彼女のため生まれた (幻冬舎文庫) | |
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幻冬舎 |
この作品の主人公は、桑原銀次郎というフリーライター。高校の同級生だった渡部という男が、銀次郎の実家に押し入り、母親を殺害して、父親に傷害を負わせ、そのあげくに、母校の屋上から飛び降りて自殺。遺された遺書によれば、15年前に銀次郎から乱暴を受けて自殺した、赤井市子という女生徒の復讐が犯行動機だという。しかし、銀次郎は、市子とも渡部ともろくに話したこともなかった。
いったいなぜ、渡部はこのような凶行におよんだのか。あまりにも、不可解なことが多すぎる。銀次郎は、自らの名誉を守るため、事件の真相を追い求めていくのだが、闇の中から現れて来たのは、あまりにもどろどろとした人間の心の醜さ。
人は誰だって、辛さ悲しさを持っている。しかし、自分だけが不幸と思い混んでいる人間は、そんなことなど思いもよらず、ただ人を妬み、恨む。
ミステリーの分野に、イヤミスというのがあるらしい。読んだあと、イヤーな気分になるミステリーのことだ。次第に明らかになっていく、狂気に近い悪意の多層構造。この作品も、十分にイヤミスの資格があるだろう。
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※本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。