一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

銀は捨てる手に好手あり

2019-07-05 01:21:54 | 将棋雑記
やや前の話になるが、先月24日に指された第67期王座戦本戦トーナメント・羽生善治九段対佐々木大地五段の一戦にはびっくりした。私は夜に帰宅後、PCでAbemaTVを観たのだが、かなり駒得をしていた羽生九段が、千日手に持ち込まれてしまったからだ。

第1図から△4七銀▲4九銀打△3八銀成▲同銀△4七銀……の千日手である。
羽生九段の王座戦での千日手といえば、2012年に指された渡辺明王座との第60期五番勝負第4局が思い浮かぶ。この将棋、後手番羽生二冠の意表の2手目三間飛車で始まり、期待に違わぬ激戦となった。
終盤、羽生二冠がやや劣勢に見えたが、112手目の△6六銀(A図)が棋史に残る妙手。


数手後のB図から△8九金▲7八金打△8八金▲同金△8九金……と進み、深夜の千日手になった。
指し直し局は当日行われ、私はもう眠ることができない。当時私はスマホを買って2年目だったが、文明の利器に感謝しつつ、ひとり寝床で勝負の行方を見守ったものである。当時の私は自営だったから、多少の無理が利いたのだ。
指し直し局は相矢倉になり、羽生二冠が55手目に▲3四銀(C図)と捨てたのが相矢倉らしい強手。

以下羽生二冠は細い攻めを続け、最後は渡辺王座に体力勝ち。2期ぶり、20期目の王座に返り咲いたのだった。

そして今回の千日手である。私にはもっと前に、羽生九段に勝ちの順があるように思えたから、意外だった。だがもし河口俊彦八段が存命だったら、「羽生は指し直しても勝てる自信があった。だから千日手にしたのである」とでも書いたに違いない。

指し直し局はいま流行りの角換わりになった。
私は序盤のうちに風呂に入ればよかったが時期を逸し、ズルズルとAbemaTVを見ていた。

将棋は羽生九段が角金交換の攻撃に出て、一段落したところ。第2図から△6五歩▲同歩△同銀▲6六歩(第3図)と進んだ。

ここで常人なら△5四銀と引き、1歩を持って満足するところ。しかし玉頭に穴が空き、必ずしも後手はでかしていない。
どうするのかと見ていると、羽生九段は△7六銀(第4図)と出た!

しかし▲同玉で継続手が分からない。こういう時、指し直し局はスピーディーでいい。羽生九段も長くは待たせず、△7八金!!(第5図) 虎の子の金を僻地に打ったのだ。

私は訳が分からなかったが、ようやく狙いが読めてきた。これはもちろん▲8八銀取りだが、その実は▲8九桂を狙っている。桂が入れば△3六桂だ。
いやしかし、ここまで読んで△7六銀は相当に指せない。ただひとつ分かったことは、私たち凡人と羽生九段とは、思考回路、というかスペックがまったく違う、ということだった。
佐々木五段は▲2七角と攻防に打ったが、△6三歩▲5七金に、やはり△8九金。これで▲8八の銀は何かの駒と交換できることになり、後手も十分戦えることになった。
以下も熱戦は進み、羽生九段が秒に追われ、△3二の金を4二に寄った(第6図)。

そして私はここまでだった。7年前の環境ならいざ知らず、私は翌日に備えて風呂に入り、就寝しなければならない。断腸の思いで、風呂場に向かった。
だが後で思ったのだが、風呂場にスマホを持って行く手はあった。
私が中学生の時、プロ野球のナイターが長引き、風呂場に携帯ラジオを持ち込んだことがある。あの時の閃きが、今回はなかった。私は歳を取ってしまったのだ。
そしてこの将棋、やはり羽生九段が勝った。若手俊英に体力勝ちする恐ろしさ。タイトル100期を早く見たいものだ。
コメント
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