文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:ユージニア

2017-10-11 10:55:09 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
ユージニア (角川文庫)
クリエーター情報なし
角川グループパブリッシング

・恩田陸

 舞台はK市。日本三庭園の一つがあり、富山からも遠くないという設定から、明らかに金沢市と分かるのだが、恩田作品には時にこのように場所を明記しないものがある。

 この作品のキーとなるのは、「白い百日紅」、「青い部屋」そして「ユージニア」という言葉。

 始まりは、地元の名家で起きた、17人もの人間が毒殺された事件。ただ一人生き残ったのは、青澤緋紗子という盲目の神秘的で美しい少女。実行犯の男は自殺し、この事件は終わったかに見えた。

 しかし、緋紗子の友人だった雑賀満喜子は、大学の卒論代わりに、「忘れられた祝祭」を書いて、あの事件を掘り返す。

 本作のストーリーは、関係者の事件に関する証言を集めた形で進んでいく。そして、事件の裏に潜む真犯人は緋紗子であると示唆していくのだ。しかし、結末は恩田作品らしく、結論は明記されないままに終わっている。もしも、彼女が真犯人だとすると様々な疑問点が首をもたげてくるのだ。

 もう一人真犯人候補を挙げるとすれば、ストーリーの流れからは、緋紗子の母親ということになるのだが、これとて母親をサイコパスのような人物にでもしない限り無理がある。結局最後はスッキリしないまま、色々な解釈だけが残る。

 これが、プロットを書かないタイプの作家なら、作品を書いていった結果、最後にこのような結末になってしまうようなこともあるだろうが、もし、最初にプロットがあったとすれば、あの結末にこのようなストーリーを置くというのも、ある意味とても凄いような気がする。恩田さんは、いったいどちらのタイプなんだろうか。読後感としては、前半飛ばし過ぎて、後半失速してしまった観もあるのだが。

 しかし、光を取り戻した緋紗子が、代わりにその神秘さを失って、普通の中年のおばさんになってしまっていたというのはなんとも・・・(以下略)。

☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする