M初段の快進撃

大野八一雄七段門下の奨励会員は現在３名である。うち２名は三段リーグに所属しており、これはもう、ただただ勝っていただくよりない。
あと１名はM初段で、かなり前に初段に昇ったが、そこから文字通り勝ったり負けたりだ。奨励会の有段者は１日２局だが、何度「○●」「●○」の並びを見たか分からない。
そのうちM初段は降級点（２勝８敗）を取ってしまった。そしてそれを消せないまま、また２勝７敗になってしまった。次を負けると１級に降級である。当時M初段は22歳。奨励会は21歳までに初段になれなければ退会になるが、21歳以上で１級に降級した場合は、半年間の猶予が与えられ、それ以内に再昇段しなければアウトだ。以前加藤桃子１級がこのケースになったが、見事初段に復帰した。加藤現女流三段は女流タイトル８期の華々しい棋歴であるが、私はこの「初段復帰」を最も評価している。
話が逸れたが、22歳で１級に落ちれば、退会してもおかしくない。次の一局は、M初段の人生を左右する一局になった。
そしてそれにM初段は勝った。のみならず次の将棋も勝ち、降級点を消去。これは大きかった。
さらにM初段は連勝を重ねた。そのたびに私は、あの２連勝が……と残念に思った。頭の２連勝を降級点消去に使ってしまったからで、これがなければ、より二段昇段に近づけたのだ。
だがM初段は私の予想の上をいった。M初段はさらに連勝を重ね、降級点消去から８連勝で、二段に昇段したのだ。突然のこの爆発、M二段に何があったのだろう。
まあ人間、ちょっとしたキッカケで潮目が変わるものである。M二段はもともと実力があったから、それを如何なく発揮したということだ。
昨年12月11日に大野教室に行った際、私は大野七段にM二段の雰囲気を聞いてみた。するとM二段は昇段当日、大野教室に顔を見せたらしい。いつもは電話のやりとりだが、直々に報告に来たわけだ。そしてM二段は案の定、堂々としていたという。そりゃそうだわなと、私は笑ってしまった。
さて23歳のM二段は現在、いい所取り６勝３敗である。直近ではまた「●○」が続いているが、二段は三段とは指さぬから、いずれ三段になれるだろう。三段リーグは年齢に関わらず５期指せるから年齢的に余裕はあるが、一刻も早く昇るに越したことはない。差しあたっては、３月までに昇段を決めちゃいたいところだ。
もしM二段が四段になったら、ターニングポイントになった一局は、先の降級を免れた一戦になると思う。M二段はその四段昇段の記が書けるよう、頑張ってくれ。じゃないと、M１級のときの指導対局（香落ち）で、私が勝ったことの自慢ができない。