一言で言えば、作者の得意な、アホ京大生の出てくる話だ。作品中に大学名は明記されていたかったと思うが、書かれていることから、明らかに京大である。主人公の学部もはっきり出てこなかったと思うが、wikipediaによれば農学部の3回生らしい。
収録されているのは、四つの物語。それぞれ、新入生で入った時に押し付けられたビラのうち興味を引かれたところに入ったらどうなっていたかというものだ。まあ、1種のパラレルワールドものと言えるのだが、共通部分が結構あることから、口の悪い人はコピー小説とも呼ぶ。
例えば第1話「四畳半恋ノ邪魔者」は、映画サークル「みそぎ」に入った場合はどうなるかである。この話では、サークルの部長である城ケ崎やその腰巾着の相島とそりが合わず、主人公の腐れ縁の電気電子学科の同回生である小津とサークルを自主追放され、その復讐をするという話だ。
第2話「四畳半自虐的代理代理戦争」では、樋口師匠に弟子入りしたらどうなるかである。ちなみに樋口というのは小津の師匠だ。「えっ、何の師匠かって?」 それはよく分からない。ただ第1話では樋口は下賀茂神社の御祭神である賀茂建角身命(かもたけつぬみのみこと)と名乗っているが、2話目からはそれが無くなっていたので、普通の人に格下げになったようだ。
第3話「四畳半の甘い生活」では、主人公と小津はソフトボールサークル「ほんわか」に入る。実はこのサークル、大学に結構ある(あった?)変な宗教系のサークルだった。
そして最終話の第4話「八十日間四畳半一周」は、秘密組織<福猫飯店>に入った場合の物語だ。ここではパラレルワールドものということが強調される。何しろ主人公が住んでいる四畳半を出ようとしても別の四畳半が広がっているのだ。
主な登場人物は下鴨幽明荘に住む主人公とその友人の小津。主人公が恋する黒髪の乙女・明石さん、そして小津の師匠の樋口氏とその友人で歯科衛生士の羽貫さん。城ケ崎氏とそのラブドール香織さん。そして城ケ崎の腰巾着になったり、クーデターを起こしたりと忙しい相島。
どのストーりーでも共通なのは明石さんが蛾が苦手で(どのくらい苦手かというと、蛾の大群をみて「ぎょええええ」とマンガのような悲鳴を上げるくらいだ)、それをきっかけに主人公との恋が成就するということ、そして主人公の部屋が樋口からの部屋の浸水で書籍やパソコンのデータが被害を受けること。小津が鴨川に落ちて骨折することなど。
しかし、小津の所属が電気電子工学科というのは時代を感じるなあ。私たちのころは、電気系というくくりで電気工学科、電気工学第二学科、電子工学科と一括募集していた。
さすがに、こんなアホな京大生はいなかった(いやいたかな・・)ような。この〇回生という言い方には、懐かしさを感じる。関西では〇年生ではなく〇回生ということを、大学に入って初めて知り、自分も〇回生となってうれしかったのを思い出す。
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※初出は「風竜胆の書評」です。