一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

富岡八段の新橋解説会(第31期竜王戦第5局)(中編)

2018-12-08 00:07:20 | 将棋イベント

第3図以下の指し手。▲2七角(途中1図)△5四歩▲5五歩△8四飛▲5四歩△同銀右▲5五歩△4五銀▲同銀△同歩▲同角△6二金(第4図)

羽生善治竜王の指し手が注目されたが、藤森奈津子女流四段は「▲2七角(途中1図)と指しました」と告げた。

富岡英作八段「次の一手にしたいような手ですね。ここは▲1八角と打つのが天野宗歩の名角と言われていて、実際この角はいい手になる場合が多いんですけれども、羽生さんは▲2七角と打ちました。これも△6三銀と△8一飛を狙って、のちに▲1六角と出る手を見ています」
確かに▲1六角出はあるが、飛車の頭をふさぐ▲2七角は打てないもの。少なくとも私は、一生考えても浮かばない。いつもながら、羽生竜王の柔軟な思考に感嘆するのである。
ここで封じ手になると思われたが、広瀬章人八段は1時間10分の長考で△5四歩と打った。
そこで封じ手になると思われたが、羽生竜王は短考で▲5五歩と返す。これはさすがに広瀬八段の封じ手となった。

封じ手は△8四飛。大方の予想とは違ったが、第1局48手目の△8四飛を思わせ、味のよさそうな手である。
羽生竜王は銀交換を果たす。富岡八段「遠見の角が捌けて、羽生さんが少しいいと思ったんですけどね」
広瀬八段は△6二金と立つ。やはりこの形になり、広瀬八段も自信を持っていたのではないか。
ところが……。

第4図以下の指し手。▲7一銀△5七角▲8八玉△3五角成▲1八角△7五歩▲6二銀不成△同馬(第5図)

羽生竜王は▲7一銀と打った。「これは発見しづらい手です」と、富岡八段。羽生竜王は相矢倉で▲8三銀、のような手を好む。よって、このような銀打ちも見えるのだろう。
しかし数手進んで△6二同馬までとなってみると、「後手のいい形に見えますね」と、富岡八段も見解を変える。実際この辺りは、いい勝負なのだろう。
ここで次の手が、またも観戦者の度肝を抜いた。

第5図以下の指し手。▲7二金(途中2図)△5一馬▲6三角成△5二銀打▲7三馬△同馬▲同金△6四角(第6図)

羽生竜王は▲7二金!(途中2図)と打った。私は、▲6三金はあるかと考えていたのだが、羽生竜王の指し手は文字通り、そのナナメ上を行った。「これはビックリしました」と富岡八段。「この類の手は、良くならない、割に会わない手が多いんですよ」

しかし実戦は△5一馬からバタバタ進み、羽生竜王の桂得となった。だが△6四角が好点で、先手は▲7三金の処置が難しい。これは羽生竜王が失敗したのではないか?

第6図以下の指し手。▲2三歩成△同歩▲2四歩△同歩▲同飛△7六歩▲2一飛成△3一金(第7図)

△6四角について、富岡八段が
「これは味がいい。次に△7六歩▲同銀△5五角があるから広瀬さんがいいと思ったんですが……」
と述べる。注目の羽生竜王の指し手は▲2三歩成だった。詰まっている2筋をこじ開ける、気付きにくい手だ。「▲2三歩成に本譜は△同歩でしたが、△2三同金もあります。ただこれは、私は気付かなかったんですが、▲3九角(参考1図)という手があるようなんですね」

藤森哲也五段が解説を引き継ぐ。「△7三角と金を取れば、▲7五角△8二飛▲2三飛成△同歩▲4二金まで」
富岡八段「そこで後手は△7三角でなく,△4八歩(参考2図)と打つ。先手は▲3五桂……」

なるほど、水面下では恐ろしい読みが展開されていたのだ。
本譜に戻り、▲2四同飛に広瀬八段は飛車成を防がず、△7六歩と取り込む。この辺の気合はさすがだ。
富岡八段「この辺りはどちらが深く読んでたかだね」
▲7六同銀は△5五角があるので、羽生竜王も▲2一飛成と飛び込む。△3一金もこの一手。これで羽生竜王が後手を引き、マズイと思われた。
だが……。

第7図以下の指し手。▲3三桂△4二玉▲7六銀△8六歩▲6二金△2一金▲同桂成△8一飛▲4五桂△8七歩成▲同銀△4四銀打(第8図)

羽生竜王は俗に▲3三桂と打った。王手と同時に、2一竜にもヒモを付けた、一石二鳥の手だった。
富岡八段「広瀬さんが読み勝ったと思ったらそうじゃなかったんですね。ここ▲1一竜は△7七歩成▲同桂△2二銀で後手が固くなる」
△4二玉に、そこで▲7六銀と手を戻す。この呼吸がニクイ。「△2一金は▲同桂成で、次に▲3一角を見て指せるということなんですね」
△8六歩。「これは▲同歩と取らせて△2一金のつもり。ところが▲6二金がいい手でした。さっき打った▲7二金が大活躍しています」
まさにその通りで、ソッポに打った金が桂を取り、角で取られそうになりながらも、今は後手玉に迫っている。駒がギリギリに働いて、マジックを見ているかのようだ。
広瀬八段は△8一飛と▲3一角を防ぎ、羽生竜王は▲4五桂と包囲網を敷く。広瀬八段は△4四銀打と懸命の防戦だ。
「これは次に△8六歩から△5五角を見ています」
と、富岡八段。ここで▲3四歩が本筋と思ったのだが、柔軟な指し手を次々と披露する羽生竜王は、ここでも周囲をアッと言わせる手を指した。

(つづく)
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