日々是マーケティング

女性マーケターから見た日々の出来事

「世界市場を獲る」ということ

2023-09-10 21:09:32 | ビジネス

昨日だったと思うのだが、一部新聞に「ホンダがテスラ方式を採用」という内容の記事が掲載されていた。
讀賣新聞:テスラ方式のEV充電、日産に続きホンダも採用…米市場で半分シェア

この記事を読みながら、今では見ることも無くなった「VHS vs β」というビデオ再生方式を思い出した。
30数年前の話なので、ご存じの方は私同様それなりの年齢の方、ということになるだろう。
一応説明をしておくと、ビデオデッキが一般家庭に普及し始めた頃、ソニーが開発をした「β方式」とビクターが開発した「VHS方式」の2つがあった。
画像や音声などはソニーが開発したβ方式の方が、VHS方式よりも優れていた。
しかしレンタル向けのビデオテープは、圧倒的にVHS方式で作られていたため、ビデオテープの市場がVHS方式を選択するようになった。
技術力では上であったはずのβ方式は、市場の選択結果によりソニーは家庭向けβ方式のビデオデッキの製造を中止せざる得ない結果となった、という「技術が良くても、市場は選ばない」という、事例として今でもマーケティングの勉強などでは取り上げられていると思う。
それほど「市場の優位さ」が、優秀な製品を駆逐するという実例だ。

「VHS vs β」という「ビデオ規格の市場争奪戦」を知っているからこそ、ホンダが北米でテスラ規格を採用した、ということにEV充電市場の予想図を感じたのだ。
同時に、これから市場が拡大していくであろうEV充電規格の「世界市場」の行く先が、見えた気がしたのだ。
というのも、記事を読み進めていくと、既に日産がテスラ規格を採用しているだけではなく、BMWグループやメルセデスベンツなど7社でつくられたEV充電ネットワークの構築を進めているようなので、BMWやベンツもテスラ方式の規格を選んだと読み取るコトができる。
これで北米における、テスラ方式のEV車充電規格は半分となる、ということを考えると、将来的には「テスラ方式のEV車充電規格が世界の標準」となる可能性が高い、という予想される。

言い換えれば、今後いくらテスラ社のEV車充電よりも優れた充電システムを開発しても、市場を奪い取るコトは難しい、ということになる。
もちろん、トヨタがどのような方式を採用するのか?という点は気になるところだが、少なくともモータリゼーションの国・北米において既に市場の半分を獲っているテスラ方式に対抗するのは、容易なことではない、ということが分かると思う。

もし「起死回生」の策があるとすれば、EV車そのものが変わってしまう、ということだろう。
例えば、水素エンジンのクルマが市場を獲る、と言った変化だ。
上述した「VHS vs β」で市場を獲ったVHS方式は、家庭用ビデオカメラがデジタル化されるコトによって、市場から消え去ってしまった。
ITの進化が、VHS方式のビデオカメラの市場を奪い取った、ということになるのだ。
そしてそのデジタル化したカメラも、今やスマートフォンが取って代わる勢いだ。

「クルマ」というモノそのものは、市場から無くなるとは思えない。
環境負荷の少ない鉄道輸送が復活したとしても、クルマの持つ利便性などには敵わないと考えられるからだ。
とすれば「クルマ」がどのように変化をしていくのか?
それによって、その「クルマ」を動かすモノが大きく変わり、時代の変化によって「市場の中心となる企業」が変わっていく可能性はある。
ただ今現在の状況で言えるのは、おそらく「テスラ社のEV車充電規格」が、「世界の市場を獲る」であろうと予測される、ということだ。