一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

2020年・長崎旅行3

2021-01-21 00:40:04 | 旅行記・九州編
……チッ、ここだ。この場面を私は予期していた。だから私はあれほど千円札が欲しかったのに、結局用意できなかった。
「さっき出そうとした人……」
とマスターが促す。私が天を仰いでいると、同じ列の女性が、財布から千円札を取り出した。これは私が出すべきものだったのだ。
「あっ、私も出します!」
とカウンターの女性が言う。しかし先着1名で、もう遅かった。あんでるせんに臨むとき、おカネはすぐ出せるところに置いておいたほうがいい。
マスターは小袋の中にその千円札と生卵を入れる。すると千円札はなくなってしまった。
マスターが卵を割る。そこには千円札が入っており、ナンバーを照会すると、それはさっきの千円札と同じものだった……。
実は昨年のこのマジックの時、私が千円札を出したのだ。そして帰りは別の千円札に、マスターがサインをしてくれたものだ。まあ、多くの人にマスターのサインが渡ったほうがいいから、今回私は壱万円札を崩さないで正解だったのだろう。
店内には多くのポラロイド写真やチェキ写真が貼られている。そのほとんどが著名人や芸能人だ。
「○○○、さんは8回来ましたね。『フッフッフッ、すごいねー』とか言ってね。
○○○の会長さんは自家用ジェット機で来ました。観○○○○さんは結婚の悩みを聞いて来ましたね。結婚できますと言ったら、彼女はその翌年結婚しました」
芸能人も忙しいが、マジックに興味があれば、寸暇を割いて現地まで来るのだ。
ちなみに私は4回ほど、「あなたは結婚する運命にある」と言われたが、どうもマスターの気休めだったようだ。
ここらあたりでマスターが大カップを出す。そこには割り箸が入っていて、その先端には数字が記されていた。いわゆる私たちの整理番号である。カウンターの右端から順番に振られていき、3番の女性が抽選係となる。これに当たった人がマジックに参加できるのだ。カウンターの3番席はマスターの真ん前であり、ここが正真正銘の特等席となる。そして私は1999年の初入場が、3番だった。さらにその回は私を含めて客が3人という、最初で最後の奇跡だった。
続いては「恋人当て」である。男女9人の芸能人のカードが出され、女性が当たれば好みの男性芸能人を、男性が当たれば好みの女性芸能人をマスターが当てるのだ。ただここ数年は圧倒的に女性が当たっており、というか最近では、ハナから女性陣だけを指名している。
今年は男性芸能人のカードが一新された。ちなみに旧カードも紹介され、EXILE・TAKAHIROや福山雅治などがあった。新カードは菅田将暉、佐藤健、坂口健太郎など、旬の俳優や歌手ばかりだ。
今回の恋人当ては既婚女性が当たったが、彼女が選ぶ「男性芸能人ベスト5」を、マスターは完璧に当てた。
マスターがスマホを取り出し、その上に500円玉を置き、ポン、とやる。何と、500円玉はスマホの中に入ってしまった。
再びポン、とやると、500円玉がスマホから出てきた。
お次はポータブル音楽プレイヤーが出てきた。例の「ウルトラセブン」と「AKB48」のマジックである。マスターは違う曲がいろいろあるというが、私はこれと「冬のソナタ」しか聴いたことがない。ほかの曲も聴いてみたいものだ。
お次は少年が当たった。「君は誕生日がありますね?」。いつもの誕生日当てだ。と思いきや、マスターが手近の腕時計の竜頭を回すと、お母さんに彼の出産時間を聞いた。すると、それはマスターが先に示していた時刻と同じだった。
今度はマスターがスマホを計算機にする。マスターが紙の切れ端に何かを書いた。マスターは私の列の右側の女性(さっきの母親)に渡すと、息子の誕生日を入力するよう促した。
それを左の女性に渡す。女性は任意の2ケタの数字を入力する。また左の女性が同じ作業をする。その左の男性も……。それは私の右側の男性まで来た。数字板のところは隠れていない。それは相当なケタになった。そこまで来て、マスターがさっきの紙片を拡げる。
うーーーーわ!!
これは本当に驚いた。これは、私が昨年の旅行記で記した「誕生日当て」の疑問に対する答えだ。すなわち今年は、計算機の数字板があらかじめ見えていた。今年のマジックは明らかに進化している。マスターは21年前と外見はまったく変わってないし、私はもう訳が分からない。人間、いくつになっても成長できるのだと思った。
「世の中には宿命という言葉があります。今日はこの時のために来てくれた人がいましたよ」
女性が当たり、任意の絵を描く。そのあとマスターが、厳重に縛られた財布から紙片を取り出す。
「顔は丸いですね。ヒゲがありますか?」
女性は神妙に頷く。これはもう、100%読まれている。彼女の絵を開くと、「ドラえもん」だった。そしてマスターも、もちろん「ドラえもん」だった。
みなはびっくり、私は、うむうむと頷いた。さらにマスターが女性に氏名を聞く。「高橋○○○です」。だがマスターの記述は「石橋○○○」だった。
「あれ、間違えたな。高の口のところが浮かんできたんで、石に見えたんだな……」
マスター、間違えたとはいえ、こちらのほうがむしろ生々しい。私たちは再びどよめいたのである。
マスターが任意のカードの隅をちぎり、大きなほうをカードの束に戻す。それをマスターが額縁に掲げると、さっきちぎられたカードが、額縁の中にじんわりと現れた。
これと同じマジックは過去に何回も見ているが、そのとき額縁のカードは、一気に現れた。今回のような「じんわり」は初めてで、私は心底驚いた。そしてもちろん、小さなほうの紙片は、額縁内のカードと切れ目が一致した。
お次はサイコロである。マスターが任意の人々にサイコロを渡し、それを紙コップの中に放ってもらう。その数字を知っているのは、もちろん本人のみである。しかしそれをマスターは当ててしまった。
今度はカップの中で動かすように言う。その数字もまた、すべて当たった。なんだか、天井すべてにカメラが仕込んであるみたいだ。
マスターが壁に掛けてあるハンバーガーの絵を指す。そこにはハンバーガーが6個ある。マスターが客のリクエストに応じてチーズバーガーに紙をかざすと、そこからチーズバーガーが出てきた。
マスターは美味そうに一口かじる。それを元に戻すと、チーズバーガーの絵も一口なくなっていた。
実は先ほどの額縁のマジックも、いまのハンバーガーも、テレビのセロのマジックなどで、見たことはある。ただ、それを間近で見ると驚きがまるで違う。テレビの大食い番組で、それを生で見たゲストが、心底驚くのと同じだ。将棋でいえば、盤側で名人戦を見るようなものだ。これはあんでるせん詣でをやめられない、と思った。
(つづく)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする