一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第31期竜王戦第6局

2018-12-14 00:06:31 | 男性棋戦
将棋界最高の公式戦、第31期竜王戦第6局は、12日、13日に鹿児島県指宿市「指宿白水館」で行われた。ここまで羽生善治竜王の3勝、広瀬章人八段の2勝で、羽生竜王は防衛に王手をかけている。指宿白水館は、昨年羽生棋聖が渡辺明竜王から竜王を奪取し、「永世七冠」を決めた記念の地である。今回羽生竜王が勝って竜王を防衛すればタイトル100期の金字塔となり、指宿白水館は将棋の聖地になること必定である。関係者は公平を旨とするが、指宿白水館のスタッフは、羽生竜王の勝利を熱望していたことだろう。
対局が開始され、広瀬八段▲2六歩。羽生竜王は△8四歩と応じ、相掛かりになるかと思いきや、羽生竜王の注文で横歩取りになった。このシリーズは角換わりのみと考えていたので、第5局の矢倉といい、この作戦も意外だった。
将棋は広瀬八段の青野流(▲3四飛の形で▲5八玉~▲3六歩)から飛車角が交換となる激しい変化となった。
28手目△8六歩。私にはもう訳が分からないが、ここまで実戦例があるというから恐ろしい。また「将棋世界」8月号で、千田翔太六段が解説していた順でもあるらしい。私は未読で、おのが不勉強を嗤うばかりである。しかし両対局者のデータベースには入っているわけで、当たり前のことだが棋士はよく勉強している、と感心するのであった。
その後広瀬八段は、(飛車と)両桂を5三の地点に集中させる。実は私も指導対局の下手で、この形を実現させたことがあるが、その後も思いのほかうまく指せ、勝ったのだ。よってこの局面も、気分的には先手持ちだった。

羽生竜王が48手目に△3七角(第1図)と打ち、封じ手。ここは先手の手が広いところだったが、封じ手は▲8五飛だった。こうなれば△7三桂▲8二飛成△6二桂が予想され、実際そうなった。そして広瀬八段▲2七飛(第2図)。

ここで羽生竜王は△1九角成としたが、▲2一飛成△3一歩▲2八歩で、後手の馬がずいぶん窮屈になってしまった。隅の馬は中央に引ければいいが、歩で動きを抑えられると、意外に働きにくくなることが多い。
ここ控室では、△1九角成に代えて△4五桂を発見しており、以下▲2一飛成△5七桂成▲同玉△6五桂(△3七角で▲8二竜取り)▲6八玉△7七桂成▲同銀左△8二角成▲3二竜△4二金(参考図)を最有力と見ていた。

この変化は、△3七角が敵竜を取ったのだから大戦果。後手がやれると思う。少なくとも本譜よりはるかにいいはずだが、羽生竜王は△1九角成をわずか3分で指した。ということは前日の読みで予定だったことになるのだが、▲2八歩が後手の満足できる局面とは思えない。それなら△3七角のあたりでもっと考えてもよさそうなものだが、どうだったのだろう。
ちょっとこのあたり、羽生竜王の真意をはかりかねた。

私はニコ生はあまり見ないのだが、たまたま見たら繋がった。解説は藤井猛九段、聞き手が和田あき女流初段で、九段の解説はとてもためになる。すると、同行棋士が砂蒸し温泉に入る映像が映し出された。私も砂蒸し温泉が好きで、ゴールデンウィークには毎年楽しんでいる。来年も行ければと思う。
棋士のみんなが脳内将棋を始めた。やはり棋士は将棋が好きなのだ。
だがその後、AbemaTVを見てニコ生に戻ったら、もう映像が動かない。これだからニコ生はイヤなのだ。
アクセスし直したら、今度は脳内王手将棋になっていた。これを解説する藤井九段の絵がシュールだ。
竜王戦に戻るが、あれから数手進み、藤井九段の見解では大差で先手よし。羽生竜王が投了してもおかしくない局面だが、あんまり早く決着を付けにいって羽生竜王を怒らせても第7局に響くので、広瀬八段もそろそろと指して、午後に持ち込むだろう、とか言っている。
この辺の心理の把握が実に巧みで、藤井解説の人気の秘密がここにある。

ところが羽生竜王は駒音高く△3七桂(第3図)! これが渾身の勝負手で、▲3七同歩は△4七馬▲6八玉△6九馬までである。といって捨て置けば△4九桂成があるので、藤井九段も「あれ、あれれ、そんな手がありましたか」と困惑する。
まったくうまい桂で、何だか第1局の▲2四桂を彷彿とさせるではないか。もう勝ったも同然と砂蒸し温泉気分でいたところにこんな手が飛んできたら、そんな気分も吹っ飛ぶというものである。
藤井九段によると、この数手前、▲5六香と打つ前までは、先手にいろいろな勝ち方があったという。だが△3七桂を喫してみると先手は攻め合い勝ちに行くしかなくなった。つまり勝利の道筋を1つに限定してしまったのがどうだったかということらしい。
だが広瀬八段はタイム13分で▲6五銀。黙って桂を取るのが好手らしく、藤井九段も、やはり先手勝ち、と断言した。
羽生竜王は△4九桂成と首の座に直り、広瀬八段は▲5五香打△3九馬▲5三香不成(第4図)! ここはもちろん「成」でも勝ちなのだが、不成とすることで後手の応手を△5三同金に限定している。これは広瀬八段、ずいぶん辛い勝ち方をすると思った。

△5三同金以下は▲4一竜△同玉▲3二金まで、12時07分に羽生竜王投了。2日目昼休前の投了は竜王戦史上初で、他のタイトル戦でも、1989年の第30期王位戦第4局・▲森雞二王位×△谷川浩司名人戦の、11時47分くらいしか思いつかない(追記:ほかに2005年の王将戦があるらしい)。
局後のインタビューを聞いてみる。関係者が羽生竜王に「△1九角成が疑問と言われています……。あそこは△4五桂があるようでしたが」と問うたが、羽生竜王はピンと来ていなかった。
やはりそうか、と思う。△4五桂が閃いていれば当然この順を選ぶはずで、羽生竜王にしては珍しく、読み抜けがあったのだ。これはよくあることなのか、それとも加齢による衰えなのか……。
とにもかくにも、決着は20日・21日に持ち越された。広瀬八段の戴冠より、羽生竜王のタイトル100期or無冠が懸かる大一番、これは今年いちばんの盛り上がりになる。
新橋解説会も復活するが、私は就活もそっちのけで、足を運ぶことになるのだろう。
情けない。
コメント
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