一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第28回将棋ペンクラブ大賞贈呈式(2)

2016-09-19 23:22:57 | 将棋ペンクラブ
続いて表彰式。木村晋介会長が恒例の一言を添える。副賞のプレゼンターは、年齢不詳のかがさやかさんが務める。
では、木村会長のミニ講評を以下に記す。
佐藤圭司氏「行方さんが単独行動をしたことを巧みに書いています。(指し手の記述も巧妙で)ああいう書き方をされると選考委員は弱い」
先崎学九段「先崎さんの観戦記をホメるのは僭越ですが…。(実戦には現れなかった)▲5三桂成のあたりをうまく書かれました」
佐藤康光九段「康光流の新しい格言が散りばめられている。ふつうは『敗局に学べ』とか言いますが、本書では『勝局に学べ』って書いてあるんですね」
白鳥士郎氏「これはライトノベルです。でも老人が読んでもおもしろい。(作者が文章を)書くことが楽しいと伝わってきます」
鈴木大介八段「四間飛車が勝ちまくるのがいいですね」
大平武洋六段「早指しについての本はいままでなかった。私も最近は将棋大会でチェスクロックを使うことがあるので、この本が役に立つことになればいいと思います」
表彰状はお馴染みの、色紙状のもの。将棋ペンクラブにはおカネがないから、切り詰めるところは切り詰めるのである。ただこの色紙にも、「直筆」という温かみがある。
賞金は、大賞が5万円、優秀賞が3万円。協賛は株式会社コーセー、アカシヤ書店。賞金がやや少ないが、受賞者は気にもとめていないだろう。大賞受賞の事実こそが、かけがえのない勲章なのだ。

続いて受賞者の言葉。これは先に会報で発表されていて、会員は全員読んでいる。よって、会報にはない切り口でもう一本述べなければならない。
佐藤氏「こちらに来る前に、奈良県の唐招提寺にお参りをしてきました。ここは米長邦雄永世棋聖が大事にされていた寺です。また谷川会長もお付き合いがあります。今回は受賞を報告してまいりました」
今回、盟友の木村一基八段が、出先の大阪からわざわざ戻ってきたという。持つべきものはよき友、ということだ。
先崎九段「私もいろいろ文章を書かせてもらってますが、観戦記を書くのは一番苦手なんです。だって対局者は真剣に指しているから、こっちもそれなりに書かなくちゃいけないしねぇ…」
ここだけの話、ということで話してくれたが、まぁ先崎九段一流の諧謔であろう。
佐藤九段「この話をもらったのは4年半くらい前なんですね。その時は半年くらいでサラサラと書ければよかったんだけれども…途中で1年のブランクがあったりして…とにかく無事に出版できてよかったです。
文章を書いていて感じたのは、日本語の難しさです。できた本を見ても、何か所か、直した方がいいかな、と思うところがあります」
これはブロガーの私としても大いに共感できるところで、ブログ記事はもちろん、将棋ペン倶楽部に掲載された投稿でも、いくつも修正したい点がある。
「あとこの『長考力』というタイトルなんですけれども、これは当初『先を読む力』というタイトルを予定していたんです」
ところが昨年10月に明治記念館で日経フォーラムがあり、それが「先を読む力」というタイトルだった。フォーラムには羽生善治王座や井山裕太囲碁七冠が出席し、ためにこのタイトルが使いづらくなってしまったという。
「こっちが先に考えたのに…」
と、佐藤九段がグチるが、私たちは苦笑を抑えきれない。
そこで編集者と新たに考えたタイトルが「長考力」というわけだった。内容とはかけ離れてしまったが、このタイトルのほうが佐藤九段らしくて、ピッタリ決まっていると私は思う。
白鳥氏「『りゅうおうのおしごと』は、ライトノベルとマンガ版があります。それぞれGA文庫とヤングガンガンから出ていて、皆様今日はこのGA文庫とヤングガンガンだけ憶えて帰ってください」
白鳥氏は弁舌軽やかで漫談家のようだ。会場内は笑いに包まれ、なごやかな雰囲気。ところがこのあと、それが一変する。
「実は昨年祖父が亡くなりまして…」
ご祖父様は白鳥氏の仕事を認めてなかったらしいが、白鳥氏が遺品を整理していると、氏の作品のスクラップが出てきたという。
テレビや映画によくあるシーンだが、現実の世界で本当にあるとは…。
白鳥氏は嗚咽を漏らし、場が急にしんみりした。
鈴木八段「今回は美馬(和夫)さんに校正(構成?)を手伝っていただきました。美馬さんの尽力がすべてだったと思います」
この本は大変な労作だったようで、ふだんの著書の10倍くらいの労力を必要としたという。そして上記にあるとおり、美馬氏のアシストが大きかったようだ。「朝10時から夕方5時まで、私がしゃべりまくるんですね。それを美馬さんが文章に起こしてくれる。こんな局面、ちぎって角を捨てて寄りですよ、という漠然とした言い方でも、美馬さんはしっかり指し手に直してくれる…」
よき作家にはよき編集者がつきものだが、今回の著書も、その関係に近かったようだ。
「これはシリーズもので、石川陽生七段による『三間飛車名局集』もあるんですが、これも大変な名著です。これがなんで候補に挙がらなかったのか。出版の時期もあったんでしょうけど…。この10年で最高の本、私が棋士になって三指に入る名著です」
大賞受賞者がヒトの作品を褒めまくるなんて、前代未聞。しかし同業者がこれだけホメるのだから、振り飛車ファンは「四間飛車名局集」とともに、「三間飛車名局集」も座右の書とすべきであろう。
大平六段「私は子供ころから考えるのが苦手で、見えた手をすぐ指してしまいます。考えても分からないんです」
佐藤九段とは逆の方向を行っているが、それにしたって何も考えないで四段にはなれないだろう。大平六段も先崎九段と同じクチのようだ。
「駒得は裏切らない、と言った先生がいますが、この本では駒得はするな、と言っています」
私はこの本を読んでいないが、こうまで言われると、逆に読みたくなってしまう。
ともあれ六者六様のスピーチで、今年はとくにおもしろかった。
さて、西上心太氏による乾杯である。
(つづく)
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