18日に行われた第45期女流名人戦・里見香奈女流名人対伊藤沙恵女流二段の第4局は、里見女流名人が勝ち、女流名人位を防衛した。
この8日前に行われた第3局では、里見女流名人が角交換後に向かい飛車に振ったが、伊藤女流二段は巧みに攻めを繋げ、快勝した。
伊藤女流二段はこの勢いで第4局も……と期待を抱かせたが、ダメだった。
その第4局を軽く振り返ってみると、先番里見女流名人が中飛車に振った。これはまあ予想できたところである。
これに伊藤女流二段の対策が注目されたが、穴熊に潜った。
異論はあろうが、私は伊藤女流二段の棋風は穴熊に合わないと思う。厚みでぐいぐい押していく将棋が合っていると思う。それなのにこの囲いを選ぶところに、対里見戦の気負いを感じてしまうのだ。
里見女流名人は左銀を進出させる。言っちゃあなんだが単純な攻めだ。が、もう後手がイヤな感じになっている。囲いが偏っているのがマズイのだろうか。
その後里見女流名人が攻め、伊藤女流二段が受け、伊藤女流二段が角銀交換の駒得になった。が、先手の歩が5四に残り、6三には成銀が出来ている。均衡は取れているものの、居飛車側にイヤミが多い気がした。
ここで伊藤女流二段は△8八角(図)。駒を取りに行ったものだが、これがどうだったか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/ed/120c28a672caa5f42c17405f20dd2a11.png)
里見女流名人は▲7七歩。これが角道を止める冷静な手だった。
大野八一雄七段が飛車落ちを指す時、稀に△6二玉形で角交換に応じる時がある。
8二にスキができているから下手は当然▲8二角と打つのだが、これが上手の仕掛けた罠。▲9一角成と香得しても、存外この馬が働かないのだ。
つまりこの筋の馬は自陣に引けてこそ活躍するわけで、敵陣で暴れようにもカニ歩きでしか動けず、かなり難儀なのだ。
似た例は男性棋戦にもあり、昨年の竜王戦第6局、▲広瀬章人八段対△羽生善治竜王戦がそうだった。中盤、羽生竜王が△1九角成と香を取ったが、広瀬八段は冷静に▲2八歩。これが好手で、馬の働き場を失った後手は、2九-3九と馬を活用したが、そこまでだった。
本局の伊藤女流二段も、△9九角成と香得し、その香を5五に据えてさらに駒得したのだが、肝心の馬が遊んでしまい、思ったほどでかさなかった。
しかも、伊藤女流二段の飛車までもが9二で蟄居し、気分は完全に二枚落ちである。彼我の大駒の働きにこれだけ差がついては、もう後手が勝てない。
以下は順当に里見女流名人が勝ち、女流名人10連覇を達成するとともに、対伊藤女流二段のタイトル戦連勝を「5」に伸ばしたわけだった。なお10連覇は、林葉直子さんが樹立した「女流王将10連覇」に並ぶ記録とのこと。里見先生、おめでとうございます。
しかしこうしてみると、またしても伊藤女流二段が歯痒い。彼女の将棋は破壊力抜群で、予選の記譜を見ると、他の女流棋士を寄せ付けない圧倒的強さである。
それが対里見女流名人戦になると、ヘビに睨まれたカエルのごとく、不思議と指し手が縮こまってしまう。先日の里見女流四冠対礒谷真帆女流初段戦のような、一手違いの将棋にもならないのだ。
私は繰り返して言うが、伊藤女流二段は実力がある。もちろん里見女流名人にも勝てる器だと思う。だがちょっと、里見女流名人を意識しすぎてはいないか?
あとは精神的な問題だと思う。たとえば、目の前の里見女流名人をそれと意識せず、その辺の女流棋士(失礼)と暗示をかけて指してはどうか。
タイトル保持者が里見女流四冠と奨励会員だけだと、女流棋界はシラける。新風を吹き込むためにも、伊藤女流二段の活躍は不可欠である。
この8日前に行われた第3局では、里見女流名人が角交換後に向かい飛車に振ったが、伊藤女流二段は巧みに攻めを繋げ、快勝した。
伊藤女流二段はこの勢いで第4局も……と期待を抱かせたが、ダメだった。
その第4局を軽く振り返ってみると、先番里見女流名人が中飛車に振った。これはまあ予想できたところである。
これに伊藤女流二段の対策が注目されたが、穴熊に潜った。
異論はあろうが、私は伊藤女流二段の棋風は穴熊に合わないと思う。厚みでぐいぐい押していく将棋が合っていると思う。それなのにこの囲いを選ぶところに、対里見戦の気負いを感じてしまうのだ。
里見女流名人は左銀を進出させる。言っちゃあなんだが単純な攻めだ。が、もう後手がイヤな感じになっている。囲いが偏っているのがマズイのだろうか。
その後里見女流名人が攻め、伊藤女流二段が受け、伊藤女流二段が角銀交換の駒得になった。が、先手の歩が5四に残り、6三には成銀が出来ている。均衡は取れているものの、居飛車側にイヤミが多い気がした。
ここで伊藤女流二段は△8八角(図)。駒を取りに行ったものだが、これがどうだったか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/06/ed/120c28a672caa5f42c17405f20dd2a11.png)
里見女流名人は▲7七歩。これが角道を止める冷静な手だった。
大野八一雄七段が飛車落ちを指す時、稀に△6二玉形で角交換に応じる時がある。
8二にスキができているから下手は当然▲8二角と打つのだが、これが上手の仕掛けた罠。▲9一角成と香得しても、存外この馬が働かないのだ。
つまりこの筋の馬は自陣に引けてこそ活躍するわけで、敵陣で暴れようにもカニ歩きでしか動けず、かなり難儀なのだ。
似た例は男性棋戦にもあり、昨年の竜王戦第6局、▲広瀬章人八段対△羽生善治竜王戦がそうだった。中盤、羽生竜王が△1九角成と香を取ったが、広瀬八段は冷静に▲2八歩。これが好手で、馬の働き場を失った後手は、2九-3九と馬を活用したが、そこまでだった。
本局の伊藤女流二段も、△9九角成と香得し、その香を5五に据えてさらに駒得したのだが、肝心の馬が遊んでしまい、思ったほどでかさなかった。
しかも、伊藤女流二段の飛車までもが9二で蟄居し、気分は完全に二枚落ちである。彼我の大駒の働きにこれだけ差がついては、もう後手が勝てない。
以下は順当に里見女流名人が勝ち、女流名人10連覇を達成するとともに、対伊藤女流二段のタイトル戦連勝を「5」に伸ばしたわけだった。なお10連覇は、林葉直子さんが樹立した「女流王将10連覇」に並ぶ記録とのこと。里見先生、おめでとうございます。
しかしこうしてみると、またしても伊藤女流二段が歯痒い。彼女の将棋は破壊力抜群で、予選の記譜を見ると、他の女流棋士を寄せ付けない圧倒的強さである。
それが対里見女流名人戦になると、ヘビに睨まれたカエルのごとく、不思議と指し手が縮こまってしまう。先日の里見女流四冠対礒谷真帆女流初段戦のような、一手違いの将棋にもならないのだ。
私は繰り返して言うが、伊藤女流二段は実力がある。もちろん里見女流名人にも勝てる器だと思う。だがちょっと、里見女流名人を意識しすぎてはいないか?
あとは精神的な問題だと思う。たとえば、目の前の里見女流名人をそれと意識せず、その辺の女流棋士(失礼)と暗示をかけて指してはどうか。
タイトル保持者が里見女流四冠と奨励会員だけだと、女流棋界はシラける。新風を吹き込むためにも、伊藤女流二段の活躍は不可欠である。