あれは数年前、旅先でのネットカフェでのこと。マンガ「あぶさん」を読んでいたら、妙なことに気が付いた。球場のスコアボードが映っているコマで、両軍のスターティングメンバーに、外国人選手の名前がなかったのだ。現代のプロ野球では助っ人選手の協力は不可欠。日本人だけのメンバーはいかにも不自然だった。
あとで分かったことだが、水島新司はあぶさんで外国人選手を主役にした回を描いた際、それが肖像権侵害にあたるとかで、当該選手から莫大な慰謝料を請求されたらしい。外国はこういうことがうるさそうである。
たしかこの回は私も読んだ気がするが―あるいは私が勝手にイメージしただけかもしれないが―、あぶさんが該当選手の悩みを聞いてやる話だった気がする。
もとより水島新司は、日本人選手がこぞってメジャーリーグに行くのを苦々しく思っていた。これを機に、自身のマンガから外国人選手を一掃したのであろう。
これがいつごろの話だったか分からないが、少なくとも2000年よりは前であろう。
だがコトはそれだけに留まらなかった(あるいは、この話のほうが先だったかもしれない)。今度は日本プロ野球機構が、マンガでの肖像権を主張したのだ。要するに、マンガの中に実在のプロ野球選手を登場させるのなら、カネを払えということである。
これもずいぶんな話である。パ・リーグがまだ不人気だった1970年代、マンガという媒体で各選手を紹介し、全国区に押し上げたのは水島新司の功績である(ちなみに大人は「あぶさん」、子供は「プロ野球カード」でパ・リーグの選手を勉強した)。よって選手間では、あぶさんに載ることが一流選手の証明になっていた。本来ならプロ野球機構は、水島新司に頭が上がらないはずなのだ。
しかし小学館は面食らっただろう。連載打ち切りもあり得たが、あぶさんはビッグコミックオリジナルの看板作品であり、編集部も水島新司に「いつまでもあぶさんを続けてほしい」と言っていた。よって小学館はあぶさんを継続させることとし、猶予期間が明けたのち、肖像使用料を払ったのであった。
しかし住みにくい世の中になったものだ。かつて石ノ森章太郎はマンガを「萬画」と表記し、あらゆる事象を表現できるのが萬画です、と宣言した。だがこの件のせいで、プロ野球のような庶民的な題材が、マンガ化不可、になってしまったのだ。
昨今は電子コミックや書籍が大当たりで、毎年紙の書籍を侵食している。だが水島新司のマンガだけは、電子化されていない。これも、肖像権の問題があるのかもしれない。こんなことではもう、今後プロ野球マンガは現れない。
いや、コトはそれだけではなくなるかもしれない。たとえば私たちがプロ野球選手の似顔絵を描いて、ネットに上げたとする。それさえも肖像権料を請求してくるかもしれない。
だけど似顔絵には巧拙がある。上手い人が請求され、下手な人が請求されない、では不公平だから、似顔絵アップは一律禁止になるかもしれない。
これはオーバーではない。昨今は政府が、コスプレをやるにも著作権云々とか言い出している。コスプレを自由に発信できない時代が来るかもしれないのだ。
まあいいか。プロ野球もコスプレも、それらが原因で人気が尻すぼみになるのなら、それも運命である。
あとで分かったことだが、水島新司はあぶさんで外国人選手を主役にした回を描いた際、それが肖像権侵害にあたるとかで、当該選手から莫大な慰謝料を請求されたらしい。外国はこういうことがうるさそうである。
たしかこの回は私も読んだ気がするが―あるいは私が勝手にイメージしただけかもしれないが―、あぶさんが該当選手の悩みを聞いてやる話だった気がする。
もとより水島新司は、日本人選手がこぞってメジャーリーグに行くのを苦々しく思っていた。これを機に、自身のマンガから外国人選手を一掃したのであろう。
これがいつごろの話だったか分からないが、少なくとも2000年よりは前であろう。
だがコトはそれだけに留まらなかった(あるいは、この話のほうが先だったかもしれない)。今度は日本プロ野球機構が、マンガでの肖像権を主張したのだ。要するに、マンガの中に実在のプロ野球選手を登場させるのなら、カネを払えということである。
これもずいぶんな話である。パ・リーグがまだ不人気だった1970年代、マンガという媒体で各選手を紹介し、全国区に押し上げたのは水島新司の功績である(ちなみに大人は「あぶさん」、子供は「プロ野球カード」でパ・リーグの選手を勉強した)。よって選手間では、あぶさんに載ることが一流選手の証明になっていた。本来ならプロ野球機構は、水島新司に頭が上がらないはずなのだ。
しかし小学館は面食らっただろう。連載打ち切りもあり得たが、あぶさんはビッグコミックオリジナルの看板作品であり、編集部も水島新司に「いつまでもあぶさんを続けてほしい」と言っていた。よって小学館はあぶさんを継続させることとし、猶予期間が明けたのち、肖像使用料を払ったのであった。
しかし住みにくい世の中になったものだ。かつて石ノ森章太郎はマンガを「萬画」と表記し、あらゆる事象を表現できるのが萬画です、と宣言した。だがこの件のせいで、プロ野球のような庶民的な題材が、マンガ化不可、になってしまったのだ。
昨今は電子コミックや書籍が大当たりで、毎年紙の書籍を侵食している。だが水島新司のマンガだけは、電子化されていない。これも、肖像権の問題があるのかもしれない。こんなことではもう、今後プロ野球マンガは現れない。
いや、コトはそれだけではなくなるかもしれない。たとえば私たちがプロ野球選手の似顔絵を描いて、ネットに上げたとする。それさえも肖像権料を請求してくるかもしれない。
だけど似顔絵には巧拙がある。上手い人が請求され、下手な人が請求されない、では不公平だから、似顔絵アップは一律禁止になるかもしれない。
これはオーバーではない。昨今は政府が、コスプレをやるにも著作権云々とか言い出している。コスプレを自由に発信できない時代が来るかもしれないのだ。
まあいいか。プロ野球もコスプレも、それらが原因で人気が尻すぼみになるのなら、それも運命である。