6日に行われた棋聖戦第1局は、挑戦者の中村太地六段が意欲的な指し回しを見せ、勝利目前。しかし終わってみたら羽生善治棋聖が勝っていた。受け一方に見えた▲8八香が詰みに一役買っていたとは驚き。これが「羽生マジック」なのだろうか。
だいぶ遅くなったが、「2011年度女流将棋・私が選んだベスト3」を発表する。
対象は2011年4月1日~2012年3月31日である。
第1位 2011年9月24日対局
第5回日レスインビテーションカップ決勝戦
中井広恵女流六段VS船戸陽子女流二段
毎回さまざまな話題を提供する日レスインビテーションカップ。今回は中井女流六段と船戸女流二段の決勝戦となった。
中井は何度も決勝に進出しているが、船戸は初めて。船戸は翌日に大切な日を控えており、それに華を添えるためにも、是が非でも勝ちたい一戦だった。
いっぽうの中井も、3人の娘さんが大きくなり、いまはいくらでも収入がほしいところ。こちらも負けられぬ一戦だった。
将棋は相居飛車で始まった。船戸は雁木を組んで、△6二飛。最前線の戦形には目もくれない、船戸の十八番だ。
中井はオーソドックスに応じる。中井はどんな戦形でも奇をてらわず、王道の指し方をする。
船戸の攻め、中井の受けという展開で、中井優位のうちに将棋が進んだ。
息詰まる攻防が続いたが、88手目△5一金に、▲3三歩成が疑問手。ここは▲5一同飛成で、手数は長いものの後手玉は簡単に詰んでいた。詰将棋なら一目だが、実戦では詰みの有無が分からない。ここが実戦のむずかしいところである。
本譜は△3三同玉と手順に逃げ越し、形勢はにわかに混沌としてきた。
▲5一飛成に△5四桂の銀取り。同じ銀取りなら△6五歩でいいように見えるが、△5四桂は次の△6六桂が王手になる。終盤は駒の損得よりスピード第一。船戸は準決勝の対石橋幸緒女流四段戦でも、歩頭に△6五銀の鬼手を放ち、熱戦を制している。△5四桂は、本局で私がいちばん感心した一手だった。
しかしそれでも、中井が残していたようだ。飛車、角、桂で王手を連ね、船戸玉を包囲していく。そして121手まで、中井の勝ちとなった。
随所に好手が飛び出し、とても見ごたえがある一局だった。文句なく2011年度の第1位である。
第2位 2012年2月2日対局
第5期マイナビ女子オープン挑戦者決定戦
清水市代女流六段VS長谷川優貴女流初段
女流棋士デビュー4か月の女子高生が、大豪に挑んだ一局
長谷川女流初段のの先手中飛車に清水女流六段は金銀4枚を中央に集める。超速や穴熊には目もくれない、清水独特の作戦だ。
清水やや優勢のまま中盤戦に移行し、長谷川は▲1三歩と垂らした。
これに清水は△1四金!! さらに△5一桂、△2四銀と、持ち駒をすべて自陣に打ちつけてしまった。
とくに△1四金は、全国の将棋ファンのド肝を抜いた。まだ中盤なのに、こんなところに金を打つなんて!! しかしこれぞ「イチヨ(1四)の金」。清水にしか指せない手だった。
以下熱のこもった戦いが展開されたが、長谷川が競い勝った。
長谷川のタイトル戦登場をフロックだ、と見る向きもあるが、この将棋を見ると、実に堂々とした戦いぶりだ。長谷川は100%の実力を出し、タイトル戦の檜舞台に登場したのである。
第3位 2012年3月26日対局
第23期女流王位戦挑戦者決定戦
里見香奈女流名人・女流王将・倉敷藤花VS清水市代女流六段
4つめの戴冠を目指す里見女流三冠と、是が非でも無冠返上をしたい清水女流六段の一戦。
里見の先手中飛車に、清水は王者の指し回しで、優位を築く。46手目、素朴な△9五桂で8筋の突破が約束されては、清水を持ちたくなった。
しかし里見も巧妙に反撃し、容易に決め手を与えない。だがその攻めがやや細くなり、形勢は清水に利があるかと思われた。
しかし清水も決め手を逃し形勢混沌。里見がほぼ入玉を確定させては、里見の勝勢となった。
しかし今度は里見が簡単な決め手を逃し、泥仕合の様相を呈してきた。ここからが第2ラウンドである。
里見はベタベタ駒を打つ。清水もベタベタ駒を打つ。何か前半と後半で、まったく別の将棋を見ているかのようだった。
それにしても、清水の強力な受けはどうだ。ふつうの女流棋士なら息切れして、相入玉になっていたのではないか。
その熱戦も里見の▲7六銀でピリオドが打たれた。総手数213手。不動駒3枚という大熱戦だった。長手数だから熱戦と決めるわけにはいかないが、勝つことのむずかしさ、素晴らしさを教えられた。私は本局を、あえて名局に推したい。
今期に入り、カロリーナ・ステチェンスカさんの対女流棋士勝利など、いくつもの熱戦が繰り広げられた。女性戦士の皆さま、2012年度もいい将棋を見せてください。
※7日(木)~10日(日)は北海道稚内へ、「稚内支部との将棋交流&食い倒れツアー」に行ってきます。
だいぶ遅くなったが、「2011年度女流将棋・私が選んだベスト3」を発表する。
対象は2011年4月1日~2012年3月31日である。
第1位 2011年9月24日対局
第5回日レスインビテーションカップ決勝戦
中井広恵女流六段VS船戸陽子女流二段
毎回さまざまな話題を提供する日レスインビテーションカップ。今回は中井女流六段と船戸女流二段の決勝戦となった。
中井は何度も決勝に進出しているが、船戸は初めて。船戸は翌日に大切な日を控えており、それに華を添えるためにも、是が非でも勝ちたい一戦だった。
いっぽうの中井も、3人の娘さんが大きくなり、いまはいくらでも収入がほしいところ。こちらも負けられぬ一戦だった。
将棋は相居飛車で始まった。船戸は雁木を組んで、△6二飛。最前線の戦形には目もくれない、船戸の十八番だ。
中井はオーソドックスに応じる。中井はどんな戦形でも奇をてらわず、王道の指し方をする。
船戸の攻め、中井の受けという展開で、中井優位のうちに将棋が進んだ。
息詰まる攻防が続いたが、88手目△5一金に、▲3三歩成が疑問手。ここは▲5一同飛成で、手数は長いものの後手玉は簡単に詰んでいた。詰将棋なら一目だが、実戦では詰みの有無が分からない。ここが実戦のむずかしいところである。
本譜は△3三同玉と手順に逃げ越し、形勢はにわかに混沌としてきた。
▲5一飛成に△5四桂の銀取り。同じ銀取りなら△6五歩でいいように見えるが、△5四桂は次の△6六桂が王手になる。終盤は駒の損得よりスピード第一。船戸は準決勝の対石橋幸緒女流四段戦でも、歩頭に△6五銀の鬼手を放ち、熱戦を制している。△5四桂は、本局で私がいちばん感心した一手だった。
しかしそれでも、中井が残していたようだ。飛車、角、桂で王手を連ね、船戸玉を包囲していく。そして121手まで、中井の勝ちとなった。
随所に好手が飛び出し、とても見ごたえがある一局だった。文句なく2011年度の第1位である。
第2位 2012年2月2日対局
第5期マイナビ女子オープン挑戦者決定戦
清水市代女流六段VS長谷川優貴女流初段
女流棋士デビュー4か月の女子高生が、大豪に挑んだ一局
長谷川女流初段のの先手中飛車に清水女流六段は金銀4枚を中央に集める。超速や穴熊には目もくれない、清水独特の作戦だ。
清水やや優勢のまま中盤戦に移行し、長谷川は▲1三歩と垂らした。
これに清水は△1四金!! さらに△5一桂、△2四銀と、持ち駒をすべて自陣に打ちつけてしまった。
とくに△1四金は、全国の将棋ファンのド肝を抜いた。まだ中盤なのに、こんなところに金を打つなんて!! しかしこれぞ「イチヨ(1四)の金」。清水にしか指せない手だった。
以下熱のこもった戦いが展開されたが、長谷川が競い勝った。
長谷川のタイトル戦登場をフロックだ、と見る向きもあるが、この将棋を見ると、実に堂々とした戦いぶりだ。長谷川は100%の実力を出し、タイトル戦の檜舞台に登場したのである。
第3位 2012年3月26日対局
第23期女流王位戦挑戦者決定戦
里見香奈女流名人・女流王将・倉敷藤花VS清水市代女流六段
4つめの戴冠を目指す里見女流三冠と、是が非でも無冠返上をしたい清水女流六段の一戦。
里見の先手中飛車に、清水は王者の指し回しで、優位を築く。46手目、素朴な△9五桂で8筋の突破が約束されては、清水を持ちたくなった。
しかし里見も巧妙に反撃し、容易に決め手を与えない。だがその攻めがやや細くなり、形勢は清水に利があるかと思われた。
しかし清水も決め手を逃し形勢混沌。里見がほぼ入玉を確定させては、里見の勝勢となった。
しかし今度は里見が簡単な決め手を逃し、泥仕合の様相を呈してきた。ここからが第2ラウンドである。
里見はベタベタ駒を打つ。清水もベタベタ駒を打つ。何か前半と後半で、まったく別の将棋を見ているかのようだった。
それにしても、清水の強力な受けはどうだ。ふつうの女流棋士なら息切れして、相入玉になっていたのではないか。
その熱戦も里見の▲7六銀でピリオドが打たれた。総手数213手。不動駒3枚という大熱戦だった。長手数だから熱戦と決めるわけにはいかないが、勝つことのむずかしさ、素晴らしさを教えられた。私は本局を、あえて名局に推したい。
今期に入り、カロリーナ・ステチェンスカさんの対女流棋士勝利など、いくつもの熱戦が繰り広げられた。女性戦士の皆さま、2012年度もいい将棋を見せてください。
※7日(木)~10日(日)は北海道稚内へ、「稚内支部との将棋交流&食い倒れツアー」に行ってきます。