9月30日は「第4回・将棋文化検定」が東西であったが、大阪会場は台風24号の影響で中止。東京は予定通り行われたようだ。
もっとも私は申し込みに遅れてしまったので、受験せず。これも運命である。
同じ日には埼玉県川口市の「大野教室」で、山根ことみ女流初段の指導対局会があった。「ことみ」という名が珍しく、芸能界では京野ことみを思い出す。私は3コマ目の16時からの回に申し込んでいた。
14時40分ごろに自宅を出たが、本来なら、台風に備えて帰宅しようというところ。そこを逆行するのだから、将棋ファンはつくづくバカだと思う。
川口駅に着き、やや迷ったが、エキナカで立ち食い蕎麦を喰らう。無職は浪費を慎むべきだが、景気づけだ。
雨の中を教室に向かうと、以前駐車場だった広大な空き地に、建設中のビルがあった。ここはホテルかオフィスビルか。
前を行く男性の歩みが遅い。どこかを探している感じで、一声かける。やはり教室に来た人で、いっしょに入室した。
中では山根女流初段が、2コマ目の最後の客に、指導対局を行っていた。奥の和室では大野八一雄七段が指導対局の真っ最中。
W氏がいたので、挨拶する。
「最近教室に来ないじゃない」
とW氏。確かにそうで、前回は8月の飯野愛女流初段の指導対局会だった。その前の教室参加は6月、その前は4月だったと記憶する。間隔は開いているが、私は来たい時に来るだけだ。
Kaz氏がいた。「山根先生の四間飛車に棒銀をやったんですけど、短手数で吹っ飛ばされました」
実力派で腰の重いKaz氏が、勝敗はともかく短手数で敗れたとは解せない。山根女流初段は想像以上の手練れのようだ。あと、Kaz氏は振り飛車党から居飛車党に戻ったようだ。そのまま振り飛車党を続けてくれれば、私も与しやすかったのだが……。
定刻には早いが、個々で記念写真を撮ったあと、もう駒を並べ始めた。現在私を含めて、下手は5人。もうひとりはShin氏で、遅れて来るらしい。
ほかの4人が対局を始めたあと、私の駒を並べる。
「手合いは何にしますか?」
「平手でよろしいでしょうか。先生も飛車を振りたいでしょ?」
と、これはいつものフレーズである。
5人目の対局開始となった。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△9四歩▲5六歩△3二銀▲6八玉△4二飛▲7八玉△7二銀▲5八金右△4三銀▲2五歩△3三角(第1図)
山根女流初段は振り飛車党という情報は仕入れてきたが、とくに対策はしなかった。ただ、四間飛車で来そうな気がしたので、前夜に木村一基九段著の「NHK将棋シリーズ 急戦・四間飛車破り」を読もうと思ったのだが、読み忘れてしまった。
山根女流初段はすぐに飛車を振らず、6手目に△9四歩。これにお付き合いするほど私は心の余裕がないので、中央の駒を進める。
奥の2人は社団戦の戦友らしく、山根女流初段との対局姿を写真に撮るよう、W氏にお願いしていた。
「あれっ?」と山根女流初段。ほかの4人の手合いは、こちらから飛車落ち、平手、飛車香落ち、あとのひとつは見えなかったのだが、山根女流初段が平手局を飛車落ちと勘違いし、飛車落ち用の手を指してしまったらしいのだ。
しかし待ったはせず、そのまま駒組を進めた。
山根女流初段は四間に飛車を振り、▲2五歩△3三角まで。次が作戦の岐路だ。
第1図以下の指し手。▲6八銀△6二玉▲3六歩△7一玉▲5七銀左△5二金左▲9六歩△8二玉▲4六銀△5四歩(第2図)
山根女流初段は黒系のニットのカーディガンを着用していて、まさに秋の装い。写真では神経質そうな感じを受けたが実物はそんなことはなく、そこはかとなく漂う天然感は、面白キャラのニオイがぷんぷんする。
第1図は手が広いところで、ここで作戦を練るのが居飛車の醍醐味だ。私は▲6八銀と上がり、とりあえず左美濃を捨てる。次に▲3六歩とし、急戦を明示した。
このあたりでShin氏が入室し、私の左に座った。
「お久しぶりです」
とShin氏。「元気でしたか」
「元気じゃないよ」
本当にそうで、最近は手足に熱を持ったり、内臓のあっちこっちに痛みがあったりと、体調は最悪である。思い切って人間ドックで診てもらおうとも思うのだが、検査が恐ろしくて、その踏ん切りがつかない。
「最近将棋指してます?」
「指してねえよ。そんな状況じゃないよ」
「だけどそういう時のほうが、大沢さんは強いからなあ」
「……」
△5二金左には、心の余裕ができてきたので、▲9六歩と突く。さらに▲4六銀とし、ナナメ棒銀とした。
対して上手の△5四歩がやや珍しい気がした。むろん飛車のコビンが開くからで、将来の△2七角~△5四角成がない。ただし△6四角の筋が残っているので、下手はこの手に気を付けなければならない。
第2図以下の指し手。▲3五歩△3二飛▲2四歩△同歩▲3四歩△同銀▲3八飛△4五歩▲3三角成△同飛(第3図)
左の将棋を見るとここも四間飛車対急戦で、やはり山根女流初段の△5四歩型だ。山根女流初段はこの形を得意にしているようだ。
Shin氏の囲いは「▲6八銀・▲7九金・▲5九金」で、これは最近の「将棋世界」で見たことがある。確認すると、大橋貴洸四段が得意にしているらしい。さすが勉強熱心なShin氏、最新形に詳しい。
第2図で下手は▲6八金直や▲1六歩があるが、いずれも△1二香と替わって面白くないと思った。それで単刀直入に▲3五歩と仕掛けた。
こうなれば、以下数手は定跡手順。途中▲2四歩の突き捨てが肝心なところで、これを怠ると将来▲3四飛と走った時、▲2四飛と横滑りできない。ただし上手に1歩を渡したので、それなりの反撃も覚悟しなければならない。
▲3八飛には△4三金もあるが、山根女流初段は△4五歩。まあそうであろう。
私は角を換わって、△3三同飛まで。さて次の手は。
(つづく)
もっとも私は申し込みに遅れてしまったので、受験せず。これも運命である。
同じ日には埼玉県川口市の「大野教室」で、山根ことみ女流初段の指導対局会があった。「ことみ」という名が珍しく、芸能界では京野ことみを思い出す。私は3コマ目の16時からの回に申し込んでいた。
14時40分ごろに自宅を出たが、本来なら、台風に備えて帰宅しようというところ。そこを逆行するのだから、将棋ファンはつくづくバカだと思う。
川口駅に着き、やや迷ったが、エキナカで立ち食い蕎麦を喰らう。無職は浪費を慎むべきだが、景気づけだ。
雨の中を教室に向かうと、以前駐車場だった広大な空き地に、建設中のビルがあった。ここはホテルかオフィスビルか。
前を行く男性の歩みが遅い。どこかを探している感じで、一声かける。やはり教室に来た人で、いっしょに入室した。
中では山根女流初段が、2コマ目の最後の客に、指導対局を行っていた。奥の和室では大野八一雄七段が指導対局の真っ最中。
W氏がいたので、挨拶する。
「最近教室に来ないじゃない」
とW氏。確かにそうで、前回は8月の飯野愛女流初段の指導対局会だった。その前の教室参加は6月、その前は4月だったと記憶する。間隔は開いているが、私は来たい時に来るだけだ。
Kaz氏がいた。「山根先生の四間飛車に棒銀をやったんですけど、短手数で吹っ飛ばされました」
実力派で腰の重いKaz氏が、勝敗はともかく短手数で敗れたとは解せない。山根女流初段は想像以上の手練れのようだ。あと、Kaz氏は振り飛車党から居飛車党に戻ったようだ。そのまま振り飛車党を続けてくれれば、私も与しやすかったのだが……。
定刻には早いが、個々で記念写真を撮ったあと、もう駒を並べ始めた。現在私を含めて、下手は5人。もうひとりはShin氏で、遅れて来るらしい。
ほかの4人が対局を始めたあと、私の駒を並べる。
「手合いは何にしますか?」
「平手でよろしいでしょうか。先生も飛車を振りたいでしょ?」
と、これはいつものフレーズである。
5人目の対局開始となった。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△9四歩▲5六歩△3二銀▲6八玉△4二飛▲7八玉△7二銀▲5八金右△4三銀▲2五歩△3三角(第1図)
山根女流初段は振り飛車党という情報は仕入れてきたが、とくに対策はしなかった。ただ、四間飛車で来そうな気がしたので、前夜に木村一基九段著の「NHK将棋シリーズ 急戦・四間飛車破り」を読もうと思ったのだが、読み忘れてしまった。
山根女流初段はすぐに飛車を振らず、6手目に△9四歩。これにお付き合いするほど私は心の余裕がないので、中央の駒を進める。
奥の2人は社団戦の戦友らしく、山根女流初段との対局姿を写真に撮るよう、W氏にお願いしていた。
「あれっ?」と山根女流初段。ほかの4人の手合いは、こちらから飛車落ち、平手、飛車香落ち、あとのひとつは見えなかったのだが、山根女流初段が平手局を飛車落ちと勘違いし、飛車落ち用の手を指してしまったらしいのだ。
しかし待ったはせず、そのまま駒組を進めた。
山根女流初段は四間に飛車を振り、▲2五歩△3三角まで。次が作戦の岐路だ。
第1図以下の指し手。▲6八銀△6二玉▲3六歩△7一玉▲5七銀左△5二金左▲9六歩△8二玉▲4六銀△5四歩(第2図)
山根女流初段は黒系のニットのカーディガンを着用していて、まさに秋の装い。写真では神経質そうな感じを受けたが実物はそんなことはなく、そこはかとなく漂う天然感は、面白キャラのニオイがぷんぷんする。
第1図は手が広いところで、ここで作戦を練るのが居飛車の醍醐味だ。私は▲6八銀と上がり、とりあえず左美濃を捨てる。次に▲3六歩とし、急戦を明示した。
このあたりでShin氏が入室し、私の左に座った。
「お久しぶりです」
とShin氏。「元気でしたか」
「元気じゃないよ」
本当にそうで、最近は手足に熱を持ったり、内臓のあっちこっちに痛みがあったりと、体調は最悪である。思い切って人間ドックで診てもらおうとも思うのだが、検査が恐ろしくて、その踏ん切りがつかない。
「最近将棋指してます?」
「指してねえよ。そんな状況じゃないよ」
「だけどそういう時のほうが、大沢さんは強いからなあ」
「……」
△5二金左には、心の余裕ができてきたので、▲9六歩と突く。さらに▲4六銀とし、ナナメ棒銀とした。
対して上手の△5四歩がやや珍しい気がした。むろん飛車のコビンが開くからで、将来の△2七角~△5四角成がない。ただし△6四角の筋が残っているので、下手はこの手に気を付けなければならない。
第2図以下の指し手。▲3五歩△3二飛▲2四歩△同歩▲3四歩△同銀▲3八飛△4五歩▲3三角成△同飛(第3図)
左の将棋を見るとここも四間飛車対急戦で、やはり山根女流初段の△5四歩型だ。山根女流初段はこの形を得意にしているようだ。
Shin氏の囲いは「▲6八銀・▲7九金・▲5九金」で、これは最近の「将棋世界」で見たことがある。確認すると、大橋貴洸四段が得意にしているらしい。さすが勉強熱心なShin氏、最新形に詳しい。
第2図で下手は▲6八金直や▲1六歩があるが、いずれも△1二香と替わって面白くないと思った。それで単刀直入に▲3五歩と仕掛けた。
こうなれば、以下数手は定跡手順。途中▲2四歩の突き捨てが肝心なところで、これを怠ると将来▲3四飛と走った時、▲2四飛と横滑りできない。ただし上手に1歩を渡したので、それなりの反撃も覚悟しなければならない。
▲3八飛には△4三金もあるが、山根女流初段は△4五歩。まあそうであろう。
私は角を換わって、△3三同飛まで。さて次の手は。
(つづく)