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憲法学回答:政教分離 地震被害で倒壊した神社再建のため町による再建資金貸出(審査基準有)は許されるか

2012-05-26 05:59:37 | シチズンシップ教育
 私が、最も楽しみにしている課目のひとつが憲法学です。

 その憲法学で、本日がタイムリミットの課題が出されました。
 まさに、ありうる話と思います。

 このようなケースを机上で考え、机上で考えることで終わらすことなく、得た知識は、実社会に生かしていきたいと思っています。

 以下、課題に引き続き、回答案も作ってみました。

 回答案は、与えられたケースにおける机上の回答・意見であり、現実社会で実際にどのように政策をつくるかまでは、ここでは述べきれませんので、その点はご容赦願います。



******課題*****


次の文を読んで問に答えなさい。(司法試験用の解答用紙4枚以内で書いてみて下さい。)

 北海道の離島にあるA町は、大規模な地震と津波の被害(以下「本件地震等による被害」という。)を受けて、多くの建物が倒壊した。

 A町は、北海道と国の支援を受けて、被災者(個人または法人)に対して、収入・被害程度等の一定の基準(以下「本件基準」)を満たす場合には、本人の申請を受けて審査し自宅・店舗等の営業施設の再建ための資金を被害額に応じて貸し出すことにした。

 A町にある神社Bは、長年にわたって町民に親しまれてきた神社であり、例大祭は多数の島民が参加する島内の一大行事であったところ、本件地震等による被害のために、完全に倒壊し、また、付属する他の設備も冠水し、祭礼等の神社として機能を営むことができない状態にあった。
 神社Bが属する神社本庁は、神社Bが被った本件地震等の被害に対して支援金を提供したが、神社再建には不十分であったので、神社Bの神主Cは、神社Bの再建のために、A町に対して神社Bは本件基準を満たす者であるとして、再建資金の貸し出しを申請した(以下「本件申請」という)。
 A町役場は、本件申請に対して、本件基準を当てはめたところ、同基準に適合することから、被害額に応じた再建資金を貸し出すことを決定した(以下「本件貸出」という)。

 これに対して、仏教系の新興宗教の信徒であり、島内に住むDは、本件貸出は、政教分離原則に違反する違法な支出であるとして、地方自治法に則り、町長に対して損害の補填を求めて住民訴訟を提起した。

問1 あなたがDの代理人の弁護士であるとすれば、あなたは、本件の住民訴訟において本件貸出に係る憲法上の主張をどのように行いますか。

問2 問1の憲法上の主張についての町側の反論を想定しつつ、あなた自身の見解を論じなさい。


******回答案*****

問い1
1 政教分離原則と憲法二〇条三項、八九条により禁止される国家等の行為
 政教分離規定は、「制度的保障の規定」であり、信教の自由そのものを直接保障するものではなく、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由を保障しようとしている。
 日本が、政教分離を打ち出したことには、過去において、信教の自由が保障されていなかったという歴史的経過がある。
 すなわち、大日本帝国憲法に一応は信教の自由を保障する規定(二八条)を設けていたものの、その保障は「安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ」という同条自体の制限を伴つていたばかりでなく、国家神道に対し事実上国教的な地位が与えられ、ときとして、それに対する信仰が要請された。他方、一部の宗教団体に対しきびしい迫害が加えられたこともあった。
 第二次世界大戦終了とともに、憲法は、国家と神道が密接に結び付くことで生じた種々の弊害をかんがみ、信仰の自由を無条件に保障するとし、さらに、その保障を一層確実にするために、政教分離規定を設けた。国家と宗教との完全な分離を理想とし、国家の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとした。
 しかし、それにより、実際に、完全な国家と宗教との分離が完全になされているかというと、実現不可能であり、一定の限界がある。
 なぜなら、宗教は、信仰という個人の内心的な事情としての側面を有するにとどまらず、同時にきわめて多方面に外部的な社会事象としての側面をともない、教育、福祉、文化、民族風習など広範な場面で社会生活と接触することになり、その当然の帰結として、国家が、社会生活に規制を加え、あるいは、教育、福祉、文化などに関する女性、援助等の諸施策を実施するにあたって、宗教との関わり合いを生じることを免れえなくなっているからである。
 完全に政教分離を貫こうとすれば、社会生活の各方面に不合理な事態を生じることも免れ得ないといえる。例えば、宗教系私立学校に対する公的助成、文化財である寺社などへの補助金支出、刑務所における教誨活動などが許されないことなど。
 よって、政教分離の原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するが、国家と宗教とのかかわりを全く許さないとするのではなく、宗教とのかかわりあいをもたらす行為の目的及び効果にかんがみそのかかわりあいが相当とされる限度を超えるものと認める場合に、許さないと解すべきである。
 憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動とは、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきとされる。
 典型的には、宗教教育のような宗教の布教、教化、宣伝等の活動。
 そのほか宗教上の祝典、儀式、行事等であつても、目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきものである限り、当然、これに含まれる。

  憲法八九条が禁止している公金その他の公の財産を宗教上の組織又は団体の使用、便益又は維持のために支出すること又はその利用に供することというのも、前記の政教分離原則の意義に照らして、公金支出行為等における国家と宗教とのかかわり合いが前記の相当とされる限度を超えるものをいうものと解すべきであり、これに該当するかどうかを検討するに当たっては、前記と同様の基準によって判断しなければならない。
 以上は、当裁判所の判例の趣旨とするところでもある(最高裁昭和四六年(行ツ)第六九号同五二年七月一三日大法廷判決・民集三一巻四号五三三頁、最高裁昭和五七年(オ)第九〇二号同六三年六月一日大法廷判決・民集四二巻五号二七七頁参照)。

2 本件支出の違法性
 本件支出は、被災者に対して、本件基準を満たす場合には、申請を受けて審査し自宅・店舗等の営業施設の再建のための資金を被害額に応じて貸し出すものであり、神社Bの神主Cにより、神社Bの再建のためなされた。神社Bは、例大祭をはじめ島民が参加する宗教上の儀式が執り行われる場所であり、神社の再建は、宗教的意義を有すると考えられることは明らかなものである。その資金により神社が再建されると、壊滅したA町内で、神社Bのみが際だって早い再建がなされることになり、これは、一般人が、特定の宗教を、A町が援助、助長、促進していると評価をすることは考えやすい。また、再建資金の貸し出しを他の宗教団体の同種の再建に対して同様の支出をしたという事実がうかがわれないのであって、A町が、再建資金の貸し出し申請に対し、貸し出し決定をしたことは、意識的に特別なかかわり合いをを持ったことを否定することはできない。
 たしかに、A町にある神社Bは、長年にわたって町民に親しまれてきた神社であって、例大祭は多数の島民が参加する島民の一大行事となっている。神社が早々に復興し、例大祭が早期に挙行できることは、大震災の被害から島民ひとりひとりが立ち直る象徴的なイベントとなることは容易に想像でき、島民も待ちわびていることであろう。ただし、再建にあたりA町の公金が宗教施設である神社再建に貸し出されることは、自宅や商店街の店舗への貸し出しのように世俗的目的で行われたものとして憲法に違反しないとはいうことができない。
 以上の事情を総合的に考慮して判断すれば、A町が本件貸出をすることは、その目的が宗教的意義を持つことを免れず、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進になると認めるべきであり、これによってもたらされるA町と神社Bとの係わり合いが相当とされる限度を超えるものであって、憲法20条3項に禁止する政教分離違反であると解するのが相当である。そうすると、本件貸出は、違法というべきである。また、神社は、憲法89条にいう宗教上の組織又は団体に当たることが明らかであるところ、本件貸出は、A町と神社との係わり合いが相当とされる限度を超えるものと解されるのであるから、本件支出は、同条の禁止する公金の支出に当たり、違法というべきである。

3 損害賠償責任の有無
 A町長は、自己の権限に属する本件貸出を違法に行ったのであり、違法な本件支出によりA町が被った本件支出金相当額の損害を賠償する義務を負うというべきである。



問い2
1.町側の反論
 政教分離原則を貫き、完全な国家と宗教との分離が完全になされているかというと、実現不可能であり、一定の限界がある。現行においても、宗教系私立学校に対する公的助成、文化財である寺社などへの補助金支出、刑務所における教誨活動などが許されているところである。
 Dは、本件貸出が、宗教とのかかわりあいをもたらす行為の目的及び効果にかんがみそのかかわりあいが相当とされる限度を超えるものと認める場合であると指摘するが、これに反論をする。
 本件貸出は、長年にわたって町民に親しまれてきた神社が、震災により倒壊したその復興再建のための資金として供されたものである。この神社で開催される例大祭は、多数の島民が、その信じる宗教、宗派に関わらず、多数の島民が参加するものであり、今や町の一大行事となっている。
 貸出は、神主Cが申請し、それを審査し、審査基準に適合したため実施した。これら審査は、広く町民に開かれたものであり、特定の宗教団体のみがエントリー可能であったわけではない。
 そして、再建資金自体も贈与ではなく、貸与であり、なおかつ、継続的な資金供与ではない。
 以上の貸出に至る事情を考慮すれば、A町が本件貸出をすることは、町民に開かれた町の財産としての世俗的な場である神社再建を目的としたものであり、震災で倒壊した町の再建のひとつであること、他の宗教団体はじめ広く町民に開かれた貸出であるから、その効果は、特定の宗教に対する援助、助長、促進にはならず、また、又は圧迫、干渉等になるような行為ということもできない。贈与ではなく、貸出が一度だけなされることより、これによってもたらされるA町と神社Bとの係わり合いが相当とされる限度を超えるものとは見成し得ない。よって、憲法20条3項に禁止する政教分離違反はないと考えることが妥当である。
 逆に、本件貸出において、神社仏閣は、申請や貸出が許されないということになれば、そこには、宗教との関係があることによる不利益な取扱い、すなわち宗教による差別が生ずることになりかねず、かえって不合理な自体、政教分離原則違反が生じるといわねばならない。
 ゆえに、A町長が行った貸出の支出には、理由があり、政教分離原則違反とまでは言えず、適法である。賠償責任は生じない。

2.自分の見解
 上記、町側の反論を想定し、自分の見解をのべる。
 今回の貸出は、1)申請は、町内すべての方に開かれたものであること、2)審査のための基準が設定され、その基準との適合が審査され決定されるという手続が公正に行われていること、3)一方的な再建資金の贈与ではなく、貸出であること、4)宗教との関係があることが、申請不可の要因とするとそれこそ逆に宗教による町側の差別が生じることであり、政教分離原則に反すること、5)震災からの復興という特別の事情があることを勘案すれば、文化財である神社、寺院の建築物や仏像等の維持保存のため国が宗教団体に補助金を支出したりすることは政教分離に反しないとみなされている事情と同様に、この貸出も許容できること等を理由として、町側の見解を支持する。
 但し、町側の施策全体予算に占める本件貸出の予算が過大であること、貸出利率が不当に低率である場合は、政教分離原則に違反する可能性があり、審査基準に基づいた適切な貸出であることを町側に求める。

 以上

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政教分離原則「砂川市神社土地利用提供行為違憲訴訟」藤田宙靖裁判官補足意見 最高裁H22.1.20

2012-05-25 22:14:16 | シチズンシップ教育

 政教分離の有名な最高裁判例「砂川市神社土地利用提供行為違憲訴訟(空知太神社訴訟)」を見ておきます。

 そこでは、特に、藤田宙靖裁判官が、補足意見を述べておられ、どのようなことを補足されたのか特に見たいと思います。


*****最高裁ホームページより*****
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=38347&hanreiKbn=02

事件番号  平成19(行ツ)260
事件名  財産管理を怠る事実の違法確認請求事件
裁判年月日  平成22年01月20日
法廷名  最高裁判所大法廷
裁判種別  判決
結果  破棄差戻し
判例集等巻・号・頁  民集 第64巻1号1頁
原審裁判所名  札幌高等裁判所
原審事件番号  平成18(行コ)4
原審裁判年月日  平成19年06月26日
判示事項
1 市が連合町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為が憲法89条,20条1項後段に違反するとされた事例
2 市が連合町内会に対し市有地を無償で神社施設の敷地としての利用に供している行為が憲法の定める政教分離原則に違反し,市長において同施設の撤去及び土地明渡しを請求しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとして,市の住民が怠る事実の違法確認を求めている住民訴訟において,上記行為が違憲と判断される場合に,その違憲性を解消するための他の合理的で現実的な手段が存在するか否かについて審理判断せず,当事者に対し釈明権を行使しないまま,上記怠る事実を違法とした原審の判断に違法があるとされた事例





裁判官藤田宙靖の補足意見は,次のとおりである。
 私は,多数意見に賛成するが,本件利用提供行為が政教分離原則に違反すると考えられることにつき,以下若干の補足をしておくこととしたい。

 1 国又は公共団体が宗教に関係する何らかの活動(不作為をも含む。)をする場合に,それが日本国憲法の定める政教分離原則に違反しないかどうかを判断するに際しての審査基準として,過去の当審判例が採用してきたのは,いわゆる目的効果基準であって,本件においてもこの事実を無視するわけには行かない。ただ,この基準の採用の是非及びその適用の仕方については,当審の従来の判例に反対する見解も学説中にはかなり根強く存在し,また,過去の当審判決においても一度ならず反対意見が述べられてきたところでもあるから,このことを踏まえた上で,現在の時点でこの問題をどう考えるかについては,改めて慎重な検討をしておかなければならない。
 この基準を採用することへの批判としては,周知のように,当審においてこの基準が最初に採用された「津地鎮祭訴訟判決」(最高裁昭和46年(行ツ)第69号同52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁)における5裁判官の反対意見と並び,「愛媛玉串料訴訟判決」(最高裁平成4年(行ツ)第156号同9年4月2日大法廷判決・民集51巻4号1673頁)における高橋,尾崎両裁判官の意見がある。とりわけ,尾崎意見における指摘,すなわち,日本国憲法の政教分離規定の趣旨につき津地鎮祭訴訟判決において多数意見が出発点とした「憲法は,信教の自由を無条件に保障し,更にその保障を一層確実なものとするため,政教分離規定を設けたものであり,これを設けるに当たっては,国家と宗教との完全な分離を理想とし,国家の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとしたものである」という考え方を前提とすれば,「国家と宗教との完全分離を原則とし,完全分離が不可能であり,かつ,分離に固執すると不合理な結果を招く場合に限って,例外的に国家と宗教とのかかわり合いが憲法上許容されるとすべきもの」と考えられる,という指摘については,私もまた,これが本来筋の通った理論的帰結であると考える。これに対して,これまでの当審判例の多数意見が採用してきた上記の目的効果基準によれば,憲法上の政教分離原則は「国家が宗教とのかかわり合いを持つことを全く許さないとするものではなく,宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果に鑑み,そのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超える場合に(初めて)これを許さないとするもの」であるということになるが(括弧内は藤田による補足),このように,いわば原則と例外を逆転させたかにも見える結論を導くについて,従来の多数意見は必ずしも充分な説明をしておらず,そこには論理の飛躍がある,という上記の尾崎意見の指摘には,首肯できるものがあるように思われる。
 ただ,目的効果基準の採用に対するこのような反対意見にあっても,国家と宗教の完全な分離に対する例外が許容されること自体が全く否定されるものではないのであり,また,これらの見解において例外が認められる「完全分離が不可能であり,かつ分離に固執すると不合理な結果を招く場合」に当たるか否かを検討するに際して,目的・効果についての考慮を全くせずして最終的判断を下せるともいい切れないように思われるのであって,問題は結局のところ,「そのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超える」か否かの判断に際しての「国家の宗教的中立性」の評価に関する基本的姿勢ないし出発点の如何に懸ることになるともいうことができよう。このように考えるならば,仮に,理論的には上記意見に理由があると考えるとしても,本件において,敢えて目的効果基準の採用それ自体に対しこれを全面的に否定するまでの必要は無いものと考える。但し,ここにいう目的効果基準の具体的な内容あるいはその適用の在り方については,慎重な配慮が必要なのであって,当該事案の内容を十分比較検討することなく,過去における当審判例上の文言を金科玉条として引用し,機械的に結論を導くようなことをしてはならない。こういった見地から,本件において注意しなければならないのは,例えば以下のような点である。

 2 本件において合憲性が問われているのは,多数意見にも述べられているように,取り立てて宗教外の意義を持つものではない純粋の神道施設につき,地方公共団体が公有地を単純にその敷地として提供しているという事実である。私の見るところ,過去の当審判例上,目的効果基準が機能せしめられてきたのは,問題となる行為等においていわば「宗教性」と「世俗性」とが同居しておりその優劣が微妙であるときに,そのどちらを重視するかの決定に際してであって(例えば,津地鎮祭訴訟,箕面忠魂碑訴訟等は,少なくとも多数意見の判断によれば,正にこのようなケースであった。),明確に宗教性のみを持った行為につき,更に,それが如何なる目的をもって行われたかが問われる場面においてではなかったということができる(例えば,公的な立場で寺社に参拝あるいは寄進をしながら,それは,専ら国家公安・国民の安全を願う目的によるものであって,当該宗教を特に優遇しようという趣旨からではないから,憲法にいう「宗教的活動」ではない,というような弁明を行うことは,上記目的効果基準の下においても到底許されるものとはいえない。例えば愛媛玉串料訴訟判決は,このことを示すものであるともいえよう。)。
 本件の場合,原審判決及び多数意見が指摘するとおり,本件における神社施設は,これといった文化財や史跡等としての世俗的意義を有するものではなく,一義的に宗教施設(神道施設)であって,そこで行われる行事もまた宗教的な行事であることは明らかである(五穀豊穣等を祈るというのは,正に神事の目的それ自体であって,これをもって「世俗的目的」とすることは,すなわち「神道は宗教に非ず」というに等しい。)。従って,本件利用提供行為が専ら特定の純粋な宗教施設及び行事(要するに「神社」)を利する結果をもたらしていること自体は,これを否定することができないのであって,地鎮祭における起工式(津地鎮祭訴訟),忠魂碑の移設のための代替地貸与並びに慰霊祭への出席行為(箕面忠魂碑訴訟),さらには地蔵像の移設のための市有地提供行為等(大阪地蔵像訴訟)とは,状況が明らかに異なるといわなければならない(これらのケースにおいては,少なくとも多数説は,地鎮祭,忠魂碑,地蔵像等の純粋な宗教性を否定し,何らかの意味での世俗性を認めることから,それぞれ合憲判断をしたものである。)。その意味においては,本件における憲法問題は,本来,目的効果基準の適用の可否が問われる以前の問題であるというべきである。

 3 もっとも,原審認定事実等によれば,本件神社は,それ自体としては明らかに純粋な神道施設であると認められるものの,他方において,その外観,日々の宗教的活動の態様等からして,さほど宗教施設としての存在感の大きいものであるわけではなく,それゆえにこそ,市においてもまた,さして憲法上の疑義を抱くこともなく本件利用提供行為を続けてきたのであるし,また,被上告人らが問題提起をするまでは,他の市民の間において殊更にその違憲性が問題視されることも無かった,というのが実態であったようにもうかがわれる。従って,仮にこの点を重視するならば,少なくとも,本件利用提供行為が,直ちに他の宗教あるいはその信者らに対する圧迫ないし脅威となるとまではいえず(現に,例えば,本件氏子集団の役員らはいずれも仏教徒であることが認定されている。),これをもって敢えて憲法違反を問うまでのことはないのではないかという疑問も抱かれ得るところであろう。そして,全国において少なからず存在すると考えられる公有地上の神社施設につき,かなりの数のものは,正にこれと類似した状況にあるのではないか,とも推測されるのである。このように,本件における固有の問題は,一義的に特定の宗教のための施設であれば(すなわち問題とすべき「世俗性」が認められない以上)地域におけるその存在感がさして大きなものではない(あるいはむしろ希薄ですらある)ような場合であっても,そのような施設に対して行われる地方公共団体の土地利用提供行為をもって,当然に憲法89条違反といい得るか,という点にあるというべきであろう。
 ところで,上記のような状況は,その教義上排他性の比較的希薄な伝統的神道の特色及び宗教意識の比較的薄い国民性等によってもたらされている面が強いように思われるが,いうまでもなく,政教分離の問題は,対象となる宗教の教義の内容如何とは明確に区別されるべき問題であるし,また,ある宗教を信じあるいは受容している国民の数ないし割合が多いか否かが政教分離の問題と結び付けられるべきものではないことも,明らかであるといわなければならない。憲法89条が,過去の我が国における国家神道下で他宗教が弾圧された現実の体験に鑑み,個々人の信教の自由の保障を全うするため政教分離を制度的に(制度として)保障したとされる趣旨及び経緯を考えるとき,同条の定める政教分離原則に違反するか否かの問題は,必ずしも,問題とされている行為によって個々人の信教の自由が現実に侵害されているか否かの事実によってのみ判断されるべきものではないのであって,多数意見が本件利用提供行為につき「一般人の目から見て,市が特定の宗教に対して特別の便益を提供し,これを援助していると評価されてもやむを得ないものである」と述べるのは,このような意味において正当というべきである。
 4 なお,本件において違憲性が問われているのは,直接には,市が公有地上にある本件神社施設を撤去しないという不作為についてである(当初市が神社施設の存する本件土地を取得したこと自体が違憲であるというならば,その行為自体が無効であって,そもそも本件土地は公有地とは認められないということにもなりかねないが,被上告人(原告)らはこのような主張をするものではない。)。この場合,その不作為を直ちに解消することが期待し得ないような特別の事情(例えば,施設の撤去自体が他方で信教の自由に極めて重大な打撃を与える結果となることが見込まれるとか,敷地の民有化に向け可能な限りの努力をしてきたものの,歴史的経緯等種々の原因から未だ成功していない等々の事情が考えられようか。)がある場合に,現に公有地上に神社施設が存在するという事実が残っていること自体をもって直ちに違憲というべきか否かは,なお検討の余地がある問題であるといえなくはなかろう。しかし,本件において,上告人(被告)はこのような特別の事情の存在については一切主張・立証するところがなく,むしろ,そういった事情の存在の有無を問うまでもなく本件利用提供行為は合憲であるとの前提に立っていることは明らかであるから,この点については,原審の釈明義務違反を問うまでもなく,多数意見のように,本件利用提供行為が憲法89条に違反すると判断されるのもやむを得ないところといわなければならない。

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政教分離原則 憲法20条3項により禁止される国の宗教的活動とは。津地鎮祭事件最高裁判例S52.7.13

2012-05-25 15:55:59 | シチズンシップ教育

 政教分離規定は、「制度的保障の規定」であり、信教の自由そのものを直接保障するものではなく、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由を保障しようとしています。

 日本が、政教分離を打ち出したことには、過去において、信教の自由が保障されていなかったという歴史的経過があります。
 すなわち、大日本帝国憲法に一応は信教の自由を保障する規定(二八条)を設けていたものの、その保障は「安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ」という同条自体の制限を伴つていたばかりでなく、国家神道に対し事実上国教的な地位が与えられ、ときとして、それに対する信仰が要請されました。他方、一部の宗教団体に対しきびしい迫害が加えられたこともありました。

 第二次世界大戦終了とともに、憲法は、国家と神道が密接に結び付くことで生じた種々の弊害をかんがみ、信仰の自由を無条件に保障するとし、さらに、その保障を一層確実にするために、政教分離規定を設けました。
 国家と宗教との完全な分離を理想とし、国家の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとしました。

 それにより、実際に、完全な国家と宗教との分離が完全になされているかというと、実現不可能であり、一定の限界があります。

 なぜなら、宗教は、信仰という個人の内心的な事情としての側面を有するにとどまらず、同時にきわめて多方面に外部的な社会事象としての側面をともない、教育、福祉、文化、民族風習など広範な場面で社会生活と接触することになり、その当然の帰結として、国家が、社会生活に規制を加え、あるいは、教育、福祉、文化などに関する女性、援助等の諸施策を実施するにあたって、宗教との関わり合いを生じることを免れえなくなっているからです。
 完全に政教分離を貫こうとすれば、社会生活の各方面に不合理な事態を生じることも免れ得ないといえます。
 例えば、宗教系私立学校に対する公的助成、文化財である寺社などへの補助金支出、刑務所における教誨活動などが許されないことになります。

 よって、政教分離の原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するが、国家と宗教とのかかわりを全く許さないとするのではなく、宗教とのかかわりあいをもたらす行為の目的及び効果にかんがみそのかかわりあいが相当とされる限度を超えるものと認める場合に、許さないと解すべきであります。

 憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動とは、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきとされています。

 典型的には、宗教教育のような宗教の布教、教化、宣伝等の活動。
 そのほか宗教上の祝典、儀式、行事等であつても、目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきものである限り、当然、これに含まれます。
 そして、この点から、宗教的活動に該当するかどうかを検討するにあたつては、
 *当該行為の主宰者が宗教家であるかどうか、
 *その順序作法(式次第)が宗教の定める方式に則つたものであるかどうか
など、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、
 *当該行為の行われる場所、
 *当該行為に対する一般人の宗教的評価、
 *当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、
 *当該行為の一般人に与える効果、影響等、
諸般の事情を考慮し、社会通念に従つて、客観的に判断しなければなりません。






******************************


憲法20条

第二十条  信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
○2  何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
○3  国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。


********津地鎮祭事件最高裁判例S52.7.13 判決文 抜粋**********************

→日本で、政教分離原則が問題として本格的に争われた初めての訴訟として重要な判例

行政処分取消等請求事件

【事件番号】 最高裁判所大法廷判決/昭和46年(行ツ)第69号
【判決日付】 昭和52年7月13日




 (一) 憲法における政教分離原則
 憲法は、「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。」(二〇条一項前段)とし、また、「何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。」(同条二項)として、いわゆる狭義の信教の自由を保障する規定を設ける一方、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」(同条一項後段)、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」(同条三項)とし、更に「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、…………これを支出し、又はその利用に供してはならない。」(八九条)として、いわゆる政教分離の原則に基づく諸規定(以下「政教分離規定」という。)を設けている。

 一般に、政教分離原則とは、およそ宗教や信仰の問題は、もともと政治的次元を超えた個人の内心にかかわることがらであるから、世俗的権力である国家(地方公共団体を含む。以下同じ。)は、これを公権力の彼方におき、宗教そのものに干渉すべきではないとする、国家の非宗教性ないし宗教的中立性を意味するものとされている。もとより、国家と宗教との関係には、それぞれの国の歴史的・社会的条件によつて異なるものがある。

 わが国では、過去において、大日本帝国憲法(以下「旧憲法」という。)に信教の自由を保障する規定(二八条)を設けていたものの、その保障は「安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ」という同条自体の制限を伴つていたばかりでなく、国家神道に対し事実上国教的な地位が与えられ、ときとして、それに対する信仰が要請され、あるいは一部の宗教団体に対しきびしい迫害が加えられた等のこともあつて、旧憲法のもとにおける信教の自由の保障は不完全なものであることを免れなかつた。しかしながら、このような事態は、第二次大戦の終了とともに一変し、昭和二〇年一二月一五日、連合国最高司令官総司令部から政府にあてて、いわゆる神道指令(「国家神道、神社神道ニ対スル政府ノ保証、支援、保全、監督並ニ弘布ノ廃止ニ関スル件」)が発せられ、これにより神社神道は一宗教として他のすべての宗教と全く同一の法的基礎に立つものとされると同時に、神道を含む一切の宗教を国家から分離するための具体的措置が明示された。昭和二一年一一月三日公布された憲法は、明治維新以降国家と神道とが密接に結びつき前記のような種々の弊害を生じたことにかんがみ、新たに信教の自由を無条件に保障することとし、更にその保障を一層確実なものとするため、政教分離規定を設けるに至つたのである。
 元来、わが国においては、キリスト教諸国や回教諸国等と異なり、各種の宗教が多元的、重層的に発達、併存してきているのであつて、このような宗教事情のもとで信教の自由を確実に実現するためには、単に信教の自由を無条件に保障するのみでは足りず、国家といかなる宗教との結びつきをも排除するため、政教分離規定を設ける必要性が大であつた。これらの諸点にかんがみると、憲法は、政教分離規定を設けるにあたり、国家と宗教との完全な分離を理想とし、国家の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとしたもの、と解すべきである。


 しかしながら、元来、政教分離規定は、いわゆる制度的保障の規定であつて、信教の自由そのものを直接保障するものではなく、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである。ところが、宗教は、信仰という個人の内心的な事象としての側面を有するにとどまらず、同時に極めて多方面にわたる外部的な社会事象としての側面を伴うのが常であつて、この側面においては、教育、福祉、文化、民俗風習など広汎な場面で社会生活と接触することになり、そのことからくる当然の帰結として、国家が、社会生活に規制を加え、あるいは教育、福祉、文化などに関する助成、援助等の諸施策を実施するにあたつて、宗教とのかかわり合いを生ずることを免れえないこととなる。したがつて、現実の国家制度として、国家と宗教との完全な分離を実現することは、実際上不可能に近いものといわなければならない
 更にまた、政教分離原則を完全に貫こうとすれば、かえつて社会生活の各方面に不合理な事態を生ずることを免れないのであつて、例えば、特定宗教と関係のある私立学校に対し一般の私立学校と同様な助成をしたり、文化財である神社、寺院の建築物や仏像等の維持保存のため国が宗教団体に補助金を支出したりすることも疑問とされるに至り、それが許されないということになれば、そこには、宗教との関係があることによる不利益な取扱い、すなわち宗教による差別が生ずることになりかねず、また例えば、刑務所等における教誨活動も、それがなんらかの宗教的色彩を帯びる限り一切許されないということになれば、かえつて受刑者の信教の自由は著しく制約される結果を招くことにもなりかねないのである。これらの点にかんがみると、政教分離規定の保障の対象となる国家と宗教との分離にもおのずから一定の限界があることを免れず、政教分離原則が現実の国家制度として具現される場合には、それぞれの国の社会的・文化的諸条件に照らし、国家は実際上宗教とある程度のかかわり合いをもたざるをえないことを前提としたうえで、そのかかわり合いが、信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で、いかなる場合にいかなる限度で許されないこととなるかが、問題とならざるをえないのである。
 右のような見地から考えると、わが憲法の前記政教分離規定の基礎となり、その解釈の指導原理となる政教分離原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するものではあるが、国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが右の諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものであると解すべきである。


 (二) 憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動
 憲法二〇条三項は、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」と規定するが、ここにいう宗教的活動とは、前述の政教分離原則の意義に照らしてこれをみれば、およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いをもつすべての行為を指すものではなく、そのかかわり合いが右にいう相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであつて、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきである
 その典型的なものは、同項に例示される宗教教育のような宗教の布教、教化、宣伝等の活動であるが、そのほか宗教上の祝典、儀式、行事等であつても、その目的、効果が前記のようなものである限り、当然、これに含まれる。そして、この点から、ある行為が右にいう宗教的活動に該当するかどうかを検討するにあたつては、当該行為の主宰者が宗教家であるかどうか、その順序作法(式次第)が宗教の定める方式に則つたものであるかどうかなど、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従つて、客観的に判断しなければならない。

 なお、憲法二〇条二項の規定と同条三項の規定との関係を考えるのに、両者はともに広義の信教の自由に関する規定ではあるが、二項の規定は、何人も参加することを欲しない宗教上の行為等に参加を強制されることはないという、多数者によつても奪うことのできない狭義の信教の自由を直接保障する規定であるのに対し、三項の規定は、直接には、国及びその機関が行うことのできない行為の範囲を定めて国家と宗教との分離を制度として保障し、もつて間接的に信教の自由を保障しようとする規定であつて、前述のように、後者の保障にはおのずから限界があり、そして、その限界は、社会生活上における国家と宗教とのかかわり合いの問題である以上、それを考えるうえでは、当然に一般人の見解を考慮に入れなければならないものである。右のように、両者の規定は、それぞれ目的、趣旨、保障の対象、範囲を異にするものであるから、二項の宗教上の行為等と三項の宗教的活動とのとらえ方は、その視点を異にするものというべきであり、二項の宗教上の行為等は、必ずしもすべて三項の宗教的活動に含まれるという関係にあるものではなく、たとえ三項の宗教的活動に含まれないとされる宗教上の祝典、儀式、行事等であつても、宗教的信条に反するとしてこれに参加を拒否する者に対し国家が参加を強制すれば、右の者の信教の自由を侵害し、二項に違反することとなるのはいうまでもない。
 それ故、憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動について前記のように解したからといつて、直ちに、宗教的少数者の信教の自由を侵害するおそれが生ずることにはならないのである。

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憲法学課題:政教分離 地震被害で倒壊した神社再建のため町による再建資金貸出(審査基準有)は許されるか

2012-05-25 12:26:17 | シチズンシップ教育
 私が、最も楽しみにしている課目のひとつが憲法学です。

 その憲法学で、明日がタイムリミットの課題が出されました。
 まさに、ありうる話と思います。

 このようなケースを机上で考え、机上で考えることで終わらすことなく、得た知識は、実社会に生かしていきたいと思っています。

 と言いつつ、まずは、明日の課題もまたやらねば・・・

 


******課題*****


次の文を読んで問に答えなさい。(司法試験用の解答用紙4枚以内で書いてみて下さい。)

 北海道の離島にあるA町は、大規模な地震と津波の被害(以下「本件地震等による被害」という。)を受けて、多くの建物が倒壊した。

 A町は、北海道と国の支援を受けて、被災者(個人または法人)に対して、収入・被害程度等の一定の基準(以下「本件基準」)を満たす場合には、本人の申請を受けて審査し自宅・店舗等の営業施設の再建ための資金を被害額に応じて貸し出すことにした。

 A町にある神社Bは、長年にわたって町民に親しまれてきた神社であり、例大祭は多数の島民が参加する島内の一大行事であったところ、本件地震等による被害のために、完全に倒壊し、また、付属する他の設備も冠水し、祭礼等の神社として機能を営むことができない状態にあった。
 神社Bが属する神社本庁は、神社Bが被った本件地震等の被害に対して支援金を提供したが、神社再建には不十分であったので、神社Bの神主Cは、神社Bの再建のために、A町に対して神社Bは本件基準を満たす者であるとして、再建資金の貸し出しを申請した(以下「本件申請」という)。
 A町役場は、本件申請に対して、本件基準を当てはめたところ、同基準に適合することから、被害額に応じた再建資金を貸し出すことを決定した(以下「本件貸出」という)。

 これに対して、仏教系の新興宗教の信徒であり、島内に住むDは、本件貸出は、政教分離原則に違反する違法な支出であるとして、地方自治法に則り、町長に対して損害の補填を求めて住民訴訟を提起した。

問1 あなたがDの代理人の弁護士であるとすれば、あなたは、本件の住民訴訟において本件貸出に係る憲法上の主張をどのように行いますか。

問2 問1の憲法上の主張についての町側の反論を想定しつつ、あなた自身の見解を論じなさい。

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命は還らないが、損害賠償という命の値段。子どもの算定で養育費控除はしません。最高裁S53.10.20

2012-05-25 09:38:42 | シチズンシップ教育

 命の値段、ものすごく違和感のある話です。

 このような不幸なことが起きないように安全安心を確保していくことが、社会、子どもの周りにいる大人の役割・使命です。

 ただ、万が一、不幸にして、その不条理が起こってしまった場合、その問題を民法上解決するために、命に値段がつけられます。

 

 ここでは、命に値段がある現実は、いやなのですが、その現実から逃げるわけにはいきませんので、民法上の命の値段がつけられる現実を見ておきます。


 

 不法行為によって、生命が奪われた場合の損害賠償です。

 賠償額の算定は、財産的損害と精神的損害(慰謝料)からそれぞれ算出され、その合計額として算定されます。

 以下の表が、わかりやすく項目を整理されています。






 表の中で、 「逸失利益」という概念が用いられますが、原則以下の式で計算されていきます。

 

 逸失利益=就労可能年齢までの平均的な総収入ー(被害者の生活費+中間利息)

 
 逸失利益で生活費がひかれるという点が違和感があるかもしれません。
 その方がもし生きていれば、出て行ったであろう生活に関わる費用が控除されるのです。
 収入を得るために必要な支出ということです。(収入を失うことによる損失と支出を免れたことによる利益の間には直接の関係がある。)

 就労していない子ども(男児)の場合、逸失利益の計算では、原則、平均的な総収入といってもどのような職業についているかわからないため、平均賃金(男性)をもとにした将来の全収入(18~67歳程度)から生活費を控除するという考え方がとられます。
 (最判昭和39.6.24)

 女児の場合、かつては女性の平均賃金をもとにされていましたが、男女合わせた全労働者の平均賃金を用いるようになってきています。(それでもなお、ある意味、男女格差が出る形となっています。)
 (従来 最判昭和49.7.19 → 現在 最決平14.7.9 、東京高判 平成高判平13.8.20)


 子どもの場合も、成人と同じように生活費は控除されます。
 では、養育費まで控除されるのでしょうか。

 最高裁判例で、養育費は、控除されないことが判事されています。
 「交通事故により死亡した幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなつた場合においても、右養育費と幼児の将来得べかりし収入との間には前者を後者から損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との同質性がなく、したがつて、幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたりその将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきものではないと解するのが相当である(当裁判所昭和三六年(オ)第四一三号同三九年六月二四日第三小法廷判決・民集一八巻五号八七四頁参照)。」 
 (最判53.10.20、その引用元の最判39.6.24)
 養育費そのものは、親の生きがいの支出であるという風な見なし方です。
 亡くなった子どもの命は、還ってくることはないけれども、そういう状況の下、最高裁の思いやりともとれる判決がなされたのだと思います。
 
*****最高裁ホームページ*****


事件番号

 昭和50(オ)656



事件名

 損害賠償



裁判年月日

 昭和53年10月20日



法廷名

 最高裁判所第二小法廷



裁判種別

 判決



結果

 その他



判例集等巻・号・頁

 民集 第32巻7号1500頁




原審裁判所名

 福岡高等裁判所



原審事件番号

 昭和49(ネ)246



原審裁判年月日

 昭和50年03月27日




判示事項

 一 死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定と将来得べかりし収入額から養育費を控除することの可否

二 将来得べかりし利益を事故当時の現在価額に換算するための中間利息控除の方法とライプニツツ式計算法




裁判要旨

 一 交通事故により死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定については、幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなつた場合においても、将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきではない。

二 ライプニツツ式計算法は、交通事故の被害者の将来得べかりし利益を事故当時の現在価額に換算するための中間利息控除の方法として不合理なものとはいえない。




参照法条

 自動車損害賠償保障法3条,民法709条

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121435144330.pdf

判決文全文

  主   文

 一 上告人らの本訴請求中上告人らが被上告人ら各自に対し各金三八万七七九二円及びこれに対する昭和四六年七月三一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める請求を棄却した部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
 二 被上告人らは各自上告人らに対し各金三八万七七九二円及びこれに対する昭和四六年七月三一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
 三 上告人らのその余の上告を棄却する。
 四 訴訟の総費用はこれを二分し、その一を被上告人らの負担とし、その余を上告人らの負担とする。

       理   由

 上告代理人古屋倍雄の上告理由第一の一について
 交通事故により死亡した幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなつた場合においても、右養育費と幼児の将来得べかりし収入との間には前者を後者から損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との同質性がなく、したがつて、幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたりその将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきものではないと解するのが相当である(当裁判所昭和三六年(オ)第四一三号同三九年六月二四日第三小法廷判決・民集一八巻五号八七四頁参照)。
 したがつて、交通事故により死亡した亡A(当時満一〇歳)の両親である上告人らの被上告人らに対する損害賠償請求について、亡Aの財産上の損害額の算定にあたり、その将来得べかりし収入額から養育費に相当する七七万五五八四円を控除した原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があるといわなければならず、右の違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。それゆえ、上告人らの本訴請求中上告人らが被上告人ら各自に対し右七七万五五八四円の二分一にあたる各三八万七七九二円及びこれに対する昭和四六年七月三一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める請求を棄却した部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消したうえ、上告人らの右請求を認容すべきである。
 同第一の二について
 原審が亡Aの将来得べかりし利益の喪失による損害賠償につき、本件事故発生時において一時にその支払を受けるものとし、年五分の中間利息を控除するために採用した所論ライプニツツ式計算法は、交通事故の被害者の将来得べかりし利益を事故当時の現在価額に換算するための中間利息控除の方法として不合理なものとはいえず、所論引用の判例(当裁判所昭和三四年(オ)第二一三号同三七年一二月一四日第二小法廷判決・民集一六巻一二号二三六八頁)は複式ホフマン式計算法によらなければならない旨を判示するものではないから、右判断と抵触するものではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、採用することができない。
 同第一の三及び第二について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はなく、所論引用の判例に抵触するものではない。所論違憲の主張は、ひつきよう、原審の事実の認定を非難するものにすぎず失当である。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九二条、九三条に従い、裁判官大塚喜一郎、同吉田豊の各補足意見、裁判官本林讓の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官大塚喜一郎の補足意見は、次のとおりである。
 上告理由第一の一について、私は、交通事故により死亡した幼児の損害賠償額の算定にあたりその将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきではないとする多数意見に同調するものであるが、若干の意見を補足しておきたい。
 本林裁判官の反対意見は、養育費は幼児が稼働能力を取得するための必要経費であるから、幼児の将来の得べかりし収入額からこれを控除すべきであるとし、その前提として、失われた稼働能力そのものを積極損害として評価し損害額を算定するという考え方を採るものである。たしかに、現実所得のない被害者の損害額算定については、稼働能力喪失という考えは一応の説得力を持つており、反対意見引用の判例は、この考え方をうかがわせるものと解せられないではないが、なお検討すべき未解決の問題が残されている。すなわち、この考え方を進めていくと、有職者が死亡した場合又は労働能力の全部若しくは一部を喪失したが減収額の明らかな場合に稼働能力喪失説はどう妥当するか、もし、これらの場合については従来の所得喪失説により、現実所得のない被害者については稼働能力喪失説によるとするならば、両者の理論的整合性をどのように考えるか、さらに、稼働能力の評価が抽象的・観念的に流れるおそれはないかなど、その周辺の問題をも含めて、総合的に検討すべき問題が少なくないし、稼働能力喪失説自体必ずしもまだ十分に整理されたものとはいい難いから、これを立論の前提とすることは問題があるように思われる。
 以上の理由により多数意見引用の判例を変更するだけの決定的な理由は見出し難く、現段階においては、右判例の立場を維持すべきものと考える。
 裁判官吉田豊の補足意見は、次のとおりである。
 上告理由第一の一について、私は、本林裁判官の反対意見に対し一言したい。
 幼児の養育費(教育費、生活費等)は、一般に殆んどの場合、父母その他の扶養義務者が負担するものであり、逸失利益の取得者である幼児とはその主体を異にするから、その場合損益相殺の法理を適用する余地はないのである。幼児本人がその養育費を負担するのは、父母その他の扶養義務者がおらず、しかも幼児本人が資産を有するという極めて稀な場合であつて、反対意見がこのような稀有な事象を前提として立論するのは、妥当でない。
 反対意見は、幼児の養育費を幼児が稼働能力を取得するための必要経費として幼児の将来の得べかりし収入額から控除すべきであるというが、稼働能力喪失説に立つても、稼働能力の評価は、稼働能力を取得するための必要経費を要因としなければならないものではない。
 仮に稼働能力を取得するための必要経費を稼働能力評価の要因とする場合でも、交通事故により死亡した幼児本人の財産上の損害額を算定するについて、幼児の将来取得すべき収入の基本である稼働能力を取得するまでに要すべき養育費を幼児の右損害額から控除することを要すると解することは、幼児本人が養育費を負担するというきわめて稀な場合を想定し、その支出を免れたことを前提とすれば、必ずしも不合理ではない。しかし、幼児の養育費は、一般に殆んど父母その他の者が負担するのであり、その場合、死亡した幼児は稼働能力を取得するまでに父母その他の者から取得すべき養育費相当額を喪失したことになるから、むしろ喪失した養育費相当額も幼児の損害額として計上すべきものとさえ考えられる。そうすると、反対意見が、幼児の損害賠償債権を相続した者が幼児の死亡にともなつて養育費の支出を免れた場合であると否とにかかわらず、死亡した幼児本人の財産上の損害額を算定するについて養育費を控除すべきであるとするのは、理論が一貫しない。
 幼児の養育費は父母その他の者が負担するのが一般であるのに、なお幼児の養育費をその稼働能力を取得するための必要経費として、その稼働能力に基づく収入からこれを控除すべきものとすれば、成人が死亡した場合においても、その稼働能力を取得するために要した養育費は、これをその収入から控除すべきものとしなければならないのに、反対意見の趣旨はこれを否定する。したがつて、反対意見が幼児の死亡の場合にのみ養育費を控除することを要するとすることは、むしろ成人の死亡の場合との均衡を失することになるのではないかと思う。
 なお、幼児の交通事故による損害賠償額の算定として逸失利益から養育費を控除するという考え方は、加害者と被害者との損害負担の衡平を図るための便法にすぎない面のあることを否定しえないと思われるのであるが、保険制度の発達等社会経済の成長をみるにいたつた今日においては、幼児の養育費を控除することによつて損害賠償額の多額化を抑制することは、必ずしも右の衡平を得るゆえんではないといわなければならない。
 裁判官本林讓の反対意見は、次のとおりである。
 私は、上告理由第一の一について、多数意見とは異なり、交通事故により死亡した幼児の財産上の損害額を算定するにあたつては、養育費を控除すべきものであると考える。すなわち、幼児のように現実に所得がなく、不確定な要素の多い被害者については、失われた稼働能力そのものを積極損害として評価し、損害額を算定すべきであり(当裁判所昭和四四年(オ)第五九四号同四九年七月一九日第二小法廷判決・民集二八巻五号八七二頁はこの立場によるものと考える。)、幼児が稼働能力を取得するまでに要すべき生活費、普通教育を受けるための費用等の養育費についても、これを稼働期間中の生活費に準ずる必要経費として幼児の将来の得べかりし収入額から控除することを要すると解するのが相当である。けだし、幼児は、死亡当時においては稼働能力をもたない未完成の状態にあるにもかかわらず、既に稼働能力を有する成人が死亡した場合と同様に将来の得べかりし収入額から稼働期間中の生活費等の必要経費のみを控除した額をもつてその財産上の損害額とし、幼児が稼働能力を取得するためにはそれまでの間の養育費を必要とするはずであつたことをまつたく考慮しないのは、成人が死亡した場合との均衡を失することとなり、相当ではないからである。右に述べたところは、死亡した幼児の財産上の損害を算定するについての法理であつて、右損害賠償債権を相続した者が幼児の死亡にともなつて養育費の支出を免れた場合であると否とにかかわらずその適用をみるものであることはいうまでもない。
 なお、吉田裁判官の補足意見のうち、成人死亡の場合との不均衡を指摘される点につき一言する。養育費の控除は、幼児の将来うべかりし財産上の損害額を算定するためのものであるから、控除すべき養育費も事故後成人に達するまでの間のそれであり、事故前の養育費を含まない趣旨であることは当然である。したがつて、成人が死亡した場合には、養育費を控除する問題は起こる余地がないのである。
 以上の理由により養育費を控除すべきでないとする当裁判所の判例(昭和三六年(オ)第四一三号同三九年六月二四日第三小法廷判決・民集一八巻五号八七四頁)は変更すべきである。
 これと結論において同旨の見地に立つて、亡Aの財産上の損害額の算定にあたり、その将来の得べかりし収入額から養育費に相当する金額を控除すべきものとした原審の判断は正当として是認することができる。よつて、本件上告は棄却すべきものと考える。
    最高裁判所第二小法廷
        裁判長裁判官  大塚喜一郎
           裁判官  吉田 豊
           裁判官  本林 讓
           裁判官  栗本一夫

********************************************



事件番号

 昭和36(オ)413



事件名

 損害賠償等請求



裁判年月日

 昭和39年06月24日



法廷名

 最高裁判所第三小法廷



裁判種別

 判決



結果

 その他



判例集等巻・号・頁

 民集 第18巻5号874頁




原審裁判所名

 名古屋高等裁判所



原審事件番号





原審裁判年月日

 昭和36年01月30日




判示事項

 事故により死亡した幼児の得べかりし利益の算定は可能か。




裁判要旨

 事故により死亡した幼児の得べかりし利益を算定するに際しては、裁判所は、諸種の統計表その他の証拠資料に基づき、経験則と良識を活用して、できるかぎり客観性のある額を算定すべきであり、一概に算定不可能として得べかりし利益の喪失による損害賠償請求を否定することは許されない。




参照法条

 民法709条

判決文全文

主   文

 原判決中、得べかりし利益の損害賠償請求につき原審の認容した部分を破棄する。
 右破棄にかゝる部分について、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
 上告人らのその余の上告を棄却する。
 前項の部分に関する上告費用は上告人らの負担とする。

       理   由

 上告代理人三宅厚三の上告理由第一点について。
 (一) 上告人らは、論旨一、において、総論的に、本件のごとく被害者が満八才の少年の場合には、将来何年生存し、何時からどのような職業につき、どの位の収入を得、何才で妻を迎え、子供を何人もち、どのような生活を営むかは全然予想することができず、したがつて「将来得べかりし収入」も、「失うべかりし支出」も予想できないから、結局、「得べかりし利益」は算定不可能であると主張する。なるほど、不法行為により死亡した年少者につき、その者が将来得べかりし利益を喪失したことによる損害の額を算定することがきわめて困難であることは、これを認めなければならないが、算定困難の故をもつて、たやすくその賠償請求を否定し去ることは妥当なことではない。けだし、これを否定する場合における被害者側の救済は、主として、精神的損害の賠償請求、すなわち被害者本人の慰藉料(その相続性を肯定するとして)又は被害者の遺族の慰藉料(民法七一一条)の請求にこれを求めるほかはないこととなるが、慰藉料の額の算定については、諸般の事情がしんしゃくされるとはいえ、これらの精神的損害の賠償のうちに被害者本人の財産的損害の賠償の趣旨をも含ませること自体に無理があるばかりでなく、その額の算定は、結局において、裁判所の自由な裁量にこれを委ねるほかはないのであるから、その額が低きに過ぎて被害者測の救済に不十分となり、高きに失して不法行為者に酷となるおそれをはらんでいることは否定しえないところである。したがつて、年少者死亡の場合における右消極的損害の賠償請求については、一般の場合に比し不正確さが伴うにしても、裁判所は、被害者側が提出するあらゆる証拠資料に基づき、経験則とその良識を十分に活用して、できうるかぎり蓋然性のある額を算出するよう努め、ことに右蓋然性に疑がもたれるときは、被害者側にとつて控え目な算定方法(たとえば、収入額につき疑があるときはその額を少な目に、支出額につき疑があるときはその額を多めに計算し、また遠い将来の収支の額に懸念があるときは算出の基礎たる期間を短縮する等の方法)を採用することにすれば、慰藉料制度に依存する場合に比較してより客観性のある額を算出することができ、被害者側の救済に資する反面、不法行為者に過当な責任を負わせることともならず、損失の公平な分担を窮極の目的とする損害賠償制度の理念にも副うのではないかと考えられる。要するに、問題は、事案毎に、その具体的事情に即応して解決されるべきであり、所論のごとく算定不可能として一概にその請求を排斥し去るべきではない。
 (二) よつて、以上の観点に立ちながら、進んで、上告人らが、論旨二、以下において各論的に、原判決の算定方法の違法を主張する諸点につき判断することとする。
  (い) 上告人らは、まず、原審が、統計表に基づいて余命年数を求め、二〇才から五五才まで三五年間を稼働可能期間とし、国民の収入及び支出の平均又は標準を示すものとは認められない判示諸表によつて「得べかりし収入」と「失うべかりし支出」を想定して「得べかりし利益」を算出しているのは不合理であると主張する。
   (イ) 稼働可能期間について。
     しかしながら、原審は、本件被害者らは、本件事故当時満八才余の普通健康体を有する男子であること、判示統計表により同人らの通常の余命は五七年六月余であり、二〇才から少くとも五五才まで三五年間は稼働可能であることを認定しているのであり、右認定は、平均年令の一般的伸長、医学の進歩、衛生思想の普及という顕著な事実をも合せ考えれば、相当としてこれを肯認することができ、この点に所論のごとき不合理は認められない。
   (ロ) 収入額について。
     つぎに、原審は、本件被害者らは、右稼働可能期間中、毎年、判示証拠資料により認めうる昭和三三年四月から九月までの間のわが国における通常男子の一ヵ月の平均労働賃金二万六四八円、元年分にして二四万七七七六円の金額を下らない収入を得べきものと推認し、その年収額から後出の支出年額を控除した額を基準としてホフマン式計算方法による一時払いの損害額を算出しているのであるが、被害者らがいかなる職業につくか予測しえない本件のごとき場合においては、通常男子の平均労賃を算定の基準とすることは、将来の賃金ベースが現在より下らないということを前提にすれば、一応これを肯認しえないではないが、収入も一応安定した者につき、将来の昇給を度外視した控え目な計算方法を採用する場合とは異なり、本件のごとき年少者の場合においては、初任給は平均労賃よりも低い反面、次第に昇給するものであることを考えれば、三五年間を通じてその年収額を右平均労賃と同額とし、これを基準にホフマン式計算方法により一時払いの額を求めている原審の算出方法は、これを肯認するに足る別段の理由が明らかにされないかぎり、不合理というほかはないところ、原判決はこの点につきなんら説明するところがないので、少くとも右の点において原判決には理由不備の違法があるものといわなければならない。
   (ハ) 支出額について。
    (A) 原審は、本件被害者らの稼働可能期間中における毎年の生活費は、判示証拠資料により認めうる昭和三三年度における勤労者の平均世帯(世帯員数四・四六人)の実支出額一カ月三万六三八円、一人平均六八六九円、その元年分である八万二四二八円と同額と認めるのを相当としているところ、上告人らは、本件被害者らは何時結婚し、何人の子供をもち、いかなる生活を営むか不明であるばかりでなく、世帯主の生活費は他の世帯員のそれより多いことは経験則上顕著であるから、世帯の支出額を均分したものを世帯主と認められる被害者らの生活費とすることは不合理であると主張する。ところで、被害者らが独身で生活するという特別の事情が認められない本件のごとき場合においては、平均世帯を基準として被害者ら各自の生活費を算出すること自体は、一応これを肯認しえないではないが、原判決が、首肯するに足る理由をなんら示すことなく、右三五年間を通じて被害者らの生活費が昭和三三年度の前示生活費と同額であるとしていること、及び前示世帯の支出額を世帯員数で均分したものが被害者ら(男子であり、世帯主となるものと推認される)の生活費であるとしているのは、理由不備の違法があるものといわなければならない。
    (B) 上告人らは、さらに、論旨二の後段において、被害者らの収入からは、被害者本人の生活費のみならず、被害者らの負担すべき扶養家族の生活費をも控除すべきであると主張するが、収入から被害者本人の生活費を控除するのは、本人の生活費は、一応、収入を得るために必要な支出と認められるからであるが(収入を失うことによる損失と支出を免れたことによる利益の間には直接の関係がある)、扶養家族の生活費の支出と被害者本人の収入の間には右のごとき関係はなんら認められないのであるから、扶養家族の生活費の額は、収入額からこれを控除すべきではなく、この点に関する原判旨は、簡に失しているが、結論において正当であり、所論は採用し難い。
    (C) 上告人らは、また、論旨三において、被害者らの得べかりし収入額から、稼働可能期間経過後(五五才より後)に被害者らが支出すべかりし生活費を控除すべきであると主張するが、右支出も前記収入と前述のごとき直接の関係に立つものでないばかりでなく、五五才を超えても無収入であるとはかぎらず、また、第三者による扶養もありうることであるから、その間の生活費を前記収入から当然に控除しなければならない理由はない(二〇才までの期間における生活費についても同様であり、上告人らも右生活費を右の意味において控除すべしとは主張していない)。この点に関する原判旨もまた簡に失しているが、結局において正当であり、所論は採用しえない。
    (D) 上告人らは、さらに二〇才ないし五五才を基準として損害額を算定すれば、一才の幼児が死亡した場合と一八・九才の青年が死亡した場合とでは、その「得べかりし利益」は同額となり、二五・六才以上の成年が死亡した場合のそれは、一才の幼児が死亡した場合のそれより少額となつて不合理であると主張するが、所論は、ホフマン式計算方法を度外視し、かつ、稼働可能期間の長短を忘れた議論であり、採用のかぎりでない。
    (E) 上告人らは、また、論旨三において、本件損害賠償請求権を相続した被上告人らは、他面において、被害者らの死亡により、その扶養義務者として当然に支出すべかりし二〇才までの扶養費の支出を免れて利得をしているから、損益相殺の理により、賠償額から右扶養費の額を控除すべきであると主張するが、損益相殺により差引かれるべき利得は、被害者本人に生じたものでなければならないと解されるところ、本件賠償請求権は被害者ら本人について発生したものであり、所論のごとき利得は被害者本人に生じたものでないことが明らかであるから、本件賠償額からこれを控除すべきいわれはない。所論は、採用に価しない。
  (ろ) なお、上告人らは、論旨四において、原判決のホフマン式計算方法の適用の誤りを主張するが、不法行為による損害賠償の額は、不法行為時を基準として算定するのを本則とするのであるから、原審が、ホフマン式計算方法を適用するについて本件事故の時を基準とし、その時における一時払いの額を算出したのは正当である。所論は、ひつきよう、独自の見解の下に原判決を非難するものであり、採用のかぎりでない。
 (三) 以上、要するに、本訴請求中、得べかりし利益の喪失による損害の賠償を求める部分については、原判決に少くとも前示のごとき諸点につき理由不備の違法があることが明らかであり、所論は、結局において理由があるので、原判決は、右限度において破棄を免れない。
 同第二点について。
 上告人らは、原判決が損害額を算定するにつき、被上告人らの監督義務者としての過失をしんしやくしなかつたのは違法であると主張するが、原審認定の事実関係の下においては、被上告人らに監督上の過失が認められないとした原審の判断は、これを肯認しえないではない。所論は、ひつきよう、原審の認定しない事実に基づき又は独自の見解の下に、原判決を論難するに過ぎないものであり、採用し難い。
 よつて、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、九三条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎

 
 

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現代社会における過失犯処罰の重大性 システムエラーに対する刑事責任を誰が負うか。

2012-05-25 00:22:41 | シチズンシップ教育

1.過失犯を考える上での前提

 刑法では、基本的に故意がなければ、罰しないことになっています。(故意犯処罰の原則、刑法38条1項)

 ただし、「法律に特別の規定がある場合」に、過失でも犯罪として処罰される場合があります。(38条1項但書)

 過失という、「うっかり、不注意で」行ったことが、犯罪になります。

 例えば、生命、身体に関わる利益を侵害した場合などです。(209条、210条、211条)
 以下、条文をみればわかりますが、いずれも、「過失により」とか、「業務上必要な注意を怠り」とか、過失による罪も条文に「規定」されています。


*****刑法*****
(故意)
第三十八条  罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2  重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3  法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

 第二十八章 過失傷害の罪

(過失傷害)
第二百九条  過失により人を傷害した者は、三十万円以下の罰金又は科料に処する。
2  前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
(過失致死)
第二百十条  過失により人を死亡させた者は、五十万円以下の罰金に処する。
(業務上過失致死傷等)
第二百十一条  業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
2  自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。


2.過失とはなにか。

 注意義務違反をいいます。

 もう少し細かく分析すると、結果予見義務+結果回避義務=注意義務です。

 1)予見可能性のあることがらを、

 2)予見義務を怠り、

 3)回避ができたのに(回避可能性があったのに)

 4)結果回避義務を怠り、
 
 犯罪となる結果が生じることをいいます。


3.過失犯を分析する三つの視点(旧過失論、新過失論、新新過失論)

 過失犯を理解する場合、三つの視点があります。

 1)結果予見可能性、結果予見義務に重点をおく見方(旧過失論)
   あぶないなあと想像する、気づくことができ、危なそうなことをやった点で、予見義務違反となり、過失犯と見なされることになります。
   おわかりのように、過失犯処罰の範囲が大きくなることがわかります。

 2)結果回避可能性、結果回避義務に重点をおく見方(新過失論)
   この場合、対外的な部分である行為すなわち、回避という行為がなされるかどうかに着目します。
   危ないなと気づくべきところ気付き、その発生を予防するために努力すれば、過失は成立しないとします。
   過失犯処罰の範囲は、限定されることになります。

 3)結果回避義務に圧倒的な重点をおく見方(新新過失論、危惧感説、不安感説)
   悪い結果が生じうるという漠然とした危惧感、不安感を抱かれれば、それは、予見可能性が有りとなり、その危惧感、不安感を打ち消すのに十分な完璧な結果回避義務を要求する見方です。
   新過失論で限定されていた、過失犯処罰の範囲が大きくなります。
   かつて、唱えられていましたが、最近また見直されてきている説です。
   公害犯罪や、企業犯罪への対処として使われます。
   

4.予見可能性のとらえ方
(1)三つの見方の違いでどうとらえられているか。

 前述の三つの立場では、予見可能性の程度は、異なります。

 1)旧過失論では、具体的なことがらの予見可能性を当然の前提としています。

 2)新過失論では、具体的予見可能性を一応の前提として要求しています。

 3)新新過失論では、予見というより、その危惧感(不安感)があればよいとします。

(2)どの要素を予見するか

 行為があり、ある因果関係をたどり、結果が起こります。

 その結果と、因果関係の主に二点の予見可能性をみることになります。


5監督者の過失

 行為をした本人ではなく、その上位にあるひとにも過失の罪を着せる考え方があります。

 その場合、二つの監督過失があります。

 1)本来の監督過失
 上位者が、部下がきちんとやっているかを監督することで、それを怠った過失です。

 2)管理過失
 物的・人的な安全体制確立義務違反です。


6. 信頼の原則
 被害者側が、適切な行動をすることを前提に行動していればよく、それを信頼していたが、その信頼を裏切られた結果として、事故が起きた場合、過失責任が問われないとする原則。

 過失犯処罰の範囲を限定することになります。




7.実務での過失犯の正否の検討手順

1)事件の場面・状況の分析

2)どのような行為が求めれるか、注意義務の内容を設定

3)注意義務に違反する具体的な行為を分析

 例えでいえば、

1)場面。状況を分析

2)ハードルの高さを設定

3)なぜ、その高さで飛べなかったかを検証

 の順序で分析します。


8.過失犯をめぐる最近の話題
1)刑法分野で、重要判例が出されている部分です。

2)欠陥製品に対して刑事責任が課せられるようになってきています。
 医薬品、ガス製品、自動車など

3)企業、組織による過失犯 とくにシステムエラーに対する刑事責任が課せられるようになってきています。
 航空機事故、鉄道事故、医療事故など。新しくは原発事故も含まれるかもしれません。
 
 ただし、刑法では、法人を罰する規定はありません。
 そのため、5で述べた監督者の過失が重要で、法人のトップ、社長を過失で裁き、法人を裁くことに代えています。


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ひとつのご参考、日本国憲法 口語訳

2012-05-24 23:00:00 | シチズンシップ教育
 ひとつのご参考までに。

 日本国憲法 口語訳

 http://blog.livedoor.jp/kinisoku/archives/3423998.html
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誰もが自己実現できる社会 お父さん、お母さんが働く場という観点より

2012-05-24 09:50:12 | 子育て・子育ち
 子どもが心も体も健やかに育つ環境は、その親御さんが、働く環境と密接に関連していると思っています。

 お父さん、お母さんが働く環境整備と関連する法律を見てみます。

 特に男女の性別に関わらず自己実現できる働く場の整備という視点からの法律は、以下。

<憲法>
第十四条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
○2  華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
○3  栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。


<民法>
(解釈の基準)
第二条  この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。


<労働基準法>
(男女同一賃金の原則)
第四条  使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

*こちらは、参考までに、関連条文
(均等待遇)
第三条  使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。


<男女雇用機会均等法>
2006年(平成18年)第二次改正のポイント

1)「女性に対する差別の禁止」から、法律上の片面性をなくし「性別を理由とする差別の禁止」へ(第二章第1節)

 第二章 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等  第一節 性別を理由とする差別の禁止等
(性別を理由とする差別の禁止)
第五条  事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。


2)禁止される差別の範囲の拡大。(6条)
「配置」における「業務の配分および権限の付与」「労働者の降格」「労働者の職種および雇用形態の変更」「退職の解消」「労働契約の更新」に関する差別が含まれることが明記された。

第六条  事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。
一  労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
二  住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
三  労働者の職種及び雇用形態の変更
四  退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新


3)セクシャル・ハラスメントに関する規定は、従来の「配慮義務」から「措置義務」となり、「必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と具体的に規定。(11条1項)また、紛争について実効性を強化。

(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
第十一条  事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。


4)妊娠・出産に対する保護の強化(12条)

(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)
第十二条  事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。


5)間接差別禁止の規定(7条)

(性別以外の事由を要件とする措置)
第七条  事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。


6)指針(性別差別の禁止規定、間接差別禁止規定及び妊娠・出産を理由とする不利益取扱の禁止規定に関する指針)の作成と公表(10条1項)

(指針)
第十条  厚生労働大臣は、第五条から第七条まで及び前条第一項から第三項までの規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。


7)公表制度の明示(30条)

(公表)
第三十条  厚生労働大臣は、第五条から第七条まで、第九条第一項から第三項まで、第十一条第一項、第十二条及び第十三条第一項の規定に違反している事業主に対し、前条第一項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。


8)報告をせず、または虚偽の報告をした物に対する過料の創設(33条)

第三十三条  第二十九条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。




******男女雇用機会均等法********
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
(昭和四十七年七月一日法律第百十三号)


最終改正:平成二〇年五月二日法律第二六号


 第一章 総則(第一条―第四条)
 第二章 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等
  第一節 性別を理由とする差別の禁止等(第五条―第十条)
  第二節 事業主の講ずべき措置(第十一条―第十三条)
  第三節 事業主に対する国の援助(第十四条)
 第三章 紛争の解決
  第一節 紛争の解決の援助(第十五条―第十七条)
  第二節 調停(第十八条―第二十七条)
 第四章 雑則(第二十八条―第三十二条)
 第五章 罰則(第三十三条)
 附則

   第一章 総則


(目的)
第一条  この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのつとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする。

(基本的理念)
第二条  この法律においては、労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあつては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本的理念とする。
2  事業主並びに国及び地方公共団体は、前項に規定する基本的理念に従つて、労働者の職業生活の充実が図られるように努めなければならない。

(啓発活動)
第三条  国及び地方公共団体は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする。

(男女雇用機会均等対策基本方針)
第四条  厚生労働大臣は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する施策の基本となるべき方針(以下「男女雇用機会均等対策基本方針」という。)を定めるものとする。
2  男女雇用機会均等対策基本方針に定める事項は、次のとおりとする。
一  男性労働者及び女性労働者のそれぞれの職業生活の動向に関する事項
二  雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について講じようとする施策の基本となるべき事項
3  男女雇用機会均等対策基本方針は、男性労働者及び女性労働者のそれぞれの労働条件、意識及び就業の実態等を考慮して定められなければならない。
4  厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めるに当たつては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くほか、都道府県知事の意見を求めるものとする。
5  厚生労働大臣は、男女雇用機会均等対策基本方針を定めたときは、遅滞なく、その概要を公表するものとする。
6  前二項の規定は、男女雇用機会均等対策基本方針の変更について準用する。
   第二章 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等

    第一節 性別を理由とする差別の禁止等


(性別を理由とする差別の禁止)
第五条  事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。

第六条  事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。
一  労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
二  住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの
三  労働者の職種及び雇用形態の変更
四  退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

(性別以外の事由を要件とする措置)
第七条  事業主は、募集及び採用並びに前条各号に掲げる事項に関する措置であつて労働者の性別以外の事由を要件とするもののうち、措置の要件を満たす男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置として厚生労働省令で定めるものについては、当該措置の対象となる業務の性質に照らして当該措置の実施が当該業務の遂行上特に必要である場合、事業の運営の状況に照らして当該措置の実施が雇用管理上特に必要である場合その他の合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない。

(女性労働者に係る措置に関する特例)
第八条  前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。

(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第九条  事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2  事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3  事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4  妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

(指針)
第十条  厚生労働大臣は、第五条から第七条まで及び前条第一項から第三項までの規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
2  第四条第四項及び第五項の規定は指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。
    第二節 事業主の講ずべき措置


(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
第十一条  事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2  厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
3  第四条第四項及び第五項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。

(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)
第十二条  事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。

第十三条  事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。
2  厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
3  第四条第四項及び第五項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。
    第三節 事業主に対する国の援助


第十四条  国は、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇が確保されることを促進するため、事業主が雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的とする次に掲げる措置を講じ、又は講じようとする場合には、当該事業主に対し、相談その他の援助を行うことができる。
一  その雇用する労働者の配置その他雇用に関する状況の分析
二  前号の分析に基づき雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善するに当たつて必要となる措置に関する計画の作成
三  前号の計画で定める措置の実施
四  前三号の措置を実施するために必要な体制の整備
五  前各号の措置の実施状況の開示
   第三章 紛争の解決

    第一節 紛争の解決の援助


(苦情の自主的解決)
第十五条  事業主は、第六条、第七条、第九条、第十二条及び第十三条第一項に定める事項(労働者の募集及び採用に係るものを除く。)に関し、労働者から苦情の申出を受けたときは、苦情処理機関(事業主を代表する者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とする当該事業場の労働者の苦情を処理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理をゆだねる等その自主的な解決を図るように努めなければならない。

(紛争の解決の促進に関する特例)
第十六条  第五条から第七条まで、第九条、第十一条第一項、第十二条及び第十三条第一項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)第四条、第五条及び第十二条から第十九条までの規定は適用せず、次条から第二十七条までに定めるところによる。

(紛争の解決の援助)
第十七条  都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。
2  事業主は、労働者が前項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
    第二節 調停


(調停の委任)
第十八条  都道府県労働局長は、第十六条に規定する紛争(労働者の募集及び採用についての紛争を除く。)について、当該紛争の当事者(以下「関係当事者」という。)の双方又は一方から調停の申請があつた場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会(以下「委員会」という。)に調停を行わせるものとする。
2  前条第二項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

(調停)
第十九条  前条第一項の規定に基づく調停(以下この節において「調停」という。)は、三人の調停委員が行う。
2  調停委員は、委員会の委員のうちから、会長があらかじめ指名する。

第二十条  委員会は、調停のため必要があると認めるときは、関係当事者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。
2  委員会は、第十一条第一項に定める事項についての労働者と事業主との間の紛争に係る調停のために必要があると認め、かつ、関係当事者の双方の同意があるときは、関係当事者のほか、当該事件に係る職場において性的な言動を行つたとされる者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。

第二十一条  委員会は、関係当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から当該事件につき意見を聴くものとする。

第二十二条  委員会は、調停案を作成し、関係当事者に対しその受諾を勧告することができる。

第二十三条  委員会は、調停に係る紛争について調停による解決の見込みがないと認めるときは、調停を打ち切ることができる。
2  委員会は、前項の規定により調停を打ち切つたときは、その旨を関係当事者に通知しなければならない。

(時効の中断)
第二十四条  前条第一項の規定により調停が打ち切られた場合において、当該調停の申請をした者が同条第二項の通知を受けた日から三十日以内に調停の目的となつた請求について訴えを提起したときは、時効の中断に関しては、調停の申請の時に、訴えの提起があつたものとみなす。

(訴訟手続の中止)
第二十五条  第十八条第一項に規定する紛争のうち民事上の紛争であるものについて関係当事者間に訴訟が係属する場合において、次の各号のいずれかに掲げる事由があり、かつ、関係当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、四月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨の決定をすることができる。
一  当該紛争について、関係当事者間において調停が実施されていること。
二  前号に規定する場合のほか、関係当事者間に調停によつて当該紛争の解決を図る旨の合意があること。
2  受訴裁判所は、いつでも前項の決定を取り消すことができる。
3  第一項の申立てを却下する決定及び前項の規定により第一項の決定を取り消す決定に対しては、不服を申し立てることができない。

(資料提供の要求等)
第二十六条  委員会は、当該委員会に係属している事件の解決のために必要があると認めるときは、関係行政庁に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができる。

(厚生労働省令への委任)
第二十七条  この節に定めるもののほか、調停の手続に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
   第四章 雑則


(調査等)
第二十八条  厚生労働大臣は、男性労働者及び女性労働者のそれぞれの職業生活に関し必要な調査研究を実施するものとする。
2  厚生労働大臣は、この法律の施行に関し、関係行政機関の長に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができる。
3  厚生労働大臣は、この法律の施行に関し、都道府県知事から必要な調査報告を求めることができる。

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第二十九条  厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
2  前項に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。

(公表)
第三十条  厚生労働大臣は、第五条から第七条まで、第九条第一項から第三項まで、第十一条第一項、第十二条及び第十三条第一項の規定に違反している事業主に対し、前条第一項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

(船員に関する特例)
第三十一条  船員職業安定法(昭和二十三年法律第百三十号)第六条第一項に規定する船員及び同項に規定する船員になろうとする者に関しては、第四条第一項並びに同条第四項及び第五項(同条第六項、第十条第二項、第十一条第三項及び第十三条第三項において準用する場合を含む。)、第十条第一項、第十一条第二項、第十三条第二項並びに前三条中「厚生労働大臣」とあるのは「国土交通大臣」と、第四条第四項(同条第六項、第十条第二項、第十一条第三項及び第十三条第三項において準用する場合を含む。)中「労働政策審議会」とあるのは「交通政策審議会」と、第六条第二号、第七条、第九条第三項、第十二条及び第二十九条第二項中「厚生労働省令」とあるのは「国土交通省令」と、第九条第三項中「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたこと」とあるのは「船員法(昭和二十二年法律第百号)第八十七条第一項又は第二項の規定によつて作業に従事しなかつたこと」と、第十七条第一項、第十八条第一項及び第二十九条第二項中「都道府県労働局長」とあるのは「地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)」と、第十八条第一項中「第六条第一項の紛争調整委員会(以下「委員会」という。)」とあるのは「第二十一条第三項のあつせん員候補者名簿に記載されている者のうちから指名する調停員」とする。
2  前項の規定により読み替えられた第十八条第一項の規定により指名を受けて調停員が行う調停については、第十九条から第二十七条までの規定は、適用しない。
3  前項の調停の事務は、三人の調停員で構成する合議体で取り扱う。
4  調停員は、破産手続開始の決定を受け、又は禁錮以上の刑に処せられたときは、その地位を失う。
5  第二十条から第二十七条までの規定は、第二項の調停について準用する。この場合において、第二十条から第二十三条まで及び第二十六条中「委員会は」とあるのは「調停員は」と、第二十一条中「当該委員会が置かれる都道府県労働局」とあるのは「当該調停員を指名した地方運輸局長(運輸監理部長を含む。)が置かれる地方運輸局(運輸監理部を含む。)」と、第二十六条中「当該委員会に係属している」とあるのは「当該調停員が取り扱つている」と、第二十七条中「この節」とあるのは「第三十一条第三項から第五項まで」と、「調停」とあるのは「合議体及び調停」と、「厚生労働省令」とあるのは「国土交通省令」と読み替えるものとする。

(適用除外)
第三十二条  第二章第一節及び第三節、前章、第二十九条並びに第三十条の規定は、国家公務員及び地方公務員に、第二章第二節の規定は、一般職の国家公務員(特定独立行政法人等の労働関係に関する法律(昭和二十三年法律第二百五十七号)第二条第四号の職員を除く。)、裁判所職員臨時措置法(昭和二十六年法律第二百九十九号)の適用を受ける裁判所職員、国会職員法(昭和二十二年法律第八十五号)の適用を受ける国会職員及び自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第二条第五項に規定する隊員に関しては適用しない。
   第五章 罰則


第三十三条  第二十九条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。

   附 則 抄


(施行期日)
1  この法律は、公布の日から施行する。

   附 則 (昭和五八年一二月二日法律第七八号)


1  この法律(第一条を除く。)は、昭和五十九年七月一日から施行する。
2  この法律の施行の日の前日において法律の規定により置かれている機関等で、この法律の施行の日以後は国家行政組織法又はこの法律による改正後の関係法律の規定に基づく政令(以下「関係政令」という。)の規定により置かれることとなるものに関し必要となる経過措置その他この法律の施行に伴う関係政令の制定又は改廃に関し必要となる経過措置は、政令で定めることができる。

   附 則 (昭和六〇年六月一日法律第四五号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、昭和六十一年四月一日から施行する。

(その他の経過措置の政令への委任)
第十九条  この附則に規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。

(検討)
第二十条  政府は、この法律の施行後適当な時期において、第一条の規定による改正後の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律及び第二条の規定による改正後の労働基準法第六章の二の規定の施行状況を勘案し、必要があると認めるときは、これらの法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

   附 則 (平成三年五月一五日法律第七六号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成四年四月一日から施行する。

   附 則 (平成七年六月九日法律第一〇七号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成七年十月一日から施行する。

(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律の一部改正に伴う経過措置)
第九条  この法律の施行の際現に設置されている働く婦人の家については、前条の規定による改正前の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律第三十条及び第三十一条の規定は、この法律の施行後も、なおその効力を有する。
2  この法律の施行の際現に設置されている働く婦人の家に関し、労働省令で定めるところにより、当該働く婦人の家を設置している地方公共団体が当該働く婦人の家を第二条の規定による改正後の育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第三十四条に規定する勤労者家庭支援施設に変更したい旨の申出を労働大臣に行い、労働大臣が当該申出を承認した場合には、当該承認の日において、当該働く婦人の家は、同条に規定する勤労者家庭支援施設となるものとする。

   附 則 (平成九年六月一八日法律第九二号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十一年四月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一  第一条(次号に掲げる改正規定を除く。)、第三条(次号に掲げる改正規定を除く。)、第五条、第六条、第七条(次号に掲げる改正規定を除く。)並びに附則第三条、第六条、第七条、第十条及び第十四条(次号に掲げる改正規定を除く。)の規定 公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日
二  第一条中雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律第二十六条の前の見出しの改正規定、同条の改正規定(「事業主は」の下に「、労働省令で定めるところにより」を加える部分及び「できるような配慮をするように努めなければならない」を「できるようにしなければならない」に改める部分に限る。)、同法第二十七条の改正規定(「講ずるように努めなければならない」を「講じなければならない」に改める部分及び同条に二項を加える部分に限る。)、同法第三十四条の改正規定(「及び第十二条第二項」を「、第十二条第二項及び第二十七条第三項」に改める部分、「第十二条第一項」の下に「、第二十七条第二項」を加える部分及び「第十四条及び」を「第十四条、第二十六条及び」に改める部分に限る。)及び同法第三十五条の改正規定、第三条中労働基準法第六十五条第一項の改正規定(「十週間」を「十四週間」に改める部分に限る。)、第七条中労働省設置法第五条第四十一号の改正規定(「が講ずるように努めるべき措置についての」を「に対する」に改める部分に限る。)並びに附則第五条、第十二条及び第十三条の規定並びに附則第十四条中運輸省設置法(昭和二十四年法律第百五十七号)第四条第一項第二十四号の二の三の改正規定(「講ずるように努めるべき措置についての指針」を「講ずべき措置についての指針等」に改める部分に限る。) 平成十年四月一日

(罰則に関する経過措置)
第二条  この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

   附 則 (平成一一年七月一六日法律第八七号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十二年四月一日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一  第一条中地方自治法第二百五十条の次に五条、節名並びに二款及び款名を加える改正規定(同法第二百五十条の九第一項に係る部分(両議院の同意を得ることに係る部分に限る。)に限る。)、第四十条中自然公園法附則第九項及び第十項の改正規定(同法附則第十項に係る部分に限る。)、第二百四十四条の規定(農業改良助長法第十四条の三の改正規定に係る部分を除く。)並びに第四百七十二条の規定(市町村の合併の特例に関する法律第六条、第八条及び第十七条の改正規定に係る部分を除く。)並びに附則第七条、第十条、第十二条、第五十九条ただし書、第六十条第四項及び第五項、第七十三条、第七十七条、第百五十七条第四項から第六項まで、第百六十条、第百六十三条、第百六十四条並びに第二百二条の規定 公布の日

(新地方自治法第百五十六条第四項の適用の特例)
第百二十二条  第三百七十五条の規定による改正後の労働省設置法の規定による都道府県労働局(以下「都道府県労働局」という。)であって、この法律の施行の際第三百七十五条の規定による改正前の労働省設置法の規定による都道府県労働基準局の位置と同一の位置に設けられているものについては、新地方自治法第百五十六条第四項の規定は、適用しない。

(職業安定関係地方事務官に関する経過措置)
第百二十三条  この法律の施行の際現に旧地方自治法附則第八条に規定する職員(労働大臣又はその委任を受けた者により任命された者に限る。附則第百五十八条において「職業安定関係地方事務官」という。)である者は、別に辞令が発せられない限り、相当の都道府県労働局の職員となるものとする。

(地方労働基準審議会等に関する経過措置)
第百二十四条  この法律による改正前のそれぞれの法律の規定による地方労働基準審議会、地方職業安定審議会、地区職業安定審議会、地方最低賃金審議会、地方家内労働審議会及び機会均等調停委員会並びにその会長、委員その他の職員は、相当の都道府県労働局の相当の機関及び職員となり、同一性をもって存続するものとする。

(国等の事務)
第百五十九条  この法律による改正前のそれぞれの法律に規定するもののほか、この法律の施行前において、地方公共団体の機関が法律又はこれに基づく政令により管理し又は執行する国、他の地方公共団体その他公共団体の事務(附則第百六十一条において「国等の事務」という。)は、この法律の施行後は、地方公共団体が法律又はこれに基づく政令により当該地方公共団体の事務として処理するものとする。

(処分、申請等に関する経過措置)
第百六十条  この法律(附則第一条各号に掲げる規定については、当該各規定。以下この条及び附則第百六十三条において同じ。)の施行前に改正前のそれぞれの法律の規定によりされた許可等の処分その他の行為(以下この条において「処分等の行為」という。)又はこの法律の施行の際現に改正前のそれぞれの法律の規定によりされている許可等の申請その他の行為(以下この条において「申請等の行為」という。)で、この法律の施行の日においてこれらの行為に係る行政事務を行うべき者が異なることとなるものは、附則第二条から前条までの規定又は改正後のそれぞれの法律(これに基づく命令を含む。)の経過措置に関する規定に定めるものを除き、この法律の施行の日以後における改正後のそれぞれの法律の適用については、改正後のそれぞれの法律の相当規定によりされた処分等の行為又は申請等の行為とみなす。
2  この法律の施行前に改正前のそれぞれの法律の規定により国又は地方公共団体の機関に対し報告、届出、提出その他の手続をしなければならない事項で、この法律の施行の日前にその手続がされていないものについては、この法律及びこれに基づく政令に別段の定めがあるもののほか、これを、改正後のそれぞれの法律の相当規定により国又は地方公共団体の相当の機関に対して報告、届出、提出その他の手続をしなければならない事項についてその手続がされていないものとみなして、この法律による改正後のそれぞれの法律の規定を適用する。

(不服申立てに関する経過措置)
第百六十一条  施行日前にされた国等の事務に係る処分であって、当該処分をした行政庁(以下この条において「処分庁」という。)に施行日前に行政不服審査法に規定する上級行政庁(以下この条において「上級行政庁」という。)があったものについての同法による不服申立てについては、施行日以後においても、当該処分庁に引き続き上級行政庁があるものとみなして、行政不服審査法の規定を適用する。この場合において、当該処分庁の上級行政庁とみなされる行政庁は、施行日前に当該処分庁の上級行政庁であった行政庁とする。
2  前項の場合において、上級行政庁とみなされる行政庁が地方公共団体の機関であるときは、当該機関が行政不服審査法の規定により処理することとされる事務は、新地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。

(手数料に関する経過措置)
第百六十二条  施行日前においてこの法律による改正前のそれぞれの法律(これに基づく命令を含む。)の規定により納付すべきであった手数料については、この法律及びこれに基づく政令に別段の定めがあるもののほか、なお従前の例による。

(罰則に関する経過措置)
第百六十三条  この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(その他の経過措置の政令への委任)
第百六十四条  この附則に規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。
2  附則第十八条、第五十一条及び第百八十四条の規定の適用に関して必要な事項は、政令で定める。

(検討)
第二百五十条  新地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務については、できる限り新たに設けることのないようにするとともに、新地方自治法別表第一に掲げるもの及び新地方自治法に基づく政令に示すものについては、地方分権を推進する観点から検討を加え、適宜、適切な見直しを行うものとする。

第二百五十一条  政府は、地方公共団体が事務及び事業を自主的かつ自立的に執行できるよう、国と地方公共団体との役割分担に応じた地方税財源の充実確保の方途について、経済情勢の推移等を勘案しつつ検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

第二百五十二条  政府は、医療保険制度、年金制度等の改革に伴い、社会保険の事務処理の体制、これに従事する職員の在り方等について、被保険者等の利便性の確保、事務処理の効率化等の視点に立って、検討し、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

   附 則 (平成一一年七月一六日法律第一〇四号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の日から施行する。

   附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。

   附 則 (平成一三年七月一一日法律第一一二号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十三年十月一日から施行する。

   附 則 (平成一三年一一月一六日法律第一一八号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、公布の日から施行する。

   附 則 (平成一四年五月三一日法律第五四号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十四年七月一日から施行する。

(経過措置)
第二十八条  この法律の施行前にこの法律による改正前のそれぞれの法律若しくはこれに基づく命令(以下「旧法令」という。)の規定により海運監理部長、陸運支局長、海運支局長又は陸運支局の事務所の長(以下「海運監理部長等」という。)がした許可、認可その他の処分又は契約その他の行為(以下「処分等」という。)は、国土交通省令で定めるところにより、この法律による改正後のそれぞれの法律若しくはこれに基づく命令(以下「新法令」という。)の規定により相当の運輸監理部長、運輸支局長又は地方運輸局、運輸監理部若しくは運輸支局の事務所の長(以下「運輸監理部長等」という。)がした処分等とみなす。

第二十九条  この法律の施行前に旧法令の規定により海運監理部長等に対してした申請、届出その他の行為(以下「申請等」という。)は、国土交通省令で定めるところにより、新法令の規定により相当の運輸監理部長等に対してした申請等とみなす。

第三十条  この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

   附 則 (平成一四年七月三一日法律第九八号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、公社法の施行の日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一  第一章第一節(別表第一から別表第四までを含む。)並びに附則第二十八条第二項、第三十三条第二項及び第三項並びに第三十九条の規定 公布の日

(罰則に関する経過措置)
第三十八条  施行日前にした行為並びにこの法律の規定によりなお従前の例によることとされる場合及びこの附則の規定によりなおその効力を有することとされる場合における施行日以後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(その他の経過措置の政令への委任)
第三十九条  この法律に規定するもののほか、公社法及びこの法律の施行に関し必要な経過措置(罰則に関する経過措置を含む。)は、政令で定める。

   附 則 (平成一八年六月二一日法律第八二号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十九年四月一日から施行する。ただし、附則第七条の規定は、社会保険労務士法の一部を改正する法律(平成十七年法律第六十二号)中社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)第二条第一項第一号の四の改正規定の施行の日又はこの法律の施行の日のいずれか遅い日から施行する。

(紛争の解決の促進に関する特例に関する経過措置)
第二条  この法律の施行の際現に個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)第六条第一項の紛争調整委員会(以下「委員会」という。)に係属している同法第五条第一項のあっせんに係る紛争については、第一条の規定による改正後の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「新法」という。)第十六条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

(時効の中断に関する経過措置)
第三条  この法律の施行の際現に委員会に係属している第一条の規定による改正前の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第十四条第一項の調停に関し当該調停の目的となっている請求についての新法第二十四条の規定の適用に関しては、この法律の施行の時に、調停の申請がされたものとみなす。

(罰則に関する経過措置)
第四条  この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(検討)
第五条  政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、新法及び第二条の規定による改正後の労働基準法第六十四条の二の規定の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、これらの規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

   附 則 (平成二〇年五月二日法律第二六号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成二十年十月一日から施行する。

(罰則に関する経過措置)
第六条  この法律の施行前にした行為及び前条第四項の規定によりなお従前の例によることとされる場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(政令への委任)
第七条  附則第二条から前条までに定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。

(検討)
第九条  政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の規定の実施状況を勘案し、必要があると認めるときは、運輸の安全の一層の確保を図る等の観点から運輸安全委員会の機能の拡充等について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

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法律婚と内縁(事実婚)の間で法律上認められていることと認められていないことの比較:家族法の視点より

2012-05-23 11:15:03 | シチズンシップ教育
 内縁(事実婚)が、法律婚と同じように法的な効果を有しているもの。

1)同居・協力・扶助義務(752条)

2)貞操義務

3)婚姻費用分担義務(760条)

4)日常家事債務の連帯責任(761条)

5)夫婦別産制と帰属不明財産の共有推定(762条)

6)財産分与(768条)と不当な破棄への救済(慰謝料)

7)第三者の不法行為に対する救済(内縁の配偶者に対する生命侵害、第三者との性的関係)



8)契約取消権→説が分かれる



 法律婚には認められるが、内縁(事実婚)には、認められないもの。

1)氏の変更

2)成年擬制

3)子の嫡出性

4)親権の所在(非嫡出子の親権者は原則として母)

5)姻族関係の発生

6)相続権

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原発事故災害の損害賠償は、原子力事業者の無過失責任。『原子力損害の賠償に関する法律』第3条1項

2012-05-23 09:51:43 | 防災・減災
 東京電力や国の責任を考える場合、以下の条文を基本にして、考えていく必要があります。

 『原子力損害の賠償に関する法律』 第3条1項 「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。」

 無過失責任という重い責任を、原子力事業者に課していることがわかります。

 なお、予測可能性を考慮に入れれば、今回の場合、但書「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。」は、当てはまらないと考えます。




********原子力損害の賠償に関する法律********

原子力損害の賠償に関する法律
(昭和三十六年六月十七日法律第百四十七号)


最終改正:平成二一年四月一七日法律第一九号


 第一章 総則(第一条・第二条)
 第二章 原子力損害賠償責任(第三条―第五条)
 第三章 損害賠償措置
  第一節 損害賠償措置(第六条―第七条の二)
  第二節 原子力損害賠償責任保険契約(第八条・第九条)
  第三節 原子力損害賠償補償契約(第十条・第十一条)
  第四節 供託(第十二条―第十五条)
 第四章 国の措置(第十六条・第十七条)
 第五章 原子力損害賠償紛争審査会(第十八条)
 第六章 雑則(第十九条―第二十三条)
 第七章 罰則(第二十四条―第二十六条)
 附則

   第一章 総則


(目的)
第一条  この法律は、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め、もつて被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。

(定義)
第二条  この法律において「原子炉の運転等」とは、次の各号に掲げるもの及びこれらに付随してする核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を含む。第五号において同じ。)の運搬、貯蔵又は廃棄であつて、政令で定めるものをいう。
一  原子炉の運転
二  加工
三  再処理
四  核燃料物質の使用
四の二  使用済燃料の貯蔵
五  核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物(次項及び次条第二項において「核燃料物質等」という。)の廃棄
2  この法律において「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう。ただし、次条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者の受けた損害を除く。
3  この法律において「原子力事業者」とは、次の各号に掲げる者(これらの者であつた者を含む。)をいう。
一  核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号。以下「規制法」という。)第二十三条第一項の許可(規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者(規制法第三十九条第五項の規定により原子炉設置者とみなされた者を含む。)
二  規制法第二十三条の二第一項の許可を受けた者
三  規制法第十三条第一項の許可(規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
四  規制法第四十三条の四第一項の許可(規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
五  規制法第四十四条第一項の指定(規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
六  規制法第五十一条の二第一項の許可(規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
七  規制法第五十二条第一項の許可(規制法第七十六条の規定により読み替えて適用される同項の規定による国に対する承認を含む。)を受けた者
4  この法律において「原子炉」とは、原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)第三条第四号に規定する原子炉をいい、「核燃料物質」とは、同法同条第二号に規定する核燃料物質(規制法第二条第八項に規定する使用済燃料を含む。)をいい、「加工」とは、規制法第二条第七項に規定する加工をいい、「再処理」とは、規制法第二条第八項に規定する再処理をいい、「使用済燃料の貯蔵」とは、規制法第四十三条の四第一項に規定する使用済燃料の貯蔵をいい、「核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物の廃棄」とは、規制法第五十一条の二第一項に規定する廃棄物埋設又は廃棄物管理をいい、「放射線」とは、原子力基本法第三条第五号に規定する放射線をいい、「原子力船」又は「外国原子力船」とは、規制法第二十三条の二第一項に規定する原子力船又は外国原子力船をいう。
   第二章 原子力損害賠償責任


(無過失責任、責任の集中等)
第三条  原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
2  前項の場合において、その損害が原子力事業者間の核燃料物質等の運搬により生じたものであるときは、当該原子力事業者間に特約がない限り、当該核燃料物質等の発送人である原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。

第四条  前条の場合においては、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない。
2  前条第一項の場合において、第七条の二第二項に規定する損害賠償措置を講じて本邦の水域に外国原子力船を立ち入らせる原子力事業者が損害を賠償する責めに任ずべき額は、同項に規定する額までとする。
3  原子炉の運転等により生じた原子力損害については、商法(明治三十二年法律第四十八号)第七百九十八条第一項、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五十年法律第九十四号)及び製造物責任法(平成六年法律第八十五号)の規定は、適用しない。

(求償権)
第五条  第三条の場合において、その損害が第三者の故意により生じたものであるときは、同条の規定により損害を賠償した原子力事業者は、その者に対して求償権を有する。
2  前項の規定は、求償権に関し特約をすることを妨げない。
   第三章 損害賠償措置

    第一節 損害賠償措置


(損害賠償措置を講ずべき義務)
第六条  原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置(以下「損害賠償措置」という。)を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない。

(損害賠償措置の内容)
第七条  損害賠償措置は、次条の規定の適用がある場合を除き、原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託であつて、その措置により、一工場若しくは一事業所当たり若しくは一原子力船当たり千二百億円(政令で定める原子炉の運転等については、千二百億円以内で政令で定める金額とする。以下「賠償措置額」という。)を原子力損害の賠償に充てることができるものとして文部科学大臣の承認を受けたもの又はこれらに相当する措置であつて文部科学大臣の承認を受けたものとする。
2  文部科学大臣は、原子力事業者が第三条の規定により原子力損害を賠償したことにより原子力損害の賠償に充てるべき金額が賠償措置額未満となつた場合において、原子力損害の賠償の履行を確保するため必要があると認めるときは、当該原子力事業者に対し、期限を指定し、これを賠償措置額にすることを命ずることができる。
3  前項に規定する場合においては、同項の規定による命令がなされるまでの間(同項の規定による命令がなされた場合においては、当該命令により指定された期限までの間)は、前条の規定は、適用しない。

第七条の二  原子力船を外国の水域に立ち入らせる場合の損害賠償措置は、原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結その他の措置であつて、当該原子力船に係る原子力事業者が原子力損害を賠償する責めに任ずべきものとして政府が当該外国政府と合意した額の原子力損害を賠償するに足りる措置として文部科学大臣の承認を受けたものとする。
2  外国原子力船を本邦の水域に立ち入らせる場合の損害賠償措置は、当該外国原子力船に係る原子力事業者が原子力損害を賠償する責めに任ずべきものとして政府が当該外国政府と合意した額(原子力損害の発生の原因となつた事実一について三百六十億円を下らないものとする。)の原子力損害を賠償するに足りる措置として文部科学大臣の承認を受けたものとする。
    第二節 原子力損害賠償責任保険契約


(原子力損害賠償責任保険契約)
第八条  原子力損害賠償責任保険契約(以下「責任保険契約」という。)は、原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合において、一定の事由による原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を保険者(保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第四項に規定する損害保険会社又は同条第九項に規定する外国損害保険会社等で、責任保険の引受けを行う者に限る。以下同じ。)がうめることを約し、保険契約者が保険者に保険料を支払うことを約する契約とする。

第九条  被害者は、損害賠償請求権に関し、責任保険契約の保険金について、他の債権者に優先して弁済を受ける権利を有する。
2  被保険者は、被害者に対する損害賠償額について、自己が支払つた限度又は被害者の承諾があつた限度においてのみ、保険者に対して保険金の支払を請求することができる。
3  責任保険契約の保険金請求権は、これを譲り渡し、担保に供し、又は差し押えることができない。ただし、被害者が損害賠償請求権に関し差し押える場合は、この限りでない。
    第三節 原子力損害賠償補償契約


(原子力損害賠償補償契約)
第十条  原子力損害賠償補償契約(以下「補償契約」という。)は、原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合において、責任保険契約その他の原子力損害を賠償するための措置によつてはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を納付することを約する契約とする。
2  補償契約に関する事項は、別に法律で定める。

第十一条  第九条の規定は、補償契約に基づく補償金について準用する。
    第四節 供託


(供託)
第十二条  損害賠償措置としての供託は、原子力事業者の主たる事務所のもよりの法務局又は地方法務局に、金銭又は文部科学省令で定める有価証券(社債、株式等の振替に関する法律(平成十三年法律第七十五号)第二百七十八条第一項に規定する振替債を含む。以下この節において同じ。)によりするものとする。

(供託物の還付)
第十三条  被害者は、損害賠償請求権に関し、前条の規定により原子力事業者が供託した金銭又は有価証券について、その債権の弁済を受ける権利を有する。

(供託物の取りもどし)
第十四条  原子力事業者は、次の各号に掲げる場合においては、文部科学大臣の承認を受けて、第十二条の規定により供託した金銭又は有価証券を取りもどすことができる。
一  原子力損害を賠償したとき。
二  供託に代えて他の損害賠償措置を講じたとき。
三  原子炉の運転等をやめたとき。
2  文部科学大臣は、前項第二号又は第三号に掲げる場合において承認するときは、原子力損害の賠償の履行を確保するため必要と認められる限度において、取りもどすことができる時期及び取りもどすことができる金銭又は有価証券の額を指定して承認することができる。

(文部科学省令・法務省令への委任)
第十五条  この節に定めるもののほか、供託に関する事項は、文部科学省令・法務省令で定める。
   第四章 国の措置


(国の措置)
第十六条  政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。
2  前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。

第十七条  政府は、第三条第一項ただし書の場合又は第七条の二第二項の原子力損害で同項に規定する額をこえると認められるものが生じた場合においては、被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする。
   第五章 原子力損害賠償紛争審査会


第十八条  文部科学省に、原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介及び当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定に係る事務を行わせるため、政令の定めるところにより、原子力損害賠償紛争審査会(以下この条において「審査会」という。)を置くことができる。
2  審査会は、次に掲げる事務を処理する。
一  原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと。
二  原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること。
三  前二号に掲げる事務を行うため必要な原子力損害の調査及び評価を行うこと。
3  前二項に定めるもののほか、審査会の組織及び運営並びに和解の仲介の申立及びその処理の手続に関し必要な事項は、政令で定める。
   第六章 雑則


(国会に対する報告及び意見書の提出)
第十九条  政府は、相当規模の原子力損害が生じた場合には、できる限りすみやかに、その損害の状況及びこの法律に基づいて政府のとつた措置を国会に報告しなければならない。
2  政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力委員会又は原子力安全委員会が損害の処理及び損害の防止等に関する意見書を内閣総理大臣に提出したときは、これを国会に提出しなければならない。

(第十条第一項及び第十六条第一項の規定の適用)
第二十条  第十条第一項及び第十六条第一項の規定は、平成三十一年十二月三十一日までに第二条第一項各号に掲げる行為を開始した原子炉の運転等に係る原子力損害について適用する。

(報告徴収及び立入検査)
第二十一条  文部科学大臣は、第六条の規定の実施を確保するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し必要な報告を求め、又はその職員に、原子力事業者の事務所若しくは工場若しくは事業所若しくは原子力船に立ち入り、その者の帳簿、書類その他必要な物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2  前項の規定により職員が立ち入るときは、その身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。
3  第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

(経済産業大臣又は国土交通大臣との協議)
第二十二条  文部科学大臣は、第七条第一項若しくは第七条の二第一項若しくは第二項の規定による処分又は第七条第二項の規定による命令をする場合においては、あらかじめ、発電の用に供する原子炉の運転、加工、再処理、使用済燃料の貯蔵又は核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物の廃棄に係るものについては経済産業大臣、船舶に設置する原子炉の運転に係るものについては国土交通大臣に協議しなければならない。

(国に対する適用除外)
第二十三条  第三章、第十六条及び次章の規定は、国に適用しない。
   第七章 罰則


第二十四条  第六条の規定に違反した者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第二十五条  次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
一  第二十一条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
二  第二十一条第一項の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者

第二十六条  法人の代表者又は法人若しくは人の代理人その他の従業者が、その法人又は人の事業に関して前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

   附 則 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、公布の日から起算して九月をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。

第三条  この法律の施行前にした行為及びこの法律の施行後この法律の規定による改正前の規制法第二十六条第一項(同法第二十三条第二項第九号に係る部分をいう。)の規定がその効力を失う前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(他の法律による給付との調整等)
第四条  第三条の場合において、同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者(以下この条において単に「原子力事業者」という。)の従業員が原子力損害を受け、当該従業員又はその遺族がその損害のてん補に相当する労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)の規定による給付その他法令の規定による給付であつて政令で定めるもの(以下この条において「災害補償給付」という。)を受けるべきときは、当該従業員又はその遺族に係る原子力損害の賠償については、当分の間、次に定めるところによるものとする。
一  原子力事業者は、原子力事業者の従業員又はその遺族の災害補償給付を受ける権利が消滅するまでの間、その損害の発生時から当該災害補償給付を受けるべき時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該災害補償給付の価額となるべき額の限度で、その賠償の履行をしないことができる。
二  前号の場合において、災害補償給付の支給があつたときは、原子力事業者は、その損害の発生時から当該災害補償給付が支給された時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該災害補償給付の価額となるべき額の限度で、その損害の賠償の責めを免れる。
2  原子力事業者の従業員が原子力損害を受けた場合において、その損害が第三者の故意により生じたものであるときは、当該従業員又はその遺族に対し災害補償給付を支給した者は、当該第三者に対して求償権を有する。

   附 則 (昭和四二年七月二〇日法律第七三号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、公布の日から施行する。ただし、附則第八条から第三十一条までの規定は、公布の日から起算して六月をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。

   附 則 (昭和四六年五月一日法律第五三号) 抄


(施行期日)
1  この法律は、公布の日から起算して六月をこえない範囲内において政令で定める日から施行する。
(経過措置)
2  この法律の施行の際現に行なわれている核燃料物質の運搬については、改正後の原子力損害の賠償に関する法律第三条第二項の規定にかかわらず、なお従前の例による。

   附 則 (昭和五〇年一二月二七日法律第九四号) 抄


(施行期日等)
1  この法律は、海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約が日本国について効力を生ずる日から施行する。

   附 則 (昭和五三年七月五日法律第八六号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に掲げる日から施行する。
一  第二条中原子力委員会設置法第十五条を第十二条とし同条の次に二章及び章名を加える改正規定のうち第二十二条(同条において準用する第五条第一項の規定中委員の任命について両議院の同意を得ることに係る部分に限る。)の規定並びに次条第一項及び第三項の規定 公布の日
二  第一条の規定、第二条の規定(前号に掲げる同条中の規定を除く。)、第三条中核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第四条第二項の改正規定、同法第十四条第二項の改正規定、同法第二十三条に一項を加える改正規定及び同法第二十四条第二項の改正規定(「内閣総理大臣」を主務大臣」に改める部分を除く。)並びに次条第二項、附則第五条から附則第七条まで及び附則第九条の規定 公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日
三  前二号に掲げる規定以外の規定 公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日

   附 則 (昭和五四年六月一二日法律第四四号)

 この法律は、公布の日から起算して九月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。


   附 則 (昭和五四年六月二九日法律第五二号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

   附 則 (昭和五八年一二月二日法律第七八号)


1  この法律(第一条を除く。)は、昭和五十九年七月一日から施行する。
2  この法律の施行の日の前日において法律の規定により置かれている機関等で、この法律の施行の日以後は国家行政組織法又はこの法律による改正後の関係法律の規定に基づく政令(以下「関係政令」という。)の規定により置かれることとなるものに関し必要となる経過措置その他この法律の施行に伴う関係政令の制定又は改廃に関し必要となる経過措置は、政令で定めることができる。

   附 則 (昭和六一年五月二七日法律第七三号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

   附 則 (昭和六三年五月二七日法律第六九号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める日から施行する。
一  第一条の改正規定、第二条の改正規定、第十条第二項中第七号を第十二号とし、第六号を第十号とし、同号の次に一号を加える改正規定、第二十条第二項中第八号を第十六号とし、第七号を第十五号とし、第六号を第十四号とし、第五号の三を第十二号とし、同号の次に一号を加える改正規定、第三十三条第二項中第九号を第十七号とし、第六号から第八号までを八号ずつ繰り下げ、第五号の三を第十二号とし、同号の次に一号を加える改正規定、同項中第五号の二を第十一号とする改正規定、同条第三項第一号の改正規定、第四十六条の七第二項中第十号を第十六号とし、第九号を第十五号とし、第八号を第十四号とし、第七号を第十二号とし、同号の次に一号を加える改正規定、第五十一条の十四第二項中第十一号を第十七号とし、第十号を第十六号とし、第九号を第十五号とし、第八号を第十三号とし、同号の次に一号を加える改正規定、第五十六条中第七号を第十七号とし、第六号を第十六号とし、第五号を第十五号とし、第四号の四を第十三号とし、同号の次に一号を加える改正規定、第五十八条の二の改正規定(「第五十九条の二第一項」の下に「、第五十九条の三第一項及び第六十六条第二項」を加え、「「工場又は事業所」」を「「工場等」」に改める部分に限る。)、第五十九条の二の改正規定、同条の次に一条を加える改正規定、第七十一条中第十三項を第十四項とし、第十項から第十二項までを一項ずつ繰り下げ、第九項の次に一項を加える改正規定及び第八十二条中第五号を第十号とし、第四号の二を第八号とし、同号の次に一号を加える改正規定並びに次条、附則第三条第二項及び附則第四条の規定 核物質の防護に関する条約が日本国について効力を生ずる日(次号において「条約発効日」という。)又は第三号に規定する政令で定める日のうちいずれか早い日前の日であつて、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日

   附 則 (平成元年三月三一日法律第二一号)

 この法律は、平成二年一月一日までの間において政令で定める日から施行する。


   附 則 (平成六年七月一日法律第八五号) 抄


(施行期日等)
1  この法律は、公布の日から起算して一年を経過した日から施行し、その法律の施行後にその製造業者等が引き渡した製造物について適用する。

   附 則 (平成七年六月七日法律第一〇六号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、保険業法(平成七年法律第百五号)の施行の日から施行する。

(罰則の適用に関する経過措置)
第六条  施行日前にした行為及びこの附則の規定によりなお従前の例によることとされる事項に係る施行日以後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(政令への委任)
第七条  附則第二条から前条までに定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。

   附 則 (平成一〇年五月二〇日法律第六二号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

   附 則 (平成一一年五月一〇日法律第三七号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十二年一月一日から施行する。ただし、第二条第一項、第三項及び第四項並びに第二十二条の改正規定並びに次条の規定は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律(平成十一年法律第七十五号)附則第一条第一号に掲げる規定の施行の日から施行する。

   附 則 (平成一一年七月一六日法律第一〇二号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
二  附則第十条第一項及び第五項、第十四条第三項、第二十三条、第二十八条並びに第三十条の規定 公布の日

(職員の身分引継ぎ)
第三条  この法律の施行の際現に従前の総理府、法務省、外務省、大蔵省、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省、建設省又は自治省(以下この条において「従前の府省」という。)の職員(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第八条の審議会等の会長又は委員長及び委員、中央防災会議の委員、日本工業標準調査会の会長及び委員並びに これらに類する者として政令で定めるものを除く。)である者は、別に辞令を発せられない限り、同一の勤務条件をもって、この法律の施行後の内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省若しくは環境省(以下この条において「新府省」という。)又はこれに置かれる部局若しくは機関のうち、この法律の施行の際現に当該職員が属する従前の府省又はこれに置かれる部局若しくは機関の相当の新府省又はこれに置かれる部局若しくは機関として政令で定めるものの相当の職員となるものとする。

(別に定める経過措置)
第三十条  第二条から前条までに規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要となる経過措置は、別に法律で定める。

   附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。

   附 則 (平成一四年六月一二日法律第六五号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十五年一月六日から施行する。

(罰則の適用に関する経過措置)
第八十四条  この法律(附則第一条各号に掲げる規定にあっては、当該規定。以下この条において同じ。)の施行前にした行為及びこの附則の規定によりなお従前の例によることとされる場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(その他の経過措置の政令への委任)
第八十五条  この附則に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。

(検討)
第八十六条  政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において新社債等振替法、金融商品取引法の施行状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、新社債等振替法第二条第十一項に規定する加入者保護信託、金融商品取引法第二条第二十九項に規定する金融商品取引清算機関に係る制度について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

   附 則 (平成一五年五月三〇日法律第五四号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、平成十六年四月一日から施行する。

(罰則の適用に関する経過措置)
第三十八条  この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(その他の経過措置の政令への委任)
第三十九条  この法律に規定するもののほか、この法律の施行に伴い必要な経過措置は、政令で定める。

(検討)
第四十条  政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の規定の実施状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、この法律による改正後の金融諸制度について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

   附 則 (平成一六年六月九日法律第八八号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、公布の日から起算して五年を超えない範囲内において政令で定める日(以下「施行日」という。)から施行する。

(罰則の適用に関する経過措置)
第百三十五条  この法律の施行前にした行為並びにこの附則の規定によりなお従前の例によることとされる場合及びなおその効力を有することとされる場合におけるこの法律の施行後にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。

(その他の経過措置の政令への委任)
第百三十六条  この附則に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。

(検討)
第百三十七条  政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の規定の実施状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、この法律による改正後の株式等の取引に係る決済制度について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。

   附 則 (平成一六年一二月三日法律第一五五号) 抄


(施行期日)
第一条  この法律は、公布の日から施行する。ただし、附則第十条から第十二条まで、第十四条から第十七条まで、第十八条第一項及び第三項並びに第十九条から第三十二条までの規定は、平成十七年十月一日から施行する。

   附 則 (平成一七年七月二六日法律第八七号) 抄

 この法律は、会社法の施行の日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

一  第二百四十二条の規定 この法律の公布の日

   附 則 (平成二一年四月一七日法律第一九号)

 この法律は、平成二十二年一月一日から施行する。


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日本の復興とともに、白紙委任状を専門家や政治家に出す日本人からの脱皮を、私たちができればと。

2012-05-23 09:31:57 | 国政レベルでなすべきこと
 以下、書かれています。

 民法事案でも、そうですが、白紙委任状ほど、怖いものがなく、それにより行き違いが生じています。

 白紙委任状を出す日本人からの脱皮を、私たちができればと思っています。




k_shinryo1962‏@k_shinryo1962

宮台真司さん @miyadai が進めている住民投票~コンセンサス会議が実現できれば、元々理解力があり教養レベルも高い日本人は本当のことを知り、正しい選択ができるようになる。専門家と称する人に白紙委任状を渡すような振る舞いから日本人は卒業する時が来ている。
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後見人制度の難しさ。就職前に無権代理人により締結された契約の後見人による追認拒絶は信義則に反するか。

2012-05-22 16:57:39 | シチズンシップ教育
 障がいのある子達が、親亡き後も、安心して暮らしていくことができること、そのためには、後見人制度のきちんとした整備が欠かせません。
 何度も、口にし、ブログに書いてきましたが、まだまだな状態であり、十分な進展がみられていないと感じています。もう一歩踏み込んだ、整備をすべきと考えています。
 その一歩になればと思い、今、自分自身が法律を学ぼうとしています。私にとっての法科大学院進学のひとつの要因として後見制度の取り組みがあります。


 さて、民法で、以下の成年後見人に関する事例に出会いました。
 この事例は、禁治産という用語がつかわれていた頃の事例です。

 裁判沙汰にならずに、どのようにすれば、防げたか。
 下線にある時点で、少なくとも、後見人が選ばれ、障がいのある子の将来を見据えた選択がなされていることが必要であったのではと感じます。

 事例では、成年後見人がなしで、本人名の契約がなされ、よって、それは、無権限の代理として無効な契約となり、契約する側も契約をされた相手側も、双方困ったことになってしまった残念な事例です。
 

 

【事案の概要】
昭和八年Y出生。生まれつき聴覚等の障害があり、成長期に適切な教育を受けられなかったため、精神の発達に遅滞があり、読み書きもほとんどできず、六歳程度の知能年齢にある。

昭和四〇年三月二日父D死亡。父の旧建物をYが相続。

昭和四三年五月のYを賃貸人とするXとの間の旧建物の賃貸借契約の締結。

昭和五五年、旧建物の敷地及びそれに隣接する土地上に等価交換方式によりビルを建築する計画浮上。

建て替え後も、引き続き、新築後も、賃貸する方向でXと話し合い。

昭和五六年二月一七日、X、F及びGがJ弁護士の事務所に集まり、同弁護士において予め用意していた文書に、Xが自己の署名及び捺印をし、FがYの記名及び捺印をして、本件建物についての賃貸借の予約(以下「本件予約」という。)

昭和五六年五月七日等価交換契約が締結され、Xは、旧建物を明け渡し、昭和五七年八月にビルが完成した。

ビル完成前の昭和五七年四月ころ、Fは、Xに対し、賃貸借の本契約の締結を拒む意思を表明。

昭和五七年五月一〇日及び二六日に、Xは、Yにあてて本件建物を賃貸するよう求める旨の書面を送付したが、Y側は、これに対する回答をしないで、他の人に対し、同年六月一七日付けで本件建物借入金の担保として譲渡。

同年七月九日、Xは、同年八月三日、本件予約に定められた違約による損害賠償請求権を被保全権利として本件建物につき仮差押え。

昭和五七年八月二七日、Xは、Yに対し、本件予約中の合意に基づき、四〇〇〇万円の損害賠償等を求める訴えを提起。

昭和六一年二月一九日、Xの請求を認容する旨の第一審判決。

Yから控訴が提起、控訴審は、Yによる訴状等の送達の受領及び訴訟代理権の授与が意思無能力者の行為であり無効であるとして第一審判決を取り消した上、第一審に差し戻し。

差戻し後の第一審がXの請求を棄却したので、Xが控訴。

昭和六一年二月二一日、Yを禁治産者とし、後見人を選任することを求める申立てをしたところ、横浜家庭裁判所は、同年八月二〇日、Yを禁治産者とし、Gを後見人に選任する旨の決定。



******詳細に事案をみてみると************




1 Yは、DとE夫婦の三女として昭和八年に出生したが、生まれつき聴覚等の障害があり、成長期に適切な教育を受けられなかったため、精神の発達に遅滞があり、読み書きもほとんどできず、六歳程度の知能年齢にある。

2 Yの父Dは昭和四〇年三月二日に死亡し、その相続人は妻E、長女F、二女G、三女Y及び長男Hであったが、Yを除く相続人らは、Dの遺志に従い、Yの将来の生活の資に充てるため、遺産に属していた東京都品川区ab丁目に存する木造二階建店舗(以下「旧建物」という。)の所有権及びその敷地の借地権をYが取得するとの遺産分割協議が成立したこととしてYに対し旧建物の所有権移転登記手続をした。そして、E、F、G及びHは、Yが右1のような状態にあったので、以後、Yと同居していたEとFが上告人の身の回りの世話をし、主として長女Fが旧建物を管理することとした。旧建物について、昭和四三年五月のYを賃貸人とするXとの間の賃貸借契約の締結、その後の賃料の改定、契約の更新等の交渉にはFが当たったが、そのことについてだれからも苦情が出ることはなかった。

3 昭和五五年、I株式会社において旧建物の敷地及びそれに隣接する土地上に等価交換方式によりビルを建築する計画が立てられ、右計画を実施するためには旧建物を取り壊すことが必要になった。このビル建築をめぐるXとの間の交渉には主としてFが当たり、同年九月一九日、Xが旧建物からいったん立ち退き、ビルの完成後にYが取得する区分所有建物を改めてXに賃貸する旨の合意書(甲第四号証)が作成されたが、Fにおいて右合意書のYの記名及び捺印をし、また、同年一一月一四日に作成された合意書(甲第八号証)についても、FにおいてYの記名及び捺印をした。

4 その後、FとGは、市の法律相談で知ったJ弁護士に対し、新築後のビルの中にYが取得することになる専有部分の建物(以下「本件建物」という。)についてのXとの間の賃貸借契約の条項案の作成等を依頼し、同弁護士は、契
約条項案(甲第三二号証)を作成した。これに対し、Xも、弁護士に依頼して契約書案(甲第七号証)を作成し、FとGに交付した。そして、昭和五六年二月一七日、X、F及びGがJ弁護士の事務所に集まり、同弁護士において予め用意していた文書に、Xが自己の署名及び捺印をし、FがYの記名及び捺印をして、本件建物についての賃貸借の予約(以下「本件予約」という。)がされた。

本件予約には、(1) Xは、Yから本件建物を賃借することを予約する、
       (2) Yは、Xに本件建物を引き渡すまでに、Xとの間で賃貸借の本契約を締結する、
       (3) Yの都合で賃貸借の本契約を締結することができないときは、Yは、Xに対し四〇〇〇万円の損害賠償金を支払う、
という内容の合意が含まれていた。


5 昭和五六年五月七日にYを含む土地の権利関係者とIとの間で等価交換契約が締結され、Xは、旧建物を明け渡し、昭和五七年八月にビルが完成した。

6 Fは、Xに対し、ビル完成前の昭和五七年四月ころ、Kを介して賃貸借の本契約の締結を拒む意思を表明したため、Xは、Yにあてて同年五月一〇日及び二六日に本件建物を賃貸するよう求める旨の書面を送付したが、Y側は、これに対する回答をしないで、Lに対し、同年六月一七日付けで本件建物借入金の担保として譲渡した。そこで、Xは、同年七月九日、本件建物についてのIに対するYの引渡請求権の処分禁止の仮処分決定を得、また、同年八月三日、本件予約に定められた違約による損害賠償請求権を被保全権利として本件建物につき仮差押えをした。


7 Xは、Yに対し、昭和五七年八月二七日、本件予約中の右4の(3)の合意に基づき、四〇〇〇万円の損害賠償等を求める訴えを提起し、昭和六一年二月一九日、右の請求を認容する旨の第一審判決が言い渡された。これに対し、
Yから控訴が提起され、控訴審は、Yによる訴状等の送達の受領及び訴訟代理権の授与が意思無能力者の行為であり無効であるとして民訴法三八七条、三八九条一項を適用して、第一審判決を取り消した上、第一審に差し戻した。差戻し後の第一審がXの請求を棄却したので、Xが控訴した。

8 この間、Fは、横浜家庭裁判所に対し、昭和六一年二月二一日、Yを禁治産者とし、後見人を選任することを求める申立てをしたところ、横浜家庭裁判所は、同年八月二〇日、Yを禁治産者とし、Gを後見人に選任する旨の決定をした。

********************************



【判決文の理解】

<信義則による追認拒絶の制限法理の相対的位置づけ>
 禁治産者の後見人は、原則として、禁治産者の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき禁治産者を代理する権限を有するものとされており(民法八五九条、八六〇条、八二六条)、後見人就職前に禁治産者の無権代理人によってされた法律行為を追認し、又は追認を拒絶する権限も、その代理権の範囲に含まれる。
 後見人において無権代理行為の追認を拒絶した場合には、右無権代理行為は禁治産者との間においては無効であることに確定するのであるが、その場合における無権代理行為の相手方の利益を保護するため、相手方は、無権代理人に対し履行又は損害賠償を求めることができ(民法一一七条)、また、追認の拒絶により禁治産者が利益を受け相手方が損失を被るときは禁治産者に対し不当利得の返還を求めることができる(同法七〇三条)ものとされている。


<後見人の行為の裁量行為性及び後見人の行為が信義則に反するか否かの判断基準時は、当該行為の時である>
 後見人は、禁治産者との関係においては、専らその利益のために善良な管理者の注意をもって右の代理権を行使する義務を負うのである(民法八六九条、六四四条)から、後見人は、禁治産者を代理してある法律行為をするか否かを決するに際しては、その時点における禁治産者の置かれた諸般の状況を考慮した上、禁治産者の利益に合致するよう適切な裁量を行使してすることが要請される。


<専ら禁治産者の利益のために行動すべき後見人とはいえ、正義の観念に反するような仕方で禁治産者の利益を追求することは許されない>
 相手方のある法律行為をするに際しては、後見人において取引の安全等相手方の利益にも相応の配慮を払うべきことは当然であって、当該法律行為を代理してすることが取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切り、正義の観念に反するような例外的場合には、そのような代理権の行使は許されないこととなる


<後見人による追認拒絶が信義則に反するか否かの判断に際して考慮すべき要素>
 したがって、禁治産者の後見人が、その就職前に禁治産者の無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かは、

(1) 右契約の締結に至るまでの無権代理人と相手方との交渉経緯及び無権代理人が右契約の締結前に相手方との間でした法律行為の内容と性質、

(2) 右契約を追認することによって禁治産者が被る経済的不利益と追認を拒絶することによって相手方が被る経済的不利益、

(3) 右契約の締結から後見人が就職するまでの間に右契約の履行等をめぐってされた交渉経緯、

(4) 無権代理人と後見人との人的関係及び後見人がその就職前に右契約の締結に関与した行為の程度、

(5) 本人の意思能力について相手方が認識し又は認識し得た事実、

など諸般の事情を勘案し、

 右のような例外的な場合に当たるか否かを判断して、決しなければならないものというべきである。


<今回の取引を当てはめると>
 そうすると、長年にわたって上告人の事実上の後見人として行動していたのはFであり、そのFが本件予約をしながら、その後Lに対して本件建物を借入金の担保として譲渡したなどの事実の存する本件において、

 前判示のような諸般の事情、特に、本件予約における四〇〇〇万円の損害賠償額の予定が、Lに対する譲渡の対価(記録によれば、実質的対価は二〇〇〇万円であったことがうかがわれる。)等と比較して、

 Xにおいて旧建物の賃借権を放棄する不利益と合理的な均衡が取れたものであるか否かなどについて十分に検討することなく、

 後見人であるGにおいて本件予約の追認を拒絶してその効力を争うのは信義則に反し許されないとした原審の判断には、

 法令の解釈適用を誤った違法があるものというべきであり、右違法は判決に影響することが明らかである。

<結論>
以上の趣旨をいうものとして論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、右の点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。





*****最高裁ホームページ******
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=52500&hanreiKbn=02

事件番号

 平成4(オ)1694



事件名

 損害賠償



裁判年月日

 平成6年09月13日



法廷名

 最高裁判所第三小法廷



裁判種別

 判決



結果

 破棄差戻し



判例集等巻・号・頁

 民集 第48巻6号1263頁




原審裁判所名

 東京高等裁判所



原審事件番号

 平成1(ネ)258



原審裁判年月日

 平成4年06月17日




判示事項

 禁治産者の後見人がその就職前に無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かを判断するにつき考慮すべき要素




裁判要旨

 禁治産者の後見人が、その就職前に禁治産者の無権代理人によって締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かは、(1)契約の締結に至るまでの無権代理人と相手方との交渉経緯及び無権代理人が契約の締結前に相手方との間でした法律行為の内容と性質(2)契約を追認することによって禁治産者が被る経済的不利益と追認を拒絶することによって相手方が被る経済的不利益、(3)契約の締結から後見人が就職するまでの間に契約の履行等をめぐってされた交渉経緯(4)無権代理人と後見人との人的関係及び後見人がその就職前に契約の締結に関与した行為の程度、(5)本人の意思能力について相手方が認識し又は認識し得た事実など諸般の事情を勘案し、契約の追認を拒絶することが取引関係に立つ当事者間の信頼を裏切り、正義の観念に反するような例外的な場合に当たるか否かを判断して、決しなければならない。




参照法条

 民法1条2項,民法113条,民法859条


判決文全文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120857677085.pdf

主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人千葉憲雄、同金綱正巳、同鶴見祐策の上告理由について
一 原審の確定した事実及び記録上明らかな本件訴訟の経緯は、次のとおりである。
 1 上告人は、DとE夫婦の三女として昭和八年に出生したが、生まれつき聴覚
等の障害があり、成長期に適切な教育を受けられなかったため、精神の発達に遅滞
があり、読み書きもほとんどできず、六歳程度の知能年齢にある。
 2 上告人の父Dは昭和四〇年三月二日に死亡し、その相続人は妻E、長女F、
二女G、三女上告人及び長男Hであったが、上告人を除く相続人らは、Dの遺志に
従い、上告人の将来の生活の資に充てるため、遺産に属していた東京都品川区ab
丁目に存する木造二階建店舗(以下「旧建物」という。)の所有権及びその敷地の
借地権を上告人が取得するとの遺産分割協議が成立したこととして上告人に対し旧
建物の所有権移転登記手続をした。そして、E、F、G及びHは、上告人が右1の
ような状態にあったので、以後、上告人と同居していたEとFが上告人の身の回り
の世話をし、主としてFが旧建物を管理することとした。旧建物について、昭和四
三年五月の上告人を賃貸人とする被上告人との間の賃貸借契約の締結、その後の賃
料の改定、契約の更新等の交渉にはFが当たったが、そのことについてだれからも
苦情が出ることはなかった。
 3 昭和五五年、I株式会社において旧建物の敷地及びそれに隣接する土地上に
等価交換方式によりビルを建築する計画が立てられ、右計画を実施するためには旧
建物を取り壊すことが必要になった。このビル建築をめぐる被上告人との間の交渉
には主としてFが当たり、同年九月一九日、被上告人が旧建物からいったん立ち退
- 1 -
き、ビルの完成後に上告人が取得する区分所有建物を改めて被上告人に賃貸する旨
の合意書(甲第四号証)が作成されたが、Fにおいて右合意書の上告人の記名及び
捺印をし、また、同年一一月一四日に作成された合意書(甲第八号証)についても、
Fにおいて上告人の記名及び捺印をした。
 4 その後、FとGは、市の法律相談で知ったJ弁護士に対し、新築後のビルの
中に上告人が取得することになる専有部分の建物(以下「本件建物」という。)に
ついての被上告人との間の賃貸借契約の条項案の作成等を依頼し、同弁護士は、契
約条項案(甲第三二号証)を作成した。これに対し、被上告人も、弁護士に依頼し
て契約書案(甲第七号証)を作成し、FとGに交付した。そして、昭和五六年二月
一七日、被上告人、F及びGがJ弁護士の事務所に集まり、同弁護士において予め
用意していた文書に、被上告人が自己の署名及び捺印をし、Fが上告人の記名及び
捺印をして、本件建物についての賃貸借の予約(以下「本件予約」という。)がさ
れた。本件予約には、(1) 被上告人は、上告人から本件建物を賃借することを予
約する、(2) 上告人は、被上告人に本件建物を引き渡すまでに、被上告人との間
で賃貸借の本契約を締結する、(3) 上告人の都合で賃貸借の本契約を締結するこ
とができないときは、上告人は、被上告人に対し四〇〇〇万円の損害賠償金を支払
う、という内容の合意が含まれていた。
 5 昭和五六年五月七日に上告人を含む土地の権利関係者とIとの間で等価交換
契約が締結され、被上告人は、旧建物を明け渡し、昭和五七年八月にビルが完成し
た。
 6 Fは、被上告人に対し、ビル完成前の昭和五七年四月ころ、Kを介して賃貸
借の本契約の締結を拒む意思を表明したため、被上告人は、上告人にあてて同年五
月一〇日及び二六日に本件建物を賃貸するよう求める旨の書面を送付したが、上告
人側は、これに対する回答をしないで、Lに対し、同年六月一七日付けで本件建物
- 2 -
を借入金の担保として譲渡した。そこで、被上告人は、同年七月九日、本件建物に
ついてのIに対する上告人の引渡請求権の処分禁止の仮処分決定を得、また、同年
八月三日、本件予約に定められた違約による損害賠償請求権を被保全権利として本
件建物につき仮差押えをした。
 7 被上告人は、上告人に対し、昭和五七年八月二七日、本件予約中の右4の(
3)の合意に基づき、四〇〇〇万円の損害賠償等を求める訴えを提起し、昭和六一
年二月一九日、右の請求を認容する旨の第一審判決が言い渡された。これに対し、
上告人から控訴が提起され、控訴審は、上告人による訴状等の送達の受領及び訴訟
代理権の授与が意思無能力者の行為であり無効であるとして民訴法三八七条、三八
九条一項を適用して、第一審判決を取り消した上、第一審に差し戻した。差戻し後
の第一審が被上告人の請求を棄却したので、被上告人が控訴した。
 8 この間、Fは、横浜家庭裁判所に対し、昭和六一年二月二一日、上告人を禁
治産者とし、後見人を選任することを求める申立てをしたところ、横浜家庭裁判所
は、同年八月二〇日、上告人を禁治産者とし、Gを後見人に選任する旨の決定をし
た。
二 原審は、右一の事実関係の下において、次のとおり判断し、被上告人の請求を
認容した。(1) 上告人がFに対し、本件予約に先立って、自己の財産の管理処分
について包括的な代理権を授与する旨の意思表示をしたとは認められないから、F
が上告人の代理人として本件予約をしたことは無権代理行為である。(2) しかし、
Fが上告人の事実上の後見人として旧建物についての被上告人との間の契約関係を
処理してきており、本件予約もFが同様の方法でしたものであるところ、本件予約
は、その合意内容を履行しさえすれば上告人の利益を害するものではなく、上告人
側には本契約の締結を拒む合理的理由がなく、また、後見人に選任されたGは、本
件予約の成立に関与し、その内容を了知していたのであるから、本件予約の相手方
- 3 -
である被上告人の保護も十分考慮されなければならず、結局、後見人のGにおいて
本件予約の追認を拒絶してその効力を争うことは、信義則に反し許されない。
三 原審の認定判断のうち、二の(1)は正当というべきであるが、同(2)は是認す
ることができない。その理由は、次のとおりである。
 1 禁治産者の後見人は、原則として、禁治産者の財産上の地位に変動を及ぼす
一切の法律行為につき禁治産者を代理する権限を有するものとされており(民法八
五九条、八六〇条、八二六条)、後見人就職前に禁治産者の無権代理人によってさ
れた法律行為を追認し、又は追認を拒絶する権限も、その代理権の範囲に含まれる。
後見人において無権代理行為の追認を拒絶した場合には、右無権代理行為は禁治産
者との間においては無効であることに確定するのであるが、その場合における無権
代理行為の相手方の利益を保護するため、相手方は、無権代理人に対し履行又は損
害賠償を求めることができ(民法一一七条)、また、追認の拒絶により禁治産者が
利益を受け相手方が損失を被るときは禁治産者に対し不当利得の返還を求めること
ができる(同法七〇三条)ものとされている。そして、後見人は、禁治産者との関
係においては、専らその利益のために善良な管理者の注意をもって右の代理権を行
使する義務を負うのである(民法八六九条、六四四条)から、後見人は、禁治産者
を代理してある法律行為をするか否かを決するに際しては、その時点における禁治
産者の置かれた諸般の状況を考慮した上、禁治産者の利益に合致するよう適切な裁
量を行使してすることが要請される。ただし、相手方のある法律行為をするに際し
ては、後見人において取引の安全等相手方の利益にも相応の配慮を払うべきことは
当然であって、当該法律行為を代理してすることが取引関係に立つ当事者間の信頼
を裏切り、正義の観念に反するような例外的場合には、そのような代理権の行使は
許されないこととなる。
 したがって、禁治産者の後見人が、その就職前に禁治産者の無権代理人によって
- 4 -
締結された契約の追認を拒絶することが信義則に反するか否かは、(1) 右契約の
締結に至るまでの無権代理人と相手方との交渉経緯及び無権代理人が右契約の締結
前に相手方との間でした法律行為の内容と性質、(2) 右契約を追認することによ
って禁治産者が被る経済的不利益と追認を拒絶することによって相手方が被る経済
的不利益、(3) 右契約の締結から後見人が就職するまでの間に右契約の履行等を
めぐってされた交渉経緯、(4) 無権代理人と後見人との人的関係及び後見人がそ
の就職前に右契約の締結に関与した行為の程度、(5) 本人の意思能力について相
手方が認識し又は認識し得た事実、など諸般の事情を勘案し、右のような例外的な
場合に当たるか否かを判断して、決しなければならないものというべきである。

 2 そうすると、長年にわたって上告人の事実上の後見人として行動していたの
はFであり、そのFが本件予約をしながら、その後Lに対して本件建物を借入金の
担保として譲渡したなどの事実の存する本件において、前判示のような諸般の事情、
特に、本件予約における四〇〇〇万円の損害賠償額の予定が、Lに対する譲渡の対
価(記録によれば、実質的対価は二〇〇〇万円であったことがうかがわれる。)等
と比較して、被上告人において旧建物の賃借権を放棄する不利益と合理的な均衡が
取れたものであるか否かなどについて十分に検討することなく、後見人であるGに
おいて本件予約の追認を拒絶してその効力を争うのは信義則に反し許されないとし
た原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものというべきであり、右
違法は判決に影響することが明らかである。
四 以上の趣旨をいうものとして論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そ
して、右の点について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととす
る。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
- 5 -
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
- 6

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民法534条肝に銘じる。契約で両当事者無責で履行不能の場合、リスクは買主(債権者)が負う。

2012-05-22 09:38:12 | シチズンシップ教育
 民法は、たいへんよくできていると思うところもある反面、気をつけて臨まねばならない条文もございます。
 民法534条は、たいへん気をつけて臨まねばならない条文のひとつなのではないでしょうか。


******民法*******
(債権者の危険負担)
第五百三十四条  特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2  不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。
***************

 特定物とは、取引の当事者が、その物の個性に着目して取引の対象としたもの。例えば、不動産、特定の絵画など。

 不特定物とは、その物の種類に着目して取引の対象とした物。例えば、ある銘柄のビール1本など。


 534条1項をそのまま、読むと、

 不動産(特定物に関する物権)の設定又は移転を売買契約(双務契約)の目的とした場合において、その不動産(物)が売主(債務者)の責めに帰することができない事由(=大震災)によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、買主(債権者)の負担に帰する。


 もう一度、書くと、

 「不動産の設定又は移転を売買契約の目的とした場合において、その不動産が大震災によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、買主の負担に帰する。」


 具体的に、例を挙げて書くと、

 6/1に、不動産の売買契約が成立し、7/1に引き渡すことになっていた。そしたら、6/2に大地震で、その土地、建物が土砂崩れで、壊れてしまった。その場合でも、買主がそのことの負担(リスク負担)を一切負うことになります。
 すなわち、代金は、買主が、何もなかったのと同じように満額払うことになります。

 ちなみに、5/31に火事で、その建物が焼失していた場合は、契約成立時点で、土地建物の引き渡しが実現不可能であり不成立です。その場合は、対価的関係に立つ他方の代金支払いも不成立と考え、契約自体が無効となります。よって、当然のことながら、買主は、購入代金を払わなくて済みます。



 契約成立後は、買主にとっては、一見、たまらないという内容が、民法に含まれていることになります。

 何を根拠に妥当とするのか。

 「利益の存するところに危険あり」が根拠の考え方になっています。

 
 よって、買主にとっては、不動産売買でいえば、引き渡し、登記、代金支払いのいずれかか、支配可能性が買主に認められる段階で、そのリスク負担は買主にうつるということを肝に銘じなければなりません。

 民法では、履行不能により当事者の一方の債務が消滅した場合のリスクを、消滅した債務(土地建物を引き渡す債務)の債務者(売主)が負う(対価関係の債務も消滅する)のか(「債務者主義」)、債権者(買主)が負う(対価関係の債務は消滅しない)のか(「債権者主義」)が問題になりますが、上述したように、結局、債権者(買主)がリスクを負うことが、534条で規定されていることになります。
 私たちは、「債権者主義」に立たされているわけです。

 民法「取引法」で、大事な争点、「危険負担」の話題より。
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優良運転者免許証では、法律上の効果は生じないが、でも、訴えの利益を認めた例。最高裁H21.2.27

2012-05-22 01:19:54 | シチズンシップ教育
 本来、優良運転者の免許証が、交付されるべきであったものが、一般運転者の免許証が交付されました。

 優良運転者の免許証が、「その記載に基づいて何らかの法律上の効果が生じるものでは」ありません。「そうすると,抗告訴訟に関し,運転免許証にその記載を受けることについて,直ちに法的な利益があるということは困難であると思われ」ます。

 しかしながら、最高裁は、そのような場合でも、訴えの利益があると判示しました。
 最高裁判例H21.2.27神奈川県公安委員会での「優良運転免許証交付等請求事件」

 以下、事案を見ます。
 


【事案の概要】
Xは、神奈川県公安委員会。
Yは、優良運転者に当たる資格を有していながら、一般運転者の免許が交付されたもの。

本件は,道路交通法所定の違反行為があったとして,運転免許証の有効期間の更新の申請手続上同法にいう優良運転者でなく一般運転者に該当するものと扱われ,神奈川県公安委員会Xから,優良運転者である旨の記載のない平成16年10月5日付けの運転免許証を交付されて更新処分(以下「本件更新処分」という。)を受けたYが,違反行為を否認し,優良運転者に当たると主張して,本件更新処分中のYを一般運転者とする部分の取消しを求め(以下,この訴えを「本件更新処分取消しの訴え」という。),併せて,同公安委員会Xがした本件更新処分についての異議申立てに対する棄却決定の取消しと上記記載のある運転免許証を交付して行う更新処分の義務付けとを求める事案である。

【訴えの内容】
1.神奈川県公安委員会XがYに対し平成16年10月5日付けでした運転免許証有効期間更新処分のうち,Yを一般運転者とする部分を取り消す。
2. 神奈川県公安委員会Xは,Yに対し,優良運転者である旨を記載した運転免許証を交付せよ。
3. 神奈川県公安委員会XがYに対し平成17年3月2日付けでした,Yが平成16年11月24日付けでした異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。



*****最高裁ホームページより*******
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37358&hanreiKbn=02

事件番号  平成18(行ヒ)285
事件名  優良運転免許証交付等請求事件
裁判年月日  平成21年02月27日
法廷名  最高裁判所第二小法廷
裁判種別  判決
結果  棄却
判例集等巻・号・頁  民集 第63巻2号299頁
原審裁判所名  東京高等裁判所
原審事件番号  平成18(行コ)23
原審裁判年月日  平成18年06月28日
判示事項  自動車等運転免許証の有効期間の更新に当たり,一般運転者として扱われ,優良運転者である旨の記載のない免許証を交付されて更新処分を受けた者は,当該更新処分の取消しを求める訴えの利益を有するか
裁判要旨 自動車等運転免許証の有効期間の更新に当たり,一般運転者として扱われ,優良運転者である旨の記載のない免許証を交付されて更新処分を受けた者は,上記記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を否定されたことを理由として,これを回復するため,当該更新処分の取消しを求める訴えの利益を有する。
(補足意見がある。)
参照法条 道路交通法84条1項,道路交通法92条1項,道路交通法92条の2第1項,道路交通法93条1項,道路交通法93条3項,道路交通法101条,道路交通法施行令(平成16年政令第390号による改正前のもの)33条の7第1項,道路交通法施行令(平成16年政令第390号による改正前のもの)別表第2の2,道路交通法施行規則29条8項,行政事件訴訟法9条1項



http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090331134048.pdf
主   文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人金子泰輔ほかの上告受理申立て理由について

 1 本件は,道路交通法所定の違反行為があったとして,運転免許証の有効期間の更新の申請手続上同法にいう優良運転者でなく一般運転者に該当するものと扱われ,神奈川県公安委員会から,優良運転者である旨の記載のない平成16年10月5日付けの運転免許証を交付されて更新処分(以下「本件更新処分」という。)を受けた被上告人が,違反行為を否認し,優良運転者に当たると主張して,本件更新処分中の被上告人を一般運転者とする部分の取消しを求め(以下,この訴えを「本件更新処分取消しの訴え」という。),併せて,同公安委員会がした本件更新処分についての異議申立てに対する棄却決定の取消しと上記記載のある運転免許証を交付して行う更新処分の義務付けとを求める事案である。

 2 第1審は,本件更新処分中の前記部分が行政処分に当たらないとして本件各訴えを却下したが,原審は,本件各訴えが適法であるとし,第1審判決を取り消して本件を第1審に差し戻すべきものとした。論旨は,原審の判断の法令違反及び判例違反をいうので,以下に検討する。
 (1) 運転免許証(以下「免許証」という。)の有効期間の更新(以下「免許証の更新」という。)等に関する制度の概要は,次のとおりである。
 ア 運転免許並びに免許証及びその有効期間,記載事項等
 (ア) 自動車等を運転しようとする者は,公安委員会の運転免許(以下「免許」という。)を受けなければならないとされ(道路交通法84条1項),免許は,免許証を交付して行うものとされている(同法92条1項)。
 (イ) 道路交通法92条の2第1項は,免許証の交付又は更新を受けた者を「優良運転者」及び「一般運転者」と「違反運転者等」とに区分した上,免許証の有効期間を,その区分ごとに,それぞれ,更新日等における年齢に応じて定めており,免許証の更新を受けた者が優良運転者又は一般運転者で年齢70歳未満である場合には,「満了日等の後のその者の5回目の誕生日から起算して1月を経過する日」を有効期間の末日としている。
 (ウ) 「優良運転者」の意義は,「更新日等までに継続して免許(中略)を受けている期間が5年以上である者であって,自動車等の運転に関するこの法律及びこの法律に基づく命令の規定並びにこの法律の規定に基づく処分並びに重大違反唆し等及び道路外致死傷に係る法律の規定の遵守の状況が優良な者として政令で定める基準に適合するもの」と規定されている(道路交通法92条の2第1項の表の備考一の2)。上記基準は,道路交通法施行令(平成16年政令第390号による改正前のもの)33条の7第1項1号により,所定の更新期間内に免許証の更新を申請する者については,更新前の免許証の有効期間が満了する日の直前のその者の誕生日の40日前の日の前5年間において違反行為等をしたことがないこととされている。
 これに対し,「一般運転者」とは,「優良運転者又は違反運転者等以外の者」をいい(道路交通法92条の2第1項の表の備考一の3),「違反運転者等」とは,「更新日等までに継続して免許(中略)を受けている期間が5年以上である者であって自動車等の運転に関するこの法律及びこの法律に基づく命令の規定並びにこの法律の規定に基づく処分並びに重大違反唆し等及び道路外致死傷に係る法律の規定の遵守の状況が不良な者として政令で定める基準に該当するもの又は当該期間が5年未満である者」をいうものとされている(同表の備考一の4)。
 (エ) 免許証には,「免許証の番号」,「免許の年月日並びに免許証の交付年月日及び有効期間の末日」,「免許の種類」,「免許を受けた者の本籍,住所,氏名及び生年月日」を記載するほか,免許を受けた者が優良運転者である場合にあっては,表側の余白の部分に,その旨をも記載するものとされている(道路交通法93条1項,3項,道路交通法施行規則(平成16年内閣府令第93号による改正前のもの)19条1項,別記様式第14)。
 イ 免許証の更新
 免許証の更新を受けようとする者は,所定の更新期間内に,その者の住所地を管轄する公安委員会に更新申請書を提出しなければならないものとされている(道路交通法101条1項)。更新申請書の提出があったときは,公安委員会は,適性検査の結果から判断して,その者が自動車等を運転することが支障がないと認めたときは,免許証の更新をしなければならないものとされている(同条4項,5項)。
 免許証の更新を受けようとする者は,道路交通法108条の2第1項11号に掲げる講習(以下「更新時講習」という。)を受けなければならず(同法101条の3第1項),これを受けていない者に対しては,公安委員会は,上記にかかわらず,免許証の更新をしないことができるものとされている(同条2項)。
 免許証の更新は,新たな免許証を交付して行うものとされている(道路交通法101条6項,道路交通法施行規則29条8項)。
 なお,更新申請書の様式その他の申請の方式においては,免許証の更新を受けようとする者が,自ら,優良運転者,一般運転者又は違反運転者等のいずれに当たるかを明らかにするものとはされていない。
 ウ 免許証の更新の申請等に関する優良運転者の特例
 (ア) 他の公安委員会を経由した更新申請書の提出
 免許証の更新を受けようとする者のうち当該更新を受ける日において優良運転者に該当するもの(道路交通法101条3項により,その旨を記載した更新連絡書の送付を受けた者に限る。)は,更新申請書の提出を,住所地を管轄する公安委員会以外の公安委員会(以下「他の公安委員会」という。)を経由して行うことができるものとされている(同法101条の2の2第1項)。
 (イ) 更新時講習の講習事項等及び手数料の額
 更新時講習は,優良運転者,一般運転者又は違反運転者等の区分に応じて行うものとされ(道路交通法108条の2第1項11号),道路交通法施行規則(平成18年内閣府令第4号による改正前のもの)38条12項により,優良運転者に対する講習は,「道路交通の現状及び交通事故の実態」等の講習事項につき教材を用いた講習方法により30分行うこととされている。これに対し,一般運転者に対する講習は,「自動車等の運転について必要な適性」の講習事項が加わり,筆記検査に基づく指導を含む講習方法によって1時間行うものとされており,違反運転者等に対する講習は,いずれの点でも,講習を受ける者にとって負担の更に重いものとされている。
 道路交通法112条1項12号は,都道府県が,更新時講習を受けようとする者から,講習手数料につき政令で定める区分に応じて,物件費及び施設費に対応する部分として政令で定める額に人件費に対応する部分として政令で定める額を標準とする額を加えた額を徴収することを標準として条例を定めなければならない旨を規定している。これを受けて,道路交通法施行令(平成16年政令第381号による改正前のもの)43条1項は,物件費及び施設費に対応する部分並びに人件費に対応する部分の額を定めているところ,優良運転者,一般運転者又は違反運転者等の区分に応じ,それぞれ,順次より高い金額を規定している。実際に,神奈川県道路交通法関係手数料条例(平成12年神奈川県条例第18号)は,上記を標準として,更新時講習を受けようとする者から徴収すべき手数料の額を,優良運転者に対する講習700円,一般運転者に対する講習1050円,違反運転者等に対する講習1700円などと定めている。
 (2) 前記(1)の各規定によれば,免許証の更新処分は,免許証を有する者の申請に応じて,免許証の有効期間を更新することにより,免許の効力を時間的に延長し,適法に自動車等の運転をすることのできる地位をその名あて人に継続して保有させる効果を生じさせるものであるから,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たることが明らかである。
 もっとも,免許証の更新処分は,申請を認容して上記のような利益を名あて人に付与する処分であるから,当該名あて人においてその取消しを求める利益を直ちに肯定することはできない。前記(1)ウのように,免許証の更新を受けようとする者が優良運転者であるか一般運転者であるかによって,他の公安委員会を経由した更新申請書の提出の可否並びに更新時講習の講習事項等及び手数料の額が異なるものとされているが,それらは,いずれも,免許証の更新処分がされるまでの手続上の要件のみにかかわる事項であって,同更新処分がその名あて人にもたらした法律上の地位に対する不利益な影響とは解し得ないから,これ自体が同更新処分の取消しを求める利益の根拠となるものではない。原判決中上記を理由として本件更新処分取消しの訴えが適法であるというかのような部分は,相当でない。
 (3) しかしながら,前記(1)ア,イのとおり,道路交通法及びその委任を受けた道路交通法施行規則は,免許証の更新を受けようとする者が優良運転者に該当する場合には,免許証の更新処分を,優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行うべきものと規定している。
 優良運転者の制度は,平成5年法律第43号による道路交通法の改正において導入されたものであり,一定の期間無違反を継続した免許証保有者に限って,これを優良運転者とし,それまで3年とされていた免許証の有効期間を5年とするという利点を与えることにより,その実績を評価し賞揚するとともに,優良な運転へと免許証保有者を誘導し,もって交通事故の防止を図ることを目的として創設された。そして,優良運転者に自覚を促し,また,他の免許証保有者にも安全運転を心掛けるようにさせるため,優良運転者であることは,上記のとおり,これを免許証上明らかにすることとされた。併せて,優良運転者に対しては,更新時講習の講習事項及び講習時間を,それ以外の者に対する場合より軽くする措置が執られ,その後,手数料の額も軽減された。
 平成13年法律第51号による道路交通法の改正においては,新たに違反運転者等という概念が設けられ,免許証の有効期間は,違反運転者等についてのみ3年とされたが,そこでは,優良運転者の概念を維持しつつ,それにも違反運転者等にも当たらない者を一般運転者とした上で,優良運転者のみならず一般運転者についても免許証の有効期間を5年とすることとされたものであり,優良運転者と一般運転者とは引き続き制度上区別することが前提とされた。そして,優良運転者に対する優遇策を拡充し優良な運転へと免許証保有者をより一層誘導する効果を期するなどの趣旨で,特例として,他の公安委員会を通じた更新申請書の提出をすることができることとされ,また,更新時講習につき,優良運転者,一般運転者又は違反運転者等の区分に応じた講習を行うことが明確にされた。
 以上のとおり,道路交通法は,優良運転者の実績を賞揚し,優良な運転へと免許証保有者を誘導して交通事故の防止を図る目的で,優良運転者であることを免許証に記載して公に明らかにすることとするとともに,優良運転者に対し更新手続上の優遇措置を講じているのである。このことに,優良運転者の制度の上記沿革等を併せて考慮すれば,同法は,客観的に優良運転者の要件を満たす者に対しては優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して更新処分を行うということを,単なる事実上の措置にとどめず,その者の法律上の地位として保障するとの立法政策を,交通事故の防止を図るという制度の目的を全うするため,特に採用したものと解するのが相当である。
 確かに,免許証の更新処分において交付される免許証が優良運転者である旨の記載のある免許証であるかそれのないものであるかによって,当該免許証の有効期間等が左右されるものではない。また,上記記載のある免許証を交付して更新処分を行うことは,免許証の更新の申請の内容を成す事項ではない。しかしながら,上記のとおり,客観的に優良運転者の要件を満たす者であれば優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を有することが肯定される以上,一般運転者として扱われ上記記載のない免許証を交付されて免許証の更新処分を受けた者は,上記の法律上の地位を否定されたことを理由として,これを回復するため,同更新処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきものである。
 (4) 本件更新処分は,被上告人に対し優良運転者である旨の記載のない免許証を交付してされた免許証の更新処分であるから,被上告人は,上記記載のある免許証を交付して行う免許証の更新処分を受ける法律上の地位を回復するため,本件更新処分の取消しを求める訴えの利益を有するということができ,本件更新処分取消しの訴えは適法であることとなる。また,その余の訴えにつき,本件更新処分中の前記部分が行政処分に当たらず,又はその取消しを求める訴えの利益がないことを理由として,これを不適法なものということはできないこととなる。
 そうすると,第1審判決を取り消して本件を第1審に差し戻すべきものとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は,いずれも採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官古田佑紀の補足意見がある。

 裁判官古田佑紀の補足意見は,次のとおりである。

 自動車の運転免許は道路交通関係法規を遵守することを前提として与えられるものであるが,自動車が広く普及し,社会生活上必須のものとなる一方で,実際の運転に当たっては,ややもすると違反が起きやすく,現に多数の道路交通関係法規の違反が発生し,これがしばしば自動車事故の原因となっている実情にある。いわゆる優良運転者の記載制度は,このような実情にかんがみ,所定の期間において所定の道路交通関係法規の違反が認められない者について,運転免許証において「優良」の記載をしてその旨を明らかにすることにより,自動車運転者の安全運転及び法規遵守に対する意識,意欲を高めることを意図するものと解されるのであって,その記載に基づいて何らかの法律上の効果が生じるものではない。そうすると,抗告訴訟に関し,運転免許証にその記載を受けることについて,直ちに法的な利益があるということは困難であると思われる。
 しかしながら,上記記載は,法律により,運転免許証の必要的記載事項として,所定の要件に従って行われるものであって,その保持者について,運転免許証の提示により,一定の道路交通関係法規の違反が認められない者であることを即時かつ簡便に公証する機能を有するものであり,また,これにより自動車運転に関する社会生活上の様々な場面で有利な取扱いを受ける実際上の効果が生じることを期待しているものと思われるのであって,これらの点を考慮すると,その記載を受けることについて法的な利益を認め得るものと考える。

(裁判長裁判官 中川了滋 裁判官 今井 功 裁判官 古田佑紀 裁判官 竹内行夫)
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練馬区の「墓地経営許可処分取消請求事件」で原告適格について如何に判事されたか。

2012-05-22 00:01:49 | シチズンシップ教育
 行政事件訴訟法9条1項に、「原告適格」が規定されています。

*****行政訴訟法*****
(原告適格)
第九条  処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

***************

 では、9条1項で規定される「当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」とは、誰のことか。

 最高裁平成17年判決で、以下、述べられています。


******平成17年最高裁大法廷判決********
行政事件訴訟法9条1項にいう「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきであり,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)(以上につき,平成17年最高裁大法廷判決参照)。
***************

 東京地方裁判所で、争われた墓地をつくるのに周辺住民が反対して争われた事案です。

 墓地経営許可処分取消請求事件 東京地判平成22.4.16

 この事案でいう、「原告適格」=「法律上の利益を有する者」が、いかに判事されたのか、見てみます。

 原告適格のありなしを、結局、墓地計画地から100mで線引きをしました。結論からすれば、結局100mかと思いますが、裁判所は、その100mの線引きを妥当なものとするために、法律を駆使され、ご努力されておられます。


 参照:最高裁ホームページ
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=80814&hanreiKbn=05
判決文全文:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101105085344.pdf



【事案の概要】

Xらは,本件土地からの距離が約4.5メートルから約127.5メートルまでの範囲内の地域に居住し,又は住宅を有する者である。原告らのうち,本件条例16条1項の「隣接住民等」に当たる者は,X2,X3,X4,X5,X6,X7,X8,X9,X10及びX11であり,これら10名の原告が所有し,又は使用する土地又は土地上の建築物は,いずれも幅員約4.38メートル以上の公道を挟んで本件土地と接している。なお,本件土地周辺は,都市計画法上の第1種低層住居専用地域である。

Aは,昭和28年8月15日に設立された宗教法人法4条2項の宗教法人であり,東京都新宿区(以下略)に主たる事務所を置き寺院を有するが,本件土地及びその周辺には寺院を有していない。なお,Aの代表役員であるBは,本件土地に隣接する東京都練馬区(以下略)に住所を有する者である。(甲1,弁論の全趣旨)

Yは、練馬区。墓埋法10条1項及び本件条例4条1項の規定による墓地等の経営の許可に係る事務処理は,東京都においては,特別区における東京都の事務処理の特例に関する条例(平成11年東京都条例第106号)2条の表40ロにより,特別区が処理することとされているが,Yにおいては,練馬区保健所長委任規則(昭和50年練馬区規則第58号)1条(23)エにより,練馬区保健所長に委任されている。

 本件は,練馬区保健所長が宗教法人A(以下「A」という。)に対し平成20年10月24日付けでした別紙物件目録記載の各土地(以下併せて「本件土地」という。)における墓地経営許可処分(以下「本件処分」という。)について,本件土地の周辺に居住し,又は住宅を有する原告らがその取消しを求めるとともに,本件処分により精神的損害を被ったとしてYに対し国家賠償法1条1項に基づく損害賠償とその遅延損害金の支払を求めた事案である。

ア Aは,本件土地に560区画を有する専ら焼骨のみを埋蔵する墓地を建設して経営することを計画し(以下,この計画を「本件計画」といい,本件計画に係る墓地を「本件墓地」という。),平成16年8月17日,本件墓地の経営の許可の申請に先立ち,本件計画について本件土地の隣接住民等への周知を図るため,本件土地上に,本件墓地の計画概要等を記載した標識を設置した。なお,Aは,本件土地につき,同18年2月17日,同月2日売買を原因とする所有権移転登記を経由した。(甲2から6まで,乙7)

イ Aは,隣接住民等に対し,平成16年8月29日,本件墓地の経営の許可の申請に先立ち,本件計画に関する説明会を開催した。その後も,本件計画についての説明会等が,同17年1月から同19年5月まで,多数回にわたり開催された。(甲40,乙8,45,46,弁論の全趣旨)

ウ 練馬区保健所長は,Aに対し,平成19年8月10日付けで,本件計画に関する隣接住民等との協議を行うよう指導した。これを受けて,Aは,同年9月1日,隣接住民等との協議を行った。しかし,原告らは,同協議に参加しなかった。(甲12,40,乙46,弁論の全趣旨)

エ Aは,練馬区保健所長に対し,平成19年11月8日,本件墓地の経営の許可を申請した。(乙1)

オ 練馬区保健所長は,Aに対し,平成20年10月24日付けで,本件処分をした。(乙1)

カ Xらは,平成21年2月2日,本件処分の取消しを求めるとともに,損害賠償を求める訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実)


【関係法令等】
  (1) 墓地,埋葬等に関する法律(以下「墓埋法」という。)
   ア 1条
     この法律は,墓地,納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われることを目的とする。
   イ 10条1項
     墓地,納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は,都道府県知事の許可を受けなければならない。

  (2) 「墓地等の構造設備及び管理の基準等に関する条例」(昭和59年東京都条例第125号。以下「本件条例」という。)
   ア 1条
     この条例は,墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号。以下「法」という。)第10条の規定による経営の許可等に係る墓地,納骨堂又は火葬場(以下「墓地等」という。)の構造設備及び管理の基準並びに事前手続その他必要な事項を定めるものとする。
   イ 6条1項
     墓地の設置場所は,次に定めるところによらなければならない。
    1号 当該墓地を経営しようとする者が,原則として,所有する土地であること(地方公共団体が経営しようとする場合を除く。)。
    2号 河川,海又は湖沼から墓地までの距離は,おおむね20メートル以上であること。
    3号 住宅,学校,保育所,病院,事務所,店舗等及びこれらの敷地(以下「住宅等」という。)から墓地までの距離は,おおむね100メートル以上であること。
    4号 高燥で,かつ,飲料水を汚染するおそれのない土地であること。
   ウ 6条2項
     専ら焼骨のみを埋蔵する墓地であつて,知事が,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるものについては,前項第2号及び第3号の規定は,適用しない。
   エ 7条1項
     墓地の構造設備は,次に掲げる基準に適合しなければならない。
    1号 境界には,障壁又は密植した低木の垣根を設けること。
    2号 アスファルト,コンクリート,石等堅固な材料で築造され,その幅員が1メートル以上である通路を設けること。
    3号 雨水又は汚水が滞留しないように適当な排水路を設け,下水道又は河川等に適切に排水すること。
    4号 ごみ集積設備,給水設備,便所,管理事務所及び駐車場を設けること。ただし,これらの施設の全部又は一部について,当該墓地を経営しようとする者が,当該墓地の近隣の場所に墓地の利用者が使用できる施設を所有する場合において,知事が,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは,当該施設に関しては,この限りでない。
    5号 墓地の区域内に規則で定める基準に従い緑地を設けること。ただし,知事が,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認める場合は,この限りでない。
   オ 12条
     墓地等の管理者は,次に定める措置を講じなければならない。
     1号及び2号 (略)
     3号 墓地等を常に清潔に保つこと。
     4号 (略)
   カ 16条1項
     第4条第1項又は第2項の許可を受けて墓地等を経営しようとする者又は墓地の区域若しくは墳墓を設ける区域を拡張しようとする者(以下「申請予定者」という。)は,当該許可の申請に先立つて,墓地等の建設等の計画について,当該墓地等の建設予定地に隣接する土地(隣接する土地と同等の影響を受けると認められる土地を含む。)又はその土地の上の建築物の所有者及び使用者(以下「隣接住民等」という。)への周知を図るため,規則で定めるところにより,当該建設予定地の見やすい場所に標識を設置し,その旨を知事に届け出なければならない。
   キ 16条2項
     知事は,申請予定者が,前項の標識を設置しないときは,当該標識を設置すべきことを指導することができる。
   ク 17条1項
     申請予定者は,当該許可の申請に先立つて,説明会を開催する等の措置を講ずることにより,当該墓地等の建設等の計画について,規則で定めるところにより,隣接住民等に説明し,その経過の概要等を知事に報告しなければならない。
   ケ 17条2項
     知事は,申請予定者が,前項の規定による説明を行わないときは,当該説明を行うべきことを指導することができる。
   コ 18条1項
     知事は,隣接住民等から,第16条の標識を設置した日以後規則で定める期間内に,当該墓地等の建設等の計画について,次に掲げる意見の申出があつた場合において,正当な理由があると認めるときは,当該墓地等に係る申請予定者に対し,隣接住民等との協議を行うよう指導することができる。
    1号 公衆衛生その他公共の福祉の観点から考慮すべき意見
    2号 墓地等の構造設備と周辺環境との調和に対する意見
    3号 墓地等の建設工事の方法等についての意見
   サ 18条2項
     申請予定者は,規則で定めるところにより,前項の規定による指導に基づき実施した隣接住民等との協議の結果を知事に報告しなければならない。

  (3) 墓地等の構造設備及び管理の基準等に関する条例施行規則(昭和60年東京都規則第17号。以下「本件規則」という。)
   ア 5条
     条例第7条第1項第5号の規則で定める基準は,墓地の敷地の総面積に占める緑地の割合が15パーセント以上あるものとする。
   イ 6条
     条例第14条第1項の規定により知事が指定する土葬を禁止する地域は,特別区の存する区域(中略)とする。

【なされた訴え】
1,練馬区保健所長が,宗教法人Aに対し,平成20年10月24日付けでした別紙物件目録記載の各土地における墓地経営許可処分を取り消す。
2.Yは,Xらに対し,各10万円及びこれらに対する平成20年10月24日から支払済みまで各年5分の割合による各金員を支払え。


【原告適格の争点に関する裁判所の判断、判決文から該当箇所抜粋】
1 争点(1)(原告適格)について
  (1) 行政事件訴訟法9条1項にいう「法律上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきであり,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)(以上につき,平成17年最高裁大法廷判決参照)。
    上記の見地に立って,原告らが本件処分の取消しを求める訴えの原告適格を有するか否かについて検討する。

  (2) 墓埋法10条1項は,墓地等を経営しようとする者は,都道府県知事の許可を受けなければならない旨規定するのみで,その許可の要件について特に規定していない。これは,墓地等の経営が,高度の公益性を有するとともに,国民の風俗習慣,宗教活動,各地方の地理的条件等に依存する面を有し,一律的な基準による規制になじみ難いことを考慮して,墓地等の経営に関する許否の判断を都道府県知事の広範な裁量にゆだねる趣旨に出たものであって,墓埋法は,墓地等の管理及び埋葬等が国民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とする法の趣旨に従い,都道府県知事が,第1次的には公益的見地から,墓地等の経営の許可に関する許否の判断を行うことを予定しているものと解される。
    ところで,本件条例は,墓埋法10条の規定による経営の許可等に係る墓地等の構造設備及び管理の基準並びに事前手続その他必要な事項を定めることを趣旨とするものであり(本件条例1条),墓埋法と目的を共通にする関係法令ということができる。
    本件条例は,墓地等の設置場所の基準として,6条1項2号において,河川,海又は湖沼から墓地までの距離は,おおむね20メートル以上であること,同項3号において,住宅等から墓地までの距離は,おおむね100メートル以上であること,同項4号において,高燥で,かつ,飲料水を汚染するおそれのない土地であることを定めている。そして,同条2項において,専ら焼骨のみを埋蔵する墓地に限り,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるものについて,同項2号及び3号の規定は適用しないものと定められており,土葬が行われる墓地については,住宅等から墓地までの距離は,おおむね100メートル以上であることが必須とされている。また,同項4号については,公共の福祉の見地からの適用除外は認められていない。そして,本件条例7条1項3号は,墓地の構造設備基準として,雨水又は汚水が滞留しないように適当な排水路を設け,下水道又は河川等に適切に排水することを,同項4号はごみ集積設備等の設置を定め,さらに,本件条例12条3号は,墓地等の管理者の講じなければならない措置として,墓地等を常に清潔に保つことを規定している。これらの規定は,いずれも墓地等の周辺地域の飲料水の汚染等の衛生環境の悪化を防止することを目的としているということができる。
    加えて,本件条例16条1項及び17条1項は,墓地経営の許可の申請予定者は,申請に先立って,隣接住民等に対し,標識の設置や説明会の開催等によって墓地等の建設計画を周知して説明しなければならない旨規定し,本件条例18条1項は,隣接住民等は,公衆衛生その他公共の福祉の観点から考慮すべき意見,墓地等の構造設備と周辺環境との調和に対する意見及び墓地等の建設工事の方法等についての意見の申出ができ,知事は,正当な理由があると認めるときは,申請予定者に対し隣接住民等との協議を行うよう指導することができるとされ,本件条例は,隣接住民等に対して,墓地経営許可に係る手続への関与を認めている。
    そして,墓埋法10条1項及び本件条例に基づく墓地経営の許可は,本件条例6条以下の基準に適合することを要件としてされるものであると解されるところ,上記墓埋法の規定に加えて,本件条例の規定の趣旨及び目的をも参酌し,併せて本件条例において,上記のように墓地等の周辺地域の飲料水の汚染等の衛生環境の悪化を防止することを目的とした規定があり,隣接住民等に対して墓地経営許可に係る手続への関与を認めた規定があることをも考慮すれば,墓地経営許可に関する墓埋法及び本件条例の規定は,墓地の経営に伴う衛生環境の悪化等によって,墓地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もって良好な衛生環境を確保し,良好な生活環境を保全することをも,その趣旨及び目的とするものと解される。

  (3) 本件条例の規定に違反した違法な墓地の経営が許可された場合には,そのような墓地の経営に起因して,周辺地域の飲料水ともなる地下水の汚染,土壌の汚染,雨水や汚水の滞留,供物等の放置による悪臭又は烏,鼠及び蚊の発生及び増加,排水設備の不備による周辺への浸水などが生じるおそれがある。そして,周辺住民等,すなわち,墓地の周辺の一定範囲の地域に居住し,又は住宅を有する者は,上記のような衛生環境の悪化による被害を直接受けるおそれがあり,その被害の程度は,住宅の場所が墓地に接近するにつれて増大するものと考えられる。また,周辺住民等がそのような被害を反復,継続して受けた場合には,それは,周辺住民等の健康や生活環境に係る著しい被害にも至りかねないものである。そして,墓埋法10条1項の許可をする際に考慮すべき基準等を定める本件条例の各規定は,周辺住民等に対し,条例違反の墓地の経営による墓地周辺の衛生環境の悪化により健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるところ,そのような被害の内容や性質,程度等に照らせば,この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわざるを得ない。
    そして,墓埋法は,前記のとおり,墓地等の管理や埋葬が公衆衛生の見地からも支障なく行われることも目的としており,また,墓地等の経営が国民の風俗習慣,宗教活動,各地方の地理的条件等に依存する面を有し,一律的な基準による規制になじみ難いことから,墓地等の経営の許否について都道府県知事に広い裁量を与えており,各地方の実情に応じた判断の基準を各都道府県の条例によって定めることを予定しているということができる。そうすると,墓埋法は,各地方の実情に応じて,条例において違法な墓地の経営による墓地周辺の衛生環境の悪化による健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を墓地の周辺住民等の個別的利益として保護することも予定しているというべきであり,墓埋法10条1項は,第1次的には公益的見地からの規制を予定しているものの,それとともに周辺住民等の健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を有すると解するのが相当である。
    したがって,周辺住民等のうち,違法な墓地経営に起因する墓地周辺の衛生環境の悪化により健康又は生活環境の著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は,墓地経営許可の処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消しの訴えにおける原告適格を有するというべきである。

  (4) ところで,本件条例6条1項3号は,原則として住宅等から墓地までの距離はおおむね100メートル以上であることとしており,おおむねその範囲内の地域に居住し,又は住宅を有する周辺住民等については前記のような被害が直接及び得ることを想定していると考えられるところ,証拠(甲41の1,42から53まで)及び弁論の全趣旨によれば,原告X1については,本件墓地からその居住地までの距離が約127.5メートルであって,おおむね100メートルの範囲内とは認め難いが,それ以外の原告らについては,本件墓地からおおむね100メートルの距離の範囲内の地域に居住し,又は住宅を有する者と認められ,本件墓地周辺の衛生環境の悪化による健康又は生活環境の著しい被害を直接受けるおそれがある者ということができるから,本件処分の取消しを求める法律上の利益を有する者であると認めることができる。
    したがって,原告X1を除く原告らは,いずれも本件処分の取消しの訴えの原告適格を有するというべきである。
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