付け焼き刃の覚え書き

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「海竜めざめる」 ジョン・ウィンダム

2009-07-10 | 怪獣小説・怪獣映画
「政府のおえらがたをはじめ人びとの大部分は、新事態に直面すると、それを認めまいとあがくものなのだ」
 アラステア・ボッカー博士の言葉。

 宙から飛来した火球群が次々に大西洋に落下して深海へと沈んでいく。調査に送り込まれた潜水球は次々に破壊され、やがて世界各地で海難事故が頻発するようになるが、これを宇宙から飛来して海底に潜んでいる知的生命体の仕業と主張するボッカー博士の説は嘲笑される。
 それから5年。世界各地の小島や沿岸部の集落に巨大な水母のような物体が上陸して人々を呑み込み始めるに至ってボッカー説は見直され始めるが、潜海生物(ゼーバス)と名づけられた宇宙からの侵略者と人類の戦いは人類劣勢のまま推移した。制海権を失い、さらには両極の氷が溶け出して海面上昇が始まり……

 自分にとっては『青い世界の怪物』と並ぶ海洋SFの双璧。こちらの方が、侵略テーマ色が強く、滅亡テーマだったりする分、SFらしいといえばSFらしいのかな。英国の放送局EBC(BBCと比較すると二流局らしい)の局員夫婦の視点で話が進みますので、終盤は他に誰もいなくなった世界に2人きり。世界の他の場所で何が起こっているのかほとんど解らなくなり、終末っぽさが際だちます。
 そして、最後の方になるまで立ち位置が解らなかったのがボッカー博士。いろいろ鋭い考察はするのだけれど、基本的に山師っぽくて周囲から全然信用されていないし失敗も多い。侵略が明白になってこれから活躍するのかと思えば主人公たちの前から消えて音信不通。事件を解決する天才博士でもなければ周囲を煽り立てるだけのダメ扇動家でもなく、こいつ何者なんだ?と思っていたけれど、読み終えてなんとなく思うのは「鳥」の人なのかなということ。
 ノアの箱船から放たれて、知らせを持ち帰ることなく消えてしまったオオガラスとオリーブの小枝をくわえ戻ってきたハトの一人二役。最後に飛び去るシーンを読んで、そんなことを思いました。

 岩崎書店版は斎藤伯好訳で長新太絵、早川書房版は星新一訳で中西信行絵。ところが2009年2月に福音館書店から発刊された「ボクラノエスエフ」シリーズでは、訳が星新一で絵が長新太という不思議な組み合わせ。なんだかなあ。長新太は絵本作家としては好きでも、こういう作品のイラストとしてはシュールすぎる気がしますが、インターネットでひととおり検索してみると、長新太イラストのファンはかなり多いようです。やはり原体験は強烈ということでしょう。
 
【海竜めざめる】【ジョン・ウィンダム】【ハヤカワ文庫SF】【深海の敵】【海面上昇】【人類滅亡】【日本の技術は世界一】
コメント
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