札幌駅前地下歩行空間(チカホ)を通る。ここは暖かく、いろいろ賑やかだ。まさにひとつの都市で、私はここを通るたび、ウルトラセブン「ノンマルトの使者」「あなたはだぁれ?」等を思い出す。
まだ昼食を摂ってないのでどこかに入りたいが、松屋に入るわけにもいくまい。案内板を見ると「杵屋」はあったが、場所がよく分からない。とにかく、小樽に急ぐことにした。
16時28分のいしかりライナーに乗る。札幌-小樽はJR北海道の数少ないドル箱区間で、車内は人が多い。そして外国人が過半数を占めている。
ただし私は、小樽の手前の南小樽で下車する。この辺りから、常人と行動パターンが違ってくるのだ。
南小樽駅前には、「砂場」があった。砂場は日本蕎麦で著名な屋号だが、それがここ小樽にもあるとは意外である。
入店すると、店のオバチャンが新聞を読んでいた。まあ、この時間帯の来客が珍しい。
定跡通り、大もり(770円)を注文する。壁を見ると、俳優・大滝秀治がこの店に来た時の写真が貼られていた。「僕は第九を指揮した」の揮毫がある。何かのロケがあったのだろう。
奥の壁には「二八そば」の表示があった。私も十割蕎麦より二八のほうが好きである。
出された大もりは蕎麦が太くこしがあり、香りも高く、美味かった。770円の出費は小さくないが、これは納得で払えた。
時刻は5時半前だが、冬の陽は短く、辺りはすでに暗い。メルヘン交差点に降りると、多くの観光客でごった返していた。もちろん、過半数が外国人である。
ここから小樽運河へ向かう。途中、LeTAOがあったので、入る。ここはスタッフさんが試食のお菓子を供してくれるのだが、今回はもらい損ねた。
何かチョコを買おうと思ったが、自分用と思うと虚しくなり、購入を見合わせた。
小樽運河に着いた。「小樽雪あかりの路2019」のメイン会場といえよう。想像したより観光客はいなかったが……いやいややはり、人はいる。
小樽運河は右手に倉庫がならび、綺麗とはいえない運河が流れているだけなのだが、運河に浮かぶガラス玉と、運河のカーブがいい味を出して、絵になるのだ。当然みな、パチパチ撮っている。しばらく待つと欄干に隙間もでき、私も何枚か撮れた。
左手の遊歩道には、市民手作りのキャンドルが並べられている。この手作り感が何とも温かく、私たちは足を止めては、見入ってしまうのだ。
小樽運河を反対側から眺めたあと、お次は旧手宮線の散策だ。「メイン会場」という意味では、こちらが相応しいかもしれない。
旧線路上に、いくつもの制作物が並んでいた。そのデザインはオリジナリティにあふれ、より幻想的である。観光客はあっちこっちでスマホを構え、私はぼぅっと歩くのさえ憚られる。
先に進むと、焼き餅や焼きジャガイモ(の一口サイズ)を無料でくれるサービスをやっていた。
人は無料になると、とりえず貰いたくなる習性がある。私もいただきたいが、もらい損ねた。
順路には一部迷路みたいなところもあり、歩いていて楽しい。このイベントは、毎年新しい工夫がある。
大通りを挟み、向こう側にも旧線路は続いている。もちろん渡ると、そこは例年通り飲食店があり、食事スペースも設けていた。
昨年は時間がなく失礼させていただいたが、じゃあ時間がある今年はどうかというと、やはりパスした。やはり食事は、しかるべき店でゆっくり摂りたい。
とりあえず引き返し、先ほどの焼き餅をゲットしに行く。今度はタイミングよく貰うことができた。
美味い! 無料の飲食物はなぜこうも美味いのだろう。
さて、夕食にしようと思う。小樽に来たら寿司で、さすがの私もここではそれなりの出費を覚悟している。
寿司屋通りに行き、そこから少し外れた通りに入る。昨年に続いて「幸寿司」の前に来た。しかし寿司の値段が店頭に表示されておらず、今年も入店を見合わせた。
かつてこの店に入った記憶はあり、値段もリーズナブルだったのだが、大昔に青森駅近くで、似た状況でエライ目に遭ったことがあるので、そこは慎重になってしまうのだ。
昨年入った店を探す。迷いに迷って、ようやく見つけた。「海月」。そう、こんな名前だった。
だがのれんをくぐると、「満席です」の返事。
観光は将棋と同じで、思いもよらぬ展開が待っていることがある。まさか満席とは思わなかった。
食事処を求め、アーケード街に行く。ちょっとトイレに行きたくなったが、ちょうど「お休み処」を見つけた。あ……これ?
入室して驚いた。以前何度か入った、蕎麦屋だったのだ。しかし廃業しており、内装はそのままに、無料休憩所として解放したわけだった。廃業は他人事ではないので、いたたまれない。
私はトイレを借り、スタッフの女性に言う。
「ここ懐かしいなあ。ここ蕎麦屋でしたよね? 私観光で来てましてね、ここは何度か入ったことあるんですよ。だけどここ何年か見当たらなくて。休憩所になりましたか」
「……? はい」
私は礼を言い、表に出る。すると、「石川屋さん、休憩所になったんだ」と、地元の人がつぶやきながら通って行った。
しまった……。この店が昨年まで営業していたのなら、私は難なく見つけられたはず。それが分からなかったということは、単に私が場所を勘違いしていただけなのだ。さっきの私の言葉に、スタッフさんが曖昧な返事をしたのは、そのためだった。
何だか疲れてしまった。小樽での食事はやめ、札幌に戻ることにする。普通電車に乗り、20時41分、札幌に着いた。
夕食はホテルまでの道の中途で、と考えていたら、なかなか店がない。そのうちホテルに着いてしまい、私はその手前のコンビニで、おにぎりを2つ買った。
東京では暴飲暴食をする身だが、旅先では質素な食事になってしまう。計画性がないから、こうなるのだ。
東横INN札幌駅南口にチャックインし、部屋のドアを開けると、ムッとイヤな臭いがした。喫煙ルームだから仕方ないが、やはりタバコの臭いは取り切れていない。でも禁煙ルームが取れなかったのだから、仕方ない。
シャワーを浴びた後は適当に日記を付けて、おとなしく就寝した。
(つづく)
まだ昼食を摂ってないのでどこかに入りたいが、松屋に入るわけにもいくまい。案内板を見ると「杵屋」はあったが、場所がよく分からない。とにかく、小樽に急ぐことにした。
16時28分のいしかりライナーに乗る。札幌-小樽はJR北海道の数少ないドル箱区間で、車内は人が多い。そして外国人が過半数を占めている。
ただし私は、小樽の手前の南小樽で下車する。この辺りから、常人と行動パターンが違ってくるのだ。
南小樽駅前には、「砂場」があった。砂場は日本蕎麦で著名な屋号だが、それがここ小樽にもあるとは意外である。
入店すると、店のオバチャンが新聞を読んでいた。まあ、この時間帯の来客が珍しい。
定跡通り、大もり(770円)を注文する。壁を見ると、俳優・大滝秀治がこの店に来た時の写真が貼られていた。「僕は第九を指揮した」の揮毫がある。何かのロケがあったのだろう。
奥の壁には「二八そば」の表示があった。私も十割蕎麦より二八のほうが好きである。
出された大もりは蕎麦が太くこしがあり、香りも高く、美味かった。770円の出費は小さくないが、これは納得で払えた。
時刻は5時半前だが、冬の陽は短く、辺りはすでに暗い。メルヘン交差点に降りると、多くの観光客でごった返していた。もちろん、過半数が外国人である。
ここから小樽運河へ向かう。途中、LeTAOがあったので、入る。ここはスタッフさんが試食のお菓子を供してくれるのだが、今回はもらい損ねた。
何かチョコを買おうと思ったが、自分用と思うと虚しくなり、購入を見合わせた。
小樽運河に着いた。「小樽雪あかりの路2019」のメイン会場といえよう。想像したより観光客はいなかったが……いやいややはり、人はいる。
小樽運河は右手に倉庫がならび、綺麗とはいえない運河が流れているだけなのだが、運河に浮かぶガラス玉と、運河のカーブがいい味を出して、絵になるのだ。当然みな、パチパチ撮っている。しばらく待つと欄干に隙間もでき、私も何枚か撮れた。
左手の遊歩道には、市民手作りのキャンドルが並べられている。この手作り感が何とも温かく、私たちは足を止めては、見入ってしまうのだ。
小樽運河を反対側から眺めたあと、お次は旧手宮線の散策だ。「メイン会場」という意味では、こちらが相応しいかもしれない。
旧線路上に、いくつもの制作物が並んでいた。そのデザインはオリジナリティにあふれ、より幻想的である。観光客はあっちこっちでスマホを構え、私はぼぅっと歩くのさえ憚られる。
先に進むと、焼き餅や焼きジャガイモ(の一口サイズ)を無料でくれるサービスをやっていた。
人は無料になると、とりえず貰いたくなる習性がある。私もいただきたいが、もらい損ねた。
順路には一部迷路みたいなところもあり、歩いていて楽しい。このイベントは、毎年新しい工夫がある。
大通りを挟み、向こう側にも旧線路は続いている。もちろん渡ると、そこは例年通り飲食店があり、食事スペースも設けていた。
昨年は時間がなく失礼させていただいたが、じゃあ時間がある今年はどうかというと、やはりパスした。やはり食事は、しかるべき店でゆっくり摂りたい。
とりあえず引き返し、先ほどの焼き餅をゲットしに行く。今度はタイミングよく貰うことができた。
美味い! 無料の飲食物はなぜこうも美味いのだろう。
さて、夕食にしようと思う。小樽に来たら寿司で、さすがの私もここではそれなりの出費を覚悟している。
寿司屋通りに行き、そこから少し外れた通りに入る。昨年に続いて「幸寿司」の前に来た。しかし寿司の値段が店頭に表示されておらず、今年も入店を見合わせた。
かつてこの店に入った記憶はあり、値段もリーズナブルだったのだが、大昔に青森駅近くで、似た状況でエライ目に遭ったことがあるので、そこは慎重になってしまうのだ。
昨年入った店を探す。迷いに迷って、ようやく見つけた。「海月」。そう、こんな名前だった。
だがのれんをくぐると、「満席です」の返事。
観光は将棋と同じで、思いもよらぬ展開が待っていることがある。まさか満席とは思わなかった。
食事処を求め、アーケード街に行く。ちょっとトイレに行きたくなったが、ちょうど「お休み処」を見つけた。あ……これ?
入室して驚いた。以前何度か入った、蕎麦屋だったのだ。しかし廃業しており、内装はそのままに、無料休憩所として解放したわけだった。廃業は他人事ではないので、いたたまれない。
私はトイレを借り、スタッフの女性に言う。
「ここ懐かしいなあ。ここ蕎麦屋でしたよね? 私観光で来てましてね、ここは何度か入ったことあるんですよ。だけどここ何年か見当たらなくて。休憩所になりましたか」
「……? はい」
私は礼を言い、表に出る。すると、「石川屋さん、休憩所になったんだ」と、地元の人がつぶやきながら通って行った。
しまった……。この店が昨年まで営業していたのなら、私は難なく見つけられたはず。それが分からなかったということは、単に私が場所を勘違いしていただけなのだ。さっきの私の言葉に、スタッフさんが曖昧な返事をしたのは、そのためだった。
何だか疲れてしまった。小樽での食事はやめ、札幌に戻ることにする。普通電車に乗り、20時41分、札幌に着いた。
夕食はホテルまでの道の中途で、と考えていたら、なかなか店がない。そのうちホテルに着いてしまい、私はその手前のコンビニで、おにぎりを2つ買った。
東京では暴飲暴食をする身だが、旅先では質素な食事になってしまう。計画性がないから、こうなるのだ。
東横INN札幌駅南口にチャックインし、部屋のドアを開けると、ムッとイヤな臭いがした。喫煙ルームだから仕方ないが、やはりタバコの臭いは取り切れていない。でも禁煙ルームが取れなかったのだから、仕方ない。
シャワーを浴びた後は適当に日記を付けて、おとなしく就寝した。
(つづく)