各方面から、アドバイスをいただき、文章をバージョンアップさせています。今後も、バージョンアップの折は、ご報告します。
長文にもかかわらず、こうして丁寧に修正・加筆を加えていただけますこと、本当に感謝いたします。
初校 平成21年2月23日
第二校平成21年2月24日
『団体自治の原則を踏みにじる東京都の築地市場移転強行に対して強く抗議すると共に、豊洲土壌汚染対策に関して、専門家による公開討論を求めます。』
平成21年2月6日、築地市場の移転候補地、豊洲の土壌汚染の土壌処理対策を検討する「技術会議」の最終報告が提出されました。石原慎太郎都知事は、2月18日の第一回都議会定例会の施政方針表明において、豊洲新市場の平成26年(2014年)12月の開場を表明しました。
それに対し、矢田美英中央区長は2月20日の環境建設委員会の場で、私の質問を受けて、「築地市場移転に断固反対する姿勢に変わりはない。特に技術会議の方針には疑念が残る。」と発言し、あらためて中央区は移転に断固反対であることを確認したところです。
「技術会議」の土壌汚染処理に向けた提言は、一言でいうと「安かろう、悪かろう」の提言です。まったく信憑性のない提言であると考えます。
以下に、理由を述べます。
一、密室の中で進められた会議であること
東京都は、会議内容を公開していると述べていますが、どうみても密室の中で、非公開に会議を進めています。
座長以外、誰が委員であるのかすら、2月6日のプレス発表まで明かされませんでした。
会議録は、最終報告の段階でも、一切公開されず、2月17日になって、ようやく東京都中央卸売市場のホームページ上で公開されました。アップされた会議録をご覧いただくと分かりますが、発言委員名が明らかにされておらず、どの委員の発言か、わかりません。なお、会議録が本当に会議を再現したものかの疑いも残ります。
ベンゾ(a)ピレン問題や不透水層欠落・不透水層への汚染の拡大問題など朝日新聞のスクープ記事でもお分かりのように東京都に情報の隠蔽体質がある以上、様々な不都合を隠すため密室で会議を進行させたと疑わざるをえません。
科学技術の検討は、万人監視の公開のもと実施すべきであり、非公開で進められたこと自体、この会議の結論の信憑性が疑われます。
(頑なに情報公開を拒む東京都の姿勢について)
細かい話になりますが、いかに東京都が情報公開を拒んでいるか、私と東京都とのやり取りから察していただければ幸いです。
私は、第一回技術会議(8月15日)が開催された後の8月20日、速記録を情報公開請求の形で東京都に求めました。
9月3日付けの東京都の回答では、東京都情報公開条例第7条第5号を用いて、「本会議で評価・検証する内容は、都の土壌汚染対策工事の発注につながるものである。そのため、公にすることにより、外部からの干渉、圧力等により行政の内部の自由かつ率直な意見の交換が妨げられ意思決定の中立性が損なわれるおそれ、不当に都民の間に混乱を生じさせるおそれ叉は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあることから、東京都情報公開条例第7条第5号に該当する。」という理由で、非開示決定が言い渡されました。
都のこの回答を不服とし、私は、9月29日異議申し立てを以下の理由で行いました。
異議申し立ての理由:「非開示決定は、公にすることにより、外部からの干渉、圧力等により行政の内部の自由かつ率直な意見の交換が妨げられ意思決定の中立性が損なわれるおそれ等があるとして、東京都情報公開条例(以下「本条例」という)第7条第5号に該当するとする。
しかしながら、本条例前文に「開かれた都政を推進していく」「都民がその知ろうとする東京都の保有する情報を得られるよう、情報の公開を一層進めていかなければならない」などとあるとおり、本条例においては公開が原則であり、例外的に非公開とするのは、公開による不利益が具体的かつ現実に生ずる蓋然性が極めて高い場合に限定すべきである。そして、公開による不利益がある場合でも、徒に文書全体を非公開とするのではなく、このような不利益を生じさせる部分を除外したうえ、他の部分は可能な限り開示しなければならない。
速記録原稿については、確かに都の土壌汚染対策工事の発注につながるものではあるが、都民の食卓や健康等に重大な影響を及ぼす築地市場移転予定地の土壌汚染対策工事であることを勘案すれば、都民がその工事内容を知る権利を重視すべきであるし、むしろこれを公開してよりよい土壌汚染対策工事について広く都民の意見を踏まえた議論がなされるべきである。
また、公開した方が、有権者たる都民の監視のもとでのより公正な手続での発注が期待できる。
仮に全部開示が不適切である場合でも、一部技術内容や発言者等を匿名にすることで、残部についての開示は十分に可能である。」
以後、私は、再三にわたり、この異議申し立ての返事や速記録の公開を求め、東京都に申し入れを行いました。窓口の都職員とは、全技術会議の速記録を提出することをお願いしていたのでありますが、年が明け、技術会議の報告書が出された今でさえも、異議申し立てに対する返事も、速記録の公開も一切なされていません。
驚いたことに、あれほどお互いが、全会議の速記録の公開についてやりとりをしていたにもかかわらず、2月18日の都職員の回答は、私の情報公開請求は、第一回の会議分の速記録に関してのみの請求であると突然言われました。では、その第一回の速記録だけでもいいから出してもらえるようにお願いしましたが、まだ出せないということでした。
仕方なく、2月19日私はあらためて全会議の速記録の情報公開請求を東京都に行いました。回答は2週間以内に行うことになっていますので、この請求が通れば、私は、全会議の速記録を3月4日に手にすることが出来ます。
情報公開請求の非開示決定に対する異議申立に対して、いつまでに回答をしなければならないという規定はないため、致し方ないわけではありますが、既に、技術会議の最終報告が出されている以上、非開示にする理由もないわけであり、すぐにでも速記録を出せるはずです。なぜ、頑なに速記録を公開しないのか理解に苦しみます。
一、会議の中立性が担保されていない
会議の座長を務めた原島文雄氏は、元東京都立科学技術大学長であり、首都大学東京の学長に就任を予定されており、東京都と密接な利害関係を有しています。
このような座長のもとになされた検討結果が、果たして中立な結論を導き出せるでしょうか?
なにがなんでも移転を強行したいと考える東京都側に立った結論を導き出すと誰もが疑うわけであり、中立性が担保されていない以上、この会議の結論の信憑性が疑われます。
一、そもそも座長は、土壌汚染の専門家ではない
会議の座長を務めた原島文雄氏の現在の肩書きは、「東京電機大学 未来科学部 教授、システムエンジニアリング」となっています。早い話が、「ロボット工学が専門の電気工学者」ということです。
ロボット工学という畑違いの方が、土壌汚染処理の検討を進める会議の座長をすること自体に無理が見られます。この会議の結論の信憑性が疑われます。
なお、2月6日提出されたその他の構成メンバー6名の経歴は、座長代理をつとめられた矢木修身氏は、元環境省国立環境研究所水土壌圏環境部水環境室長、日本大学大学院総合科学研究科教授で専門は環境微生物工学。安田進氏は、東京電機大学理工学部教授で、原島座長が東京電機大学長時の学長補佐であり、専門は地盤工学(液状化対策)。長谷川猛氏は東京理科大学工学部工業化学科卒業後、東京都に入都され、東京都環境科学研究所長。小橋秀俊氏は、国土交通省の独立行政法人土木研究所 つくば中央研究所技術推進本部 主席研究員で専門は土木。川田誠一氏は、東京都立科学技術大学教授、産業技術大学院大学 産業技術研究科長 教授で専門はシステムエンジニアリング。根本祐二氏は、国が出資する元日本開発銀行(現:日本政策投資銀行)、東洋大学大学院経済学研究科教授で専門はプロジェクトマネジメント。つまり、東京都関係者、国関係者など御用学者で固めたメンバーと言え、土壌汚染に少しは係わりがある者は、矢木氏と長谷川氏の二人だけであり、液状化に詳しい者が安田氏のみである。これでは、土壌汚染対策の技術工法を審査する委員会としては、失格であろう。専門家会議委員4人中、平田、森澤および駒井の3人は土壌汚染の専門家であり、技術会議は専門家会議よりも専門的レベルがかなり劣る構成であると言える。
一、「専門家会議の提言の具現化」という当初約束された方向性から外れた検討結果を出してきている
技術会議は、先立って開催された「専門家会議」の提言を具現化するためには、どの技術を実際に用いたらよいのかを検討することが約束されていました。
実際に比較いただくとわかるのですが、汚染地下水の流れを制御するために建物下空間と外部空間の遮水壁を省略したり、現地の土壌を、浄化済みと称して入れ替え用の土壌に転用するなど、「専門家会議」が出した提言と、「技術会議」が出した結論が全く異なっています。
「技術会議」は、当初約束されたように「専門家会議の提言の具現化」を目指すべきであり、その提言からずれた結論は、食の安心・安全やその場所で働く市場関係者の健康への影響の安全性が担保されているとはいい難いと考えざるを得ません。
一、「有楽町層が不透水層」という一番の大前提が崩れている
土壌汚染の対策にあたり、大前提として「有楽町層」は“不透水層”であり、汚染は、その下に広がらないということがありました。
1/26、1/27と朝日新聞がスクープ記事が出されてお分かりのように、不透水層の有楽町層が確認できない箇所が数箇所存在したり、実際に有楽町層があった場所でさえ、有楽町層内へ汚染が拡大している箇所が数箇所存在していました。
「有楽町層」は“不透水層”で汚染が広がらないとして、詳細な土壌汚染調査はなされておりません。どれだけ深刻な汚染があるのか、誰も知らないまま、対策を強引に進めようとしているのです。
土壌汚染は、深層部まで深く広がっていると考えるのが、一般的な考え方と思います。
このままでは、食の安全・安心やその場所で働く市場関係者の健康への影響の安全性を担保とした土壌汚染対策がなされると信用することはできません。
一、地盤の弱い土地では、土盛り後、地盤の安定を確認するために2年間放置する必要があるが、整備方針のスケジュールにはその期間の想定がまったくない
建築工事のあり方では、常識となっていますが、地盤の弱い土地では、土盛り後、地盤の安定を確認するために2年間放置する必要があります。実際に、豊洲移転候補地では、その期間経過をみた場所が存在しています。あらたに土壌の入れ替えを行うわけであり、その後、地盤の安定をみる期間が2年間必要であります。
この期間をもたずに、土壌汚染対策工事20ヶ月後、“即”建築工事開始となっていますが、このスケジュールの出し方自体に無理があります。
このようなスケジュールを出してきたこと自体、技術会議の結論の信憑性が疑われます。
一、有効性が立証されていない“新技術”を採用している
「最先端の新たな技術・工法の採用」と銘打っていますが、“最先端”とは、すなわちそれだけ、使用実績が少ないということです。それを安易に採用しています。
土壌汚染の微生物処理が果たして有効であると立証されているでしょうか。東京ガスによる以前の土壌汚染処理でも微生物処理が採用されたにも関らず、これだけベンゼンの汚染が残っている事実が現に存在しています。今回の微生物処理が従来のものに比べて最先端である根拠を示す必要がありますが、明らかにされていません。
“最先端”の技術・工法が有効であるという根拠をきちんと示さずに、採用するのは非常に危険であると思います。根拠なしであるが故に、食の安全・安心を担保した土壌汚染処理がなされると信用することはできません。
一、技術会議の提言を、果たして技術会議の委員が考え出したものなのかさえ疑わしい
あくまで、想像の域を脱しませんが、ホームページ上の技術会議の会議録を読んでいますと、果たして、この技術会議で、土壌汚染対策の細かなやり方や採用技術が決められたかどうかということの疑いが生じます。どこか、裏の会議体があり、そこで青写真が作られ、それを技術会議の場で、委員が、承認したのではないかと考えられます。
そのような裏の会議体があるのであれば、東京都はそれを明らかにすべきだと思います。
これは、現段階では、あくまで、会議録の文脈から読み取った憶測です。そのように感じた理由は、委員の発言が、専門家会議の内容をあまり知らなくてなされており、主体的に考える姿勢が感じられないがゆえに、裏の会議体が考えたことを出してきているという疑念を持たざるをえません。
「市場を考える会」が、技術会議の最終報告を受けて、同日記者会見を行いました。都庁の記者クラブにおいて、一時間以上に及んだ記者会見がございましたが、今まで述べてきた内容は、その折に、話された内容も一部参考にするとともに、坂巻幸雄氏(日本環境学会土壌汚染問題ワーキンググループ長、元通産省地質調査所主任研究官)や畑明郎(日本環境学会長・大阪市立大学大学院教授)のお話を参考にまとめました。
次に、土壌汚染に関連して、小児科医師の立場から述べさせていただきます。
一、ベンゼン、ベンゾ(a)ピレン、シアン化化合物の有害性について
専門家会議の報告書から分かる汚染の実態は、とても深刻です。土壌からは、ベンゼンが環境基準の4万3000倍の430mg/lで、シアン化合物は、定量下限値(0.1mg/l)の860倍の86mg/lで見付かりました。地下水においては、全調査地点4122地点の13.6%でベンゼン(最高1万倍、100mg/l)が、約1/4の23.4%にシアン化合物(定量下限値の最高130倍 13mg/l)が検出され、広範囲に土壌汚染が広がっています(『専門家会議報告書』5-37)。なお、シアン化合物で、定量下限値という語を使用しておりますのは、環境基準では、「検出されてはならない」からであり、環境基準との比較ができないためです。
情報の隠蔽として疑われているベンゾ(a)ピレンは、最大値は590mg/kgで、自然界値1.2μg/g(2002年の環境省底質調査)の約500倍、07年調査時点の最大値の115倍でありました。検出個所は151地点あり、そのうち50mg/kg以上が15地点、5mg/kg以上も58地点あります。ベンゾ(a)ピレンについての環境基準や指針は国内にはありませんが、専門家会議の座長は「米国やドイツなどでは2mg/kgや3mg/kgがリスク評価のための基準」と発言しています。
各物質の毒性に関しましては、RBCAによるリスク評価モデルを用いる中で、高濃度のベンゼンにより発がんリスクがあったり、シアンによる急性障害が出るとして、専門家会議の委員自体が毒性を認めています。
ベンゼンの慢性毒性として、発がん性がありますが、それのみではなく、文献的には、妊娠中の胎児への催奇形性も言われており、市場内で働く女性が多い中、健康被害が懸念されます。
ベンゾ(a)ピレンは、石炭から燃料をつくるときに生じるコールタール、たばこ、車の排出ガスなどに含まれる揮発性物質であり、極度に強い発がん性があるといわれています。マウスを用いた実験では、僅かな量でも皮膚がんを引き起こすことが明らかになっています。
シアン化合物は、呼吸障害や頭痛、めまいなど急性障害を起こす猛毒物質で、健康被害を及ぼす可能性は大いに考えられます。特に、シアン化カリウム(青酸カリ)は、150~300mgが致死量となります。シアン化ガスは、青酸ガスのことで、ご存知のように、ホロコーストでも用いられました。気体の毒性の報告では、270ppmで即死というものから、5000ppm(0.5%)の1分間の吸入で半数死亡などがあります(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)。
このようにベンゼン、ベンゾ(a)ピレン、シアン化合物など、今回言われている土壌汚染物質の毒性は、非常に強く、厳重な管理を要します。特に、シアン化合物は、環境基準の「検出されてはいけない」ことを達成させる必要があります。技術会議の報告書で、「地下水を敷地全面にわたって早期に環境基準以下に浄化」と述べられていますが、専門家会議の調査で全体の約4分の1、すなわち約10ヘクタールにシアンの汚染が広がっており、果たして浄化が可能なのか大いに疑問の残るところです。
次に、地元中央区議会議員の立場(無所属)から述べさせていただきます。
一、日本国憲法 地方自治の章において保障する「団体自治」の観点から、東京都の独断による移転の強行に抗議します。
中央卸売市場は、都道府県が策定する卸売市場整備計画に基づき、農林水産大臣の認可を受けた都道府県または人口二十万人以上の指定都市が開設できるものとされています。しかしながら、現在、特別区は指定都市に含まれていないことから、都が築地市場をはじめ特別区内十箇所で市場を開設、運営しております。
卸売市場は、その周辺地域の産業や経済、住民の暮らし、さらにはまちづくりに大きな影響力を有する施設です。日本国憲法で謳われている団体自治の観点からしても、また、地方分権の流れからみても、地域の総合的、一体的なまちづくりを可能にするために、都に留保されている市場の都市計画決定や開設に関する事務に、築地市場の所在地を有する地元の区が関与することが当然のあるべき姿と考えます。
中央区ホームページ内『築地市場再整備問題の経緯と中央区の取り組み』をご覧いただきますと分かりますように、築地市場再整備を求め、中央区長、中央区議会議長は、平成10年(1998年)の「築地市場再整備に関する要望書」提出から始まり、再三にわたり「抗議」「要望書」「意見書」を東京都に提出して参りました。平成11年(1999年)当時、中央区は、築地市場現在地再整備する場合の種地として、築地川東支川の2851㎡の提供を市場当局に申し入れをしたり、平成12年(2000年)には、『築地市場現在地再整備促進基礎調査報告書』も作成し、具体的な再整備に向けた提案も行ってまいりました。
しかし、石原都知事の平成11年9月築地市場視察における「古い、狭い、そして危ない」の発言で象徴されますように、地元自治体のそれらの意見・提案を真摯に受け止めることなく、東京都は、強引に移転の方針で計画を進めてまいりました。
この度、東京都が作成配布しております『築地市場の移転整備 疑問解消BOOK なぜ移転が必要なの?』においても、地元中央区とのやりとりの経緯や移転に伴っての場外市場をはじめ周辺地域への配慮が一切書かれておりません。
日本国憲法では、地方自治の大原則である「住民自治」と「団体自治」が謳われていますが、これまでの経過を見ていただければ、東京都の地元自治体である中央区に対して、その「団体自治」のあり方に大きく反して行動してきたことがお分かりいただけると同時に、このようなことは、あってはならないのではないでしょうか。私は、「団体自治」の原則を踏みにじる東京都に対して、強く抗議を致します。
一、公開討論(リスクコミュニケーション)の必要性について
専門家、大学教授を集めて、今回のような専門家会議、技術会議を開催し、それらの提言を尊重して、政策を立案することは行政の用いる手段としてよくあることと思います。
問題は、専門家や大学教授の提言に対し、それを分析、チェックするだけの専門性を議会が有しないが故に、そのまま、提言を受けざるを得ないことです。行政が選んだ専門家、大学教授は、結論ありきのまま会議を進めたり、今回発覚したように、行政からは都合の悪い情報は与えられないまま会議が進められることがあるわけであり、出された提言そのものの妥当性・信憑性を評価する必要があるにもかかわらず、それをチェックできないでいるのです。
今回の場合で言えば、東京都は、専門家会議の場で再三、傍聴者から要望が出された、専門家会議委員と、その出した提言に疑問を呈する専門家との公開討論の場を作るべきであると考えます。その場がつくられないのであれば、都議会や国会において、「提言に疑問を呈する専門家」による公聴の場が作られることを切に願います。
以上、都民・仲卸業者・研究者と連帯して行動してきた立場として、小児科医師の立場として、そして地元中央区の区議会議員の立場として申し述べました。
最後に、しきりに東京都は、築地市場廃止、豊洲新市場開設を“決定事項”のように述べておりますが、事実無根であります。
その根拠を述べます。
中央卸売市場は、「中央卸売市場整備計画」に基づいて設置されると「卸売市場法」に定められています。そしてその「中央卸売市場整備計画」は農林水産大臣が定めます。築地の豊洲移転計画は、平成17年(2005年)3月に第八次中央卸売市場整備計画の中で書かれています。その整備計画を定める際には、「食料・農業・農村政策審議会」の意見を聞くことになっています。
第166回国会の環境委員会で明らかになったことですが、豊洲移転については、平成17年(2005年)3月17日の一日だけ開催された同審議会の分科会である「総合食料分科会」で議論されました。その「総合食料分科会」では、「汚染土壌と食の安心、安全」という議論は一切なされなかったと佐藤政府参考人は認めています。そもそも分科会には、土壌汚染の関係の専門家は入っていませんでした。よって、審議会で議論の欠けていた土壌汚染については、「東京都の動きを踏まえ、また環境省とも連携して取り組むと」農水省が断言しています。
以上の経過からわかりますように、今後土壌汚染のことがきちんと審議され、「卸売市場整備基本方針」に謳われている「食の安全・安心」が担保されて「築地市場の豊洲移転」は初めて“決定”されることになるわけです。現段階では、豊洲での生鮮食料品を扱う市場開設は、多くの難題が残されていると考えざるを得ません。
まだ、決まったことではない以上、食の安心・安全を守るため、世界のtsukijiブランドを守るため、都民・日本の“食文化の象徴”としての文化的遺産を守るため、今こそ立ち上がるべきであると考えます。
なぜ、築地市場を破壊してその土地を売却し、その代金を国内最大級の汚染地を民間の特定私企業から買い上げ、移転や汚染対策の費用に注ぎ込む費用に充てねばならないのでしょうか。
それは、市場関係者をないがしろにし、都民の利益を損ね、単に事業を受注する企業を潤すだけの愚策です。
築地市場の現在地での再整備は、十分可能です。今、あらためて真剣に考えようとしていないだけの話です。
現在地での再整備を実現し、築地の活気とにぎわいをさらに発展させ、銀座などの周辺地域の連携により、日本の食文化の中心として、さらには、都心観光拠点・都心商業の一大集積地として繁栄に導くことこそが、選択すべき道だと考えます。
平成21年2月24日
文責 中央区議会議員 小児科医師 小坂和輝
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/
連絡先 03-5547-1191
長文にもかかわらず、こうして丁寧に修正・加筆を加えていただけますこと、本当に感謝いたします。
初校 平成21年2月23日
第二校平成21年2月24日
『団体自治の原則を踏みにじる東京都の築地市場移転強行に対して強く抗議すると共に、豊洲土壌汚染対策に関して、専門家による公開討論を求めます。』
平成21年2月6日、築地市場の移転候補地、豊洲の土壌汚染の土壌処理対策を検討する「技術会議」の最終報告が提出されました。石原慎太郎都知事は、2月18日の第一回都議会定例会の施政方針表明において、豊洲新市場の平成26年(2014年)12月の開場を表明しました。
それに対し、矢田美英中央区長は2月20日の環境建設委員会の場で、私の質問を受けて、「築地市場移転に断固反対する姿勢に変わりはない。特に技術会議の方針には疑念が残る。」と発言し、あらためて中央区は移転に断固反対であることを確認したところです。
「技術会議」の土壌汚染処理に向けた提言は、一言でいうと「安かろう、悪かろう」の提言です。まったく信憑性のない提言であると考えます。
以下に、理由を述べます。
一、密室の中で進められた会議であること
東京都は、会議内容を公開していると述べていますが、どうみても密室の中で、非公開に会議を進めています。
座長以外、誰が委員であるのかすら、2月6日のプレス発表まで明かされませんでした。
会議録は、最終報告の段階でも、一切公開されず、2月17日になって、ようやく東京都中央卸売市場のホームページ上で公開されました。アップされた会議録をご覧いただくと分かりますが、発言委員名が明らかにされておらず、どの委員の発言か、わかりません。なお、会議録が本当に会議を再現したものかの疑いも残ります。
ベンゾ(a)ピレン問題や不透水層欠落・不透水層への汚染の拡大問題など朝日新聞のスクープ記事でもお分かりのように東京都に情報の隠蔽体質がある以上、様々な不都合を隠すため密室で会議を進行させたと疑わざるをえません。
科学技術の検討は、万人監視の公開のもと実施すべきであり、非公開で進められたこと自体、この会議の結論の信憑性が疑われます。
(頑なに情報公開を拒む東京都の姿勢について)
細かい話になりますが、いかに東京都が情報公開を拒んでいるか、私と東京都とのやり取りから察していただければ幸いです。
私は、第一回技術会議(8月15日)が開催された後の8月20日、速記録を情報公開請求の形で東京都に求めました。
9月3日付けの東京都の回答では、東京都情報公開条例第7条第5号を用いて、「本会議で評価・検証する内容は、都の土壌汚染対策工事の発注につながるものである。そのため、公にすることにより、外部からの干渉、圧力等により行政の内部の自由かつ率直な意見の交換が妨げられ意思決定の中立性が損なわれるおそれ、不当に都民の間に混乱を生じさせるおそれ叉は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあることから、東京都情報公開条例第7条第5号に該当する。」という理由で、非開示決定が言い渡されました。
都のこの回答を不服とし、私は、9月29日異議申し立てを以下の理由で行いました。
異議申し立ての理由:「非開示決定は、公にすることにより、外部からの干渉、圧力等により行政の内部の自由かつ率直な意見の交換が妨げられ意思決定の中立性が損なわれるおそれ等があるとして、東京都情報公開条例(以下「本条例」という)第7条第5号に該当するとする。
しかしながら、本条例前文に「開かれた都政を推進していく」「都民がその知ろうとする東京都の保有する情報を得られるよう、情報の公開を一層進めていかなければならない」などとあるとおり、本条例においては公開が原則であり、例外的に非公開とするのは、公開による不利益が具体的かつ現実に生ずる蓋然性が極めて高い場合に限定すべきである。そして、公開による不利益がある場合でも、徒に文書全体を非公開とするのではなく、このような不利益を生じさせる部分を除外したうえ、他の部分は可能な限り開示しなければならない。
速記録原稿については、確かに都の土壌汚染対策工事の発注につながるものではあるが、都民の食卓や健康等に重大な影響を及ぼす築地市場移転予定地の土壌汚染対策工事であることを勘案すれば、都民がその工事内容を知る権利を重視すべきであるし、むしろこれを公開してよりよい土壌汚染対策工事について広く都民の意見を踏まえた議論がなされるべきである。
また、公開した方が、有権者たる都民の監視のもとでのより公正な手続での発注が期待できる。
仮に全部開示が不適切である場合でも、一部技術内容や発言者等を匿名にすることで、残部についての開示は十分に可能である。」
以後、私は、再三にわたり、この異議申し立ての返事や速記録の公開を求め、東京都に申し入れを行いました。窓口の都職員とは、全技術会議の速記録を提出することをお願いしていたのでありますが、年が明け、技術会議の報告書が出された今でさえも、異議申し立てに対する返事も、速記録の公開も一切なされていません。
驚いたことに、あれほどお互いが、全会議の速記録の公開についてやりとりをしていたにもかかわらず、2月18日の都職員の回答は、私の情報公開請求は、第一回の会議分の速記録に関してのみの請求であると突然言われました。では、その第一回の速記録だけでもいいから出してもらえるようにお願いしましたが、まだ出せないということでした。
仕方なく、2月19日私はあらためて全会議の速記録の情報公開請求を東京都に行いました。回答は2週間以内に行うことになっていますので、この請求が通れば、私は、全会議の速記録を3月4日に手にすることが出来ます。
情報公開請求の非開示決定に対する異議申立に対して、いつまでに回答をしなければならないという規定はないため、致し方ないわけではありますが、既に、技術会議の最終報告が出されている以上、非開示にする理由もないわけであり、すぐにでも速記録を出せるはずです。なぜ、頑なに速記録を公開しないのか理解に苦しみます。
一、会議の中立性が担保されていない
会議の座長を務めた原島文雄氏は、元東京都立科学技術大学長であり、首都大学東京の学長に就任を予定されており、東京都と密接な利害関係を有しています。
このような座長のもとになされた検討結果が、果たして中立な結論を導き出せるでしょうか?
なにがなんでも移転を強行したいと考える東京都側に立った結論を導き出すと誰もが疑うわけであり、中立性が担保されていない以上、この会議の結論の信憑性が疑われます。
一、そもそも座長は、土壌汚染の専門家ではない
会議の座長を務めた原島文雄氏の現在の肩書きは、「東京電機大学 未来科学部 教授、システムエンジニアリング」となっています。早い話が、「ロボット工学が専門の電気工学者」ということです。
ロボット工学という畑違いの方が、土壌汚染処理の検討を進める会議の座長をすること自体に無理が見られます。この会議の結論の信憑性が疑われます。
なお、2月6日提出されたその他の構成メンバー6名の経歴は、座長代理をつとめられた矢木修身氏は、元環境省国立環境研究所水土壌圏環境部水環境室長、日本大学大学院総合科学研究科教授で専門は環境微生物工学。安田進氏は、東京電機大学理工学部教授で、原島座長が東京電機大学長時の学長補佐であり、専門は地盤工学(液状化対策)。長谷川猛氏は東京理科大学工学部工業化学科卒業後、東京都に入都され、東京都環境科学研究所長。小橋秀俊氏は、国土交通省の独立行政法人土木研究所 つくば中央研究所技術推進本部 主席研究員で専門は土木。川田誠一氏は、東京都立科学技術大学教授、産業技術大学院大学 産業技術研究科長 教授で専門はシステムエンジニアリング。根本祐二氏は、国が出資する元日本開発銀行(現:日本政策投資銀行)、東洋大学大学院経済学研究科教授で専門はプロジェクトマネジメント。つまり、東京都関係者、国関係者など御用学者で固めたメンバーと言え、土壌汚染に少しは係わりがある者は、矢木氏と長谷川氏の二人だけであり、液状化に詳しい者が安田氏のみである。これでは、土壌汚染対策の技術工法を審査する委員会としては、失格であろう。専門家会議委員4人中、平田、森澤および駒井の3人は土壌汚染の専門家であり、技術会議は専門家会議よりも専門的レベルがかなり劣る構成であると言える。
一、「専門家会議の提言の具現化」という当初約束された方向性から外れた検討結果を出してきている
技術会議は、先立って開催された「専門家会議」の提言を具現化するためには、どの技術を実際に用いたらよいのかを検討することが約束されていました。
実際に比較いただくとわかるのですが、汚染地下水の流れを制御するために建物下空間と外部空間の遮水壁を省略したり、現地の土壌を、浄化済みと称して入れ替え用の土壌に転用するなど、「専門家会議」が出した提言と、「技術会議」が出した結論が全く異なっています。
「技術会議」は、当初約束されたように「専門家会議の提言の具現化」を目指すべきであり、その提言からずれた結論は、食の安心・安全やその場所で働く市場関係者の健康への影響の安全性が担保されているとはいい難いと考えざるを得ません。
一、「有楽町層が不透水層」という一番の大前提が崩れている
土壌汚染の対策にあたり、大前提として「有楽町層」は“不透水層”であり、汚染は、その下に広がらないということがありました。
1/26、1/27と朝日新聞がスクープ記事が出されてお分かりのように、不透水層の有楽町層が確認できない箇所が数箇所存在したり、実際に有楽町層があった場所でさえ、有楽町層内へ汚染が拡大している箇所が数箇所存在していました。
「有楽町層」は“不透水層”で汚染が広がらないとして、詳細な土壌汚染調査はなされておりません。どれだけ深刻な汚染があるのか、誰も知らないまま、対策を強引に進めようとしているのです。
土壌汚染は、深層部まで深く広がっていると考えるのが、一般的な考え方と思います。
このままでは、食の安全・安心やその場所で働く市場関係者の健康への影響の安全性を担保とした土壌汚染対策がなされると信用することはできません。
一、地盤の弱い土地では、土盛り後、地盤の安定を確認するために2年間放置する必要があるが、整備方針のスケジュールにはその期間の想定がまったくない
建築工事のあり方では、常識となっていますが、地盤の弱い土地では、土盛り後、地盤の安定を確認するために2年間放置する必要があります。実際に、豊洲移転候補地では、その期間経過をみた場所が存在しています。あらたに土壌の入れ替えを行うわけであり、その後、地盤の安定をみる期間が2年間必要であります。
この期間をもたずに、土壌汚染対策工事20ヶ月後、“即”建築工事開始となっていますが、このスケジュールの出し方自体に無理があります。
このようなスケジュールを出してきたこと自体、技術会議の結論の信憑性が疑われます。
一、有効性が立証されていない“新技術”を採用している
「最先端の新たな技術・工法の採用」と銘打っていますが、“最先端”とは、すなわちそれだけ、使用実績が少ないということです。それを安易に採用しています。
土壌汚染の微生物処理が果たして有効であると立証されているでしょうか。東京ガスによる以前の土壌汚染処理でも微生物処理が採用されたにも関らず、これだけベンゼンの汚染が残っている事実が現に存在しています。今回の微生物処理が従来のものに比べて最先端である根拠を示す必要がありますが、明らかにされていません。
“最先端”の技術・工法が有効であるという根拠をきちんと示さずに、採用するのは非常に危険であると思います。根拠なしであるが故に、食の安全・安心を担保した土壌汚染処理がなされると信用することはできません。
一、技術会議の提言を、果たして技術会議の委員が考え出したものなのかさえ疑わしい
あくまで、想像の域を脱しませんが、ホームページ上の技術会議の会議録を読んでいますと、果たして、この技術会議で、土壌汚染対策の細かなやり方や採用技術が決められたかどうかということの疑いが生じます。どこか、裏の会議体があり、そこで青写真が作られ、それを技術会議の場で、委員が、承認したのではないかと考えられます。
そのような裏の会議体があるのであれば、東京都はそれを明らかにすべきだと思います。
これは、現段階では、あくまで、会議録の文脈から読み取った憶測です。そのように感じた理由は、委員の発言が、専門家会議の内容をあまり知らなくてなされており、主体的に考える姿勢が感じられないがゆえに、裏の会議体が考えたことを出してきているという疑念を持たざるをえません。
「市場を考える会」が、技術会議の最終報告を受けて、同日記者会見を行いました。都庁の記者クラブにおいて、一時間以上に及んだ記者会見がございましたが、今まで述べてきた内容は、その折に、話された内容も一部参考にするとともに、坂巻幸雄氏(日本環境学会土壌汚染問題ワーキンググループ長、元通産省地質調査所主任研究官)や畑明郎(日本環境学会長・大阪市立大学大学院教授)のお話を参考にまとめました。
次に、土壌汚染に関連して、小児科医師の立場から述べさせていただきます。
一、ベンゼン、ベンゾ(a)ピレン、シアン化化合物の有害性について
専門家会議の報告書から分かる汚染の実態は、とても深刻です。土壌からは、ベンゼンが環境基準の4万3000倍の430mg/lで、シアン化合物は、定量下限値(0.1mg/l)の860倍の86mg/lで見付かりました。地下水においては、全調査地点4122地点の13.6%でベンゼン(最高1万倍、100mg/l)が、約1/4の23.4%にシアン化合物(定量下限値の最高130倍 13mg/l)が検出され、広範囲に土壌汚染が広がっています(『専門家会議報告書』5-37)。なお、シアン化合物で、定量下限値という語を使用しておりますのは、環境基準では、「検出されてはならない」からであり、環境基準との比較ができないためです。
情報の隠蔽として疑われているベンゾ(a)ピレンは、最大値は590mg/kgで、自然界値1.2μg/g(2002年の環境省底質調査)の約500倍、07年調査時点の最大値の115倍でありました。検出個所は151地点あり、そのうち50mg/kg以上が15地点、5mg/kg以上も58地点あります。ベンゾ(a)ピレンについての環境基準や指針は国内にはありませんが、専門家会議の座長は「米国やドイツなどでは2mg/kgや3mg/kgがリスク評価のための基準」と発言しています。
各物質の毒性に関しましては、RBCAによるリスク評価モデルを用いる中で、高濃度のベンゼンにより発がんリスクがあったり、シアンによる急性障害が出るとして、専門家会議の委員自体が毒性を認めています。
ベンゼンの慢性毒性として、発がん性がありますが、それのみではなく、文献的には、妊娠中の胎児への催奇形性も言われており、市場内で働く女性が多い中、健康被害が懸念されます。
ベンゾ(a)ピレンは、石炭から燃料をつくるときに生じるコールタール、たばこ、車の排出ガスなどに含まれる揮発性物質であり、極度に強い発がん性があるといわれています。マウスを用いた実験では、僅かな量でも皮膚がんを引き起こすことが明らかになっています。
シアン化合物は、呼吸障害や頭痛、めまいなど急性障害を起こす猛毒物質で、健康被害を及ぼす可能性は大いに考えられます。特に、シアン化カリウム(青酸カリ)は、150~300mgが致死量となります。シアン化ガスは、青酸ガスのことで、ご存知のように、ホロコーストでも用いられました。気体の毒性の報告では、270ppmで即死というものから、5000ppm(0.5%)の1分間の吸入で半数死亡などがあります(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)。
このようにベンゼン、ベンゾ(a)ピレン、シアン化合物など、今回言われている土壌汚染物質の毒性は、非常に強く、厳重な管理を要します。特に、シアン化合物は、環境基準の「検出されてはいけない」ことを達成させる必要があります。技術会議の報告書で、「地下水を敷地全面にわたって早期に環境基準以下に浄化」と述べられていますが、専門家会議の調査で全体の約4分の1、すなわち約10ヘクタールにシアンの汚染が広がっており、果たして浄化が可能なのか大いに疑問の残るところです。
次に、地元中央区議会議員の立場(無所属)から述べさせていただきます。
一、日本国憲法 地方自治の章において保障する「団体自治」の観点から、東京都の独断による移転の強行に抗議します。
中央卸売市場は、都道府県が策定する卸売市場整備計画に基づき、農林水産大臣の認可を受けた都道府県または人口二十万人以上の指定都市が開設できるものとされています。しかしながら、現在、特別区は指定都市に含まれていないことから、都が築地市場をはじめ特別区内十箇所で市場を開設、運営しております。
卸売市場は、その周辺地域の産業や経済、住民の暮らし、さらにはまちづくりに大きな影響力を有する施設です。日本国憲法で謳われている団体自治の観点からしても、また、地方分権の流れからみても、地域の総合的、一体的なまちづくりを可能にするために、都に留保されている市場の都市計画決定や開設に関する事務に、築地市場の所在地を有する地元の区が関与することが当然のあるべき姿と考えます。
中央区ホームページ内『築地市場再整備問題の経緯と中央区の取り組み』をご覧いただきますと分かりますように、築地市場再整備を求め、中央区長、中央区議会議長は、平成10年(1998年)の「築地市場再整備に関する要望書」提出から始まり、再三にわたり「抗議」「要望書」「意見書」を東京都に提出して参りました。平成11年(1999年)当時、中央区は、築地市場現在地再整備する場合の種地として、築地川東支川の2851㎡の提供を市場当局に申し入れをしたり、平成12年(2000年)には、『築地市場現在地再整備促進基礎調査報告書』も作成し、具体的な再整備に向けた提案も行ってまいりました。
しかし、石原都知事の平成11年9月築地市場視察における「古い、狭い、そして危ない」の発言で象徴されますように、地元自治体のそれらの意見・提案を真摯に受け止めることなく、東京都は、強引に移転の方針で計画を進めてまいりました。
この度、東京都が作成配布しております『築地市場の移転整備 疑問解消BOOK なぜ移転が必要なの?』においても、地元中央区とのやりとりの経緯や移転に伴っての場外市場をはじめ周辺地域への配慮が一切書かれておりません。
日本国憲法では、地方自治の大原則である「住民自治」と「団体自治」が謳われていますが、これまでの経過を見ていただければ、東京都の地元自治体である中央区に対して、その「団体自治」のあり方に大きく反して行動してきたことがお分かりいただけると同時に、このようなことは、あってはならないのではないでしょうか。私は、「団体自治」の原則を踏みにじる東京都に対して、強く抗議を致します。
一、公開討論(リスクコミュニケーション)の必要性について
専門家、大学教授を集めて、今回のような専門家会議、技術会議を開催し、それらの提言を尊重して、政策を立案することは行政の用いる手段としてよくあることと思います。
問題は、専門家や大学教授の提言に対し、それを分析、チェックするだけの専門性を議会が有しないが故に、そのまま、提言を受けざるを得ないことです。行政が選んだ専門家、大学教授は、結論ありきのまま会議を進めたり、今回発覚したように、行政からは都合の悪い情報は与えられないまま会議が進められることがあるわけであり、出された提言そのものの妥当性・信憑性を評価する必要があるにもかかわらず、それをチェックできないでいるのです。
今回の場合で言えば、東京都は、専門家会議の場で再三、傍聴者から要望が出された、専門家会議委員と、その出した提言に疑問を呈する専門家との公開討論の場を作るべきであると考えます。その場がつくられないのであれば、都議会や国会において、「提言に疑問を呈する専門家」による公聴の場が作られることを切に願います。
以上、都民・仲卸業者・研究者と連帯して行動してきた立場として、小児科医師の立場として、そして地元中央区の区議会議員の立場として申し述べました。
最後に、しきりに東京都は、築地市場廃止、豊洲新市場開設を“決定事項”のように述べておりますが、事実無根であります。
その根拠を述べます。
中央卸売市場は、「中央卸売市場整備計画」に基づいて設置されると「卸売市場法」に定められています。そしてその「中央卸売市場整備計画」は農林水産大臣が定めます。築地の豊洲移転計画は、平成17年(2005年)3月に第八次中央卸売市場整備計画の中で書かれています。その整備計画を定める際には、「食料・農業・農村政策審議会」の意見を聞くことになっています。
第166回国会の環境委員会で明らかになったことですが、豊洲移転については、平成17年(2005年)3月17日の一日だけ開催された同審議会の分科会である「総合食料分科会」で議論されました。その「総合食料分科会」では、「汚染土壌と食の安心、安全」という議論は一切なされなかったと佐藤政府参考人は認めています。そもそも分科会には、土壌汚染の関係の専門家は入っていませんでした。よって、審議会で議論の欠けていた土壌汚染については、「東京都の動きを踏まえ、また環境省とも連携して取り組むと」農水省が断言しています。
以上の経過からわかりますように、今後土壌汚染のことがきちんと審議され、「卸売市場整備基本方針」に謳われている「食の安全・安心」が担保されて「築地市場の豊洲移転」は初めて“決定”されることになるわけです。現段階では、豊洲での生鮮食料品を扱う市場開設は、多くの難題が残されていると考えざるを得ません。
まだ、決まったことではない以上、食の安心・安全を守るため、世界のtsukijiブランドを守るため、都民・日本の“食文化の象徴”としての文化的遺産を守るため、今こそ立ち上がるべきであると考えます。
なぜ、築地市場を破壊してその土地を売却し、その代金を国内最大級の汚染地を民間の特定私企業から買い上げ、移転や汚染対策の費用に注ぎ込む費用に充てねばならないのでしょうか。
それは、市場関係者をないがしろにし、都民の利益を損ね、単に事業を受注する企業を潤すだけの愚策です。
築地市場の現在地での再整備は、十分可能です。今、あらためて真剣に考えようとしていないだけの話です。
現在地での再整備を実現し、築地の活気とにぎわいをさらに発展させ、銀座などの周辺地域の連携により、日本の食文化の中心として、さらには、都心観光拠点・都心商業の一大集積地として繁栄に導くことこそが、選択すべき道だと考えます。
平成21年2月24日
文責 中央区議会議員 小児科医師 小坂和輝
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