付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「遙かなる星2~この悪しき世界」 佐藤大輔

2009-07-01 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「必ず勝つ。敗北などしない。絶対に認めない。わたしが認める敗北は、自分の寿命にかぎりがあること、それだけだ」
 男が病室の妻へ誓った言葉。

 1970年になっても世界の主要各国は10年前の第三次世界大戦の災禍からいまだ復興してはいなかった。幸運にも日本の都市を射程に収めていた潜水艦が開戦前に沈んだことから(沖縄以外は)ほぼ無傷で乗り越えた日本にしても、世界経済と治安の悪化とは無縁ではいられない。とはいえ、日本はいまや自由主義社会一の兵器輸出国となっており、先制攻撃をしたことで大国の地位を保つだけの力を残すことができたソ連と対峙している。
 その頃、北崎重工から宇宙開発公団へと移籍していた黒木正一は、宇宙計画調整部長として経済性の高い対軌道輸送機の開発を推進していた……。

 実業家である北崎望、技術者である黒木正一、軍人としてドイツに派遣された原田克也、ロケット好きな少年だった屋代幸男の4人を軸に、太平洋戦争期からの日本の宇宙開発を描く『遙かなる星』の第2巻です。彼らがどういう想いで宙を見上げていたかの物語。

「自分の職場についている看板をおもいだせ。俺たちは宇宙を冒険したいわけじゃない。好きなように使いたいのだ」
 宇宙は冒険するところではない。日常の延長線上に位置すべき場所に過ぎないのだという黒木正一の言葉。宇宙空間で納豆ご飯を。

 北崎は第三次世界大戦の惨禍の中から日本の航空宇宙産業を掌握し、黒木は宇宙計画の基幹に居座り、航空自衛隊の空佐となっていた原田克也は新たなプロジェクトのために北崎重工へと引き抜かれます。面識もない他の3人が着々と星への道を歩み続けている中、小さな商社の営業マンでしかなかった屋代幸男にも転機が訪れます。息子の昌幸が宇宙機の副操縦士に選抜されたのです……。
 キューバ危機の顛末以外はほぼ史実通りだった前巻に対し、いよいよ異なる歴史が流れ始めます。とはいえ、その歴史は前途洋々たるものではなく、混乱しきった世界の中でいかに日本が生き残っていくかが問われ続けるものです。日本は棚ぼた式にかつてのアメリカに似た立場となりますが、同じようにやろうとすればたちまち国家が崩壊することも目に見えているわけです。そのあたり、見えているだけ立派、立派。タイやブラジルが頑張っていますね。

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「植物図鑑」 有川浩

2009-07-01 | 食・料理
 珍しく軍人が出てこないナーと思ったけれど、考えてみれば『阪急電車』も『三匹のおっさん』も『レインツリーの国』も出てませんね。思いこみって怖いな。

『女の恋は上書き式、男の恋は保存式。女はどれだけ引きずろうと悪あがきしようと、次の恋が見つかって走り出したら昔の恋人など思い出から記憶に格下げだ』

 だから、男の方が基本的にロマンチストなんですよ。同窓会に行けばわかるでしょうが……。

 彼は道ばたに落ちていた。
「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか? 咬みません。躾のできたよい子です」
 で、酔っぱらったOLが拾ってしまったことから始まる恋の物語。

……というか、読後感は「実践!野草料理マニュアル(レシピ付)」ですね。携帯小説サイトに連載したものに短編2本付。甘く切ない“雑草”に彩られた四季の物語です。もしかしたら料理小説というものかもしれません。
 竹沢くん、必要以上にイイヒトすぎ。彼にも幸せがおとずれますように。

【植物図鑑】【有川浩】【カスヤナガト】【携帯小説】【雑草という名の草はない】
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