一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

中倉宏美女流二段の相横歩取り

2012-06-22 00:08:57 | 女流棋士
きのう21日は、女流王座戦二次予選・矢内理絵子女流四段対本田小百合女流二段戦と、石橋幸緒女流四段対中倉宏美女流二段戦の2局が行われた。
私がより注目したのは後者。むろん、宏美女流二段の戦いぶりにである。
女流王座戦は二次予選から全局ネット中継があるので、私は仕事の合間に、スマホを横目で見た。
石橋-宏美戦は、宏美女流二段の先手で、▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲7八金。どんな戦形になるのか予想がつかなかったが、相横歩取りに落ち着いた。
宏美女流二段はここ数年、穴熊など玉の固い将棋に傾倒していたが、思うところあってか昨年からは居飛車オンリー、とくに急戦の将棋に力を入れている。相横歩取りは終盤まで定跡化されており、日頃の研究がモノをいう。これは宏美女流二段が力を発揮しやすい将棋になったと思った。
飛車角を換わって宏美女流二段、▲4六角。対して定跡では△8二角だが、ほかには△7三角や△6四歩、疑問手ながら△8二歩もあるところ。後手は石橋女流四段だから変化する手も考えられたが、大人しく△8二角。
宏美女流二段、角を換わって▲5五角と打ち直す。石橋女流四段は△8五飛。これには▲8六飛△同飛▲同銀となろうが、8六銀型にするのは一長一短で、むずかしいところ…と思っていると、宏美女流二段は▲1一角成!! 私は思わずのけぞった。
宏美女流二段が▲8六飛と合わせる手を知らないはずはないから、香取りは宏美女流二段の研究手だろう。
しかし△8九飛成として後手も相当である。だがネットのコメントを見ると、同日のA級順位戦・郷田真隆棋王対三浦弘行八段戦がやはり相横歩取りになり、先手の郷田棋王が同一局面で、▲1一角成と指したという。1日に相横歩取りが2局出現することさえ珍しいのに、その2局とも「▲1一角成」が出現するとは、これは天文学的?な確率といえよう。
しかしタイトル保持者が指したとしても、▲1一角成がいい手とは思えない。本局、数手後に△3三同桂と落ち付いてみると、先手の得がなくなった感じだ。
ちなみに△3三同桂までの局面は過去に1局あり、ここで佐藤康光四段(当時)は▲4六角と打ったという。のちの竜王・名人が指した手だから、この手は信用できる。
宏美女流二段は熟考後▲3六香。ここで前例と別れた。宏美女流二段だって▲1一角成を指したのだから、同一局面は調べていたと考えたい。それならば、▲4六角に換えた▲3六香の「宏美新手」は、研究の一手と捉えるべきだろう。
しかし以下△4四角▲6六角△5五桂!と進んでみると、石橋ペースに見える。果たして宏美女流二段は、この将棋をどこまで研究していたのか。▲3六香は、行きあたりばったりの指し手だったのか。
そしてここで宏美女流二段が指した、▲5八金が悪手。実質的な敗着であろう。
石橋女流四段は△3八歩から△2八飛。これで大勢決した。石橋女流四段、ここでこの将棋はもらった、と思ったはずだ。もし私が先手だったら、相手によっては投了を考える。その相手は石橋女流四段。すなわち投了である。
それはとにかく、相横歩取りの将棋で右金が離れると、つねにこの筋がある。相横歩取りを指し慣れていない宏美女流二段、実戦不足の弊害が出たようだ。
ここからは宏美女流二段の闘志が指し手を進めさせたにすぎない。指せば指すほど形勢が悪化し、最後は形を作って投了となった。
まったく不出来な将棋で、本局は宏美女流二段の選択ミスと言わざるを得ない。宏美女流二段、将棋を指した気がしなかったのではなかろうか。
中倉姉妹にはファンが多い。しかしふたりには期待の度合いが微妙に違う。
姉の彰子女流初段には、勝ってくれればもちろんいいが、彰子ワールド全開の将棋を見せてくれれば、ファンが満足するところがある。
しかし宏美女流二段はそうはいかない。内容はもちろんだが、勝ちを伴ってほしいのである。タイトルを獲ってほしいのである。
とにかく本局は消化不良だった。お隣の矢内女流四段-本田女流二段の将棋が一手を争う熱戦で、最後の最後までハラハラドキドキだったから、いっそうその感を強くした。
まあ、終わったことはもういい。宏美女流二段には今後も精進いただき、来月行われるマイナビ女子オープン一斉予選対局では、めいっぱいハジケていただこう。
コメント
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