一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第33期竜王戦第3局

2020-11-10 00:19:53 | 男性棋戦
7日(土)と8日(日)は第33期竜王戦第3局だった。ここまで1勝1敗で、番勝負としてはいい展開である。土曜日と日曜日のタイトル戦はありがたく、堂々とネット観戦できる。まあ四六時中観戦するわけではないが、好きなときに観られる環境はありがたい。
土曜日の午前中にABEMAを見ると、先番羽生善治九段が相掛かりを採用していた。羽生九段の居飛車には横歩取りか角換わりのイメージがあるので、この選択はやや珍しく思われた。
夕方にチラッと見ると、羽生九段が▲7七桂と跳ねていた。角道を桂で止めるのは部分的には疑問で、角を活用するには▲9七へ出ることになる。だが▲7六歩型なので、▲9七角には△9五歩がある。実戦も豊島将之竜王が△9五歩と突き、ここで羽生九段が封じ手とした。
封じ手は▲9五同歩だった。これもこう指すところで、△9五同香なら▲6四角と銀を取り、△同歩に▲9五香の二枚換えで先手十分。よって豊島竜王は△4四角と指し、羽生九段は数手後▲8六角と安定させた。
2日目の解説は藤井猛九段と八代弥七段。藤井九段はABEMA解説のレギュラーだ。なぜ起用回数が多いかといえば、話が面白く、ためになるからである。本局も▲8六角と△4四角の違いを、「最近は△4四角の形がより以上に評価されています。▲8六角の形はやや不安定ですが、△4四角のほうは下に△4三銀があり、これで△3三桂と跳ねるとさらに安定します」と明快に述べる。藤井九段の解説を拝聴するだけで、香一本強くなれる気分である。
聞き手は山根ことみ女流二段だが、もうひとりの、ポニーテールの女性は誰だろう。黒川智花にも似た彼女は、武富礼衣女流初段だった。将棋連盟提供の画像とはイメージが違って、乃木坂46にいそうな、アイドルチックな女性だ。私は彼女を「ファンランキングトップ10」に入れていたが、我ながらいいところを見ている。
盤面。羽生九段の角は▲9七~▲7九に退去したうえ、▲9八歩と凹まされた。しかし藤井解説だと、玉が5八なので、この屈服はそれほど気にならないという。こうした考え方が参考になる。
羽生九段は数手後、3歩を使って端の香を取った。だがこれで先手は歩切れ。「歩切れは喉の渇き」なので、これは羽生九段が苦労しそうな気がした。
2日目も午後3時過ぎになり、私は大野教室に行くのをやめ、中継をそのまま見る。ただ、10月20日に放送された「さんま御殿3時間スペシャル」も見始めてしまったので、ABEMAは無音とした。つまり藤井九段の解説を拝聴するより、トーク番組を聴く方を優先したのだ。ここが私のダメなところである。
将棋は羽生九段がまだ苦戦だ。片美濃囲いになっているが、玉頭の△2六歩がいやらしい。
藤井九段「美濃囲いにおいて、歩による攻めは受けがありません」
ああ、そうなんだろうな、と思う。
局面は進み、第1図▲2七同玉まで。

ここから豊島竜王は△6五銀! 私なら間違いなく△7五銀と飛車を助けるが、豊島竜王は△3五桂に期待したのだ。まさに終盤は駒の損得より速度だ。
しかし△7五銀▲同歩△3五桂▲3八玉△6六銀▲2一飛△3一歩▲6六歩△2七銀▲4八玉△3六銀不成▲同歩(第2図)と進んでみると、先手の馬が自陣まで通り、ずいぶん先手に楽しみが生じたように見える。このときはもう、藤井九段の解説を拝聴していたが、やはり羽生九段持ちにしたようである。AIの評価もそうなった。ただ実戦的には後手陣も盤石で、アマ同士で指せば、後手に勝機が多いように思われた。

そこから先がまた訳の分からない応酬になり、私は盤面を追うので精一杯である。ただこのあたり、両者はほとんど持ち時間がなかった。いつも思うのだが、どうして棋士は序中盤で湯水のごとく持ち時間を使ってしまうのだろう。ここで数十分でも時間を残していれば、もう少し精度の高い手を指せるのに。
AI的には羽生九段が70~80%を推移し勝勢だったのだが、実戦的には難しい。豊島竜王も厳しく迫り、羽生九段が微妙に次善手を重ね、徐々に優位を削っていく。もっともこのあたりの変化は膨大で、ここを検討すると強くなるんだと思う。

そしてハイライトが163手目。羽生九段は▲5三銀(第3図)と打ったが、八代七段は「グフッ」と懐疑的な表情を見せた。先手玉はいかにも危なく、そこに1枚渡せば、詰んでもおかしくない。AI評価も急変し、羽生九段のそれが1ケタになってしまった。げに恐ろしき終盤戦である。
実戦は△5三同歩▲同歩成△8七銀▲同玉に、△5七竜があった。ここでも1枚入るのだ。以下▲5七同香△7六金▲7八玉△6七銀まで、羽生九段が投了した。

もう少し熱戦が続きそうだったので、半ば頓死みたいな終局に、私は気持ちがついていかなかった。
戻って▲5三銀では、▲9四角がAIの読みだった。しかし、ここまでは右辺からの攻めだったのに、一転左翼からの▲9四角は、到底読めない。
とはいえ▲5三銀はいかにも危険だ。羽生九段、その辺の危険信号を察知できなかったのだろうか。
最近の羽生九段は、最終盤でポッキリ折れる負け方が多いように思える。これは私たちがAIで正着を知っているからそう思うのか、それとも本当に羽生九段が衰えてきているのか、どうなのだろう。
ちなみに▲5三銀△同○と1枚渡してからの頓死は、1983年12月8日・9日に指された第22期十段戦第5局・▲桐山清澄八段VS△中原誠十段の一戦が浮かぶ。
桐山八段優勢の局面で迎えた終盤、桐山八段は▲5三銀(参考A図)と打った。これが大ポカで、△5三同金▲同歩成に△6六銀(参考B図)で、桐山八段投了。


投了以下▲6六同角は、△6七金▲同金△7九竜▲7八金△8八銀まで。また△6六銀に▲8八玉も、△7八竜▲同玉△6七金▲8八玉△7九銀▲同玉△7八金打までだ。
参考A図の▲5三銀では、平凡に▲4七飛と成銀を払っておき、先手十分だった。
この敗戦は痛く、これで2勝3敗となった桐山八段はつづく第6局も敗れ、タイトル獲得はならなかった。
ちなみに、桐山現九段は豊島竜王の師匠である。

豊島竜王はまたも居玉での勝利となった。シリーズ2局の居玉勝利は初であろう。
第4局はすぐで、12日、13日に福島市で行われる。豊島―羽生戦はこれで後手番が10連勝らしいが、先手有利に変わりはない。次局は後手番の羽生九段、正念場だ。
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