一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

富岡八段の新橋解説会(第31期竜王戦第1局)・2

2018-10-18 01:03:13 | 将棋イベント
時間は刻々と過ぎてゆく。大盤が暗いままじゃ、さすがに解説もできないだろう。今日は雨も降らず快適だったのに、意外な落とし穴があったものだ。
それでも5分ほど経った時、やっと周辺の灯りが点いた。待望の再開である。

第4図以下の指し手。▲4五桂△4四銀▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲3四飛△6三歩▲7三歩成△6四歩▲8三と△3三歩▲4四飛△同歩(第5図)

解説の富岡英作八段、藤森哲也五段、藤森奈津子女流四段は、何事もなかったかのように振る舞う。この辺りの落ち着きぶりはさすがだと、妙なところで感心した。
富岡八段が▲4五桂と跳ねる。「羽生さんのほうが忙しい感じでしたが、なるほどこうなってみると景色が変わって、うるさい攻めですね」
数手後の▲3四飛に△3三歩は、▲4四飛△同歩▲7三歩成△同飛▲同角成△同金となり、
「これも本譜と似た進行になりますが、飛車銀を持たれ、後手が面白くないですかネ」
と富岡八段。
この辺りの変化を富岡八段はもっと味わいたいようなのだが、竜王戦は持ち時間8時間の2日目夕休なしなので、今現在の局面が最も白熱している。藤森五段が「先に進みましょう」と促した。
▲3四飛に広瀬章人八段の解答は△6三歩の角取りで、これには三氏が唸った。こうなれば、以下の数手は必然である。

第5図以下の指し手。▲7三と△6一金▲5三桂成△同玉▲4一飛△2五角▲2一飛成△3一飛(第6図)

羽生善治竜王は▲7三とと捨てた。広瀬八段は△6一金と引く。
富岡八段「▲7三とは、強い人なら一目だと思いますが、いい手ですね。△7三同金だと、▲6二飛△5二角▲6一銀△4三銀(参考2図)の進行は千日手になりそう」

藤森五段が以下の変化を並べる。すなわち▲5二銀成△同銀▲6一角△4三銀打▲5二角成△同銀▲6一銀△4三角▲5二銀成△同角▲6一銀△4三銀…で、参考2図に戻る。本局2度目の千日手の変化は、それだけ熱戦の証ということだ。
富岡八段「ただ、ここで△6一金と引く感覚がすごい。広瀬さんは竜王戦の挑戦者に加え、現在A級でも4連勝でしょう? 素晴らしいですね(実は3勝1敗)。
ここで▲8一飛は△2五角があります。金にヒモを付けて、△3六角の王手を狙う。それで羽生さんは▲5三桂成と捨てたんですが、これもすごい」
△5三同玉に▲4一飛。
富岡八段「ここで△3一飛と受けたくなります。▲同飛成なら△同金で後手よし。だけど△3一飛には▲4二銀(参考3図)があるんですね。△4二同金に▲3一飛成です。

じゃあ△5一飛はというと、今度は▲6二銀がある。飛車の受けは利かないんです。そこで広瀬さんはやはり、△2五角と打ちました」
羽生竜王▲2一飛成。「ここから(の進行)がすごい」と、富岡八段が期待を抱かせた。
3二金取りを受けて、広瀬八段は△3一飛。「ここで次の一手を出したかったんですけどね」と富岡八段が残念がる。確かに次の一手はすごかった。

第6図以下の指し手。▲2四桂△2一飛▲3二桂成△3六角▲4七銀△2七角成(第7図)

羽生竜王は、歩頭に▲2四桂と打った。まさに目の覚めるような一着だ。ネット解説では「ひねり出した印象を受ける」とあったが、私はこれこそ羽生善治の一手だと思った。解説の三氏もそうで、驚きを抑えきれないふうだ。
富岡八段「すごい手が出ましたね。まずは△2四同歩ですが、▲同飛成で、これは後手の飛車があの位置だし、先手が指せるでしょう。それで広瀬さんは△2一飛と飛車を取りましたが、羽生さんは▲3二桂成。これが▲4二銀△4三玉▲3三成桂(△5二玉▲5三金まで)の詰めろになってるんですね。
そこで広瀬さんは△3六角と王手。羽生さんは▲4七銀と受けるしかなく、後手玉は自動的に詰めろが解消される仕掛けです」
▲4七銀には△同角成と突撃もできず、広瀬八段はじっと△2七角成。

第7図以下の指し手。▲3八金打△2六馬▲2一成桂△3五桂▲2九飛△7七歩▲7九金△2四飛▲2六飛△同飛▲3一角△4三玉▲6四角成(第8図)

羽生竜王は▲3八金打と、さらに馬を叱った。富岡八段「これがまたすごい手で、このままだと△3六桂や△3五桂があるから打ったんですが、いやはや……」
確かに、金はトドメの駒にしたいから、できれば温存したくなるところ。そこを惜しげもなく?手放すところがすごい。
「△2六馬には▲2七歩△2五馬もありましたが、この損得は微妙なところです。羽生さんはたんに飛車を取りました」
広瀬八段は△3五桂と待望の反撃である。「ここでも次の一手を出したいくらいでね」と富岡八段。羽生竜王は、自陣(2九)へ飛車を打った。金のみならず飛車まで自陣に据えるとは私には一生考えても浮かばない手で、羽生将棋の感覚の豊かさに私は脱帽するばかりである。とにかく、この位置に再び飛車が復活するとは思わなかった。
広瀬八段は△7七歩▲7九金を利かし、△2四飛。うへー、と藤森五段が声を挙げた。終盤で、お互い受けに飛車を手放すなんて将棋、見たことがない。これが将棋界最高峰の将棋である。
富岡八段「将棋は駒と駒がぶつかった時が重要なんですね。相手の手によって手を変える。羽生さんはこの辺の読みが実にうまい」
羽生竜王は▲3一角。富岡八段「これに△4二角は▲同角成△同玉▲3一角ですから、△4三玉でしょう」
藤森五段は、「後手はどこかで銀を取っとく手はありましたかねぇ」と言う。
羽生竜王は▲6四角成とし、私が電車内で確認した局面に到達した。

(つづく)
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