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数学する人生 (新潮文庫) |
森田 真生 | |
新潮社 |
本書は、数学の天才と言われた岡潔さんのエッセイを集めたものだ。岡さんは、奈良女子大を定年退職後に京都産業大の教授となり教養科目の「日本民族」を担当した。本書の第1章「最終講義」は、この京都産業大で行われた講義を編者の森田さんがテープから起こしたものだ。通常は最終講義と言えば、定年を迎える大学教授が通常の講義とは別に、自らの研究人生を振り返って講義するものだ。しかし、この最終講義の章は9年に及んだ講義の最初の1年の内容を纏めたものだという。そういった意味で普通の最終講義とは異なるものの、岡さんが何を考えていたかが分かるだろう。
第二章の「学んだ日々」は彼のフランス留学時代を綴ったもの。そして、第三章の「情緒とはなにか」、第四章の「数学と人生」に続く。岡さんといえばもちろん我が国を代表する数学者なのだが、本書には、彼の数学的な業績を解説するような記述はない。すべて色々なところに発表したエッセイなのだ。
これは知らなかったのだが、岡さんは一時広島文理科大(今の広島大学)に助教授として勤めていたという。しかし40前にここを辞職し、故郷の和歌山で数学研究と畑仕事の日々。彼の年表を眺めているとおかしなことに気が付く。広島文理大の助教授となったとき、その前に京都帝国大学の助教授だったのだ。広島文理大に行くことも岡さんがフランス留学から完全に日本に帰りつく前に決まっていた。今ならまず考えられないような人事だが、当時はそれが普通だったのだろうか。
岡夫人のエッセイも本書に入っているが、お金のことでは色々な苦労があったらしい。しかしそれだからこそ岡さんの生き方は私たちの胸を打つのだろう。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。