文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:邪教・立川流

2013-12-18 19:38:22 | 書評:学術・教養(人文・社会他)
邪教・立川流 (ちくま学芸文庫)
クリエーター情報なし
筑摩書房


 立川流とは、かって存在した真言密教の一派である。平安時代末に、大阿闍梨仁寛によって始められたとされるが、その教義があまりに婬猥であったため、邪教のレッテルを貼られて、弾圧された。現在では断絶した流派だが、その特異性により、伝奇小説やミステリーなどのモチーフとしても時折使われている。本書、「邪教・立川流」(真鍋俊照:ちくま学芸文庫)は、この流派について、学術的な立場から解説したものである。

 立川流を創始した仁寛は、1114年(永久2)、鳥羽天皇の暗殺を計画した罪で伊豆に流された。彼は、翌年自害したが、この配流中に、無名の陰陽師に、真言秘密の法を授けたという伝承から、立川流の系譜は始まる。

 真言密教が目指すのは、即身成仏だが、立川流では、それが男女二根の冥合による性愛秘技により可能だとする。極めつけは、その本尊の作りかただ。なんと、男女が交わった時の和合水を、120回ほどもドクロに塗って作るというのである。

 密教には、二つの対立概念が存在する。例えば胎蔵界と金剛界、阿字と吽字、理と智などである。それらは女性原理と男性原理の象徴と言っても良いだろう。女性的なものと男性的なものが結合したとき、そこに悟りの境地が生まれるということである。しかしそれは、あくまでも観念的なもの、精神的な象徴としての話だ。立川流が、邪教とされたのは、それを文字通り、男女の交わりと捉えたからである。

 当時は末法の世と考えられていた。著者は、<立川流は末法の世のいわゆる混沌の中から生じた徒花と見なしうるかもしれない>と述べている。しかし、このエロスとタナトスに溢れた徒花は、背徳的ではありながらも、どこか不思議な魅力を放出している。

 本書には、仁寛自身の物語、密教及び立川流の理論などが、豊富な資料と共に示されている。正直な話、密教や立川流の理論に関する部分は、相当この方面に造詣が深くないと、理解は難しいかもしれない。それでも、密教の歴史の中で徒花のように咲いた、立川流の世界を垣間見ることはできるだろう。

※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。
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