文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:宇宙船ビーグル号の冒険【新版】

2017-09-11 12:34:34 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
宇宙船ビーグル号の冒険【新版】 (創元SF文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社

・A・E・ヴァン・ヴォークト, (訳)沼沢洽治

 ビーグル号というと、かのチャールズ・ダーウィンが乗った船を連想する。ダーウィンのこの航海での鮮烈な体験は、あの有名な「種の起源」を書くきっかけになったという。

 本書はそのビーグル号の名前を冠していることから、その宇宙版を目指したということだろうか。ダーウィンが「種の起源」を発表したのが1859年、本書が書かれたのが1950年というから、「種の起源」から約1世紀を経て書かれたことになる。さすがにこのころになると、航海する場所は、狭い地球内ではなく、広大な大宇宙だということになったのだろう。

 この作品の基本的な構成は意外と単純だ。宇宙の探索を続けるビーグル号が、未知の怪物たちに出会い、犠牲者を出しながらもそれを退けていくというもの。本書に出てくる怪物は、黒豹を思わせるようなケアル、精神を攻撃する鳥型のリーム人、宇宙空間でも生き続ける寄生生物イクストル、島宇宙のすべてに充満して生きているという巨大無形生命体アナビス。いずれも読者の想像をはるかに超えるようなもので、次はいったいどんな怪物が登場するんだろうとワクワクさせる。

 最初のケアルというのは、かなり凶悪な生物だが、SFファンの間では人気があるようだ。人間に馴れるように改良されたものが「ダーティペアシリーズ」(高千穂遥)でも、ヒロインであるケイとユリの頼りになる仲間として描かれている。(ただし表記は「クァール」)。

 ただいくつかツッコミどころもある。例えば色々と科学的な説明があるのだが、正直よく分からない(笑)。「反加速度推進」っていったいなんやねん。宇宙船が光速を遥かに超えた速度で航行したりと、アインシュタイン先生が聞いたら怒り出すぞ。なんてことを言うのは野暮かもしれない。昔のSFというのは科学ではなく、魔法を扱っているんだと思えば、それなりに楽しめる。

 3番目に出てきた、イクストルもすごい。なんと10光年先のビーグル号に食いついてその動力を吸い取ることができるのだ。ビーグル号に侵入したイクストルは、卵を産み付けるために乗組員を襲っていくのだが、最後は、反撃を恐れたイクストルが勝手に船外に逃げ出してしまうというチキンぶり。最初の規格外ぶりからみれば、あまりにも竜頭蛇尾だろう。

 全体を通してのテーマとしては、「総合科学」というものがビーグル号の中で次第に認められていくというところだろうか。ビーグル号には、いろいろな科学(人文社会も含めて)の権威が乗り込んでいる。しかし、限られた分野での専門家では、物事を総合的に見た解決策を提示できない。「総合科学」とは、色々な学識を総合することを目的とする科学らしい。

 「学際」という言葉をよく聞く。狭い学問の領域に捕らわれず、分野を跨った研究を行うことだが、この「総合科学」というのは、今で言う「学際」のことだと思えばいいのだろうか。

☆☆☆

※初出は「本が好き!」です。
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