付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「火星人ゴーホーム」 フレドリック・ブラウン

2009-11-06 | 破滅SF・侵略・新世界
 ある日突然、火星人が地球に襲来した。
 小さな緑色の火星人は、姿は見えるし声も聞こえるけれど触れない。互いに触れなければ侵略も何もなくて安心じゃないかというけれど、どこにでも現れ、何でも透視し、秘密をかぎ分け、悪口雑言をまき散らす火星人はまさしく悪魔だった。
 世界中に現れた何千何万という緑の火星人は、金持ちも貧乏人も老若男女主義主張いっさい関係なしに引っかき回していくのだ。ホワイトハウスにもクレムリンにも世界のいかなる軍隊にも機密というものは存在しなくなり、犯罪者は片っ端から犯罪を暴き立てられ、家庭争議も頻発。運転中に目の前に出現するので事故続発、夫婦のベッドに出現するので出生率激減。
 とにかく世界はめちゃくちゃになってしまった……。

 SF作家ルーク・デヴァルウを中心に語られる火星人来襲の顛末。
 文明とはこんなにもあっけなく崩壊するものなのでしょうかっ!! とはいえ、株式市場なんかもっとくだらない理由で崩壊してますから、理由としては緑の小人の方がまだましかもしれません。
 1955年の作品で「火星人ゴーホーム“Martians, Go Home”」なんて、そのころの反アメリカのスローガン「ヤンキー・ゴーホーム」のもじりですよね。邦訳もかなり昔。ハンバーガー・サンドイッチなんて言葉も出てきて、なんのことかと考えてしまいましたが、ただのハンバーガーじゃないかと思います。

【火星人ゴーホーム】【フレドリック・ブラウン】【1964年】【偏執病】【西部劇】【クイム】
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「すきやばし次郎 鮨を語る」 宇佐美伸

2009-11-06 | 食・料理
「どんな分野だって一人前のプロとしてやっていくには、基本をたたき込まなきゃならない。そこに5年や10年かかるのは当たり前のことです」

 7歳で料理屋に奉公に出されたときから現在まで、小野二郎が語る半生記。
 料理屋の下働きをしていた頃や戦場へ送られることを思えば、軍需工場での作業や工兵として名古屋や豊橋で地下壕を掘り続けるくらい楽なものだったそうです。寿司屋になったのは、別になりたくてなったわけではないというくだりは意外でした。
 回転寿司も(自分はやろうとは思わないけれど)悪いもんじゃない、なにをどう食べるか選択の幅があるのは良いことだというような発言に、思わず顔が樹教授に見えてきました……。

【すきやばし次郎 鮨を語る】【宇佐美伸】【ウルカ】【奉公】【軍需工場】【地下壕】【ミシュラン】【酢飯】【地球温暖化】【バブル】
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「15×24(3)~裏切者!」 新城カズマ

2009-11-05 | ミステリー・推理小説
「なぜおまえの意志にしたがって動いたからといって、おまえの体はおまえだけの持ち物になってしまうんだ?」
 藤堂真澄の言葉。

 それは1人の刑事の執念の産物だった。
 もしかしたら単なる都市伝説かも知れないし、話そのものが出任せの嘘かもしれない。だが、それが15人が右往左往する物語に別の視点を提供することになる。
 長い間人知れず続いている、子供を対象とした人身売買組織の存在である……。

 死にたいとか思わなくても人は簡単に死んでしまうし、人間1人1人がそれぞれ心の中にそれぞれの思惑を秘めていて、それを他人が正しく推測することは難しい……という話。さて、誰が裏切っているのでしょうか?
 まったく右往左往だけでなく二転三転し始めて、どこが着地点になるのか全く予測できません。

【15×24】【link3】【裏切者!】【新城カズマ】【箸井地図】【人身売買】【かまいたちの夜】【紋様】【都市神話工学】【洞窟ゲーム】【バスジャック】
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「フランケンシュタイン」 メアリー・シェリー

2009-11-05 | ホラー・伝奇・妖怪小説
 ホラーというより人造人間テーマの古典といえなくもないなーと思いつつ、これもきちんと読んだことがないというか、昔、中一コースか何かの付録冊子についていたのを読んだだけな気がします。アンソロジーとか和田慎二の『わが友フランケンシュタイン』あたりは読んでいるけれど、オリジナルって意外に読んでないんですね。
 で、今回は講談社の「世界の冒険文学」版を引っ張り出してきました。

 両親が離婚し、今は父親と暮らしている村岡ミツヒロ。だが、かみあわない父親との生活やクラスメイトらに虐められる日々に嫌気がさし、死ぬのも悪くなかろうと電車で旅に出たのだが、そこで彼は情報処理を仕事にしているという大人、岡村ヒロミツと出会う……。

 あ……これはこれで役に立たないなあ……。
 話としては面白いけれど、山中恒がほとんど翻案に近い新訳をしたやつでした。半分違うもの。

【フランケンシュタイン】【M・シェリー】【山中恒】【前世】【小松原鉄泉】
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「透明人間」 H・G・ウェルズ

2009-11-04 | その他SF(スコシフシギとかも)
 ウェルズの『透明人間』って、話としてもキャラクターとしても有名なんだけれど、よくよく考えてみると読んだことは一度もなかったりした。なんで急にそんなことを思ったかというとコミック『怪人連盟』(リーグ・オブ・レジェンド)に主役チームとして参加している透明人間が非常に外道で、他人から見えないのを良いことに寄宿の女学生を連続レイプするところから始まって最後の最後まで鬼畜だったから。
 そこでデイヴィッド・ロッジの『交換教授』じゃないけれど、「とても有名でみんなが読んでいるけれど、実は自分はまだ読んでいない作品」ってのは機会があったときに読んだ方が良いよね……と『透明人間』を見つけてきました。1967年の第10版で定価140円。昔は本が安かったんだよなあ……。

 透明薬を発明したグリッフィン博士はとことんマッドサイエンティストでした。社会的モラルに欠け、自分のため自分の研究のためなら「なにをしても仕方がない」という御方。親の金を盗んで自殺に追いやり、放火し、窃盗し、暴行し、しかもそれを「やむをえないことだったから」といけしゃあしゃあと語る不遜さ。その行動が次第にエスカレートしていくのですが……。

 やっぱり外道でした。

【透明人間】【H・G・ウェルズ】【3冊のノート】
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「ラ・のべつまくなし」 壱月龍一

2009-11-04 | 本屋・図書館・愛書家
「みんなが好きだから好きになって、みんなが誇らしげだから自分も誇るなんて、そんなのおかしいじゃないですか。どうしようもなく好きだって、心が叫ぶんです。それを誰かが貶めたからって、その自分は変えられないです」
 人の評価は気にしちゃいけないと椎名明日葉の言葉。

 売れない純文学作家だった矢文学がライトノベルに転身して大当たり。しかし、書く動機を失ってしまって続きを書くことができない。
 そんなブンガクが、作品の舞台となった図書館で、自分の作品のファンだという少女に出会って一目惚れしてしまう……。

 文学青年・ミーツ・腐女子。壱月龍一は『Re:ALIVE―戦争のシカタ』しか読んでいなかったけれど、他の作品も読んでおけば良かったと後悔。
 誤解されたと思ったら、できるだけ早く解こうとする。人の話はきちんと聞くし、わからないことがあったら、その都度訊ねる。そういう人間関係のあたりまえができていて、それでも混乱するからラブコメって楽しいなあ。いわゆるラブコメ風作品にありがちな非常識な行動、頭の悪すぎる空回りなしで物語をきちんと作り上げているので好印象です。
 そんなに複雑なストーリーではないし、大笑いするような話でもないけれど、読み終えたらすぐにもう一度最初から読み直してしまう幸せな本です。締め切り守って明るい恋愛……って感じかな。

【ラ・のべつまくなし】【ブンガクくんと腐思議の国】【壱月龍一】【裕龍ながれ】【腐女子】【コミケ】【ツイッター】【執事喫茶】【聖地巡礼】【ボクキャラ】【ボーイ・ミーツ・ガール】
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「もやしもん(8)」 石川雅之

2009-11-03 | 食・料理
「唯一のゼミ生なうえにミス農大の君が振る旗なんだから、ここで乗っからない大人は大人じゃないヨ」
 武藤葵の企画した地ビール祭を裏から支援していたらしい、樹慶蔵教授の言葉。物語の主役はいつでも少年と少女、大人はただの腰掛けなのだとグレート・ワイズマンも言ってました。

【もやしもん】【石川雅之】【地ビール】
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「海賊の子」 カリン・ロワチー

2009-11-03 | 宇宙海賊・宇宙商人
「希望というのは凶暴な獣で、それを抱く者を生きたまま貪り食うのだ」
 ユーリ・ミハイロヴィッチ・テリソフの言葉。

 軍刑務所に収容されていた海賊ファルコンの後継者ユーリに、地球のスパイ組織が接触してくる。自由と引き替えに海賊組織の壊滅に協力しろというのだが……。

 ロワチーの戦争3部作の完結編。世の中の流れとしてはまったく決着がついていませんが、戦争が茶飯事となっている時代に生まれ、その渦中に投じられた3人の少年の成長物語としては完結ということでしょう。面白い話でしたが、これを「ミリタリーSF」と呼ぶのには「ミリタリー」という意味でも「SF」という意味でも抵抗を感じます。別にカリブ海を舞台にした黒髭ティーチと英国海軍と総督府の駆け引きの話でも成立しそうな話ですし、エセ日本観も衝撃的です。そのあたりは、クリス・ボイスのサイバーパンク『キャッチワールド』に登場するサムライや法華教団のような確信犯ならともかく、今どきはなかなかお目にかかれるものではありません。
 海賊船には花街(カガイ)エリアがあって<ゲイシャ>がそこを取り仕切っている。ゲイシャはその歌と踊りや話術、セックスや暗殺の技術によって海賊船における対外工作の要となっている……という一歩間違えれば『ロボゲイシャ』になる設定です。それで、いきなり美少年主人公がカマを掘られるところすら始まるゲイシャ訓練って、それゲイシャと違うってば……。
 また『戦いの子』『艦長の子』はそれぞれ独立して読んでも、どういう順番に読んでも構わないのですが、この『海賊の子』に限っては『戦いの子』と『艦長の子』を読んでからでないと成立しない、まさしく完結編。日本の伝統文化に正面から挑戦状を叩きつけた、少年の成長ドラマです。

【海賊の子】【カリン・ロワチー】【佐伯経多】【新間大吾】【脱獄】【ゲイシャ】【難民キャンプ】【下克上】
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「発狂した宇宙」 フレドリック・ブラウン

2009-11-03 | 時間SF・次元・平行宇宙
「獲物であるよりは猟師であるほうが、あるいは食うためだけに小説を書いているより積極的に行動するほうが、いい気分であることはまちがいなかった」

 ついに宇宙時代が到来するかと沸き立つ1954年のアメリカでは、「バートン式電位差発生装置」をロケットで月に打ち込み、その静電気発光で地球から月面を観測しようという実験が始まるところまで来ていた。
 ところが打ち上げ実験は失敗。観察会に社長の邸宅に招かれていたSFパルプ雑誌編集長のキース・ウィンストンは爆発に巻き込まれ、気がつくと見知らぬ世界に放り出されていたのだ。
 ちょっと目には今までの世界とは変わらない1954年のアメリカだが、ドルは使えず、濃霧管制が敷かれて夜の街は漆黒に覆い尽くされている。そして宇宙旅行があたりまえになっており、奇怪な月人の旅行者が街を歩いていたのだ。
 そこは凶悪な宇宙人の襲来している世界、自分と同じ自分が別の生活をおくっている世界、そしてただの雑誌編集者が宇宙人のスパイとして狩りたてられてしまう世界……。

 慣れ親しんだ見知らぬ世界で、顔なじみの他人たちの間で逃げまどいながら、雑誌編集者としての経験を活かして起死回生を狙う主人公の逃走劇であり、パルプフィクションを皮肉ったスペースオペラのパロディです。平行世界と歴史改変の入門者としても最適。
 まだテレビもない1949年に書かれた平行世界SFの代表作で今読んでも面白く、オールタイム・ベストに入って当然という、理数系に弱い人にも薦められる「SFらしい」SF。オチのひねり方もいかにもブラウン。このオチがたぶん『超時空世紀オーガス』に影響を与えていると思います。というか、『発狂した宇宙』を読んでいない人には『超時空世紀オーガス』のオチはわかりにくかったんじゃないかと……。

【発狂した宇宙】【フレドリック・ブラウン】【平行世界】【宇宙戦争】【ミシン】【パルプ雑誌】【コイン】【露出度】【濃霧管制と夜行団】
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「G戦場ヘヴンズドア(1)」 日本橋ヨヲコ

2009-11-02 | その他フィクション
「わかりあおうと努力しなければならない友達ごっこなど、もう終わりにしろ」
 坂井大蔵の言葉。人はどんなに交わってもひとりぼっちなのだから、他の誰でもない自分になろう。

【G戦場ヘヴンズドア】【日本橋ヨヲコ】
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「竜の卵」 ロバート・L・フォワード

2009-11-02 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 2020年、太陽からわずか2300天文単位という近距離に1つの中性子星が発見された。
 竜座のしっぽの先に位置することから「竜の卵」と名付けられた中性子星を調査すべく宇宙船セント・ジョージ号が派遣されることになったのだが、この地表重力は670億Gという天体の表面では知的生命チーラが誕生していた……。

 人類が中性子星を発見し、何十年もかけて調査隊を送り込んでいる間に、生命体が生まれ、進化し、文明を育てていく異星人。人類の100万倍のスピードで生き、平均寿命37分という早さで世代交代していくチーラとの間にコンタクトは成立するのだろうか?という話で、12個の目を持つ直径5mm、高さ0.5mmの円盤状生物チーラがすごく魅力的に描かれています。ハードSFの名作であり、ファースト・コンタクト・テーマの傑作であり、1つの生命体の進化と進歩の物語。集落が発生し、農業が始まり、数学が発見され、宗教が誕生し、科学が発展し……。
 付録の設定資料はほとんど論文であり、序盤は地球を舞台に科学的なデータをつなげながら世代を超えた中性子星発見と遠征隊編成の物語。一方、チーラの世界に話が移れば「恐竜100万年」か「ローマ帝国の興亡」かという怒濤の展開が待っています。
 どう考えたって紙魚みたいなチーラが魅力的なのは間違っている気がしますが、これは彼らの思考が人間に近いから。「姿形は全然違っているくせに、中身は人間」というのはスペースオペラに登場する異星人への悪口ですが、居住環境が特異で、生きる速度が全然違う生物です。これで思考まで完全に異質だったら、読者がついていけませんよね。

【竜の卵】【ロバート・L・フォワード】【ファースト・コンタクト】【放射線治療】【石器時代】
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「いさましいちびの駆け出し魔法使い」 ダイアン・デュエイン

2009-11-01 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック

「聖人にもかならず出発点はあるものだ。それにこれまでもずっと、世界を古い時代から救い出し、みずからが描く姿につくり直してきたのはいつだって子供たちだった」
 上級魔法使いカール・J・ロメロの言葉。物語の主役はいつでも少年と少女、大人はただの腰掛けなのだとグレート・ワイズマンも言ってました。

 姉のニータは認めないかも知れないが、デリーンは頭の良い少女であり、単なる知りたがりの11歳ではなかった。
 3歳のときに知識がなければ世の中では生きていけないと認識して以来、ひたすら本を読んで読みまくり、周囲の出来事に目を配り続けていたデリーンは、ニータの持っている魔法の指南書だって読めるところはこっそり目を通している。
 そんな彼女がついに手に入れた、彼女専用の指南書はノートパソコン。新米魔法使いとなったデリーンはいきなり星の海へと飛び出すが、それこそ彼女にとっての“最初の試練”だった……。

 この邦題、『いさましいちびのトースター』のもじりなのは丸わかりなので個人的にはやめてもらいたかった。一目見るなり「いまいましい……」と脳内変換しちゃうんです。
 少女デリーンの宇宙大冒険といった感じで、これで3部作完結!みたいな勢いで大団円を迎えますが、実はシリーズ8作目を越えてなおも続編執筆中とのこと。やってきた新型パソコンの描写がやたらに古めかしく、はてと思って見てみれば1980年の本。そりゃあ、まだウィンドウズも入ってないさ……といいつつアップルだったりするけれど、DOSマシンなんだよね。時代の流れの速さを感じます。

【いさましいちびの駆け出し魔法使い】【ダイアン・デュエイン】【スターウォーズ】【アップルIIIc】【生存のための多様性】【X-MEN】【シリコン生命体】
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「G戦場ヘヴンズドア(3)」 日本橋ヨヲコ

2009-11-01 | その他フィクション
「あんたは現実に逃げなくなった。照れずにまっすぐ夢を語れるようになった。マンガ家に必要なものなんて、それだけよ」
 石破修高の言葉。

【G戦場ヘヴンズドア】【日本橋ヨヲコ】【少年ファイト】
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「ノーストリリア」 コードウェイナー・スミス

2009-11-01 | 宇宙海賊・宇宙商人
「誰もが自分は自由だと思っとるかもしれん。しかし、だれの人生も、たまたま知り合った人たち、たまたま居合わせた場所、たまたま出くわした仕事や趣味で作りあげられていく」
 キャットマスターの言葉。

 お話は簡単だ。むかし、ひとりの少年が地球という惑星を買いとった。痛い教訓だった。あんなことは一度あっただけ。二度と起こらないようにわれわれは手をうった。少年は地球へやってきて、なみはずれた冒険を重ねたすえに、自分のほしいものを手に入れ、ぶじに帰ることができた。お話はそれだけだ。

 プロローグでこう書かれ、「これでもう読まなくてもいい」といわれたら、もう読むしかありませんよね。
 惑星ノーストリリアの社会制度と個人的な敵に追いつめられた少年ロッド・マクバンの起死回生の大逆転。死の運命から逃れて<補完機構>によって統べられた地球を手に入れ、失うものを失い、手に入れるものを手に入れて帰還する、ゆきてかえりし物語。
 前半の舞台は、銀河一裕福でありながらその価値を守るためにあえて牧歌的な生活を選択し、人々が今なお汗を流しながら牧畜に従事しているノーストリリア。一方、後半の舞台は、すべての文明と官僚支配の中心地であり、いっさいの労働は人間に似た姿を与えられた獣人やネズミの脳を埋め込まれたロボットによっておこなわれている地球。それぞれ特異な発展をしている世界の対比が面白いし、だからこそそのどちらの世界にも居場所のない少年の物語が魅力的に描かれるのですね。
 たぶんネコミミ美少女の元祖は、ここに登場するク・メルだと思います。
 そして、このオチのネタのひとつは『ラーゼフォン』でもオチに使われていると思います。それが幸せな記憶であって、救いになるのならば、本当にあったことだろうとなかったことだろうと関係ないじゃないかという話です。長谷川裕一の『マップス』やグレッグ・ベアの『ブラッド・ミュージック』も同じですが。

【ノーストリリア】【人類補完機構】【コードウェイナー・スミス】【ク・メル】【経済戦】【150基金】【ボーイ・ミーツ・ガール】【模造記憶】
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