一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第2回 大いちょう寄席(中編)

2018-10-30 00:27:52 | 落語
吟者氏はシャキッと背筋を伸ばし、
「一家に。芭蕉。ひとつやに~~~」
と、艶のある声で吟じだした。私は志村けんのコントを見るかのようで、口あんぐりである。
歌が終わると、氏はまた背筋を丸めて、席に戻った。私は今、幻を見たのだろうか。
桂歌丸は酸素吸入器を手放せない時も、高座にのぼればハリのある声で演ったというが、なるほどそういう例は世に数多あるのだろう。
後半11句が読まれ、終了。ナレーターは昨年に続き、森田美風さんだった。いや、いいみちのく紀行を味わわせてもらいました。
「お仲入りーー」
と恵子さんが歌い、休憩。そういえば今年は、恵子さんの出番がなかった。ぜひ来年は……と言いたいところだが、さすがに私は、来年はここに来られない。
私は後ろの人のことを考えて胡坐で聞いていたが、足を開くので結構きつい。これはいい休憩になった。
第2部は本日のメインの、落語である。
トップバッターは三遊亭遊鈴(ゆうりん)の「背なで老いてる唐獅子牡丹」。遊鈴は昨年に続いての登場である。
「今の日本はどこででも、後継者がいないという問題があるようでございます。任侠の世界でもそういうことがあるようでして……」
今回の噺も立派な落語で、桂文枝の創作である。ある組の親分が自分の島を荒らされているという情報を聞き、親分は報復のために若い組員を呼ぶ。ところが組員はおしなべて高齢化し引退者が続出、現在は4人しかいない。しかもタマを取るにも、「この歳で刑務所に入りたくない」と尻ごみするばかり。
そこで親分は、「流れ者の銀二」に仕事を依頼することにする。しかし銀二も高齢になり、今は老人ホームに入っていた……。
落語では老人ホームでの2人のやり取りがおもしろく描かれる。そして襲撃当日、標的の身に意外なことが起こるのだが……。
遊鈴のように女性落語家は珍しいが、ソプラノの丁寧な語り口は女性らしく、とても聞きやすい。
噺の終盤で、高倉健「唐獅子牡丹」の替え歌が出てくる。これは著作権の関係で、CDその他には収録されず、高座でしか聴けないものだ。
遊鈴はソプラノの美声でなめらかに歌う。下げも見事に決まって、いい出来だった。
続くは仏家シャベル(湯川博士)の「黄金餅」。これは7月に両国で行われた、「あっち亭こっち勉強会」でも演られたものだが、まさか同じネタを聞くことになるとは思わなかった。
だがしかし、両方の寄席に出席している私のほうがおかしいのだ。それに同じネタでも、毎回違ったおもしろさがあるものだ。
「今年の大勢のお運び、ありがとうございます。先ほどまで空き地(空席)が多かったので気が気でなかったんですが、お陰さまで落語が始まるころには、満員になりました……」
シャベルは昨年病を得たがいまは全快して、顔色もよい。「先日の台風はすごかったですナ。ワタシその翌日に長照寺に行きましたら、銀杏の実がビッシリと落ちておりました。それを拾い集めましたらバケツ20杯分!」
それを丁寧に洗い、今回記念品として私たちが戴いたわけだった。
噺に入った。黄金餅は、シャベルの十八番なのだろう。オリジナルの話に自身の質素?な生活をまぶし、笑いを取る。
そして白眉はやはり、下谷山崎町から麻布「木蓮寺」までの街並みの描写である。両国の時より地名が2、3増量され、私たちはさらに克明にタイムスリップができた。
最後は、現在も存在する黄金餅の由来を述べ、終了。今回も安定した、いい出来だった。
ここで再び休憩が入る。
再開後は、バトルロイヤル風間氏の「似顔絵ショー・五十年前のあなた」である。バトル氏が登場し説明するに、この企画は湯川博士氏プロデュースで、被写体の50年前の似顔絵を、想像で描いちゃおうというものだった。まさに前代未聞、斬新な新手があったものだ。
幸い会場は、50年前の似顔絵にも耐えられる方ばかりである。早速希望者を募ったが、皆さん尻込みして挙手しない。そこでバトルさんが女性を指名し、半強制的に出てもらった。
50年前ということは1968年(昭和43年)。東京オリンピックと大阪万博の間で、バトル氏は女性にインタビューをしながら、色紙にマジックを走らせる。
「お綺麗ですね、女優かモデルでもされてたんですか?」
「いえいえそんな」
「50年前はどちらにいらしたんですか?」
「大森です」
「ほう。何かお仕事をされてたんですか?」
「それはちょっと」
「おお、言えない?」
「金融関係のほうで……かわいく描いてくださいね」
「今かわいく描いてますからね」
このあたりのバトルさんのトーク力が巧みというか、ゲストの情報をどんどん引き出してしまう。またその会話が可笑しいのである。
似顔絵が出来上がったようで、実物と似顔絵を並んで見せる。これがよく似ている!
私たちが彼女の50年前の姿を知る由もないが、なるほど小ジワをなくせばその姿だったと納得できる。それより何より、ゲストの満足そうな表情がよかった。
2人目のゲストは男性の方。今度もインタビューをしながらサラサラと描いていく。
「50年前は何をされてました?」
「高校生でした、H高校です」
「ほう、そうですか。若乃花に似てますね」
誰かに似ている、というこの洞察力が大事なのだろう。だがバトル氏今回は「うーん……」と唸って、色紙を放り投げてしまった。
バトル氏も万能ではなく、時々失敗することがある。かつて、中倉宏美女流二段や船戸陽子女流二段を試みた時がそうだった。
2度目のチャレンジ。しかし今度も「ウ~ン描き直し」。どうも「現在」の似顔絵になっているようなのだ。
そこで50年前の容貌を深く聞く。ゲストは現在恰幅がいいが、50年前は痩せていたという。
今度はペンが快調に走っているようだ。「皆さんも不安でしょうが、私も不安です」。
以上を踏まえてできた似顔絵がこれだ!
「オオーーッ!!」
頬のこけ方が男子高校生そのもので、会場が一斉に唸った。バトル氏の眼力と線描化技術はまさに天才的で、神業だと思った。
さらに3人目である。バトル氏は和光市市長や鳥飼ガクショウ氏あたりを描きたいのだが、本人が「その時は生まれてなかったので……」とか固辞して出てこない。
そこで、3人目も上品なおばさまが登場した。バトル氏が
「神楽坂の方からお越しいただきました」
と茶化す。神楽坂、とは絶妙の譬えだ。
「あ、ようやく50年前の似顔絵の描き方が身に付いてきましたヨ」
さすがに要諦が分かってきたようで、今回は短時間で描きあげた。
これも50年前の容貌が再現?されており、会場から歓声が上がった。いやこれは、バトル氏に新たな持ちネタ?が加わった気がした。
再び落語に戻り、トリはお待ちかね、木村家べんご志(木村晋介)の登場である。
(つづく)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする