本書は、種田山頭火と並び、自由律俳句の読み手として有名な尾崎放哉の句を集めたものだ。本書に収録されているのは、中学時代に作った俳句から、彼の終焉の地である小豆島で読んだ俳句まで。
鳥取県で生まれた放哉は、一高、東大と、当時の超エリートコースを歩んだ。しかし、会社勤めが彼にはなじめなかったようで、ころころと職を変えている。おまけに酒におぼれて、勤務態度も極めて悪かったようである。東洋生命時代に結婚するもその後離婚、このあたりは、山頭火に似ている。どうも俳人=廃人を思わせるが、もちろんそうでない人も多い。
最後は、一高、東大の先輩である荻原井泉水の世話で入った小豆島にある西光寺奥の院の南郷庵で病没している。享年41、早い死であった。山頭火がヘンだが割と話しやすいおじさんと言うイメージがあるのに対し、彼は癖が強く、エリート意識もあったようで、島での評判は極めて悪かったという。
自由律俳句で有名な放哉だが、最初から自由律俳句を詠んでいたわけではない。この選句集を読むと、最初のころは普通の定型的な俳句を詠んでいたことが分かる。彼が自由律の俳句に転向したのは、東京生命保険の大阪支店から東京本社に帰ったころのようだ。しかし、山頭火に比べて硬い感じを受ける。これも彼の性格を表しているからだろうか。ただ、次のような句を読むと、彼の孤独感が透けて見えるようである。
淋しいぞ一人五本のゆびを開いて見る
とんぼが淋しい机にとまりに来てくれた
淋しきままに熱さめて居り
淋しい寝る本がない
月夜風ある一人咳して
せきをしてもひとり
墓地からもどって来ても一人
☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。