![]() | 日記は囁く |
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東京創元社 |
ドイツで25万部以上も売れたという、オカルティックなミステリー「日記は囁く」(イザベル・アベディ/酒寄進一:東京創元社)。ドイツの人口が8000万人だから、単純に日本の人口1億2600万人分に直せば、40万部ということになる。さすがにハリーポッター並みにとはいかないものの、ミステリーとしては大ヒットの部類だろう。読んでみると、なるほど、確かに面白い。
このお話の主人公は、写真家志望のノアという16歳の少女である。バカンスを過ごすために、母親で有名女優のカートと、その友達でゲイのギルベルトの三人で、ヴェスターヴァルト地方の村にある、築500年という屋敷を借りて住むことになる。
この3人と、ノアが友達になった少年ダーヴィトとで行った降霊術に、エリーツァという少女の霊が現れ、自分はこの家の屋根裏で殺されたという。確かに30年前に、エリーツァという18歳の少女が行方不明になった事件が発生していた。しかし、誰もが、エリーツァのことに関しては言葉を濁す。少年探偵団ならぬノアとダーヴィトの二人は、当時一体何がこの家で起こったのかと、事件の真相を調べ始める。
かなりオカルティックな設定だが、完全なホラーという訳ではない。降霊術というのは、アルファベットと数字を書いた紙の上にグラスを置いて、それに皆で手を添えて、霊を呼び出すと、霊がグラスを動かして、メッセージを伝えるというものだ。だから、エリーツァの霊も直接現れて人々を恐怖に陥れるようなことなどしない。ただ二人にヒントを与えるだけで、降霊術を行った時に現れる以外の怪奇現象が起きることもない。だから、ほとんどオカルティックな怖さはないのだ。
むしろ本当に怖いのは、真犯人の方である。確かにエリーツァは、容姿はすばらしかった反面、心の方は、かなりねじまがっていた。しかし、通常はこれが殺害までに発展するほどとも思えない。やはり、犯人は、かなりサイコな性格なのだろう。事件が露見しそうになると、やはり同じことを繰り返している。
この作品の読みどころは、次の二つだろう。一つは、二人がいかにして真実にせまっていくかということ。もう一つは、ノアが最低だった初体験のトラウマを、ダーヴィトを知ることによって、乗り越えていくということだ。だから、この物語は、一種のノアの成長の物語でもあるのだ。各章の冒頭には、タイトルにもなっているエリーツァ日記の一節が示されており、これを受けていったいどのように話が展開していくかという、読者の興味を盛りたててくれる。
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※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。