宇部市の行政視察後、隣の山口市に立ち寄り、以前より注目をさせていただいていた「夢のみずうみ村山口デイサービスセンター」を丸一日を通して個人視察させていただいた。
パンフレットには、「あなたの「3つの夢」をかなえるお手伝いをさせていただきます」とある。
「生きがい人生を送りたい夢」
「健康で元気に暮らしたい夢」
「いつまでも自分らしくありたい夢」
実際に訪れてみると、予想を大いに上回る驚きの施設であった。
下に朝日新聞の社説を掲載するが、介護についてコペルニクス的発想の転換がその施設にはあった。
多くの介護の現状は、「足し算」の介護。この施設は、「引き算」の介護なのである。
すなわち、「足し算の介護」では、サービスをあれもこれもと足して行く、足せば足すほど、自分の残存能力や意思が弱まっていく、介護度はできるだけ重くなる判定が出ることが介護保険上使えるサービスが増える点で望ましく、介護度が上がった場合、逆になぜ上がったのかと回復を喜ぶよりもクレームになってしまう。
一方、この施設で行われている「引き算の介護」では、極力、サービスが不要な状態を目指し、自分の能力を引き出す方向で行われ、結果、目に見える形で、自分の残存能力が伸び、失われていた能力が再生されるのである。
「引き算の介護」を可能にする仕組み・アイデアが、この施設にはあり、この仕組みこそ、この施設から学ぶべき点である。
その仕組み・アイデアを順不同で列挙すれば、(これこそ枚挙に暇がないわけであるがあえて列挙にチャレンジしてみると)
1)施設内のプログラムを自分で選択
2)受けるプログラムは、多種多様で魅力的なものが準備されている、その到達度は、趣味のレベルを超え、プロの域に達するものもある
料理教室、パンづくり、陶芸、ガラス細工、貼り絵、パソコン、木工、水彩画、写真、書道など
3)様々なマッサージ機がふんだんに使える。作業療法士や看護師が管理しながら。
水ベッド、足の空気圧迫マッサージ、カプセル型マッサージ、
4)作業療法士によるあんまサービスがふんだんに使える。
気持ちのよいマッサージとともに、あんま士とのコミュニケーションがさらに気力体力の充実につながる。
5)筋力トレーニングがふんだんに使える。筋肉トレーニングは、行うことで、のちに述べる地域通貨を入手することができる。
6)ろうかにてすりなどなく、タンスがある。できる限りの「バリアフリー」ではなく、「バリアアリー」
7)地域通貨があり、これを使うことでサービスを受けることができ、これを自分自身のがんばりの中で、稼ぐことができる。
稼ぐ方法:ダーツ、廊下を自分の設定時間内での往復、施設内に掲示されているクイズに全問正解する、水先案内人をする、自分の食器の準備をする、自分自身が講師になって利用者に講座をする、筋力トレーニングをする
8)温水プールを利用できる
歩行練習レーンがある
9)昔の生活道具を利用することで回想セラピーができる
昔の農機具、釜、脱穀器械などの設置
10)さまざまな余暇を楽しむことができる
カラオケ、時代劇、
11)食事は、バイキング
各自、自分で、自分の食器に食材をもりつけ、テーブルに着く。食後は、自分で、返却に行く。
足の不自由な方は、足のついたキャスター型テーブルに自分のおボンとお皿を置いて、乳母車のように押しながら移動。
12)目標になるようなイベントの開催
一週間の産業展、第一回夢のみずうみ杯片麻痺ゴルフコンペ沖縄、一年に一度の自費での旅行(北海道や京都など)
13)見学者の受け入れ
14)施設内のいたるところに頭を使いたくなるクイズ
難しい漢字の読み仮名、駅名ならべ、計算など
15)十分な数の意欲的なスタッフ及び研修スタッフ
16)施設の机、椅子、引き出しなどは、すべて中古の家具類
17)施設の各場所すべてに、親しみやすくなる命名
食堂兼ホール:お台場、廊下:タンス街道、
などなど
私は、丸一日、午前10時から午後4時過ぎまで、施設見学をさせていただいた。
施設内を案内くださったのは、施設に通う利用者で、多くの見学者が訪れる施設であるがゆえに、水先案内人という役割を与えられているという。
私の水先案内人は、介護度1で左手・左足麻痺の方。週3で月9回の利用。前食は、英語の教師、77歳。施設に来られて5年。
利用者の一日の流れは、
1)施設に来ると、自分でその日のプログラムを作成する。
2)午前10時、ホールでは、椅子に座っての体操
3)自由に自分のプログラム
4)12時ごろ 昼食
5)自由に自分のプログラム
6)ホールに集まって送迎車待ち
利用者といろいろ話させていただいたが、まさにその利用者から教わることも多くあった。
87歳の方は、プロ顔負けの陶芸をなさり、かつ歴史に詳しい。応仁の前の乱の存在、北朝と南朝でどちらが今の天皇か、楠正成の縁の山口の場所などなどとうとうとかつ楽しそうにご教授下さった。
皆、いきいきとご自身の人生を謳歌されている施設であった。
130人ほどの利用者に100名ほどのスタッフ。
介護保険のみでそれ以外は、例えば山口市からの特別な助成は入っていない。
これだけの充実したサービスで、採算性をあわせることは、並大抵の努力ではできないことは確かと感じた。
ただ、2001年に始まり、着実にこの地に根付き、いまや厚生労働省からも、また、全国的に注目され、研修を受けたものや視察したものから、「夢のみずうみ村」の介護への思いは、全国に着実に伝播しつつあると思われる。
本区では、本物に出会える場、自分を行かせる活躍の場、学ぶ場、運動の場など、個々のサービスとしては、充実したものがある。
思いをもった多くのケアマネージャーもいらっしゃる。
これらサービスが定期的に受けられる仕組みとアクセスのための交通機関の整備、食事を得る場、医療介護看護の連携、病院と診療所と保健所の連携などが整えば、同様な「引き算の介護」すなわち「生きがい、健康、自分らしさを大切にした介護」が受けれるものと確信している。
視察を受け入れてくださいました「夢のみずうみ村」のスタッフと利用者の皆様、案内を下さった利用者の皆様、本当にありがとうございました。
中央区の介護の充実に、生かしていく所存です。
****朝日新聞社説(2006・9・18)*****
敬老の日 引き算の介護もいいね
「夢のみずうみ村デイサービスセンター」は、自然豊かな山口市の郊外にある。訪ねてみると、驚きの連続だ。
毎日80人ほどの高齢者が通ってくる。職員が準備した歌をみんなで歌ったり体操したりといった多くの施設で目にする光景は、ここでは見られない。その日をどう過ごすかは、100以上ある活動メニューから利用者自身が決めるのだ。
左半身が不自由なある女性は、朝10時から11時までパソコンを習う。その後はプールでリハビリに励む。午後からは料理教室で片手を上手に使ってちらしずしを作る。こんなふうに活動内容が一人ひとり、違う。「ごろ寝」や「ぼーっとしている」時間があってもいい。
昼食は上げ膳据え膳ではなくバイキングだ。手足が不自由でもお盆を持って列に並び、ごはん、カツカレー、サラダ、ワカメスープ、フルーツなどを自分で取り分ける。職員は、どうしても助けが必要なときに手を添えるだけだ。
利用者は、できることはすべて自分でしなくてはならない。体が不自由になっても生活能力を磨き、生きることを楽しんでもらう。それがここの方針だ。
車いすは、できるだけ使わない。建物はバリアフリーどころか「バリアアリー」。200メートルを超える長い廊下に手すりがない。代わりに片側にタンスがずらりと並んでいる。利用者は、タンスにつかまりながら、そろそろと歩く。
脳梗塞で倒れて左半身がまひし、車いす生活になった男性、三好義海さん(76)は、5年前のオープン直後から、このセンターに通っている。いまではつえなしで伝い歩きができるまでになった。
この施設を営むNPOの理事長で作業療法士でもある藤原茂さんは話す。「ふつの家庭でぶつかる不自由とリスクを克服できれば、自宅で長く暮らせるし、自信を持って外出もできる」
利用者は、1ヶ月ごとに動作や体調を調べて成果を確かめる。ほとんどのひとの要介護度が改善する。現在は低いレベルの1と2が大半を占めている。
夢のみずうみ村の多彩な活動は、特技をもった利用者が講師になることで成り立っている。講師になれば、報酬が支払われる。やる気が起きる工夫が、ほかにもこらされている。たとえば職員が洗ったお茶わんを自分で片づけると、施設内だけで通用する地域通貨がもらえる。
本人の力を引き出す取り組みは、高齢者へのサービスや介護について考えるヒントをくれる。
できるだけ健康でいたい。たとえ介護が必要になっても、悪くならないように保ちたい。高齢者の多くはそう望んでいるのではないだろうか。
あれもこれも、とお世話を重ねる足し算の介護よりも、残っている力や意欲を生かす引き算の介護に目を向けたい。
高齢者の自立と尊厳を支える介護とはどのようなものか。そこに立ち返って考えてみるのも悪くはない。
*****以上*****
パンフレットには、「あなたの「3つの夢」をかなえるお手伝いをさせていただきます」とある。
「生きがい人生を送りたい夢」
「健康で元気に暮らしたい夢」
「いつまでも自分らしくありたい夢」
実際に訪れてみると、予想を大いに上回る驚きの施設であった。
下に朝日新聞の社説を掲載するが、介護についてコペルニクス的発想の転換がその施設にはあった。
多くの介護の現状は、「足し算」の介護。この施設は、「引き算」の介護なのである。
すなわち、「足し算の介護」では、サービスをあれもこれもと足して行く、足せば足すほど、自分の残存能力や意思が弱まっていく、介護度はできるだけ重くなる判定が出ることが介護保険上使えるサービスが増える点で望ましく、介護度が上がった場合、逆になぜ上がったのかと回復を喜ぶよりもクレームになってしまう。
一方、この施設で行われている「引き算の介護」では、極力、サービスが不要な状態を目指し、自分の能力を引き出す方向で行われ、結果、目に見える形で、自分の残存能力が伸び、失われていた能力が再生されるのである。
「引き算の介護」を可能にする仕組み・アイデアが、この施設にはあり、この仕組みこそ、この施設から学ぶべき点である。
その仕組み・アイデアを順不同で列挙すれば、(これこそ枚挙に暇がないわけであるがあえて列挙にチャレンジしてみると)
1)施設内のプログラムを自分で選択
2)受けるプログラムは、多種多様で魅力的なものが準備されている、その到達度は、趣味のレベルを超え、プロの域に達するものもある
料理教室、パンづくり、陶芸、ガラス細工、貼り絵、パソコン、木工、水彩画、写真、書道など
3)様々なマッサージ機がふんだんに使える。作業療法士や看護師が管理しながら。
水ベッド、足の空気圧迫マッサージ、カプセル型マッサージ、
4)作業療法士によるあんまサービスがふんだんに使える。
気持ちのよいマッサージとともに、あんま士とのコミュニケーションがさらに気力体力の充実につながる。
5)筋力トレーニングがふんだんに使える。筋肉トレーニングは、行うことで、のちに述べる地域通貨を入手することができる。
6)ろうかにてすりなどなく、タンスがある。できる限りの「バリアフリー」ではなく、「バリアアリー」
7)地域通貨があり、これを使うことでサービスを受けることができ、これを自分自身のがんばりの中で、稼ぐことができる。
稼ぐ方法:ダーツ、廊下を自分の設定時間内での往復、施設内に掲示されているクイズに全問正解する、水先案内人をする、自分の食器の準備をする、自分自身が講師になって利用者に講座をする、筋力トレーニングをする
8)温水プールを利用できる
歩行練習レーンがある
9)昔の生活道具を利用することで回想セラピーができる
昔の農機具、釜、脱穀器械などの設置
10)さまざまな余暇を楽しむことができる
カラオケ、時代劇、
11)食事は、バイキング
各自、自分で、自分の食器に食材をもりつけ、テーブルに着く。食後は、自分で、返却に行く。
足の不自由な方は、足のついたキャスター型テーブルに自分のおボンとお皿を置いて、乳母車のように押しながら移動。
12)目標になるようなイベントの開催
一週間の産業展、第一回夢のみずうみ杯片麻痺ゴルフコンペ沖縄、一年に一度の自費での旅行(北海道や京都など)
13)見学者の受け入れ
14)施設内のいたるところに頭を使いたくなるクイズ
難しい漢字の読み仮名、駅名ならべ、計算など
15)十分な数の意欲的なスタッフ及び研修スタッフ
16)施設の机、椅子、引き出しなどは、すべて中古の家具類
17)施設の各場所すべてに、親しみやすくなる命名
食堂兼ホール:お台場、廊下:タンス街道、
などなど
私は、丸一日、午前10時から午後4時過ぎまで、施設見学をさせていただいた。
施設内を案内くださったのは、施設に通う利用者で、多くの見学者が訪れる施設であるがゆえに、水先案内人という役割を与えられているという。
私の水先案内人は、介護度1で左手・左足麻痺の方。週3で月9回の利用。前食は、英語の教師、77歳。施設に来られて5年。
利用者の一日の流れは、
1)施設に来ると、自分でその日のプログラムを作成する。
2)午前10時、ホールでは、椅子に座っての体操
3)自由に自分のプログラム
4)12時ごろ 昼食
5)自由に自分のプログラム
6)ホールに集まって送迎車待ち
利用者といろいろ話させていただいたが、まさにその利用者から教わることも多くあった。
87歳の方は、プロ顔負けの陶芸をなさり、かつ歴史に詳しい。応仁の前の乱の存在、北朝と南朝でどちらが今の天皇か、楠正成の縁の山口の場所などなどとうとうとかつ楽しそうにご教授下さった。
皆、いきいきとご自身の人生を謳歌されている施設であった。
130人ほどの利用者に100名ほどのスタッフ。
介護保険のみでそれ以外は、例えば山口市からの特別な助成は入っていない。
これだけの充実したサービスで、採算性をあわせることは、並大抵の努力ではできないことは確かと感じた。
ただ、2001年に始まり、着実にこの地に根付き、いまや厚生労働省からも、また、全国的に注目され、研修を受けたものや視察したものから、「夢のみずうみ村」の介護への思いは、全国に着実に伝播しつつあると思われる。
本区では、本物に出会える場、自分を行かせる活躍の場、学ぶ場、運動の場など、個々のサービスとしては、充実したものがある。
思いをもった多くのケアマネージャーもいらっしゃる。
これらサービスが定期的に受けられる仕組みとアクセスのための交通機関の整備、食事を得る場、医療介護看護の連携、病院と診療所と保健所の連携などが整えば、同様な「引き算の介護」すなわち「生きがい、健康、自分らしさを大切にした介護」が受けれるものと確信している。
視察を受け入れてくださいました「夢のみずうみ村」のスタッフと利用者の皆様、案内を下さった利用者の皆様、本当にありがとうございました。
中央区の介護の充実に、生かしていく所存です。
****朝日新聞社説(2006・9・18)*****
敬老の日 引き算の介護もいいね
「夢のみずうみ村デイサービスセンター」は、自然豊かな山口市の郊外にある。訪ねてみると、驚きの連続だ。
毎日80人ほどの高齢者が通ってくる。職員が準備した歌をみんなで歌ったり体操したりといった多くの施設で目にする光景は、ここでは見られない。その日をどう過ごすかは、100以上ある活動メニューから利用者自身が決めるのだ。
左半身が不自由なある女性は、朝10時から11時までパソコンを習う。その後はプールでリハビリに励む。午後からは料理教室で片手を上手に使ってちらしずしを作る。こんなふうに活動内容が一人ひとり、違う。「ごろ寝」や「ぼーっとしている」時間があってもいい。
昼食は上げ膳据え膳ではなくバイキングだ。手足が不自由でもお盆を持って列に並び、ごはん、カツカレー、サラダ、ワカメスープ、フルーツなどを自分で取り分ける。職員は、どうしても助けが必要なときに手を添えるだけだ。
利用者は、できることはすべて自分でしなくてはならない。体が不自由になっても生活能力を磨き、生きることを楽しんでもらう。それがここの方針だ。
車いすは、できるだけ使わない。建物はバリアフリーどころか「バリアアリー」。200メートルを超える長い廊下に手すりがない。代わりに片側にタンスがずらりと並んでいる。利用者は、タンスにつかまりながら、そろそろと歩く。
脳梗塞で倒れて左半身がまひし、車いす生活になった男性、三好義海さん(76)は、5年前のオープン直後から、このセンターに通っている。いまではつえなしで伝い歩きができるまでになった。
この施設を営むNPOの理事長で作業療法士でもある藤原茂さんは話す。「ふつの家庭でぶつかる不自由とリスクを克服できれば、自宅で長く暮らせるし、自信を持って外出もできる」
利用者は、1ヶ月ごとに動作や体調を調べて成果を確かめる。ほとんどのひとの要介護度が改善する。現在は低いレベルの1と2が大半を占めている。
夢のみずうみ村の多彩な活動は、特技をもった利用者が講師になることで成り立っている。講師になれば、報酬が支払われる。やる気が起きる工夫が、ほかにもこらされている。たとえば職員が洗ったお茶わんを自分で片づけると、施設内だけで通用する地域通貨がもらえる。
本人の力を引き出す取り組みは、高齢者へのサービスや介護について考えるヒントをくれる。
できるだけ健康でいたい。たとえ介護が必要になっても、悪くならないように保ちたい。高齢者の多くはそう望んでいるのではないだろうか。
あれもこれも、とお世話を重ねる足し算の介護よりも、残っている力や意欲を生かす引き算の介護に目を向けたい。
高齢者の自立と尊厳を支える介護とはどのようなものか。そこに立ち返って考えてみるのも悪くはない。
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