![]() | 会社を変える分析の力 (講談社現代新書) |
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講談社 |
最近、ビッグデータという言葉をよく聞く。いわゆるバズワードの一つであるが、大量のデータを分析して、役に立つ情報を掘り出そうというものだ。コンピュータの能力が飛躍的に伸びたからこそ可能になってきたことだが、かならずしも大量のデータを使えば、有用な結果が得られるというわけでもない。データ分析自体は、昔から行われていたことでもある。いったいどのように、データ分析をビジネスに活かせばよいのだろうか。そんな疑問に答えてくれるのが、この「会社を変える分析の力」(河本薫:講談社現代新書)である。
著者は大阪ガスの情報通信部ビジネスアナリシスセンターの所長である。この肩書から分かるように、データ分析の実務に精通したプロフェッショナルである。本書には、そんな著者の実践を通じて得られた知見が多く詰まっている。
著者の言うように、「データ分析」とは、「データ」で「問題」を解決することだ。分析は手段であり目的ではない。データ分析を行ううえで一番大切なのは分析結果を解釈する力なのだ。これがなくては、どんなにツールが揃っていても、宝の持ち腐れである。著者は、分析の価値とは、どれだけ重要な意思決定に寄与できるかだと主張する。まさに同感だ。しかし、世の中には、分析のための分析といったようなものが溢れているのではないだろうか。
ひとつ心に留めておかなければならないのは、分析はモデルを使って行われるということだ。モデルがどのような前提にもとづいているのかを念頭において、分析結果を解釈する必要があるということなのだが、著者は、それを「モデルは所詮プラモデル」いう言葉で表している。このモデルを使ってものごとを論じるというのは、なにもデータ分析に限ったものではない。例えば小室直樹氏の「論理の方法」などにも述べられているように、何かを論じる際には、広く使われている手法である。しかし、世の中には特定のモデルを絶対視して、モデルを使うのではなく、逆にモデルに使われている人も多いのではないだろうか。予測のためのモデルは、その時の状況に応じて、適切に選択せねばならないのだ。また、データ分析がどのような意思決定に使われるかも考慮してモデルを選ぶ必要がある。
さらに本書では、データ分析でビジネスを変革するには、データ分析でビジネスを変える機会を見つける力、問題を解く力、得られたソリューションを実際のビジネスの場で使わせる力が必要なことが示されている。データ分析の教科書とは違い、本書には具体的な手法はほとんど示されていないが、それ以前に必要な、心構えのようなものがよく理解できる。これからデータ分析のプロフェッショナルを目指す人なら、是非一読しておきたい一冊だろう。
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※本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。