一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

羽生王位の指し手に唸る

2016-09-14 21:27:58 | 将棋雑記
12、13日は、第57期王位戦七番勝負第6局。ここまで羽生善治王位2勝、挑戦者の木村一基八段が3勝である。木村八段には失礼ながら、まさか挑戦者が王位をカド番に追い込むとは思わなかった。
だが1つの勝ち越しなどアドバンテージにはならない。木村八段には同棋戦で3連勝4連敗の忌まわしい過去があり、本当の勝負はこれからと思っているに違いなかった。
むろん羽生王位もそれは同じで、そういえば王位もまた、過去に3連勝4連敗をやらかしているひとりであった。

第6局は角換わりになったが、後手の羽生王位が途中で右玉にスイッチし、おもしろい戦いになった。
羽生王位は4筋の歩を換え、左銀を5三につける。この構え、羽生王位が例の3連勝4連敗をやらかした第21期竜王戦の第1局に現れたもので、その将棋は羽生挑戦者の名局といわれている。
2日目、木村八段は▲2四歩△同歩▲同角。ここで羽生王位は△2七歩と叩いたが、これが素人目にもよさげに映る好手だった。
私の実戦で、ゴキゲン中飛車相手に角交換後▲2四歩△同歩▲同飛とやったことがある。
その直後に△2七歩が見えて青ざめた。これを▲同飛は△3八角。捨て置いても△2八角で桂香取りが受からない。実戦は後手が緩んだので私が幸いしたが、ともかく私クラスでも、2筋の歩を交換したときは、返し技を警戒する。
むろん木村八段だって、この筋は百も承知だったと思える。だって終盤の20手先の変化ならともかく、まだ中盤の入口である。▲2四歩△同歩▲同角はワンセットだから、実質次の一手みたいなものだ。この手を見落とすはずがない。もし指導対局などで後手番を持っていたらノータイムで△2七歩と打ち、「その歩交換は危険なんです」の一言でも付け加えそうではないか。
だが正副立会人の屋敷伸之九段、佐藤紳哉七段にはこの筋に触れず、ツイッター解説の畠山成幸はちらっと触れたものの、切り捨てていた。そして対局者の木村八段といえば「怪訝そうに眉根を寄せ」たというから、やはり軽視していたのだ。
してみると、私が「△2七歩を警戒する」と考えたのは譜の進行を見たからで、たとえば△6五歩とでも進行していたら、△2七歩には思い至らなかったかもしれない。
▲2九飛に△4八角。控室の予想は△4八歩だった。このあたりから控室の予想と王位の指し手が違ってくる。
数手進んで△5七桂成が鮮烈だった。たとえばここに▲5七歩があれば、歩を食いちぎって桂成、は思いつきそうである。だが空成は気付きにくい。
さらに△5六金予想で△3七金。これもソッポに行くだけに気が付かない一手だ。
このあたりの羽生王位の指し手には本当に唸らされる。私レベルの棋力だと、奨励会6級もタイトルホルダーでも、その強さの差異は分からない。だが羽生王位の指し手は、並み居る棋士が当たらない。もちろん羽生王位の指し手のほうに感心するわけで、こうした手が積み重なれば、やがてそれが勝敗に直結するだろう。表現がアレだが、ここが史上最強の棋士と並の棋士との違いといえようか。
もし将棋が強くなりたかったら――。羽生三冠の将棋を並べるのがいい。一局のうちに、自分の思いもしない手が必ず現れる。今回の王位戦は本当に勉強になった。

というわけで私は、最終第7局を楽しみにしている。
コメント (3)
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