一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「第3回ペア将棋選手権」を見に行く(中編)

2010-02-02 00:49:30 | LPSAイベント
私は気を取り直し、まだ続いている対局を観戦する。中倉彰子女流初段・清水上徹アマ×中倉宏美女流二段・伊藤康晴アマ戦は、男性アマが入っているものの、姉妹対決である。この対戦なら最初から観たかったが、うっかり昼食に出てしまったのだから仕方がない。
注目対決は姉が制し、中倉彰子・清水上ペアは貫禄の2連勝通過。そのほか7ペアが予選を通過し、2連敗で無念の脱落は、船戸陽子女流二段・渡辺健弥アマ、大庭美樹女流初段・山下祥アマの2ペアとなった。
午後1時30分から午後4時までは「ペア将棋体験コーナー」として、女流棋士やLPSAサポーター・アイリスらとペアを組み、30秒の早指し将棋が体験できる。めでたくも残念なことに船戸女流二段が敗退したので、このあとすぐに、ペア将棋の対局者に回るのだろう。
私はペア対局を申し込む予定はなかったので、再び散歩に出る。不案内な街をぶらぶら歩き、東京にもこんなところがあったのかと、お上りさんの気分で会場に戻った。
決勝トーナメント1回戦の開始は2時30分である。今度は2分前に到着した。
植山悦行七段がいらして、どうしてペア将棋体験コーナーに申し込まなかったのか、訊いてくる。もちろん、船戸女流二段の担当が確定したことを踏まえての発言である。
私は適当に理由をつけて言葉を濁したが、仮に船戸女流二段とペアになって将棋を指したとしても、なんとなく虚しさのほうが勝るような気がしたから、申し込みはしなかったのだ。
金曜サロンの棋友が来て、
「一公さんの執念ですねぇ」
と言う。これもまた、船戸女流二段の予選敗退を指している。しかし私は船戸・渡辺ペアの決勝戦進出を予想していたし、複雑な気持ちである。
1回戦の組み合わせは、部屋の奥から、藤田麻衣子女流1級・鈴木貴幸アマ×中倉彰子女流初段・清水上アマ、松尾香織女流初段・長岡洋平アマ×中倉宏美女流二段・伊藤康晴アマ、渡部愛ツアー女子プロ・星宮謙アマ×石橋幸緒女流四段・馬上勇人アマ、中井広恵天河・宮原洋介アマ×島井咲緒里女流初段・伊藤享史アマとなった(藤田~中倉宏美戦以外、左側が先手)。
2連勝通過ペアは、1回戦のシード枠か対戦相手の指名権が与えられる。今回は8ペアがトーナメントに進出したので、中井・宮原ペアは対戦相手を指名することになった(と思う)。指名ペアは予選1回戦で降した島井・伊藤ペア。これ、指名されたほうは与し易しと取られたわけで、屈辱以外の何物でもない。となると、もうひとつの予選2連勝・中倉彰子・清水上ペアは藤田・鈴木ペアを指名したということか。
席に座っている藤田女流1級と目が合う。いままでに見たことがない、落ち着いた、いい表情だ。そういえばここまで、出場女流棋士の誰ともお話していない。目礼しておく。
まだ中倉宏美女流二段が「残っている」のがちょっとアレだが、そうそうひねくれたことも言えない。
定刻を数分すぎて、いよいよ対局開始である。
本局から、会場の前方で鈴木大介八段の解説がつく。横にはスクリーンが置いてあり、そこに将棋ソフトの画面が写っている。4局の中から注目局を1局選ぶ。選ばれたのは石橋~渡部戦だ。ただこれはLPSAのホームページに直結しているので、指し手の反映にタイムラグがある。また昼間なので、スクリーンが明るく、やや見にくい。
中倉宏美~松尾香織戦の将棋を、松尾歩七段が心配そうに見ている。そういえば昨年の同ペア戦でも、松尾七段は訪れていた。
そのときは松尾女流初段が相談タイム時のヘッドホン係で、「あの人、何しに来たの?」と動揺しながら仕事をこなしていたのを思い出す。今年は奥様が対局者として座っている。
植山七段クラスになると、愛妻が誰とペアを組んでも知ったことではないだろうが、松尾七段の場合はどうなのだろう。優勝を祈っているのか、そろそろ負けてくれと念じているのか。
解説の鈴木八段は、聞き手の藤森奈津子女流三段とともに軽快なトークを飛ばす。ペア将棋を指すうえでの心得を述べていたが、あまり相方のことを考えず、自分の指したい手を指すのがいい、という話が印象に残った。
持ち時間は10分だから、すぐに中盤戦に入る。さすがに本戦トーナメントになると、選手の表情も違う。盤上没我という感じだ。
島井女流初段は前屈みになって考えている。相手の中井・宮原ペアが作戦タイムを取ると、島井・伊藤ペアが寄り添って検討している。その姿が自然に見えるのが何ともまた…というところである。
ただひとり妙な姿勢なのが石橋女流四段で、将棋のことは頭にないかのように、辺りを見回している。しかしこれが石橋流の思考スタイルで、頭の中では駒が忙しなく動いているのだ。
午後1時から会場の後方で始まっていた「どうぶつしょうぎペア選手権」が終わったようである。優勝ペアに、どうぶつしょうぎ担当の大庭美夏女流1級が賞品を渡している。あまり注目はされていなかったが、ひっそりと、そしてしっかりと、表彰式が行われていたことを記しておく。
船戸女流二段、大庭女流初段は、「ペア将棋体験コーナー」の対局中。意外にも観戦者は少ない。もっとも、人がいようといまいと、両者の対局姿勢が変わらない。相方はもちろん、4人とも真剣な表情で対局に没頭している。
渡部・星宮ペア、中倉彰子・清水上ペア、島井・伊藤ペアが相次いで相談タイムに入り、検討用の将棋盤が置かれている窓際が賑やかになった。
中盤から終盤へかけての難所であることが分かる。戻ってきた渡部ツアー女子プロは、ハンカチを口元にあて考えている。これが彼女の思考ポーズである。
終盤に入り、3時25分、中倉宏美・伊藤ペアも相談タイムに入る。ここでのタイムは大きい。これは両ペア、勝ちを読み切ったか。果たしてその6分後、松尾・長岡ペアが投了した。中倉宏美女流二段はホッとしながらも、嬉しそうな表情である。気持ちは複雑だが、やはりおめでとうと言いたい。
続いて33分、中井・宮原ペアが勝ち名乗り。振り飛車穴熊の島井・伊藤ペアが途中で良くなったように見えたが、どこかで再逆転したようだ。さらにその2分後、藤田・鈴木ペアが準決勝進出を決める。こちらも振り飛車穴熊の中倉彰子・清水上ペアに急戦で挑み、難解な戦いを競り勝った。これで私の決勝進出者予想は2ペアとも撃沈した。勝者予想のほうも、本当に難しい。
準決勝開始時間である3時40分を過ぎても熱闘を繰り広げていた石橋・馬上ペア×渡部・星宮ペアは、粘る渡部・星宮ペアを石橋・馬上ペアが振りきり、46分、勝ち名乗りを挙げた。鈴木八段の解説は小気味よく、おもしろかった。準決勝以降の解説も楽しみである。
しばしの休憩のあと、4時から準決勝開始。もうひと踏ん張りで、檜舞台に立てる。
対局が少なくなるに伴い、盤の前の椅子席が少なくなり、そのぶんスクリーン解説の観戦席が増える。しかし私は女流棋士注視である。
準決勝は部屋の奥から藤田・鈴木ペア×中倉宏美・伊藤ペア(先)、中井・宮原ペア(先)×石橋・馬上ペアと位置している。
解説は瀬川晶司四段、聞き手は島井咲緒里女流初段。島井女流初段は中井・宮原ペアに狙い撃ちされたうえ苦杯を喫し、こぼしていた。その悔しさは、これからの対局で晴らせばよい。
解説は2局を交互に映して行われた。
藤田~中倉宏美戦は、中倉・伊藤ペアの三間飛車に藤田・鈴木ペアが急戦の構え。中井~石橋戦は、相矢倉。矢倉は将棋の純文学と言ったのは誰だったか。この将棋を見るといかにも格調高く、言い得て妙と思う。
「マンデーレッスン、ぜひ来てください!」
と、対局を終え一息ついた渡部ツアー女子プロが声を掛けてくれる。渡部ツアー女子プロの担当が決まり、この2日前にも金曜サロンに顔を出した同プロに、同じことをお願いされていた。
私はLPSA金曜サロンの常連だが、マンデーレッスンには1回もお邪魔したことがない。男性棋士に指導対局をいただける機会があるとはいえ、月曜と金曜、週に2回もサロンに行くほど、私の懐は暖かくない。それどころか、昨年から凍っている。しかし現役女子高生に瞳を輝かされお願いされると、無下に断れない。
「わ、わかりました。当日は伺わせていただきます」
近くにいらした大野八一雄七段が、「いつの話?」と訊いたので、「3月29日です」と答えたら、絶句されてしまった。
局面は中盤の難しいところである。
「一公さん、きょうは来てくださってありがとうございます!」
また声を掛けられ振り向くと、中倉彰子女流初段がピュアピュアな笑顔で立っていた。間近で拝見して、本当に綺麗なひとだと思う。今回は中倉女流初段に入場料を支払ったわけではないので、恐縮してしまう。中倉女流初段はその足で前方に向かい、鈴木八段の解説の聞き手にまわった。
盤上では、妹の宏美女流二段が、右頬に手をあてるいつものポーズで考えている。
(つづく)
コメント (9)
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