一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

中井女流六段の奮闘及ばず(第28期倉敷藤花戦第1局)

2020-11-11 00:10:42 | 女流棋戦
5日(木)は関西将棋会館にて、第28期倉敷藤花戦第1局が行われた。里見香奈倉敷藤花に挑戦するのは、51歳の中井広恵女流六段である。中井女流六段はタイトル19期の強豪だが、タイトル戦登場は13年振り。倉敷藤花戦では16年振りで、まさに復活のレジェンドだった。
とはいえ今回の相手は、今をときめく女流四冠。中井女流六段のタイトル獲得期待値は低く思える。だが中井女流六段の本格的な将棋は、相手が強ければ強いほど本領を発揮するのだ。
それを裏付けるように、両者の対戦成績は6勝6敗である。面白いのは、中井女流六段の5勝が、いまはなき女流最強戦で挙げたもの。同棋戦はネット将棋。中井女流六段は相手の顔を見ないで指すといいのか、同棋戦の第2回から第4回まで3連覇している。この成績が光って、竜王戦にも出場したのだ。
ともあれ中井女流六段に里見倉敷藤花への苦手意識はなく、いい勝負が期待された。
将棋は里見倉敷藤花の先手中飛車に、中井女流六段の左美濃となった。中井女流六段の手厚い棋風は、左美濃と相性がいいと思う。
7筋で飛車交換になり、中井女流六段は▲3七の桂にめがけて△3五歩。この▲3七桂は本当に一長一短で、つねに3六のキズに気を遣わねばならない。
中井女流六段は△3五歩と位を張り、△5二銀と引き締める。ここは中井女流六段が十分に見えた。
数手進んで△6五桂(第1図)が中継ブログにアップされた。
後手の大まかな狙いは、△7七歩▲同桂△同桂成から△3六桂で、これが入れば後手が優勢に見える。
ところが実戦は意外な進行になった。

第1図以下の指し手。▲5八金△7七歩▲3九歩△5一角▲9六歩△3三桂▲7七桂△同桂成▲同飛成(第2図)

里見倉敷藤花は▲5八金と上がる。自ら美濃を崩す、指しにくい手だ。中井女流六段は予定通り△7七歩だが、そこで▲3九歩がすごかった。△7八歩成なら▲同飛成で、△6九飛を生け捕りにできる寸法だ。先の▲5八金も▲3九歩も、このとき後手の飛車が何か駒を取るのを防いでいたのだ。何という読みだろう!
中井女流六段の△5一角は、△9五角と同時に左桂の活用を見たものだが、里見倉敷藤花は▲9六歩と落ち着いたもの。
△3三桂に、やっと▲7七桂と歩を払う。△同桂成に▲同飛成と引き揚げ、これは里見倉敷藤花の受け切りの方針が見えてきた。里見倉敷藤花がこんな将棋も指すのかと、私は唸るしかなかった。

第2図以下の指し手。△3六桂▲2九玉△3四金▲8八金△1五歩▲7八竜(第3図)

中井女流六段は待望の△3六桂だが、里見倉敷藤花は▲2九玉と引いて耐える。この手が指せるのも、▲3九歩の先受けの効果だ。
中井女流六段は△3四金と戦力を増強するが、ここで里見倉敷藤花の▲8八金が、またハッとさせる好手だった。次の狙いは言うまでもなく▲7八竜で、やはり飛車の生け捕りである。中井女流六段はそれが分かっていても防げず、愕然としただろう。中井女流六段も△6九飛と狭いところに打った以上、何かの駒と刺し違える覚悟だったと思うが、里見倉敷藤花はそれさえ許さなかった。将棋はここで終わった。

その後は里見倉敷藤花が飛車を取り切り、中井女流六段も反撃したが、最後は里見倉敷藤花が、後手玉を即詰みに討ち取った。
以上、第1局は里見倉敷藤花の快勝となったが、外野としては勝敗が逆でないと面白くない。それどころか本局は「ニュー香奈」まで出現し、こんな受け潰しの指し方まで見せられたら、中井女流六段も、どう対策を立てていいか分からなくなるだろう。
21日・22日の第2局と第3局は、恒例の倉敷対局である。もう中井女流六段は、無心で戦うしかない。
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