先日上京した際に、友人のAさんと久しぶりにランチを楽しんだ。
Aさんは不思議な人で、どこまでが遊びでどこからが仕事なのか分からないが、様々な人や物をマッチングすることで新しい魅力を作り出すことに長けている。
「どこで会います?」と訊くと「表参道で会いたいね」と言う。
秋葉原駅で待ち合わせると連れて行かれたのは、表参道からちょいと路地を入ったところにある家具のショウルームだった。
「今はちょっと家具プロデュースのお手伝いをしているんですよ」とのこと。
今度は家具とはまた不思議な縁ですな。
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「家具なんてデフレ経済の中でなかなか売れないんじゃないですか?」と訊くと、「小松さん、コンセプトをまずしっかりと持って、それをちゃんと訴える。するとそれに共感してくれる人がそれなりにいる。そこが東京の凄いところですよ」という。
「コンセプトと言うとエコとか環境とか?」
「まさにそうですね。量産型の家具屋さんだと競争に勝つために生産地を世界にまで広げて値段をどんどん下げてゆくでしょ?でもそれじゃあ国内外にある本物の良さが広がらないし伝わらない。売っているのは本物が生み出す価値だってことですよ」
ふうむ、では本物の価値はどうやって生み出して、それを伝えてゆくのだろう。
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【ショウルーム】
「具体的にはどういうビジネスになるの?」
「ここの会社ではまずデザイナーもいて、それなりのデザインを作って、それを全国の協力工場に作ってもらうんです。ただ、素材ひとつ選んだり、家具の脚と張物を組み合わせたりするところにも、哲学と力量をもった工場にお願いをして本物を作ってもらいます。できたものについては、我々がコンセプトをしっかりと伝えて、責任をもって売るというわけです」
「なるほど、哲学と製造と販売を一気通貫でマッチングして結びつけて価値を高めるということでしょうか」
「そういうことです」
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【白樺製の椅子だなんて】
「例えばこれなんかは、原料が北海道の白樺ですよ。白樺を薄い板にして成形する技術を持った工場があって、そこで作ってもらっているんです」
「ほう…」
「実際、小さい工場が自ら家具を作ってそれを市場に出して売るというのはとても大変ですよね。だから、デザインやコンセプトという哲学的価値は我々がクリエイトして、現物はそれを原料に近くて技術のある工場に協力して作ってもらい、それを東京で売るというわけです。これならば互いに得意分野を持ち寄ることでwin-winのビジネスの関係になれるんですよ」
実際、家具が使う木材の量なんて少ないものだし、どんな銘木を使ったところでそのことで生み出せる価値はたかが知れている。
それをしっかりしたクリエイターが価値を訴求して分かってくれるお客さんを相手の心に訴える。そしてそこに価値を生むビジネスの要素がちゃんとあるのである。
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【2012年グッドデザイン賞受賞】
「先日応募した作品は、『宮城県産の杉で作った家具』ということで、東日本大震災被災地周辺の杉を使ったエコファニチャーでした。そしてそれが被災地支援ビジネスモデルとして2012年のグッドデザイン賞の『ものづくりデザイン賞』を受賞しました。これなんかもデザインと共に、その心根が見る人の心に訴えかけるものがあったんだと思いませんか?」
会社の名前は『ワイス・ワイス』という。
多様な人がたくさんいる東京がうらやましいと思うけれど、東京という場を上手に使うにはそれなりのノウハウがやはり必要だ。
そしてノウハウとともに、良いものを本当にわかってくれる人に届けたいという誠実な哲学も必要だ。だからこそ分かる人にはモノとともに幸せが届けられるのだ。
ビジネスとは結局お互いが幸せになることであり、それを地方が手伝えるならすばらしい。
ここ釧路にだって、哲学を与えられる素材は数多くあるはずだ。
価値を生み出すための組み合わせや出会いには、もっと努力の余地がありそうだ。
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ちなみに彼は、「報酬もいまはなし。いつか儲かったらそのときに何か返してね、と言ってあるんです」と笑う。
「『恩返しのビジネスモデル』って成り立つと思いません?」
うーん、ちょっとカッコいいね。
【ワイス・ワイス】
http://www.wisewise.com/
【ワイス・ワイスのモノづくり】
http://bit.ly/UTCdQh