母親のもとにはカレーライスが来ているが、彼女はそれそっちのけで、カウンターの青年らとの話に夢中だ。不思議大好き連中同士、よほど話が合うのだろう。娘さんは食事を済ませ、スマホいじりに忙しい。
私のもとにもカレーライスがきた。このレトルトっぽい味が懐かしい。美味い。ウインナーコーヒーも美味かった。
まだ時間はある。今日は佐世保に泊まるイメージである。スマホで東横INNの佐世保を調べると、2部屋空きがあったのだが、喫煙ルームの上、5,240円だった。それで躊躇していたら、しばらくして「満室」になってしまった……。
何か私の人生を象徴しているようだが、この躊躇がどうでるか。
あらかた食事タイムが終わり、会計を済ませて、いよいよマジックである。最終的な客人数は29人で、私の整理券番号は「17」。予約の時は推定「34」だったから、17人もキャンセルがあったことになる。
ママさんの整理により、私は客席左側の立ち見となった。だいたい私はこの位置が多い。先の母娘は後方真ん中の椅子の上。青年ら3人は、当然カウンター席。中でも女性が座った「3」は特等席だ。
Hisamura-Shunei氏が登場した。マスターの風貌はまったく変わらないのに、私は1年ごとに頭が薄くなっている。
私はジーパンのポケットに千円札、ジャケットに数種類の硬貨をしのばせた。出せる機会はないと思うが、用意しておくに越したことはない。ただ今回、私がどんな職に就いたらいいか、何かの拍子に聞ければいいと思った。
マスターのマジックが始まった。これから3時間余、めくるめく不思議ワールドが展開されるのだ。
まず、客から指環を所望する。すぐに4人から指環が差し出された。客もすでに想定済なのだ。
マスターが小箱の中に指環を入れる。それを振りながらライターの火であぶると、音がだんだん小さくなり、やがて消えた。指環の2つは別の場所から出てきて、残りの2つは、マスターのネックレスに付いていた。恒例のオープニングだが、毎年ビックリする。
マスターがお札を所望する。2の男性が、すかさずお札を出した。カウンターに、3種類のお札がたちまち載った。
マスターは、千円札や壱万円札を空中でふわふわさせる。中空の千円札があっちこっちに動く。これも毎年の驚きである。
青年ら3人はグループではなく、個人でたまたま一緒になったらしい。2の男性は仙台在住で、マスターがマジックをするごとに、大袈裟に拍手をする。私はこの手の「わざとらしさ」が苦手である。もっと自然発生的に出てくる拍手がいい。
「カズキミ君、来てますか。東京の人」
突然私のことを言われ、ビビる。はい、と答えると周りがざわめいた。何で分かるの? というわけだ。ただ私もここに20回来ているし、過去に自分の名前も述べた。ゆえにそれほど驚きはなかったが、マスターがなぜ私の名前をわざわざ呼んだのか、その真意が分からなかった。
マスターがESPカードを出し、マスターが5種類の絵を伏せて並べる。そこに5人の客が1枚ずつ置いていく。その5枚のお互いの絵は、ピッタリ合っていた。
その合間にも、マスターは客の名前を何人か当てる。これは大変にすごいことなのだが、私は感覚が麻痺してしまい、みなほどには驚けない。
「チョコボール」の箱を取り出す、マスターが一振りすると、特大のチョコボールが出てきた。
マスターが平たいカード入れを振ると、トランプのケースが飛び出した。ここからはしばらくカードマジックである。
マスターがケースからカードを出すが、そのケースが小さくなってしまった。マスターはカードをケースに無理やり押し込むと、入ってしまった。
3席の女性に、トランプのカードを選んでもらう。それはハートのQで、女性の座っている座布団の下には、大きなポスターが敷かれていた。女性がそれを拡げると、それは「ハートのQ」だった。
続いてマスターが、伏せたカードを何組かペアにする。それぞれダジャレが書いてあり、ある意味「寒くなる」システムである。
このマジックでは、客もマジシャンにしてしまう。3の女性に、52枚のカードを半分にしてもらう。女性が意識することなく真ん中あたりを2分割すると、それはピッタリ26枚であった。
客の一人に、サイコロを手の中で握ってもらう。その真上に出た目を、マスターがピタリと当ててしまう。
マスターがハンバーガーの絵をゴソゴソやると、ホンモノのハンバーガーが飛び出てきた。これはセロのマジックでも観たことがある。マスターはそれを一口かじり絵の中に戻すと、その絵も一口なくなっていた。これはバージョンアップした形だった。
カウンターの上には大ジョッキが載り、そこには人数分の割り箸が入っている。3番席の女性が引いた数字の人が、マスターのマジックに絡めるというわけだ。
それに当たった男性客が、ウルトラセブンのイントロに合わせて、4枚のカードを引く。マスターがその4枚のカードを開くと、すべて「7」だった。他にも「AKB48」バージョンなどもあり、こちらも唸った。
マスターが新たに千円札を所望する。2の仙台氏が再び出そうとするが、これはマスターが「他の人から」と制した。それにしても仙台氏、いったいどのくらい紙幣を用意していたんだ。
私は一拍置いたあと、ポケットから千円札を取り出そうとしたが、ほかのゴミ屑と絡まって、一瞬だけ出すのが遅れてしまった。すかさず前の女性に千円札を出され、もうオワリである。
マスターはその千円札と生卵を、袋の中で混ぜ合わせる。すると千円札だけ消えてしまった。ここまで来れば、もう先が読める。生卵を割ると、先ほどの千円札が出てきた!!
この千円札はビチャビチャなので、マスターが代わりの千円にサインを書き、彼女に返した。
あー、この千円札は大変な価値がある。私も何度か「戦利品」はゲットしたが、この千円は欲しかったところ。あそこでまごまごしていなければ……と、私は激しい後悔に苛まれた。
(つづく)
私のもとにもカレーライスがきた。このレトルトっぽい味が懐かしい。美味い。ウインナーコーヒーも美味かった。
まだ時間はある。今日は佐世保に泊まるイメージである。スマホで東横INNの佐世保を調べると、2部屋空きがあったのだが、喫煙ルームの上、5,240円だった。それで躊躇していたら、しばらくして「満室」になってしまった……。
何か私の人生を象徴しているようだが、この躊躇がどうでるか。
あらかた食事タイムが終わり、会計を済ませて、いよいよマジックである。最終的な客人数は29人で、私の整理券番号は「17」。予約の時は推定「34」だったから、17人もキャンセルがあったことになる。
ママさんの整理により、私は客席左側の立ち見となった。だいたい私はこの位置が多い。先の母娘は後方真ん中の椅子の上。青年ら3人は、当然カウンター席。中でも女性が座った「3」は特等席だ。
Hisamura-Shunei氏が登場した。マスターの風貌はまったく変わらないのに、私は1年ごとに頭が薄くなっている。
私はジーパンのポケットに千円札、ジャケットに数種類の硬貨をしのばせた。出せる機会はないと思うが、用意しておくに越したことはない。ただ今回、私がどんな職に就いたらいいか、何かの拍子に聞ければいいと思った。
マスターのマジックが始まった。これから3時間余、めくるめく不思議ワールドが展開されるのだ。
まず、客から指環を所望する。すぐに4人から指環が差し出された。客もすでに想定済なのだ。
マスターが小箱の中に指環を入れる。それを振りながらライターの火であぶると、音がだんだん小さくなり、やがて消えた。指環の2つは別の場所から出てきて、残りの2つは、マスターのネックレスに付いていた。恒例のオープニングだが、毎年ビックリする。
マスターがお札を所望する。2の男性が、すかさずお札を出した。カウンターに、3種類のお札がたちまち載った。
マスターは、千円札や壱万円札を空中でふわふわさせる。中空の千円札があっちこっちに動く。これも毎年の驚きである。
青年ら3人はグループではなく、個人でたまたま一緒になったらしい。2の男性は仙台在住で、マスターがマジックをするごとに、大袈裟に拍手をする。私はこの手の「わざとらしさ」が苦手である。もっと自然発生的に出てくる拍手がいい。
「カズキミ君、来てますか。東京の人」
突然私のことを言われ、ビビる。はい、と答えると周りがざわめいた。何で分かるの? というわけだ。ただ私もここに20回来ているし、過去に自分の名前も述べた。ゆえにそれほど驚きはなかったが、マスターがなぜ私の名前をわざわざ呼んだのか、その真意が分からなかった。
マスターがESPカードを出し、マスターが5種類の絵を伏せて並べる。そこに5人の客が1枚ずつ置いていく。その5枚のお互いの絵は、ピッタリ合っていた。
その合間にも、マスターは客の名前を何人か当てる。これは大変にすごいことなのだが、私は感覚が麻痺してしまい、みなほどには驚けない。
「チョコボール」の箱を取り出す、マスターが一振りすると、特大のチョコボールが出てきた。
マスターが平たいカード入れを振ると、トランプのケースが飛び出した。ここからはしばらくカードマジックである。
マスターがケースからカードを出すが、そのケースが小さくなってしまった。マスターはカードをケースに無理やり押し込むと、入ってしまった。
3席の女性に、トランプのカードを選んでもらう。それはハートのQで、女性の座っている座布団の下には、大きなポスターが敷かれていた。女性がそれを拡げると、それは「ハートのQ」だった。
続いてマスターが、伏せたカードを何組かペアにする。それぞれダジャレが書いてあり、ある意味「寒くなる」システムである。
このマジックでは、客もマジシャンにしてしまう。3の女性に、52枚のカードを半分にしてもらう。女性が意識することなく真ん中あたりを2分割すると、それはピッタリ26枚であった。
客の一人に、サイコロを手の中で握ってもらう。その真上に出た目を、マスターがピタリと当ててしまう。
マスターがハンバーガーの絵をゴソゴソやると、ホンモノのハンバーガーが飛び出てきた。これはセロのマジックでも観たことがある。マスターはそれを一口かじり絵の中に戻すと、その絵も一口なくなっていた。これはバージョンアップした形だった。
カウンターの上には大ジョッキが載り、そこには人数分の割り箸が入っている。3番席の女性が引いた数字の人が、マスターのマジックに絡めるというわけだ。
それに当たった男性客が、ウルトラセブンのイントロに合わせて、4枚のカードを引く。マスターがその4枚のカードを開くと、すべて「7」だった。他にも「AKB48」バージョンなどもあり、こちらも唸った。
マスターが新たに千円札を所望する。2の仙台氏が再び出そうとするが、これはマスターが「他の人から」と制した。それにしても仙台氏、いったいどのくらい紙幣を用意していたんだ。
私は一拍置いたあと、ポケットから千円札を取り出そうとしたが、ほかのゴミ屑と絡まって、一瞬だけ出すのが遅れてしまった。すかさず前の女性に千円札を出され、もうオワリである。
マスターはその千円札と生卵を、袋の中で混ぜ合わせる。すると千円札だけ消えてしまった。ここまで来れば、もう先が読める。生卵を割ると、先ほどの千円札が出てきた!!
この千円札はビチャビチャなので、マスターが代わりの千円にサインを書き、彼女に返した。
あー、この千円札は大変な価値がある。私も何度か「戦利品」はゲットしたが、この千円は欲しかったところ。あそこでまごまごしていなければ……と、私は激しい後悔に苛まれた。
(つづく)