主人公は村尾柊一という大学生。父親の友員は、癌で入院中で余命いくばくもない。祖父の寛治は、2年前に脚立から落ち骨折したことが原因で寝たきりになり、その世話を柊一がやっている。
母親の久子はクソがつくほどのバカ女。再婚した亭主の商売が苦しくなっているのに、自分は高価なものを買いあさり、闇金にまで手を出し、今の旦那の会社がつぶれそうと嘘をついて、分かれた夫の保険金から金を貸せと言ってくる。次は下に書いた久子の死を担当した刑事が柊一に言った言葉だ。
「村尾くんねえ、仏さんのことではあるし、君のお母さんのことではある。だからちょっと言いにくいんだが、お母さんの金は、旦那の仕事とは無関係だよ」(省略)「たしかに旦那の会社も経営が苦しいとかで、以前ほどの羽振りはないらしい。二人の仲が険悪になったのも金が理由で、お母さんはあれが買えないこれが買えないと、よく癇癪を起してたそうだ」(p226)
ブランドものに血道をあげるバカは一定数いるものだ。柊一は、眠れないという母親に精神安定効果があると言って、スズランの鉢植えを渡す。
「スズランを根ごと飲む方法もあるからな」「このお花を?」「2,3株を水で洗って、ジューサーにかけてさ。漢方の特効薬で、でも体質によっては吐き気や下痢があるから勧めないけどね」(p191)
スズランは花は可憐だが、毒草でもある。毒草であることは割と有名だと思う。その毒は青酸カリの何倍もあるらしい。特に花や根に含まれているという。久子はそんなことも知らなかったようで、スズランの根を飲んで死んでしまう。
この小説にはヒロインらしき人物が二人出てくる。高校生の緒川彩夏とAV女優もやっている首藤李沙。てっきり彩夏がメインヒロインだと思ったが、どうも李沙の方が本命らしい。
しかし、首藤李沙が自殺をするとき、彼女の頼みで、李沙が息絶えるまで柊一はいっしょにいたりする。彼もどこか壊れているのだろう。
樋口作品は、登場人物の語り口に大きな特徴がある。どこか斜に構えたようなのだ。本書においても、主人公の口調は、他の樋口作品と同様だし、彼が相手をする女性たちもちょっと蓮っ葉な感じだ。
本作はカバー裏にはミステリーと書かれているが、私はミステリーではないと思う。なぜなら、謎解き要素がないからだ。そして、ギャグ的な要素は皆無と言って良い。読後感はなんともやるせない。
☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。