一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

10数年ぶりの発見

2010-02-23 00:44:08 | プライベート
今日は将棋と全然関係のないことを書きます。不快に感じる方もおられるはずですので、とくにLPSAの女流棋士は、読むのを控えられることをお勧めします。

21日(日)は夕方から、ゴミ屋敷と化している自室の整理をした。といっても、たまった雑誌を処分するだけである。
私は本に愛着を持ってしまうタイプで、読み終わった雑誌を捨てることができない。雑誌ですらそうだから書籍の類はそれ以上で、こちらはほとんど捨てたためしがない。しっかり製本されているし、捨てるのに忍びないのだ。
ごくごく一時期、古本屋へ売ったこともあったが、苦労して持っていったわりにはスズメの涙ほどのおカネにしかならず、バカバカしくなって売るのをやめた。
雑誌のほうは、固い本はほとんど読まない。マンガの充実度で選べば「ビッグコミック」「ビッグコミックオリジナル」「スーパージャンプ」。グラビアで選ぶならば、「週刊プレイボーイ」「週刊ヤングジャンプ」「週刊ヤングマガジン」が主流である。「ヤングチャンピオン」もいい。
もっともプレイボーイは気に入った記事は2つ3つしかないし、ヤンジャンやヤンマガも面白いマンガはほとんどないので、グラビアアイドル専用誌にせざるを得ないのだ。
冒頭で述べたように、雑誌を捨てるのにも躊躇するから、グラビアアイドルで気に入った子があると、切り抜いて保存する。いや逆だ。切り抜いて保存しておきたい子がグラビア(表紙)に登場したときに、その雑誌を買うのだ。
だから雑誌を処分するのに時間がかかる。中をパラパラ見始めると、オッ、このショットは…。うわっ、こんな格好をしてたんだ…などと唸って作業が滞り始め、たちまち時間が過ぎてゆく。
こうして1冊1冊丹念に仕分けしていくのだが、何冊かすぎると、かなりの頻度で出てくるグラビアアイドルがいるのに気がついた。
杉本有美である。
また彼女が表紙だ、またそうだ、といくらでも出てくる。彼女はキュートだが色気もあり、かつダイナマイトバディである。表紙だけを見てつい買ってしまうこともよくあったが、しかしこんなに数が上っているとは思わなかった。
次に多かったのが磯山さやかと思う。彼女は「水戸黄門」にレギュラー出演を果たしながら、その後もグラビアアイドルを卒業することなく、最近ではセクシー写真集も出した。そのグラドル魂には敬意を表する。
山本梓もけっこうな数があった。しかし山本梓は、お下劣な記事の多い、写真月刊誌のグラビアを飾るものが多かった。彼女はそれほど胸は大きくないが、底抜けに明るい笑顔が魅力だ。
新人で頻度が高いのは、日本テレビ系「ぐるナイ!」の「ゴチになります!11」で、今年からレギュラーメンバーとなった佐々木希だった。彼女は生粋の日本人だと思うが、フランス人とのハーフと見紛うような気高さ、美しさがある。いまはまだビキニで登場しているが、彼女の場合、売れ出すとグラビアから引退しそうな雰囲気がある。いや正確に言うと、水着のグラビアを封印しそうな気がする。
彼女の水着を拝むなら、いまだろう。
さらに最近メキメキと頭角を現してきたのが、中島愛里である。文字どおりの愛くるしい笑顔と日本人好みのスタイルは、グラビアアイドルの条件を十分に満たしている。
しかし彼女の本当の魅力は、見る角度や表情によって、ほかのグラビアアイドルを想起させることにある。目をトロンとさせて唇をちょっととがらせると、乙葉そっくりになる。にっこり笑えば杉本有美に見える。うつむき加減でキッと睨むと、元C.C.ガールズの藤森夕子に見える。
まさに変幻自在で、彼女を撮るカメラマンは、さぞかし撮影のしがいがあるだろうと想像する。
とにかく彼女は、私が今年一番に押すグラビアアイドルである。ぜひ注目していただきたい。

実はここからが本題。
私は雑誌の仕分けとともに、旅先でもらったパンフレットやどうでもいいレシート、紙くず同然のダイレクトメールなども取っておいてしまうので、それらもゴミ袋にほうりこむ。
ところが今回はいつもと違った。白いビニール袋があったので、中を覗く。それは旅先でもらったと思われるパンフレットだった。しかしこれ、いままで見た記憶が全くないのだ。袋から取り出して、パラパラ見てみる。
すると、パンフレットの間から、システム手帳から切り取ったと思しき、1枚の紙片が出てきた。綺麗な文字で、「――郁子」としたためてある。こ、これは……!!
私はいまから22年前の秋に東北地方を旅行していたとき、秋田県角館でたまたま声を掛けた女性に、一目惚れをしてしまった。そのとき彼女の写真を撮らせていただいたので、写真を送りますと言ったところ、彼女がシステム手帳に住所と名前を書き、それを私にくれたのだ。
その紙片が、まさにこれだったのである。
それは最初、机の抽斗に入れた。しかし何年か経って探したらどうしても見つからず、なにかの拍子にゴミと一緒に捨てたものと思っていたのだ。
彼女はいまでも私の記憶に残っているひとで、この紙片は貴重な思い出の品だった。それを紛失してしまったのだから、当時の私の落胆といったらなかった。
ところがそれが10数年ぶりに、ひょんなことから私の目の前に出てきたのだ。当時もらったパンフレットの中に挟んだのを、忘れていたのだろう。
あらためてその字を眺めてみる。
郵便番号から書き始め、秋田県仙北郡角館町…と、綺麗な文字で記されてある。郁子の「子」のハネが大きい記憶があったが、やはりハネは大きい。懐かしい。
角館での記憶はいまも鮮明だ。しかし鮮明ゆえに、夢であってほしいと願うことさえあった。だがいまここに、彼女と会ったことを示す証が出てきてしまった。私は確かに、郁子さんと会った。そして話したのだ。
やはりあれは夢ではなかった。あれは本当に、私の身に起こった出来事だったのだ。
平成22年2月22日、午前3時すぎのことだった。私はその場で硬直し、動くことができなった。
コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

LPSA18名の営業トーク

2010-02-22 01:22:54 | 将棋雑考
きのうの「田舎に泊まろう!」(テレビ東京系)は、秋田県角館への民泊旅。角館には青春の甘酸っぱい思い出がある。ビデオに録ったので、後日ゆっくり観るとしよう。

14日(日)に、東京都大田区でLPSAファンクラブイベントが行われた。私は10日(水)から北海道旅行に出る予定だったので、当日の参加は微妙だったのだが、船戸陽子女流二段に
「冬の北海道はいつでも行けるけど、バレンタインデーのファンクラブイベントは、もうないんですよー」
と営業され、私は1日早い帰京と、イベントへの出席を決めたのだった。
さて、これがほかのLPSA女流棋士だったら、何と言って私を説得しただろうか。その営業トークを想像してみた。順不同で書いてみる。

中井広恵天河「ええー? 一公さん来ないのー!? それはないでしょう。だって一公さん、普段からブログで言いたいこと言ってるんだから。一公さんには絶対に来てもらわなくちゃ。ねえー」

石橋幸緒女流四段「えっ? 一公さん来ないの? あらー、それはねぇ…。陽子ちゃんがファンクラブ担当なのに、それはちょっとヤバイんじゃ…ヒュッヒュッヒュッヒュッ…」

中倉宏美女流二段「あっ、参加されないんですか。ああ、でも…せっかくの、機会だから…あっ、いえいえ…やっぱり陽子さんじゃないと…フフッ…あっ、そうじゃなくて…あっ、いえいえ、そうですよね…あっ、あっ…」

中倉彰子女流初段「一公さん、参加の申し込みはされましたよね。ありがとうございますー!!」

渡部愛ツアー女子プロ「一公さん、ファンクラブイベントに来てください!!」

島井咲緒里女流初段「あーっ、参加されないんですか。ふふっ。それは残念ですねぃー。でも女流棋士もいっぱい来るし、いらしていただけるとうれしいんでつけどー。ふふっ」

藤田麻衣子女流1級「ええー? 一公さん来ないのー!? 来てよー。来てよ来てよ来てよー。来てよー…」

鹿野圭生女流初段「あらっ! 来ないのー。何か用事あるの? でもちょっとそれはないんじゃないかナー。やっぱりみんな一生懸命準備してるわけだしー。とにかく来てみてよー」

神田真由美女流二段「あっ、お越しいただけないんですか。そうですか…。……。でも参加していただけると、うれしいです」

蛸島彰子女流五段「あらあ、それは…。でもねぇ、せっかくのファンクラブイベントですから。もしアレだったらねえ…ゼヒィ、お越しください」

山下カズ子女流五段「来てください」

多田佳子女流四段「こうして毎日健康で生きていられることを感謝しております。髪は40代のころに染めましたの、ええ」

寺下紀子女流四段「一公様のことは存じ上げないんですが、よろしければ、お越しください」

大庭美夏女流1級「あらあー、それはねぇ…。でもねー。一公さん来てくれるとうれしいなあ、なんて。うふふふふふ」

大庭美樹女流初段「あっ…。あー。……。……」

藤森奈津子女流三段「エッ!? 一公さん来ないの? みんな待ってるのにー。もし一公さんが参加しなかったら、恵梨子ちゃんがどう思うかしら。ねー。やっぱり一公さんがいなくちゃ。みんな待ってますよー」

松尾香織女流初段「もう、一公さんには一生負けないから!!」
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「第3期マイナビ女子オープン・挑戦者決定戦」レポート(後編)・女王への道

2010-02-21 14:04:35 | 観戦記
118手目、甲斐智美女流二段が、切り札の7一飛を指した局面。ここで斎田晴子女流四段は、3四とと銀を取る手を含みに残して、単に7一同成香と飛車を取った。
しかしこの手がどうだったか。銀を取りたいところをぐっとこらえて飛車を取るのは、いかにもプロ好みの手だ。しかしここは味消しでも、3四と、同玉、2六桂、4三玉、3四銀と形を決め、とにかく盤上に自分の駒を置いて、利きの数を増やしておくべきだった。
本譜は4七銀、6七玉に4五角が痛打。先手が3四銀を打っていれば、この手はなかったのだ。だから甲斐女流二段のほうも、7一飛と馬を手にしたところでは先に4七銀を決めておき、3六や5六に利かしておく手はあった。ただここが微妙なのだが、この2手を決めてから馬を取ると、今度は4五角がミエミエなので、先手も3四と~2六桂~3四銀を指したに違いない。それなら先手が有望になったはずだ。甲斐女流二段にすれば、4七銀を打たなかったことが、結果的に功を奏したともいえる。
ともあれこの数手のやりとりで均衡が大きく崩れ、一気に甲斐女流二段が勝勢となった。しかし斎田女流四段も3四と、同角と銀を取り、127手目、4四歩と王手に叩く。甲斐女流二段は5三玉と寄る。5時25分。
「これで終わりか」
と言ったのは誰だったか。
しかし斎田女流四段は、5一飛となおも王手。甲斐女流二段は冷たく5二金と打つ。後手は6八桂成と金を取りつつ王手で迫る手があるので、手駒はいらないのだ。
斎田女流四段、同飛不成と金を取る。ライブ画像は見られなくても、秒読みに追われて駒をひっくり返す時間がなかったのが分かる。中村真梨花女流二段が、
「4五角が打てるかどうかが勝負でした」
と、もう将棋が終わったようなことを言う。
斎田女流四段がカナ駒を捨て、後手玉をムリヤリ引っ張りだす。まだまだ勝負は諦めていない。しかしこの非常手段は駒損が大きい。甲斐女流二段は盤から離れて座っている。落ち着きを取り戻したように見える。
斎田女流四段は決めるだけ決めて、5六歩と桂を外す。
夕方から所用があるという勝又清和六段も、帰るに帰れなくなった。そして
「投げ切れないよねー」
と言う。序盤から堅実な指し手を続け、先ほどは一瞬の勝ち筋があったのだ。敗勢でも、秒読みでは気持ちの整理をつけるいとまがない。
上野裕和五段も、理事としての仕事が残っていそうだが、終局まで見届けたい雰囲気である。
「甲斐さん、有望です」
と中村女流二段。
「投げなければいろいろとありますから」
と中井広恵女流六段。続けて、「甲斐さんは手堅い印象があります。終盤のブレがない」
奨励会で修業をした女流棋士は、ほかの女流棋士と比べて、たしかに将棋の質が違うと思う。
時刻は5時41分。長い将棋になった。しかし内容は濃い。
中井女流六段「どんなに形勢が良くても、早く投了してくれ、と思います」
中村女流二段「二歩は指さないように」
対局室天井のライブ画像が映っている。147手目、4四金の王手に、6二玉と力強く引く。音声は聞こえないが、ビシッ、という駒音が聞こえたような気がした。
斎田女流四段、3四の角を取ってはソッポなので、7五桂と妖しく迫る。この手は詰めろではないようだが、実戦心理としてはイヤなものだ。しかし甲斐女流二段は、5五桂と、先手玉を詰ましにいった。
本局の「懸賞金スポンサー」は6口あったという話が出る。昨年は私も含め2口だったから、大幅増だ。スポンサーがあってこそ、プロ棋士という職業が成り立つ。
5時44分。上野五段が
「いま甲斐さんは何考えてるんでしょうかね。決意表明でのコメントとか」
と、緊迫した空気を弛緩させるような言葉をもらす。ドッと笑いが起こる。上野五段がイベントなどで大盤解説を行ったら、さぞ楽しいものになるだろう。
甲斐女流二段の王手が続く。むずかしいところはもうない。
「でも毎コミさんには素晴らしい棋戦を創っていただきました。これは皆さん、ぜひブログに書いてください」
と中井女流六段。
「帰るタイミングを逸しました。中井さんがいるので、帰れません」
と上野五段。
斎田女流四段は最後まで指し続ける。164手目、6七歩に5九玉。13手目に玉が動いてから152手目に、玉が還元した。
甲斐女流二段、7九飛。ここで斎田女流四段が投了を告げた。5時53分50秒だった。
その瞬間、研修室内に拍手が起こった。サービスで解説を行ってくださった勝又六段らへの御礼の気持ちもあるが、大激闘を見せてくれた両対局者への感謝の表れであった。
総手数、実に166手。1分将棋になってから60手以上は指しただろう。かつて大山康晴十五世名人は、「終了図で不動駒が5枚以下なら、名局と見ていい」と著書に書いたが、本局の不動駒はちょうど5枚。投了図をあらためて観ると、各筋に駒が散らばり、抽象絵画を思わせた。
挑戦者決定戦にふさわしい、素晴らしい将棋だった。

私たちは特別対局室へお邪魔する。対局後の光景を「取材」するためである。
甲斐女流二段は挑戦権を勝ち取り、緊張から解き放たれた雰囲気。時折り笑みをもらす。
斎田女流四段は昼休後の姿と変わっていなかった。しかし鼻がうっすらと赤くなっている。
取材陣やレポーターが、両対局者にカメラのフラッシュを浴びせる。最初はおふたりを撮っていたが、斎田女流四段の背後に回り、甲斐女流二段を正面から撮る。背中にフラッシュを浴びる、斎田女流四段の無念さはいかばかりか。
感想戦はよく聞き取れなかったが、斎田女流四段が、「5五歩がよくなかった」としきりにもらしていた。のちの5五桂の筋がなくなったからだろうか。しかし5五歩は昼休直前の1手である。終盤で3四と~3四銀を決めないのがマズかったのではと思ったがそこはそれ、序盤の構想を検証するのが、プロなのだ。
この感想戦を聴くだけでも勉強になるが、時間が押している。激闘を制した甲斐女流二段には、矢内理絵子女王を交えた決意表明が控えている。西村一義専務理事に促され、感想戦は一時中断となった。

再び2階研修室に戻ると、室内前方に華やかな花々が飾られた会見場が設えられ、厳粛な雰囲気に変わっていた。
ここでも私は先ほどの最前列の席に座ることになる。本当に取材記者になった気分だが、同時にプレッシャーも感じる。
ほどなくして、矢内女王、甲斐女流二段が登場した。おふたりとも黒系のスーツ。似たようないでたちだ。胸ポケットに紫陽花を挿している。よく見ると、その下に着用しているセーターも、ともにタートルネックである。矢内女王はパープル、甲斐女流二段はブルー。甲斐女流二段が着替えてきたのだ、と思ったが、よく考えたら昼と同じだ。単なる偶然なのだろうが、もしそうなら、両雄が5番勝負を相まみえることを暗示していたようで、興味深い。
おふたりが着席し、まずは主催社のインタビュー。甲斐女流二段に本局の感想を聞く。
「終盤のねじりあいが大変でした。1局の将棋でこれだけ力を出せたのは久しぶり。(昼休後レポーターが入室したことについては)集中していたので、ふだん通りに指せました。
矢内さんは奨励会の先輩なので、指せるのがうれしい」
と述べた。昼休直前に5五歩を指し、それを悔やんでいた斎田女流四段と、昼休後、レポーターが大勢いた中でも集中力を切らさず3三桂と指した手が、勝負の分かれ目だったということか。
矢内女王は、
「甲斐さんは奨励会の後輩ですが、第1期以上に大変な勝負になる。開幕を楽しみにしています」
と「女王」の肩書きにふさわしく、堂々と述べた。たしかに、負けたら終わりという厳しいトーナメント戦で、第1期に続いて5番勝負に登場した甲斐女流二段は、段位以上の実力を有しているといえる。「大変な勝負になる」は、矢内女王の本音だったと思う。
ここからレポーターの質問タイムに入る。私はとくに質問は用意してこなかったが、もし指名されたら、取らぬタヌキの皮算用でもないが、500万円の使い道でも聞こうと思っていた。
しかし数人の手が上がったようである。その質問と回答を、印象に残ったところだけ記してみる。
里見香奈女流名人・倉敷藤花の存在について。
矢内女王「里見さんの活躍で、将棋を知らない人が将棋界に目を向けてくれたので、もっともっと活躍してほしい」
甲斐女流二段「里見女流名人は目標です」
おふたりとも謙虚な回答だったが、それを額面どおりに受け取るほど、私は甘くない。矢内女王は里見女流名人の将棋普及を応援はしても、タイトル戦での活躍は阻止しなければいけないし、その自覚もあるはずである。また甲斐女流二段も、目標とするのは里見女流名人の将棋ではなく、「女流名人」というタイトルに違いない。
甲斐女流二段は、いま最もタイトル獲得に近い人だと思いますが…との質問も出る。これには矢内女王も苦笑するしかない。
甲斐女流二段「結果よりも内容重視で戦いたい」
ちょっとコメントが弱いが、当人を前にしては、強気な発言もできまい。内容が伴えば、自然と勝ちが転がり込んでくる、ということだろう。
矢内女王への質問。予選からの戦いを見てきた感想は。
「挑戦権を獲る、という気持ちが、甲斐さんがいちばん強かったのだと思う」
その通りだと思った。そして矢内女王の論理を借りれば、女王を保持する、という気持ちがいちばん強かったのも、矢内女王自身だったということだ。
最後の質問は、予選から全局を振り飛車で戦ってきた甲斐女流二段が大一番で居飛車にしたワケを訊くものだった。これは私も聞きたかったところである。これに甲斐女流二段は、
「研究が生きる形にしたかったので…」
と述べた。なるほど、と思う。斎田女流四段は先手でも後手でもゴキゲン中飛車でくる。それを見越し、居飛車での作戦を立てていたのだ。
レポーター質問も終わり、おふたり揃っての記念撮影となった。
間断なくたかれるフラッシュの中でおふたりは握手をし、ほほ笑む。しかし胸の内では、闘志がメラメラと燃え上がっていたに違いない。
今期も数々の話題を呼んだマイナビ女子オープン。注目の5番勝負は、3月28日(日)、熊本市で火蓋が切られる。
最後に、このような機会を与えていただいた毎日コミュニケーションズ様に厚く御礼を申し上げ、今回のレポートの結びとしたい。
(了)
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「第3期マイナビ女子オープン・挑戦者決定戦」レポート(中編)・勝又教授の名講義

2010-02-20 13:37:46 | 観戦記
「皆さん現局面までの手順はご存知ないですものね」
と勝又清和六段が言い、初手から局面を動かす。
7六歩、3四歩、9六歩。
ここで早くも勝又六段の講義が始まる。
「9六歩は相手の態度を見た手ですね。つまりここで6六歩と指すと後手は3二飛車と振ってきます。すると後手の角が敵陣に直射しているのに対し、こちらは角道を止めている。これが面白くないわけです。だから9六歩は後手の出方を見ようというわけなんですね」
斎田晴子女流四段、甲斐智美女流二段とも、今期マイナビではすべて振り飛車で戦ってきた。斎田女流四段は先手で1勝、後手で4勝。甲斐女流二段はすべて先手番で5勝である。中にはもちろん、相振り飛車もあった。ゆえに両者の相振り飛車は確定的である。本局は3手目にして、早くも斎田女流四段が牽制球を放ったということだ。
と、4手目に甲斐女流二段が飛車先の歩を突いた。振り飛車の達人、大山康晴十五世名人は、振り飛車退治の名人でもあった。元は居飛車党でもあった甲斐女流二段、振り飛車対策も万全、ということだろう。
7手目、斎田女流四段は5八飛と振る。ゴキゲン中飛車の明示である。最近の斎田女流四段は、ゴキゲン中飛車の登板が多いと思う。「ミス四間飛車」は、過去の愛称になりつつあるようだ。
ここで勝又六段が、「このほうが皆さまにはお馴染みでしょう」と、盤を上下逆さまにする。先手の飛車が「5二」に位置して、見やすくなった。こんなことができるのも、将棋ソフトならではだ。
甲斐女流二段は、8八角成と、早くも角を換える。ここでも勝又六段の講義が入る。
「後手は先手に5五歩と位を取られると、角の動きに差が出て面白くないんですね。それならこちらから角を交換して、角の働きをイーブンにしましょう、ということなんですね」
初心者にも分かりやすい講義だ。こんな感じの講座を開いてくれれば、初心者も手の意味を理解しながら上達ができるだろう。
ところで勝又六段は、「将棋世界」に連載している「突き抜ける!現代将棋」で、4月号から3回に亘ってゴキゲン中飛車の講義をするという。アマチュアはもちろん、プロ棋士も参考にするに違いない。
その後も細かく解説を交え、指し手が進められていく。斎田女流四段は飛車を8八に振り直し、左銀と桂の動きをラクにする。対して甲斐女流二段は玉頭位取りの作戦を採った。
先手はポンと8五桂と跳び、47手目、5五歩とじっと伸ばす。ここで昼食休憩に入り、再開後に指された3三桂が、私たちが対局室で拝見した一着だった。
この辺りで、現局面に追いついた。
68手目、甲斐女流二段が2四桂と据える。持ち駒は1歩しかないが、3六歩~2五歩からの攻めが意外にうるさい。先手の応手もむずかしく、勝又六段も頭を悩ませている。
「4八桂はどうでしょうか?」
私は昨年の挑戦者決定戦のとき、控室で皆さまの検討を拝聴していたのだが、岩根忍女流初段(当時)の長考中に、「これだけ考えているのだから、ここはこう指すと思います」と発言した。ところがそう言うやいなや、岩根女流初段が別の手を指し、室内が爆笑の渦に包まれたことがあった。
そのときは、素人がプロの指し手を予想するものではないと自戒したものだが、今回また、口を挟んでしまった。私の悪い癖である。
「それを言ってくれる人を待ってたんですよ。この手はあるんです。しかしプロは指せないんですよねぇ」
と、勝又六段が励ましだか慰めだか分からないことを言い、ちょっと一休みしましょう、とその場を離れた。
私は局面が気になり、後方のテレビモニターで指し手を注目する。と、斎田女流四段の腕が伸び、4八に桂を置いたので、
「打った!」
と叫んでしまった。
長くは待たせず、勝又六段が戻ってくる。
「当たりましたね」
とにこやかに私に言いつつ、椅子に座る。「4八桂」を知っていたということは、5階の控室で検討に加わっていたのだろうか。私は斎田女流四段の「次の1手」が当たって、ちょっと誇らしい気分になった。
70手目、甲斐女流二段が5四歩と突きあげる。ここで勝又六段が、
「ゲストを呼んできました。中村さん、こちらへ」
と言う。見ると、中村真梨花女流二段が現われた。これも予期せぬサプライズである。
中村女流二段は、昨年のマイナビ挑戦者決定戦で、岩根女流初段と挑戦権を争ったが、惜敗した。前期の主役が今期は控室での検討に回っている。つまり斎田女流四段と逆の立場になったわけで、非情な勝負の世界を表すものである。
そんな中村女流二段は、男性棋士の対局のときも、よく控室に現われて検討に参加するという。その熱心さを私は大いに買い、中村女流二段を将来のタイトルホルダーと信じている。今日も5階の控室で、何人かの女流棋士といっしょに、熱心に検討を続けていたのだろう。
中村女流二段は斎田女流四段の妹弟子。同じ振り飛車党ということもあり、姉弟子を応援しているのは想像に難くない。その中村女流二段に、さっそく控室の様子を聞く。将棋ソフトの画面は、先後が元に戻されている。
「上の検討では先手5四同歩、同金に5五歩があって、同金は6四角、5五同角も同飛、同金に6四角が利いて、先手よしということです」
何だかテレビ中継のレポーターのようだ。本譜は7一角。後手はこの角と換わって先手の8一成香を働かせたくないので、5五角と逃げる。
「対局開始が10時。12時10分に昼食休憩に入り、1時に再開。持ち時間は3時間ですがチェスクロック使用ですから、秒の切り捨てなく、時間は減っていきます。よって4時50分には、両対局者は間違いなく秒読みに入ります」
と勝又六段が言う。計算上は至極当然なのだが、勝又六段に説明されると、何故かなるほどと感心してしまう。
このあたりで中井広恵女流六段も研修室へ顔を見せた。中村女流二段とバトンタッチする形で、解説に入っていただく。
73手目、ここで先手の指す手がむずかしい。あまりキッチリした手を指すと後手も反撃してくる。5五角が間接的に先手玉を睨んでいるので、あまり過激な手順は採りたくないのだ。
ではボンヤリ5六飛と浮いておくのはどうか、と考えていると、中井女流六段がこの手を指摘した。が、以下に予想される進行は、先手も芳しくない。
しからば先手から2五歩、と突くのはどうか。後手から歩を合わせたいところだけに指しにくいが、2五同銀なら3五角成。同桂なら2六歩と桂取りに催促して勝負する。
もし私に声が掛かればこの手を挙げたいところだが、ここは「次の1手名人戦」の場ではない。静かに進行を見守るのみである。
勝又六段が、画面を対局室のカメラに切り替える。2五の地点に駒があるので、「なんですかこれは!?」と、素っ頓狂な声を挙げた。
斎田女流四段が、2五歩と突いたのだ。自分で候補手に挙げていながら、なんと強気な1手だろうと思う。勝又六段、中井女流六段、中村女流二段も、これは最強の手です、と異口同音に言う。これだけ驚かれると、私の感覚がおかしいのかと、疑心暗鬼に陥ってしまう。
斎田女流四段、渾身の1手が出たが、甲斐女流二段も負けてはいない。2六歩、同銀を利かし、3六桂と跳ねる。斎田女流四段は3九玉。
「2五歩と思い切りよく突いて3九玉と落ちるようでは、指し手がチグハグの気もします」
と中井女流六段。確かにやや変調か。しかし4八桂成、同玉と進んでみると、先手玉が後手の角の直射から逃れ、存外安定した形となった。
女流棋士の将棋は、男性棋士の予想手から外れると、ときどき疑問手の烙印が捺されるが、この意外な手順は、研修室では好評価だった。解説陣より、対局者のほうがよく読んでいたということだ。この将棋は名局になる予感がした。
3時46分、窪田義行六段がいらした。
窪田六段は将棋ペンクラブの会員で、関東交流会やペンクラブ大賞贈呈式では、必ず顔を出される。ファンとの交流を大事にされ、その活動には頭が下がる。
今日も竜王ランキング戦の対局のはずだが、少しでも将棋ファンの助けになれば…と、わざわざ足を運ばれたのだろう。
窪田六段は将棋の考え方も話し方も独特だ。形勢を訊くと、いい勝負、との見解。先手からは1五歩の端攻めがある、とのことだった。
中井女流六段に代わって、石橋幸緒女流四段がいらっしゃる。石橋女流四段は、本戦準決勝で、甲斐女流二段に屈した。本人の悔しがりようといったら相当なもので、先日LPSA金曜サロンでお会いしたときは、
「まあ、完敗だったんだからいいんじゃないですか?」
と慰めたのだが、本人は納得していないようだった。まあよい。負けたら、また来期頑張ればいいのである。
中村女流二段が再び訪れ、勝又六段が席を外すと、石橋女流四段は器用にパソコンを操作し、中村女流二段とともに明快な解説を行ってくれた。
4時38分、理事の上野裕和五段もいらっしゃる。上野五段は公益法人改革の担当。重責だが、それだけにやり甲斐もあるだろう。
将棋は窪田六段の解説どおり、斎田女流四段が端攻めに出た。形勢の針は、細かく左右に振れている。どちらを持ちたいかは、棋風による。
93手目、斎田女流四段が、当たりになっている3五の馬を7一に入った。
「冷静ないい手です」
と上野五段。そろそろ両対局者の残り時間もなくなってきたころだ。どちらかは秒読みに入っているかもしれない。
「持ち時間が残り10分を切ると焦ります」
と中村女流二段。
5五角を4四角に引いて、同馬、同玉となれば、後手玉が中空に逃げ出せる。
「こういう状態を、鈴木大介八段は『およげたいやきくん』と言っています」
と勝又六段。しかし中村女流二段は、「およげたいやきくん」は知っていたが、歌手名までは知らなかった。軽いジェネレーションギャップを感じる。
4時50分、対局室が映される。斎田女流四段は腕を組んで熟考している。勝又説だと、両者すでに1分将棋のはずだ。
「斎田先生はバランスのよい将棋だと思います。甲斐さんは終盤が正確だと思います」
と中村女流二段。上野五段も、斎田女流四段の序盤戦術をほめる。
4時57分、中井女流六段が、中村女流二段と交代する。
103手目、斎田女流五段が5七歩と、じっと打つ。5六桂打をふせぐためだけの、辛抱の1手だ。
「負けたくないんですね」
と上野五段が言う。当たり前じゃないか、と皆が胸の内で突っ込みを入れ、室内に爆笑が起きた。
5時07分、甲斐女流二段の3五桂が放たれる。斎田女流四段が前にのめりこむようにして考えている。構わず2四歩と取り込む。
悪手を指したときに、どういう気持ちで指し続けたらいいか、という話になる。
「いままで指した手が最善手だと思って指す、と森下卓九段は言いますが」
と勝又六段。
「ええっ? でもそれって変じゃないですか?」
と上野五段が返す。「だってどう考えても悪手だと分かるわけでしょ。それを自分の中で最善手と考えるのは…」
また室内で爆笑が起きる。勝又六段、上野五段とも、プロ棋士とは思えない、愛すべきキャラクターだ。
いったん控室へ戻った中村女流二段が再び訪れる。すっかり中継係となってしまった中村女流二段も忙しい。報告によると、5階控室の検討も熱気を帯びているようだ。昨年の挑戦者決定戦は20人近くの女流棋士が集まったが、今年はどうなのだろう。手数は100手を越えているが、検討陣の見解は「いまだ形勢は不明」とのこと。挑戦者決定戦にふさわしい、見応えのある大熱戦だ。
矢内理絵子女王が姿を見せているようだ。対局後に行われる共同会見のためだが、あと1時間もしないうちに、5番勝負の相手が決まるのだ。気にならないはずがない。
マイコミのサイトを覗くと、上田初美女流二段の画像もアップされている。上田女流二段は、準決勝の斎田女流四段戦で、二転三転の激闘のすえ、最終盤でココセを指してトン死した。感想戦でうめいた、
「髪の毛が抜けそう」
は、長蛇を逸した悔しさを端的に表した、名言だった。一部の人には不愉快だろうが、「将棋界流行語大賞」があれば、今年の最有力候補であろう。
本当ならきょうのトクタイ(特別対局室)には私が座っていたはずなのに…と思えば将棋会館へ訪れるのも不愉快ではと思うが、上田女流二段は控室での生の勉強を優先させた。その熱意があれば、タイトル戦への登場も遠いことではない。
4六歩、5八玉を利かし、118手目、甲斐女流二段がついに7一飛と馬を取った。いつこの馬を入手するかと言われていた手だ。
対局室の模様が映された。両対局者とも、盤に覆いかぶさるようにして考えている。甲斐女流二段は、座布団ごと前にズレている。斎田女流四段ともども、昼休後の対局姿勢からは想像できない。いまふたりの頭の中には、優勝賞金500万円への道などない。ただ眼前の将棋の勝ち筋を模索するのみである。
しかしその将棋も、数十分後には確実に決着がつく。対局室、控室、研修室すべてが、熱い空気に包まれていた。
(2月21日の後編につづく)
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「第3期マイナビ女子オープン・挑戦者決定戦」レポート(前編)・注目の大一番

2010-02-19 03:40:17 | 観戦記
昨年3月9日(月)の第2期マイナビ女子オープン挑戦者決定戦・中村真梨花女流二段と岩根忍女流初段(当時)の1局が行われてから1年近く。今年も2月16日(火)に、第3期の挑戦者決定戦が行われることとなった。
昨年の挑戦者決定戦では「1日スポンサー」になり、その激闘を間近で体感することができた。今年はスポンサーになる予定はなかったのだが、毎日コミュニケーションズ様から「挑戦者決定戦レポーター」の公募があり、熟考のすえ、申し込ませていただいた。その結果審査が通り、思わぬ形で、今年も挑戦者決定戦の場に足を運ぶことになったのだった。

決戦当日。午前中に仕事を済ませ、昼食を摂る時間も省き、いそいそと東京・将棋会館に向かう。集合場所は2階の研修室である。ほかのレポーターも揃い、午後12時45分、注意事項等の説明を受ける。
思えば昨年の7月15日(水)、私がいま説明を受けているまさにこの場所で、予選組み合わせの公開抽選会が行われたのだ。そのときは石橋幸緒女流王位(当時)対里見香奈・倉敷藤花(女流名人)という、タイトル保持者同士の対戦も組まれ、大いに盛り上がったものだった。
あれから7カ月が経ったのかと感慨にふけると同時に、私たちは今回けっこうな重責を担ったのだと、あらためて気を引き締めた。
抽選の綾はあったものの、数々の熱戦が繰り拡げられたすえ、勝ち残った女流棋士は、やはり実力者だった。今年の対局者は、斎田晴子女流四段と甲斐智美女流二段である。
斎田女流四段は過去に女流名人位を含むタイトルを4期獲得し、マイナビ女子オープンの前身であるレディースオープントーナメントでも、2回優勝の実績がある。
対する甲斐女流二段は元奨励会員で、2級まで昇級した。女流棋士に復帰してからは、棋戦優勝2回。しかし特筆すべきは第1期のマイナビ女子オープン5番勝負への登場で、惜しくも獲得はならなかったものの、準優勝は棋戦優勝に相当する実績である。
両者とも、昨年7月25日(土)に東京・竹橋のパレスサイドビルで行われた予選一斉対局からの参加で、ここまで5連勝。実に長い戦いだった。しかしそれも、本局に勝たなければ意味がない。
前期の挑戦者決定戦はともかく、第1期の矢内理絵子女流名人(当時)と甲斐智美女流二段の準決勝の相手はそれぞれ誰だったか、憶えている人は少ないと思う。タイトル戦に出なければ、その名前はすぐに忘れられてしまう。挑戦者決定戦は、タイトル戦に匹敵する大勝負なのである。
対局再開の1時すこし前、私たちは対局室への入室を、数分間だけ許された。
対局室は5階の「特別対局室」。18畳の広い部屋にこの1局。なんとも贅沢だが、その環境で将棋を指せる機会はなかなかない。勝ち進んだ棋士のみに与えられる特権なのだ。
下座に甲斐女流二段が座っている。しかし斎田女流四段の姿はない。と、私の後方から斎田女流四段が現われ、ゆったりとした動きで上座に座った。
盤側には、観戦記者、記録係のほかに、西村一義専務理事、上野裕和理事が列席している。これも大一番の証である。
記録係氏が、
「時間になりましたので、よろしくお願いします」
と対局再開を宣言した。
私は出入口の襖近くに座ったので、斎田女流四段の姿と、甲斐女流二段のややナナメ後ろの姿が拝見できた。
斎田女流四段はパープルのジャケットに黒のスカート。甲斐女流二段は黒系のブレザーに同色のパンツといういでたち。パッと見、高校生のようだ。甲斐女流二段は、ベージュの膝掛けもかけている。東京はここ数日、寒い日が続いている。室内にも暖房がかかっていたが、防寒対策を万全にするに越したことはない。
さて、局面である。どちらの手番なのだろう。私は事前にネット中継を見てこなかったので、先後はもちろん、戦型すらも分からない。ここからは駒がやや光って見えるが、斎田女流四段が飛車を振っているようだ。
斎田女流四段は両手を前に組んで静かに考えている。泰然、という言葉が浮かぶ。昨年の挑戦者決定戦で5階の控室にお邪魔したとき、「このたびはスポンサーになっていただき、ありがとうございます」と、真っ先に声を掛けてくださったのが斎田女流四段だった。あのときは検討の主役だった斎田女流四段が、今期は対局者の主役として、盤の前に座っている。
甲斐女流二段は両手を横につき、やや前のめりで考えている。と、腕を組んで姿勢を伸ばした。この動きは、甲斐女流二段の手番を表すものである。
静謐の空間、といいたいところだが、私たち第一陣のレポーターが10人近くおり、室内がわさわさしている。
斎田女流四段が、チラッと私を見たような気がする。その視線は鋭い。昨年の挑戦者決定戦では、昼食休憩後に盤側での観戦を許された。手番である岩根女流初段が熟考に沈むなか、私の存在が目に入ったのか、鋭い視線を向けられたことを思い出す。
レポーターの写真撮影も終わり、対局室は静寂を取り戻した。しかしこれだけ観戦者がいては、さすがに甲斐女流二段も局面に集中できなかったろう。
これは今年も、レポーターが退室した後での着手だろうな、との思いがよぎった刹那、甲斐女流二段の右手が伸び、左の桂をカチッ、と跳ねた。1時06分だった。そのままお茶を口に含むと、湯のみ茶碗をカタッ、と茶卓に置く。落ち着いている、と思った。
日本女子プロ女子協会(LPSA)主催の公開早指しトーナメントでは感じない、実に重みのある1手であった。
そこで退室の時間がきた。いいものを見せてもらった、と深い感銘を受け、私たちは特別対局室を後にした。

とりあえず2階の研修室へ戻る。このあとは、終局後の感想戦の観戦と、矢内女王と挑戦者の決意表明を聞くまで、自由時間となる。
室内後方にあるテレビで挑戦者決定戦の推移を見守るもよし、外で時間をつぶすもよし、である。私は昼食に出て、近辺にネットカフェがあればそこでブログを書き、本局の進行を見守るつもりでいた。
と、そこへ勝又清和六段が現われた。
「皆さん夕方まで何もしないのも退屈でしょう」
と言うや、事務の方にテキパキと指示を出し、前方の椅子や机を片付けさせた。どうも、この日公務でいらしていた勝又六段が、臨時の解説会を開いてくださるようだった。もしそうなら、これはありがたいことである。
机の上にノートパソコンを置き、プロジェクターを設置する。スクリーンは前方の白い壁だ。着々と準備が進み、予想外の展開に私も喜びを抑えきれないが、空腹状態も厳しい。こんなことなら事前に何か入れてくるのだった。ちょっと我慢できない。私は少考のすえ、食事に出ることにした。
1時58分、研修室を出ると、ジュースの自販機の前で中井広恵女流六段と石橋女流四段がドーンと立ち、ニコニコしていた。
「……!!」
私は口を大きく開け絶句したが、一礼したあと、逃げるように1階へ下りる。
近くのそば屋で、カツ丼ともりそばのセット(800円)を流し込むようにかきこみ、2時28分、研修室に戻った。セットの準備も完了し、ちょうど勝又六段の解説が始まろうとしているところだった。
私はたまたま最前列の椅子にすわっていたので、ほかのレポーターに申し訳なく思う。しかしこの好機はじゅうぶんに活かさなければならない。勝又六段の解説を、一言一句聞き逃すまいと、ペンを持つ手に力を入れた。
まずは接続されているパソコン環境が説明される。パソコンには、将棋会館内に設置されてある対局室のカメラがすべて見られるようになっている。特別対局室は、両者をナナメ頭上から俯瞰するカメラと、将棋盤を真上から映すカメラが2台設置されており、クリックだけで簡単に切り替えが可能だ。
関西将棋会館ともLANで結ばれていて、これも同様にクリックひとつで画面を切り替えることができる。3月2日(火)には東京と大阪でA級順位戦の最終局があるが、そのときは東京と大阪の画像を交互に観ることになるのだろう。
最新の将棋から旧い年に遡って約7万局がデータベース化されており、これもインストールされている。過去の戦型や勝敗が容易に検索でき、重宝だ。
将棋ソフトは「柿木将棋」で、駒の利きが色分けできたり、盤上に文字を書けたりと、多彩な機能が搭載されている。今回はこれをメインにしながら、時折対局室の映像も交え、解説を行うという構成である。
強調しておくが、これはあくまでも勝又六段の好意によるものである。勝又六段には、あらためて御礼を述べておきたい。
先手番は斎田女流四段だった。いよいよ勝又六段の解説…いや、「講義」が始まった。
(2月20日の中編、2月21日の後編につづく)
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする