いとみち (新潮文庫) | |
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<おがえりなさいませ、ごスずん様>
人見知りを克服するため、青森市のメイド喫茶で、アルバイトを始めた相馬いと。一応高校生だが、とてもそうは見えないロリッ娘である。おまけに、あがり症のドジッ娘。それでも津軽娘らしく、じょっぱりな一面も持っている。
いとの、今時の娘とも思えない、矯正不能なバリバリの津軽弁も、古風な名前も、みんな祖母のおかげなのである。この祖母は、津軽三味線の名手だ。祖母から三味線を習っていたいとも、かなりの腕前なのだが、そこは年頃の女の子。自分が、三味線を弾いているときの姿があまりに凄じいことにショックを受け、中三になってからは、ぷっつりとやめてしまった。
彼女が働くことになった、青森市のメイドカフェの仲間が、なかなか魅力的だ。まず、化粧をすれば10歳は若返るという、ちょっと怖いお姉さんの幸子。実はシングルマザーで娘が一人いる。次に、幸子から青森一のバカと呼ばれる、能天気でやたら元気な智美。彼女は、漫画家志望だ。いとの評によれば、<心にオヤジば飼ってる>そうである。幸子と智美は、顔を合わせればケンカばかりしているが、以外とチームワークは良い。さらに、彼女たちを纏める優しい雇われ店長の工藤。そして、まるでトドのような大量の脂肪を纏ったオーナーの成田。いかにも胡散臭げで、迫力満点。いとは気に入られているようだが、どうも苦手だ、しかし、こちらも、見かけによらず好い人なのである。
個性豊かなカフェのスタッフたちだが、実はそれぞれに辛い過去を持っており、人の痛みを知っている。だから、みんな心根はとても優しい。そんなカフェに通ってくる常連さんたちもやはり優しい。そんな人々に囲まれながらも、ドジぶりを発揮するいと。内気で、人とのコミュニケーションが苦手だったいとは、このカフェでアルバイトを始めたことがきっかけになり、かけがいのない学校での友達やカフェでの仲間ができた。カフェが廃業のピンチを脱したときには、リニューアル記念のコンサートのために、再び三味線を手にする決意をする。
作者は、津軽弁バリバリのメイドに三味線という、いかにもミスマッチな材料から、魔法のように、かけがえのない物語を紡ぎだしてみせた。笑いと涙、そして津軽弁のたっぷり入った<めごい>いとの物語は、読者に大きな感動をもたらすだろう。
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※本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。