日々是マーケティング

女性マーケターから見た日々の出来事

レナウンの倒産とブランド

2020-11-02 13:17:14 | マーケティング

経営危機が言われていた、アパレルメーカー「レナウン」の破産というニュースが報じられた。
日経新聞:民事再生中のレナウン、破産手続きへ 名門ブランドに幕

レナウンの経営不振は、随分前から言われていたので大きな驚きではないかもしれない。
他にもワールドが希望退職者を募り、店舗閉鎖など、いわゆる「老舗アパレル企業」の明るい話題が、聞かれなくなった昨今のような気がしている。
ダイヤモンドオンライン:ワールドが希望退職200人募集、今期358店舗を閉鎖

同じアパレル業界でも、ユニクロのように収益が黒字になっている企業もあるのだが、アパレル産業全体から見れば黒字企業はほとんどない、という状況なのでは?という気がしている。

その理由の一つとして考えられるのが、ユニクロのようなファストファッションであったり、ワークマンのような機能に特化し低価格帯のアパレルの台頭、ということになるのかもしれない。
だが、それだけではないはずだ。

一つは、生活者の気持ちとして「ファッションを楽しむ」という気持ちの余裕がなくなってきている、ということがあるような気がしている。
ユニクロのように、日常着となるようなモノはある意味「消費財」のような位置づけのアパレルだと思う。
ワークマンにしても、元々が作業着などを製造・販売している企業だと考えれば「仕事をするための消費財としての服」だと言えるのではないだろうか?

それに対して、ワールドにしても破産したレナウンにしても「消費財としての服」のメーカーではない。
ワンシーズンごとに買い替えるような服を企画し、製造・販売をしているわけではないので、生活者の気持ちが「ファッションを楽しみたい」という気持ちが起きない限り、新たな商品購入が起きるような商品ではない、ということになる。
しかしファッション業界そのものは、相当早いサイクルでデザイナーはコレクションを発表し、発表されたコレクションの傾向から、新しいトレンドが生まれ、そのトレンドに合わせてアパレル業界が動いてきた。

かつては、「春・夏」と「秋・冬」という2シーズンのコレクション発表だったモノが、今ではコレクションシーズンの細分化が始まっている、とも言われている。
ファッション業界もそれだけ、生活者の気持ちをつかむことに苦戦しているのかもしれない。
その結果として、アパレル産業そのものも、商品サイクルを短くし、販売しなくてはいけなくなり、膨大な在庫を抱えてしまう、という「負のスパイラル」に陥っているとも言われている。
実際、2017年にはイギリスの超が付くほどの人気ブランド・バーバリーが年間40億円超の売れ残り在庫を焼却処分していた、と問題になった。
Huffpost:バーバリー、40億円超の売れ残り商品を燃やす「環境に優しい方法で処分している」

この時の話題の中心は、焼却処分によって地球環境に悪影響を与えているのでは?という、指摘の問題だったのだが、これほどまでの費用をかけて処分する理由は、「ブランドイメージの維持」の為だった。

レナウンの破産により、「レナウン」というブランドは消滅してしまうのだが、「レナウン」が長い間ライセンス契約などをしてきた「アクアスキュータム」等のブランドは、既に小泉アパレルへ売却をされている。
レナウンだけではなく、日本のアパレル企業は海外ブランドとライセンス契約をしていたり、自社ブランドを育てることで、企業名とは別の「ブランド力」を持っている場合が多い。

今回のレナウンの倒産で「レナウン」という企業は無くなってしまっても、「アクアスキュータム」等レナウンが育ててきたブランドは、残るということになる。
婦人服ブランドはともかく、紳士服ブランドである「ダーバン」や顧客の中心が男性である「アクアスキュータム」等は、婦人服のような早い商品サイクルである必要は無い、ということを考えると、これらのブランドを早めに売却をしておいてよかったように思う。

上述したように、アパレルメーカーが無くなっても「ブランドが残る」という、日本独特のアパレル事業展開が「ブランド」を守った、ようにも思う。