著者はミドルネームを名乗っているが、別に外国の出身という訳ではない。純粋の日本人だ。これは、著者がサバクトビバッタの研究で滞在したモーリタニアの国立サバクトビバッタ研究所のババ所長が、著者を称えて与えたものだ。但し、どこかが公式に認めた名称という訳ではなく、本書を読む限りは、あくまで研究所の所長が言っただけのようだ。
「ウルド」の意味は「~の子孫」という意味で、例えばババ所長の正式な名前は、モハメッド・アブダライ・ウルド・ババと言って、つまりはババの子孫だという。著者は、ババ所長に誠意を示すために改名した。
ここで、ツッコミをひとつ、その使い方なら、ウルド浩太郎とつけると浩太郎の子孫ということになり、著者の次の世代以降のことになる。「ウルド」を使いたければ、浩太郎ウルド前野とする必要があると思う。実際にババ所長から言われたのは、「コータロー・ウルド・マエノ」というものらしい。
ただし、この「ウルド」というのはモーリタニアでは法律が改正され廃止されたという。理由はみな誰かの子孫であるということらしい。だから、前述のババ所長は、「モハメッド・アブダライ・エッペ」に改名したという。「エッペ」はどこから来たんだと思うのだが、ババが無くなったので、かなり混乱を招いたようだ。
本書には、バッタとイナゴの違いが書いてある。群生相のような相変異を示すものがバッタで、示さないものがイナゴだという。だからオンブバッタやショウリョウバッタなどは、名前にバッタとついているが、厳密にはイナゴの仲間だという。
面白いのが、著者が京大の白眉プロジェクトに応募した際のエピソード。なんと、面接のときに、本当に眉を白く塗ったらしい。これが果たして、合格に役立ったかどうかは分からない。しかし、あの大学は、こういった茶目っ気は好きな人が結構いる(全員という訳ではないが)。
もう一つ面白かったのが、著者がサソリに刺されたときのエピソード。なんとババ所長も、著者のドライバーも、お祈りを唱えて、「これで大丈夫」。結局日本大使館で軟膏と鎮痛剤を処方してもらって、大事にはならなかったようだが。
本書は、ユーモラスな書きぶりで書かれており、著者のバッタ愛が至るところからあふれ出してくるようだ。どのくらいバッタ好きかというと、夢はバッタに食べられること。バッタを触りすぎて、バッタアレルギーになってしまったくらいである。また、ユーモアあふれる文章の中にも職業として研究者を続けることの厳しさが伺え、研究者を目指す人には一読することを勧めたい。
ちなみに、表紙のいかにも怪しげな写真が著者で、本書中にも、全身緑タイツでバッタの大群に向かっているというヘンなおじさん丸出しの写真がある。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。