一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

金曜サロン・中井広恵天河③

2010-02-04 00:43:30 | LPSA金曜サロン
下の符号は、中井広恵天河と私との指導対局で現われた局面である。中盤の入口だが、ここで私の指した手を当てていただこう(棋譜掲載、承認済)。

(局面A・32手目☖4四歩まで)
上手・中井天河:1一王、1二香、1三歩、2一桂、2二銀、2三歩、3三角、3四歩、4一金、4四歩、5一金、5三歩、6二銀、6三歩、7四歩、8一桂、8二飛、8五歩、9一香、9三歩 持駒:なし
下手・一公:1七歩、1九香、2七歩、2八玉、2九桂、3七歩、3八銀、4七歩、4九金、5七歩、6五歩、6七銀、7六歩、7七角、7八金、8八飛、8九桂、9七歩、9九香 持駒:歩

昨年の12月4日のLPSA金曜サロン、夜の部は中井天河の担当だった。
中井天河は女流棋士生活29年。現在はLPSAの代表理事を務め、対局や普及、どうでもいい雑務処理と忙しい毎日を送る、女流将棋界の重鎮である。
このブログでは船戸陽子女流二段、中倉宏美女流二段、山口恵梨子女流1級らの話題をたびたび出すが、中井天河のカリスマ性には及ばない。いつ拝見してもキラキラと輝いており、私にとって中井天河は芸能人に匹敵する、雲の上の存在といえる。
昨年8月の指導対局では、矢倉模様の将棋から必敗形になったが、珍しく中井天河が乱れ、勝ちを拾わせていただいた。だから勝ちは勝ちだが、価値はない。本局、勝敗はもちろんだが、納得のいく将棋を指したかった。
将棋は私の三間飛車。…☖3二王☗3八玉と進んだとき、中井天河が、
「ここでどうしましょうか…」
と呟く。
「居飛車側の最も楽しい時間ですよねぇ」
と私。
「(居飛車)穴熊やったらブログに書かれちゃうかなぁ…」
「え? イヤでしたら書きませんよ」
「うーん。じゃ…」
と言うと、中井天河は☖3三角と上がった。これは「一目散穴熊」と見てよい。しかし本当に穴熊を目指すとは思わなかった。この将棋もサイン勝負であり、中井天河も本気モードなのである。とはいえこの時点で穴熊宣言をしてくれるなら、対策も早めに立てられる。
私は向かい飛車に振り直し、☗8六歩と突っかける。以下数手進んで、私が☗6五歩と角交換を挑んだ手に、上手が☖4四歩と拒んだのが冒頭の局面である。
ここで私は☗7五歩と突いた。これが局後中井天河にも褒められた一手。といってもこれは対局中に閃いたものではなく、米長邦雄永世棋聖著「米長の将棋1・居飛車対振り飛車(上)」(MYCOM将棋文庫DX)の、対大山康晴十五世名人戦で、大山十五世名人が指した手を応用したもの。だから自慢にはならない。
☗7五歩に、中井天河は無造作に☖7五同歩と取ろうとしたが、それは☗5五角と飛び出され、どう変化しても下手が有利になる。さすがに中井天河も気づいて☖7三銀と我慢したが、以下☗7四歩☖同銀☗5五角☖7三歩☗7六銀☖5四歩(やや疑問)☗7七角☖8三銀☗8五銀と進んで、私の有利になった。
下手が歩得でのびのびとした陣形なのに対し、上手の主張は王の深さしかない。この将棋は負けられないと思った。
しかし上手☖9四銀の勝負手に、☗8四歩と押さえたのが疑問。☖8五銀☗同飛☖7六銀と進み、ソッポの銀と大威張りの銀が交換になったうえ、飛車角両取りをかけられては、リードが一遍にフイになった。
☗8四歩では黙って☗8四銀と出るのが正着。次の☗9六歩~☗9五歩の銀取りが、分かっていても防げない。それで上手は指しようがなかった。
とはいえ本譜も、まだ下手が指せると思っていた。それから数手進んだ局面を、また以下に記す。

(局面B・65手目☗6七金まで)
上手・中井天河:1一王、1二香、1三歩、2一桂、2二銀、2三歩、2四角、3一金、3四歩、4二金、4四歩、5六飛、6三歩、7三歩、9一香、9三歩 持駒:角、歩
下手・一公:1七歩、1九香、2七歩、2八玉、2九桂、3七歩、3八銀、4七歩、4九金、5八銀、6五歩、6七金、7二と、7五歩、7七桂、8一竜、9七歩、9九香 持駒:銀、桂、歩2

下手が☗8一飛成と桂を取りつつ竜を作り、上手が5筋の歩を交換にきたところに、☗6七金と上がって飛車に当てたところである。ここで上手が飛車を引き、☗5七歩にどう指してくるか、とばかり思っていた。
ところが中井天河はなかなか指さない。
「自玉は穴熊だし…」
とか呟いている。まさか…!? と思うや、☖5八飛成とバッサリ切ってきた。俗に云う「穴熊の暴力」というやつである。1秒も考えなかった。
☗同金の1手に☖5七歩の叩きがきつい。以下☗4八金☖5九銀(角のほうがイヤだった)☗4九金☖5八角☗5九金☖6七角成☗5一飛☖3二金寄☗6八銀、と進む。
これを堂々と☖同馬と取られ、カナ駒をまた1枚渡してしまったことに嫌気がさした。5一にも飛車が落ちているし、上手の攻めは次から次へと飛んできそうである。ああ、☗6七金が不用意だった。なんでこんなに苦労する将棋になってしまったのか。その前だって優勢だったのに…と考えると、どんどん戦意が失せていく。
ダメだこれ…。
「負けました…」
と私は投了した。
「エエッ!?」
と驚く中井天河。一応感想戦に入ったが、もう私の耳には入らない。
局後、場所を移してひとりで検討していると、植山悦行手合い係がいらっしゃる。☖5八飛成をうっかりしてました、と言うと、植山手合い係は、
「いや、(投了2手前の)☗6八銀が敗着でしょう」
と意外なことを言う。拝聴すると、こんなところにムダな駒を使わず、☗6八銀では☗3一飛成☖同金☗4三桂と迫る。仮に☖3二金なら、☗3一金がたちまち詰めろ。もちろん上手も受けるが、それでもしがみついて攻めて、下手にも十分勝機があった、と言うのだ。
「下手玉は(現在絶対詰まない形だから)穴熊のようなもんなんですよ」
さすがはプロ七段の指摘である。私たちアマの感想戦だと、どの変化になっても、勝ったほうがだいたい勝つ。しかし植山手合い係の検討が入ると、魔法のように勝敗が入れ替わることがある。プロから見れば、私たちの感想戦はソッポをつついているに違いない。
ちなみに中井天河も、飛車切りから☗4三桂の筋を指摘してくれたらしいが、前述のとおり、私の耳には入っていなかった。
いやしかし、この敗戦は痛かった。8月に続いて、連続でサインを頂戴できるところだったのにそれを逃し、中井天河相手にこれだけの将棋を造れる機会はもうないと思うと、私は落胆するしかないのだった。
ほんの2、3時間前、神田真由美女流二段に勝って気分よくしていたのに、最後は暗転した1日だった。
コメント (13)
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