確率捜査官 御子柴岳人 ゲームマスター (角川文庫) | |
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・神永学
大学の准教授である数学者・御子柴岳人が、警察の特殊取調対策班の一員として、その数学の知識を活かして事件の解決を図るというシリーズ(らしい)。
今回は、大物政治家である大泉恵一郎宅に泥棒が入ったのだが、盗んだのがなぜかUSBメモリ。ところが大泉はそんなものは知らないという。特殊取調対策班の面々が事件の調査を進めるうちに浮かび上がってきたのは、13年前に起こった殺人事件との因縁。
ところで、この作品に登場している数学者という御子柴岳人なる人物が、飛び切りの大変人。いかにも、文系人が、理系人を作品に登場させる際にステレオタイプ的に描いた人物そのものという感じだ。
なにしろ、チュッパチャップスを嘗めながら、二言目には同僚女性刑事の新妻友紀をアホ呼ばわりして、デコピンを喰らわす。「お前は好きな女の子をいじめる小学生か?」とつい突っ込んでしまう。おまけに、何かあるたびに、支配戦略とかトリガー戦略だとか叫ぶ。さすがに、「こんなやついねーよ!」と声をあげて叫びたくなってくる。
とつぜん、事件の解決に際して、訳の分からない計算式を書きだす物理学者が現実にはいないように、こんな変人(変態)の数学者もまずいないだろう。いや、いないことを証明するのは、これからもどんどん数学者が生まれてくることを考慮すれば、悪魔の証明に近くなるなるので無理だが、さすがに今のところは見聞きしたことはない(笑)。
それに、いまどき、数学者で「ゲーム理論」をやっている人間なんて、そんなにいるのだろうか。最近は、なぜか経済学者が「ゲーム理論」をお気に入りなようだ。経済学の教科書には、必ずといっていいくらい出てくるので、この程度のゲーム理論の応用なら、別に御子柴を数学者にする必要もなかったのではと思う。(確かに私が学生のころは、「ゲーム理論」の教科書と言えば、面倒臭そうな数式が沢山出ていたように記憶しているが、今は、マトリクスが書いてある程度のものが多い。)
ところでこの御子柴の身分だが、作中には「オブザーバー」と明記されている。しかしタイトルに「捜査官」とあるように、実際には、捜査や取り調べにかなり関わっているのだ。「オブザーバーがそんなことしていいいんかい!」
そして、御子柴は、大学の准教授というから若くともアラサーくらいの年代だろう。ところが、新妻友紀の同期だという二十代半ばの警察官の水島薫が、御子柴に対して、(たとえどんな大変人だとしても)タメ口というのは、かなり違和感がある(もっとも水島が単なるアホで、口の利き方を知らないという可能性もあるが)。
まあ、話としては、最後の扉だと思っていたその奥にもう一つ扉があったという感じでなかなか面白かったのであるが。
☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。