一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

鈴木九段と梶浦四段の新橋解説会(第77期名人戦第1局の3)

2019-04-15 00:37:14 | 将棋イベント

第8図以下の指し手。▲2四飛△2二角▲同飛成△同金▲3四角△5一玉(第9図)

豊島将之二冠は▲2四飛と打った。そこで歩が打てれば△2三歩で何でもないが、無理だ。佐藤天彦名人は△2二角と受けた。何とも玄妙な2手だ。
鈴木大介九段「ここで▲4三歩△同銀▲2三飛打は、△同金▲同飛成△4二飛があります。梶浦君なら▲4三歩でどう指す?」
「▲3四飛打でしょうか」
と、梶浦宏孝四段。
「▲3四飛打? 破門にしようかと思ったけど、その手もあるね。他に▲2三飛打もありますね。これに△同金は▲同飛成だから単に△3一銀と受けるけど、ここで好手があります。どなたか分かりますか?」
鈴木九段が客席を見る。しかし客席は黙ったままだ。こういう時、私は場の雰囲気を考えて一声発したくなる。▲4五桂△同歩▲6四飛△同歩▲5三飛成と読んだがどうか。▲4五桂が正解ではないか?
それで右手を上げかけたが、鈴木九段は「▲5五銀です」と答えた。なるほど△5五同角に▲5三飛成か。これははるかに明快である。いやあぶないあぶない、勇んで答えたら、大変な恥をかくところだった。
なお▲2三飛打△3一銀で△3三銀も、▲5五銀と出る変化があり、先手勝勢。こういくつも先手勝勢の変化が出てきては、先手大優勢ということだ。
しかし人が変われば指し手も変わり、豊島二冠は▲2二同飛成から▲3四角とした。鈴木九段は意外そうだったがこれも厳しく、△4三桂なら▲4五桂△同歩▲4四歩がある。
ここらで解説が現局面に追い着いたようだ。今回も「懸賞次の一手」を用意しているが、局面がのっぴきならない事態なので、すぐにも出題したいところだ。

第9図以下の指し手。▲5五銀(第10図)

というところで、▲5五銀が指された。

鈴木九段「やっぱり出ましたね。▲5五銀に△同角は▲4三歩△3一銀▲5三桂成△5二歩▲4二歩成△同銀▲同成桂△同玉▲4三銀△5一玉▲5四飛(参考2図)が詰めろ角取り。途中の△3一銀で△3三銀でも、▲5三桂成に△3四銀と角を取れません」

藤森奈津子女流四段「▲4二歩成で詰んでしまいますね」
「そうですね。次に▲3一飛も厳しい。また△8九飛には▲7九歩がピッタリです」
局面変われど、ここでも▲5五銀があったのだ。「……どう見ても△2六歩が敗着ですよ。
佐藤名人が▲5五銀に気付いていたかどうか知りませんが、森内(俊之)九段がこんな手を喰らったら飛び上がってますよ。本当に森内九段は飛び上がりますから」
確かに5三には駒が2枚利いていたから、▲5五銀は軽視してしまう。
そして銀捨ての鬼手といえば、1988年1月18日に指された、▲大山康晴十五世名人対△谷川浩司王位・棋王戦の、谷川二冠の△5六銀捨て(参考3図)を思い出す。

この銀には、正確に指せば大山十五世名人にも勝機があったが、本局の▲5五銀は決め手に近い。
「だけどこの局面はあぶないよねえ」
「…あぶないです」
「投了もあるよ。そしたら梶浦君、懸賞用に、またクイズを作ってよ」
「……指すと思います」
梶浦四段が冷静に発した。

第10図以下の指し手。△5五同角▲4三歩△3一銀▲5三桂成△5二歩(第11図)

梶浦四段の予言通り、佐藤名人は△5五同角と取った。さすがにここで投了はない。
豊島二冠も長くは待たせず、▲4三歩と打つ。これが痛打で、2つ目の5三の利きが外れてしまうのだ。
将棋というのは不思議で、この局面、先手の銀損なのに、勝勢になっている。
鈴木九段「私だったらこの辺で、恐れ入りました、と言って投了します」
藤森女流四段「本当にそう言うんですか?」
「言いますよ。ふつうの対局の時は『負けました』ですけど、いい手を指された時は、『参りました、恐れ入りました』って投了しますよ」
梶浦四段も藤森女流四段も、ちょっと不思議そうな顔だ。「そりゃ私も20代の頃は、相手にいい手を指されても認めないところがありましたけど、今は違いますね。だから私は、いい手を指された時は、詰まされる方に逃げます」
それはないでしょう、と藤森女流四段の顔が言っている。
佐藤名人△3一銀。ここで二択だ。すなわち▲5三桂成か▲5三桂不成かだ。しかし豊島二冠が指すやもしれず、次の一手は3手後の豊島二冠の指し手となった。ここで解答用紙も配られる。今回は私も余裕でいただけた。
鈴木九段「ここは▲5三桂成ですか。でも▲5三桂不成でよければ話は早いんですよ」
そこで▲5三桂成が報告された。豊島二冠が銀損をしてまで指したかった手である。
「指しちゃいましたか。これは長期戦になりますね。▲5三桂不成ならどうだったんだろう。△7一金に▲7二歩で投了じゃないかなあ。
▲7二歩に△同金なら▲4二歩成。ここで△6二玉は▲6一飛で望みがないでしょう。だから私は詰みと分かっていても取っちゃうんですよ。……ちょっ、藤森さん聞いてます? △4二同銀は簡単に詰みだから△同玉。以下▲5二飛で――」
あっ、と梶浦四段が発した。
鈴木九段「△3三玉▲2二飛成(参考4図)に△同玉は▲2三金、△同銀は▲4三金」

▲7二歩の瞬間に△8九飛の応手はどうするのだろうと思うが、確かにこう進めば先手勝ちだ。
「公式戦でここからの(レベルの)逆転は見たことがないですね」
鈴木九段が、豊島二冠勝ちを断言した。
なお今回の賞品は、佐藤名人の扇子を1名に、ベッコウ飴と佐藤名人キーホルダーのセットを2名に、とのことだった。
佐藤名人が△5二歩と指した。ここで私たちが解答する。
鈴木九段が梶浦四段に候補手を聞くと、「▲8一飛」が返ってきた。
「私もそれを読んでたんですよ」
▲4二歩成ではないのか。でも確かに▲4二歩成は、盤上の攻め駒を一掃してしまい、若干ダサい気がする。私は▲8一飛と解答し、スタッフに渡した。
解説に戻る。
鈴木九段「▲8一飛に(A)△7一銀打は▲8二飛成△同銀▲4二銀△同銀▲同歩成まで。(B)△7一銀(引き)には▲同飛成△同金▲4二歩成△6一玉に……」
「▲6三成桂(参考5図)」
と梶浦四段がつぶやいた。

「なるほどそれがいい手か。これは必至ですね」
こんな明快な手順があるのなら、▲5三桂成~▲8一飛の組み合わせこそ最短距離だ。
これはいよいよ、▲8一飛が最有力である。しかし豊島二冠の考慮は続いている。

(つづく)
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