その憲法学で、本日がタイムリミットの課題が出されました。
まさに、ありうる話と思います。
このようなケースを机上で考え、机上で考えることで終わらすことなく、得た知識は、実社会に生かしていきたいと思っています。
以下、課題に引き続き、回答案も作ってみました。
回答案は、与えられたケースにおける机上の回答・意見であり、現実社会で実際にどのように政策をつくるかまでは、ここでは述べきれませんので、その点はご容赦願います。
******課題*****
次の文を読んで問に答えなさい。(司法試験用の解答用紙4枚以内で書いてみて下さい。)
北海道の離島にあるA町は、大規模な地震と津波の被害(以下「本件地震等による被害」という。)を受けて、多くの建物が倒壊した。
A町は、北海道と国の支援を受けて、被災者(個人または法人)に対して、収入・被害程度等の一定の基準(以下「本件基準」)を満たす場合には、本人の申請を受けて審査し自宅・店舗等の営業施設の再建ための資金を被害額に応じて貸し出すことにした。
A町にある神社Bは、長年にわたって町民に親しまれてきた神社であり、例大祭は多数の島民が参加する島内の一大行事であったところ、本件地震等による被害のために、完全に倒壊し、また、付属する他の設備も冠水し、祭礼等の神社として機能を営むことができない状態にあった。
神社Bが属する神社本庁は、神社Bが被った本件地震等の被害に対して支援金を提供したが、神社再建には不十分であったので、神社Bの神主Cは、神社Bの再建のために、A町に対して神社Bは本件基準を満たす者であるとして、再建資金の貸し出しを申請した(以下「本件申請」という)。
A町役場は、本件申請に対して、本件基準を当てはめたところ、同基準に適合することから、被害額に応じた再建資金を貸し出すことを決定した(以下「本件貸出」という)。
これに対して、仏教系の新興宗教の信徒であり、島内に住むDは、本件貸出は、政教分離原則に違反する違法な支出であるとして、地方自治法に則り、町長に対して損害の補填を求めて住民訴訟を提起した。
問1 あなたがDの代理人の弁護士であるとすれば、あなたは、本件の住民訴訟において本件貸出に係る憲法上の主張をどのように行いますか。
問2 問1の憲法上の主張についての町側の反論を想定しつつ、あなた自身の見解を論じなさい。
******回答案*****
問い1
1 政教分離原則と憲法二〇条三項、八九条により禁止される国家等の行為
政教分離規定は、「制度的保障の規定」であり、信教の自由そのものを直接保障するものではなく、国家と宗教との分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由を保障しようとしている。
日本が、政教分離を打ち出したことには、過去において、信教の自由が保障されていなかったという歴史的経過がある。
すなわち、大日本帝国憲法に一応は信教の自由を保障する規定(二八条)を設けていたものの、その保障は「安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ」という同条自体の制限を伴つていたばかりでなく、国家神道に対し事実上国教的な地位が与えられ、ときとして、それに対する信仰が要請された。他方、一部の宗教団体に対しきびしい迫害が加えられたこともあった。
第二次世界大戦終了とともに、憲法は、国家と神道が密接に結び付くことで生じた種々の弊害をかんがみ、信仰の自由を無条件に保障するとし、さらに、その保障を一層確実にするために、政教分離規定を設けた。国家と宗教との完全な分離を理想とし、国家の非宗教性ないし宗教的中立性を確保しようとした。
しかし、それにより、実際に、完全な国家と宗教との分離が完全になされているかというと、実現不可能であり、一定の限界がある。
なぜなら、宗教は、信仰という個人の内心的な事情としての側面を有するにとどまらず、同時にきわめて多方面に外部的な社会事象としての側面をともない、教育、福祉、文化、民族風習など広範な場面で社会生活と接触することになり、その当然の帰結として、国家が、社会生活に規制を加え、あるいは、教育、福祉、文化などに関する女性、援助等の諸施策を実施するにあたって、宗教との関わり合いを生じることを免れえなくなっているからである。
完全に政教分離を貫こうとすれば、社会生活の各方面に不合理な事態を生じることも免れ得ないといえる。例えば、宗教系私立学校に対する公的助成、文化財である寺社などへの補助金支出、刑務所における教誨活動などが許されないことなど。
よって、政教分離の原則は、国家が宗教的に中立であることを要求するが、国家と宗教とのかかわりを全く許さないとするのではなく、宗教とのかかわりあいをもたらす行為の目的及び効果にかんがみそのかかわりあいが相当とされる限度を超えるものと認める場合に、許さないと解すべきである。
憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動とは、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきとされる。
典型的には、宗教教育のような宗教の布教、教化、宣伝等の活動。
そのほか宗教上の祝典、儀式、行事等であつても、目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきものである限り、当然、これに含まれる。
憲法八九条が禁止している公金その他の公の財産を宗教上の組織又は団体の使用、便益又は維持のために支出すること又はその利用に供することというのも、前記の政教分離原則の意義に照らして、公金支出行為等における国家と宗教とのかかわり合いが前記の相当とされる限度を超えるものをいうものと解すべきであり、これに該当するかどうかを検討するに当たっては、前記と同様の基準によって判断しなければならない。
以上は、当裁判所の判例の趣旨とするところでもある(最高裁昭和四六年(行ツ)第六九号同五二年七月一三日大法廷判決・民集三一巻四号五三三頁、最高裁昭和五七年(オ)第九〇二号同六三年六月一日大法廷判決・民集四二巻五号二七七頁参照)。
2 本件支出の違法性
本件支出は、被災者に対して、本件基準を満たす場合には、申請を受けて審査し自宅・店舗等の営業施設の再建のための資金を被害額に応じて貸し出すものであり、神社Bの神主Cにより、神社Bの再建のためなされた。神社Bは、例大祭をはじめ島民が参加する宗教上の儀式が執り行われる場所であり、神社の再建は、宗教的意義を有すると考えられることは明らかなものである。その資金により神社が再建されると、壊滅したA町内で、神社Bのみが際だって早い再建がなされることになり、これは、一般人が、特定の宗教を、A町が援助、助長、促進していると評価をすることは考えやすい。また、再建資金の貸し出しを他の宗教団体の同種の再建に対して同様の支出をしたという事実がうかがわれないのであって、A町が、再建資金の貸し出し申請に対し、貸し出し決定をしたことは、意識的に特別なかかわり合いをを持ったことを否定することはできない。
たしかに、A町にある神社Bは、長年にわたって町民に親しまれてきた神社であって、例大祭は多数の島民が参加する島民の一大行事となっている。神社が早々に復興し、例大祭が早期に挙行できることは、大震災の被害から島民ひとりひとりが立ち直る象徴的なイベントとなることは容易に想像でき、島民も待ちわびていることであろう。ただし、再建にあたりA町の公金が宗教施設である神社再建に貸し出されることは、自宅や商店街の店舗への貸し出しのように世俗的目的で行われたものとして憲法に違反しないとはいうことができない。
以上の事情を総合的に考慮して判断すれば、A町が本件貸出をすることは、その目的が宗教的意義を持つことを免れず、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進になると認めるべきであり、これによってもたらされるA町と神社Bとの係わり合いが相当とされる限度を超えるものであって、憲法20条3項に禁止する政教分離違反であると解するのが相当である。そうすると、本件貸出は、違法というべきである。また、神社は、憲法89条にいう宗教上の組織又は団体に当たることが明らかであるところ、本件貸出は、A町と神社との係わり合いが相当とされる限度を超えるものと解されるのであるから、本件支出は、同条の禁止する公金の支出に当たり、違法というべきである。
3 損害賠償責任の有無
A町長は、自己の権限に属する本件貸出を違法に行ったのであり、違法な本件支出によりA町が被った本件支出金相当額の損害を賠償する義務を負うというべきである。
問い2
1.町側の反論
政教分離原則を貫き、完全な国家と宗教との分離が完全になされているかというと、実現不可能であり、一定の限界がある。現行においても、宗教系私立学校に対する公的助成、文化財である寺社などへの補助金支出、刑務所における教誨活動などが許されているところである。
Dは、本件貸出が、宗教とのかかわりあいをもたらす行為の目的及び効果にかんがみそのかかわりあいが相当とされる限度を超えるものと認める場合であると指摘するが、これに反論をする。
本件貸出は、長年にわたって町民に親しまれてきた神社が、震災により倒壊したその復興再建のための資金として供されたものである。この神社で開催される例大祭は、多数の島民が、その信じる宗教、宗派に関わらず、多数の島民が参加するものであり、今や町の一大行事となっている。
貸出は、神主Cが申請し、それを審査し、審査基準に適合したため実施した。これら審査は、広く町民に開かれたものであり、特定の宗教団体のみがエントリー可能であったわけではない。
そして、再建資金自体も贈与ではなく、貸与であり、なおかつ、継続的な資金供与ではない。
以上の貸出に至る事情を考慮すれば、A町が本件貸出をすることは、町民に開かれた町の財産としての世俗的な場である神社再建を目的としたものであり、震災で倒壊した町の再建のひとつであること、他の宗教団体はじめ広く町民に開かれた貸出であるから、その効果は、特定の宗教に対する援助、助長、促進にはならず、また、又は圧迫、干渉等になるような行為ということもできない。贈与ではなく、貸出が一度だけなされることより、これによってもたらされるA町と神社Bとの係わり合いが相当とされる限度を超えるものとは見成し得ない。よって、憲法20条3項に禁止する政教分離違反はないと考えることが妥当である。
逆に、本件貸出において、神社仏閣は、申請や貸出が許されないということになれば、そこには、宗教との関係があることによる不利益な取扱い、すなわち宗教による差別が生ずることになりかねず、かえって不合理な自体、政教分離原則違反が生じるといわねばならない。
ゆえに、A町長が行った貸出の支出には、理由があり、政教分離原則違反とまでは言えず、適法である。賠償責任は生じない。
2.自分の見解
上記、町側の反論を想定し、自分の見解をのべる。
今回の貸出は、1)申請は、町内すべての方に開かれたものであること、2)審査のための基準が設定され、その基準との適合が審査され決定されるという手続が公正に行われていること、3)一方的な再建資金の贈与ではなく、貸出であること、4)宗教との関係があることが、申請不可の要因とするとそれこそ逆に宗教による町側の差別が生じることであり、政教分離原則に反すること、5)震災からの復興という特別の事情があることを勘案すれば、文化財である神社、寺院の建築物や仏像等の維持保存のため国が宗教団体に補助金を支出したりすることは政教分離に反しないとみなされている事情と同様に、この貸出も許容できること等を理由として、町側の見解を支持する。
但し、町側の施策全体予算に占める本件貸出の予算が過大であること、貸出利率が不当に低率である場合は、政教分離原則に違反する可能性があり、審査基準に基づいた適切な貸出であることを町側に求める。
以上