支部対抗戦はスイス式で、4戦行われる。
2戦目はドラの穴・Cチーム。全員小学生だ。私の相手は本田小百合女流三段に似ている少年だった。
偶数先で、私はまた後手。少年の三間飛車に私は玉頭位取りを目論んだが、△4五歩▲同歩△同銀に▲6五歩と決戦にこられた。△同歩に▲2二角成。これで私の玉形は△2二玉、△3四銀、△4一金、△5二金とバラバラになってしまった。しかしこの形で踏ん張るよりない。
以下も少年は暴れてくるが、私は丁寧に面倒を見る。徐々に少年の攻めが息切れして、私の優勢がハッキリとしてきた。私はここで扇子を開く。同チームの選手に「勝ちました」と知らせる意だが、恐らく気付いていないだろう。
局面は進んで先手・3四桂、8二飛。後手・1二玉、3二飛、5二金、6三銀…の局面で少年はハッシと▲5三歩だが、私は読み筋通り△6二金と寄る。以下私は先手陣に殺到し、何とか勝利を収めることができた。
またも私が一番で抜け、もう気楽な立場だ。Sar君が来て、戦績を聞かれる。1勝1敗、と答えるしかない。一方Sar君は2勝とのことで、これはすごい。彼はAチームの大将なのだ。
私は空きテーブルで1局目の将棋を並べる。大野八一雄七段が向かいに座ってくれたが、これは余得だ。しかし内容が内容だけに、私は複雑だった。しかも、さっき指した将棋なのに、記譜が再生できない。我ながら情けなかった。
室内の一隅には、弁当が置かれている。2局目が終わったら、昼食だ。ちょっと早いが、食べてしまおう。
ミックスフライ弁当を頬張る。向こうのテーブルでは、Koh君が食事を摂っていた。Koh君ママは階下のスーパーへ弁当を買いに行ったようだ。見学者にも弁当はもらえないのだろうか。保護者には分けてもいいと思うのだが。
Sato氏が来て、戦績を聞かれる。やはり1勝1敗、と答えるしかない。Sato氏はどうなのだろう。
Koh君ママが戻ってきて、Koh君と向かい合わせになって食事を始めた。2人とも実に楽しそうだ。こういう光景を見るのは久しぶりである。
私は弁当を食べ終わり、しばし後Koh君ママと話せる距離になったので、話しかけてみた。立ち話である。
「Koh君は将棋が強いですね」
「そうですか」
やっぱり、彼女に似ている…!!
「この前対局したんですけど、彼の投了が早かったんですね」
「……」
「いえ子供っていうのは、最後の最後、詰まされるまで指すんですよ。でも彼は不利の局面で、負けました、と言ったんですよ。これがなかなかできないことでしてね、逆に私は、大いに感心したんです」
「そうですか」
「ええ、教室にはいっぱい子供が来ますけど、私は彼にいちばん才能を感じました。彼は強くなります」
私は棋士でもないのに、滔々と述べる。
「あらあ…そう言っていただけると、うれしいです!」
「ところでお母さん、福田沙紀に似てますよね」
「そうですか?」
「似てますよ、そっくりです。いままで絶対、誰かに言われたことあるはずですよ」
「あります…。女優さんに似てるなんてうれしいですー」
何だか、Koh君ママと私との距離が、物理的に近くなった気がした。
「でもいろいろおカネがかかって大変ですよね」
「ええ、でも息子がやりたいことなら、やらせてあげようと思っています」
「ああ、いいですねー。クラブ活動は将棋部ですか?」
「クラブは4年生からなので…」
Koh君は小学2年生なのだ。「今は学校から帰ってくると、すぐ将棋をやってます」
「おお、それは素晴らしい」
女性とこんなに話したのは久しぶりで、緊張してしまった。でも、楽しい時間だった。
Hon氏が通ったので、戦績を聞く。Hon氏は支部対抗名人戦(個人戦)に唯一出場しているのだ。いわく、1回戦に勝ち、2回戦に負けたとのこと。個人戦は慰安戦も用意しているが、基本的には負けたら終わりである。でもHon氏はヒトの将棋を見るのが好きだから、これでいいのかもしれない。
CチームはKun氏が負け、Hat氏が勝って、チームも勝ちになった。
3局目は若手チームと。大将はEg君で、教室にも何回か顔を見せたことがある。
私の相手は詰襟の高校生。この手のタイプは強いに決まっているのだが、私だって易々と負けるわけにはいかない。
奇数先で、初めて先手となった。▲7六歩△3四歩▲2六歩△8八角成▲同銀△2二飛。佐藤康光九段が得意にしている一手損角換わり+向かい飛車だが、私の周りでは指す人がいない。
私は▲6六歩と突き▲6七角と据える。1歩得を目論んだもので本譜もそうなったのだが(しかも金銀交換のオマケつき)、6六の地点に狙いをつけられ、角銀交換の駒損を余儀なくされた。
その後私も角金交換を果たし、一周して駒の損得はなくなったが、私の飛車が遊び気味なのが痛い。
第1図で次の手を誤った。
(つづく)
2戦目はドラの穴・Cチーム。全員小学生だ。私の相手は本田小百合女流三段に似ている少年だった。
偶数先で、私はまた後手。少年の三間飛車に私は玉頭位取りを目論んだが、△4五歩▲同歩△同銀に▲6五歩と決戦にこられた。△同歩に▲2二角成。これで私の玉形は△2二玉、△3四銀、△4一金、△5二金とバラバラになってしまった。しかしこの形で踏ん張るよりない。
以下も少年は暴れてくるが、私は丁寧に面倒を見る。徐々に少年の攻めが息切れして、私の優勢がハッキリとしてきた。私はここで扇子を開く。同チームの選手に「勝ちました」と知らせる意だが、恐らく気付いていないだろう。
局面は進んで先手・3四桂、8二飛。後手・1二玉、3二飛、5二金、6三銀…の局面で少年はハッシと▲5三歩だが、私は読み筋通り△6二金と寄る。以下私は先手陣に殺到し、何とか勝利を収めることができた。
またも私が一番で抜け、もう気楽な立場だ。Sar君が来て、戦績を聞かれる。1勝1敗、と答えるしかない。一方Sar君は2勝とのことで、これはすごい。彼はAチームの大将なのだ。
私は空きテーブルで1局目の将棋を並べる。大野八一雄七段が向かいに座ってくれたが、これは余得だ。しかし内容が内容だけに、私は複雑だった。しかも、さっき指した将棋なのに、記譜が再生できない。我ながら情けなかった。
室内の一隅には、弁当が置かれている。2局目が終わったら、昼食だ。ちょっと早いが、食べてしまおう。
ミックスフライ弁当を頬張る。向こうのテーブルでは、Koh君が食事を摂っていた。Koh君ママは階下のスーパーへ弁当を買いに行ったようだ。見学者にも弁当はもらえないのだろうか。保護者には分けてもいいと思うのだが。
Sato氏が来て、戦績を聞かれる。やはり1勝1敗、と答えるしかない。Sato氏はどうなのだろう。
Koh君ママが戻ってきて、Koh君と向かい合わせになって食事を始めた。2人とも実に楽しそうだ。こういう光景を見るのは久しぶりである。
私は弁当を食べ終わり、しばし後Koh君ママと話せる距離になったので、話しかけてみた。立ち話である。
「Koh君は将棋が強いですね」
「そうですか」
やっぱり、彼女に似ている…!!
「この前対局したんですけど、彼の投了が早かったんですね」
「……」
「いえ子供っていうのは、最後の最後、詰まされるまで指すんですよ。でも彼は不利の局面で、負けました、と言ったんですよ。これがなかなかできないことでしてね、逆に私は、大いに感心したんです」
「そうですか」
「ええ、教室にはいっぱい子供が来ますけど、私は彼にいちばん才能を感じました。彼は強くなります」
私は棋士でもないのに、滔々と述べる。
「あらあ…そう言っていただけると、うれしいです!」
「ところでお母さん、福田沙紀に似てますよね」
「そうですか?」
「似てますよ、そっくりです。いままで絶対、誰かに言われたことあるはずですよ」
「あります…。女優さんに似てるなんてうれしいですー」
何だか、Koh君ママと私との距離が、物理的に近くなった気がした。
「でもいろいろおカネがかかって大変ですよね」
「ええ、でも息子がやりたいことなら、やらせてあげようと思っています」
「ああ、いいですねー。クラブ活動は将棋部ですか?」
「クラブは4年生からなので…」
Koh君は小学2年生なのだ。「今は学校から帰ってくると、すぐ将棋をやってます」
「おお、それは素晴らしい」
女性とこんなに話したのは久しぶりで、緊張してしまった。でも、楽しい時間だった。
Hon氏が通ったので、戦績を聞く。Hon氏は支部対抗名人戦(個人戦)に唯一出場しているのだ。いわく、1回戦に勝ち、2回戦に負けたとのこと。個人戦は慰安戦も用意しているが、基本的には負けたら終わりである。でもHon氏はヒトの将棋を見るのが好きだから、これでいいのかもしれない。
CチームはKun氏が負け、Hat氏が勝って、チームも勝ちになった。
3局目は若手チームと。大将はEg君で、教室にも何回か顔を見せたことがある。
私の相手は詰襟の高校生。この手のタイプは強いに決まっているのだが、私だって易々と負けるわけにはいかない。
奇数先で、初めて先手となった。▲7六歩△3四歩▲2六歩△8八角成▲同銀△2二飛。佐藤康光九段が得意にしている一手損角換わり+向かい飛車だが、私の周りでは指す人がいない。
私は▲6六歩と突き▲6七角と据える。1歩得を目論んだもので本譜もそうなったのだが(しかも金銀交換のオマケつき)、6六の地点に狙いをつけられ、角銀交換の駒損を余儀なくされた。
その後私も角金交換を果たし、一周して駒の損得はなくなったが、私の飛車が遊び気味なのが痛い。
第1図で次の手を誤った。
(つづく)