ABC殺人事件』は、よく知られているので、読んでいなくても内容は知っている人が多いと思う。それを逆手にとって、ある男が弟殺しをもくろむが…。

 最初、足立区青原の路上で朝嶺久美という女性が撲殺される。どうも通り魔殺人らしい。2週間後、番祥寺町の馬場茂昭という男性が自宅で撲殺されているのが見つかった。金目当て、怨恨という類ではないらしい。どうも通り魔殺人っぽい。
 これらの記事を偶然、目にした男は、かねてからの計画を実行しようとするが…。

 機会があれば人を殺してみたい。連続通り魔事件に紛れ込まして、本命を殺したいと思っている人が、いかに多いか分かる。


 『豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件』は、タイトルは面白いが、中身はイマイチ。マッドサイエンティストみたいな博士が出てきて、荒唐無稽な兵器を作ろうとする。3人の兵隊が手伝いに駆り出され、そのうちの1人が撲殺される。そばには、鍋と血がついて角が潰れた豆腐が転がっていて…。状況からすると、豆腐の角に頭をぶつけて死んだように見えるが…。

 もちろん『猫丸先輩の出張』も面白い。が、猫丸先輩のキャラが面白いのであって、トリックは平凡。でも、出入りする時に部外者はもちろん、研究員も徹底的に調べられる研究所で、どうやって内部の機密情報を外に持ち出すか、の視点から考えれば、秀作かも。
 三本松研究員の陰気なキャラもgood! またどこかで登場してもらいたい。

 猫丸先輩をイメージするとしたら誰だろう? すごく小柄で目がクリっとしているらしいので、爆笑問題の田中はどうだ?! でも性格は太田の方が近い。あれ? 田中と太田、どっちがどっちだったかな? 二人ともよくある名前だから、頭の中で混じっちゃうよ。
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倉知淳 「片桐大三郎とXYZの悲劇」

2016-08-22 10:09:26 | 倉知淳
 たかさんがブログで褒めていたので読んでみました。なるほど、去年、評価が高かっただけあって面白い。

 「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」→「Xの悲劇」 「極めて陽気で呑気な凶器」→「Yの悲劇」 「途切れ途切れの誘拐」→「Zの悲劇」 「片桐大三郎最後の季節」→「ドルリー・レーン最後の事件」というように対応している。

 エラリー・クイーン版のドルリー・レーンは、聴力を失って引退したシェイクスピア俳優だが、倉知淳版では、聴力を失って引退した歌舞伎出身の時代劇スター・片桐大三郎が探偵役になっている。彼の耳となって、パソコンでキーボードをたたき、大三郎のタブレット端末に文字を送るのは、のの子。彼女もかわいい。
 ただ…、時代劇スターというのが、今の若い人にはピンと来ないんじゃないかな。名前が思い浮かばないよね。それだったら、歌舞伎俳優にした方が良いんじゃないかな? いや、能役者の方が、格調が高いかも。

 キャラで読ませる作品かと思ったが、そうではなく本格物として優れている。特に、2作目、3作目。
 2作目の「極めて陽気で呑気な凶器」は、「Yの悲劇」と同じくウクレレが凶器だが、なんでこんな物を凶器に?といった疑問や、矛盾だらけの状況を、キレイに解き明かしてくれる。ああ、こうすればピタッとパズルはハマるのだと、読後スッキリする作品。

 3作目の「途切れ途切れの誘拐」も、ベビーシッターを殺し、赤ん坊を誘拐した犯人からの身代金請求の電話が何度も途切れる、という見方によればコミカルな状況がなぜ起こったのか? それを解き明かす過程が見事。
 ただ、読後感は悪い。最低な気分。犯人は、自分の命で罪を償うしかない犯罪。


 読んだはしから内容を忘れてしまう私だけど、「Xの悲劇」「Yの悲劇」は覚えている。特に「Yの悲劇」は名作中の名作だと思う。でも「Zの悲劇」はキレイさっぱり忘れている。「ドルリ・レーン最後の事件」に至っては未読。いけませんねぇ。こういった古典は、しっかり押さえておかないと。
コメント (2)
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