相沢沙呼さんは、私が好きな作家の一人だ。本書は短編集で、6篇の短編を収めている。最初の「ねぇ、卵の殻がついている」と最後の表題作、「雨が降る日は学校に行かない」は後者が前者の前日譚になっている。保健室登校をするナツとサエの物語である。
本書には、この他に、「好きな人のいない教室」、「死にたいノート」、「プリーツ・カースト」「放課後のピント合わせ」の4編が収録されている。登場人物はどれも女子中学生。女子はそれでなくとも同調圧力が強い傾向があるのに、この年代は特にそうなのだろうか。そして描かれるのはこの同調圧力になじめない女の子たち。
保健室の長谷川先生がサエに言った言葉が胸を打つ。
「小町さんは、学校に行けないんじゃないよ。学校に行かないだけ。先生は、そんな生き方があってもいいと思う。本当は勉強するのに、教室に閉じこもる必要なんてないはずなんだ。学校が世界のすべてじゃあないんだよ。(以下略)」(雨が降る日は学校に行かない p248)
解説で声優・タレントの春名風香さんは長谷川先生にも否定的だが、こういう先生が一人でもいればだいぶ雰囲気は変わると思う。
それにひきかえこいつはだめだね。担任の教師・川島だ。
「小町はさ、そんなふうに自分の主張を通さないでいるから、男子にちょっかいかけられるんだよ。もっと飯島みたいに明るい子を見習ってさ、教室の雰囲気を盛り上げて、みんなと仲良くなれるようにしようよ。なあ?」(雨が降る日は学校に行かない p230)
ちなみに飯島というのは、サエをいじめていた女子である。最悪なのはこんな教師ばかりいるとき。解説で春名さんが「ぶんなぐりたい」(p267)と書いていたが、その気持ちはよく分かる。
ところで、相沢さんは男性である。それも1983年の生まれというから、もうアラフォーのおじさんだ。それなのに、どうして多感な時期の女子中学生の心理をこのように鮮やかに描けるのだろう。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。