1996年、羽生善治九段が七冠王を達成し、谷川浩司九段は無冠に落とされた。
この後谷川九段は専門誌に、「敗れたのは残念だが、挑戦者を決める公式戦がすぐに用意されていることは幸せである」という意味のことを述べた。
先月女流王位を失冠した渡部愛女流三段も然りで、渡部女流三段にも、タイトル奪還のチャンスは次から次へとやってくる。9日は女流王座戦の本戦トーナメント1回戦があり、相手は香川愛生女流三段だった。
香川女流三段は2013年の女流二段時代、里見香奈女流四冠から女流王将を奪取した。渡部女流三段と同様、若手時代に里見女流五冠に勝った数少ない女流棋士である。
本局の2人は今年4月の女流名人戦リーグ開幕局で顔を合わせ、これは香川女流三段が勝っている。両者は2ヶ月違いの同い年でもあり、負けたくない相手の筆頭格であったろう。
将棋は先番香川女流三段の中飛車に、渡部女流三段は居飛車穴熊の作戦を採った。
穴熊は駒が偏るから意外に指し方が難しい。私は渡部女流三段の穴熊は性に合っていないと思うのだが、渡部女流三段は「固さより遠さ」を優先し、採用しているのであろう。
将棋は相穴熊から急戦調になり、渡部女流三段が香川女流三段の攻めを躱し、一瞬の隙を衝いて桂得を果たした。
だが香川女流三段も巧妙に反撃し、私の実力では優劣がまったく分からない状態となった。
第1図は、香川女流三段がじっと▲4六銀と据えたところ。これがいかにもプロ的な手で、私たちレベルでは絶対に指せない手だ。こんなところにも、女流棋士のレベルの高さが表れていると思う。
第1図以下の指し手。△6四角▲2六飛△3六歩▲5五歩△3二銀打▲6三竜(第2図)
渡部女流三段は好点に△6四角。香川女流三段は▲2六飛と辛抱したが、そこで△3六歩。以前も書いたが、渡部女流三段は歩の使い方がとてもうまい。昔は丸田祐三九段が歩使いのうまさで「小太刀の名手」と謳われたものだが、渡部女流三段もそれに勝るとも劣らない。だから強くなりたければ、渡部女流三段の記譜を並べるのがいいと思う。
▲5五歩に△3二銀打がまた渋い。第1図の▲4六銀と同じニオイがして、将棋はこういう辛抱の手がいいのだと教えられる。
だが▲6三竜とされて、後手は角の措置が難しい。これがあるなら、△6四角では△7三角だったかと思うのだが、渡部女流三段はすでに、寄せの構図を描いていた。
第2図以下の指し手。△5五角▲同銀△3七銀(途中図)
▲3七同桂△同歩成▲同玉△4五桂▲4七玉△5五金(第3図)
△5五角と飛び出たのがすごい。香川女流三段は当然▲同銀とするが、そこで取れる銀を取らず△3七銀(途中図)と打ち込んだのが、渡部女流三段の面目躍如の手だった。
以下△4五桂▲4七玉までと決めて、ゆうゆう△5五金。これで渡部女流三段の勝勢である。
上で「渡部女流三段の記譜を並べるべし」と書いたが、それは寄せの鋭さも勉強できるからである。
第3図以下は渡部女流三段が手堅くまとめ、2回戦進出を果たした。敗れた香川女流三段は残念だったが、香川女流三段もまた、次々に対局がやってくる。それらに全力を傾ければよい。
さて、渡部女流三段は挑戦権獲得まで、あと3勝である。まだまだ遠い気もするし、近い気もする。いずれにしても、里見女流五冠にタイトル戦で勝った自信は大きなものがあろう。今後も自分の持てる力をすべて出せば大丈夫。必ず女流王座戦の挑戦者になれる。
この後谷川九段は専門誌に、「敗れたのは残念だが、挑戦者を決める公式戦がすぐに用意されていることは幸せである」という意味のことを述べた。
先月女流王位を失冠した渡部愛女流三段も然りで、渡部女流三段にも、タイトル奪還のチャンスは次から次へとやってくる。9日は女流王座戦の本戦トーナメント1回戦があり、相手は香川愛生女流三段だった。
香川女流三段は2013年の女流二段時代、里見香奈女流四冠から女流王将を奪取した。渡部女流三段と同様、若手時代に里見女流五冠に勝った数少ない女流棋士である。
本局の2人は今年4月の女流名人戦リーグ開幕局で顔を合わせ、これは香川女流三段が勝っている。両者は2ヶ月違いの同い年でもあり、負けたくない相手の筆頭格であったろう。
将棋は先番香川女流三段の中飛車に、渡部女流三段は居飛車穴熊の作戦を採った。
穴熊は駒が偏るから意外に指し方が難しい。私は渡部女流三段の穴熊は性に合っていないと思うのだが、渡部女流三段は「固さより遠さ」を優先し、採用しているのであろう。
将棋は相穴熊から急戦調になり、渡部女流三段が香川女流三段の攻めを躱し、一瞬の隙を衝いて桂得を果たした。
だが香川女流三段も巧妙に反撃し、私の実力では優劣がまったく分からない状態となった。
第1図は、香川女流三段がじっと▲4六銀と据えたところ。これがいかにもプロ的な手で、私たちレベルでは絶対に指せない手だ。こんなところにも、女流棋士のレベルの高さが表れていると思う。
第1図以下の指し手。△6四角▲2六飛△3六歩▲5五歩△3二銀打▲6三竜(第2図)
渡部女流三段は好点に△6四角。香川女流三段は▲2六飛と辛抱したが、そこで△3六歩。以前も書いたが、渡部女流三段は歩の使い方がとてもうまい。昔は丸田祐三九段が歩使いのうまさで「小太刀の名手」と謳われたものだが、渡部女流三段もそれに勝るとも劣らない。だから強くなりたければ、渡部女流三段の記譜を並べるのがいいと思う。
▲5五歩に△3二銀打がまた渋い。第1図の▲4六銀と同じニオイがして、将棋はこういう辛抱の手がいいのだと教えられる。
だが▲6三竜とされて、後手は角の措置が難しい。これがあるなら、△6四角では△7三角だったかと思うのだが、渡部女流三段はすでに、寄せの構図を描いていた。
第2図以下の指し手。△5五角▲同銀△3七銀(途中図)
▲3七同桂△同歩成▲同玉△4五桂▲4七玉△5五金(第3図)
△5五角と飛び出たのがすごい。香川女流三段は当然▲同銀とするが、そこで取れる銀を取らず△3七銀(途中図)と打ち込んだのが、渡部女流三段の面目躍如の手だった。
以下△4五桂▲4七玉までと決めて、ゆうゆう△5五金。これで渡部女流三段の勝勢である。
上で「渡部女流三段の記譜を並べるべし」と書いたが、それは寄せの鋭さも勉強できるからである。
第3図以下は渡部女流三段が手堅くまとめ、2回戦進出を果たした。敗れた香川女流三段は残念だったが、香川女流三段もまた、次々に対局がやってくる。それらに全力を傾ければよい。
さて、渡部女流三段は挑戦権獲得まで、あと3勝である。まだまだ遠い気もするし、近い気もする。いずれにしても、里見女流五冠にタイトル戦で勝った自信は大きなものがあろう。今後も自分の持てる力をすべて出せば大丈夫。必ず女流王座戦の挑戦者になれる。