文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

じごくゆきっ

2020-08-22 09:22:11 | 書評:小説(その他)

 

 

 本書は、桜庭一樹さんの短編7編を収めた短編集である。収められているのは、「暴君」、「ビザール」、「A]、「ロボトミー」、「じごくゆきっ」「ゴッドレス」、「脂肪遊戯」の七つ。簡単にそれぞれを紹介してみよう。

〇暴君
 主人公の金堂翡翠は、益田市から松江市にあるミッション系の女子中学校に通っている中学一年生。ある日、帰る途中で小学校の時同級だった三雲陸のお腹に出刃包丁が突き刺さっており、彼の妹や弟が殺されていた。

〇ビザール
 主人公の近田カノは25歳のOL。転職先の隣の課のおじさん更田と恋仲になる。二人は、7年前土砂崩れで壊滅した同じ町の出身だった。このままうまくいくと思われた二人だが事件が起こる。

〇A
 Aは50年前のアイドル。彼女は、事故で目覚めることのない15歳の少女と接続することにより、再びセンセーションを巻き起こす。

〇ロボトミー
この話は、僕(鷹野)と優埜(ユーノ)の結婚式の場面から始まる。ユーノの母親はとんでもない毒親で、まったく娘離れしていない。僕たちは半年で離婚になる。その後再開したユーノは病に侵されていた。

〇じごくゆきっ
 主人公の女子高生金城は、副担任の中村由美子先生と2人で、なぜか鳥取砂丘へ行くことになってしまう。

〇ゴッドレス
 主人公のニノは父の香(かおる)から呼び出される。香は同性愛者で、彼の女友達が体外受精でニノをつくった。香はニノに勉という男と結婚しろという。勉は香の恋人で、ニノと結婚すれば家族になれるというのだ。ニノは香からDVを受けて、支配されていた。

〇脂肪遊戯
 第1話の「暴君」と続く話で、そちらにも出てくる田中紗沙羅の物語。彼女は小学校では美少女だったが、思春期を迎えると美少女のままぶくぶくと太りだした。その理由が明らかになる。

 桜庭さんの作品は好きなのだが、ツッコミどころも多い。名前や設定が変なのが多いのである。もうひとつ地理的な感覚も変だ。あの名作「砂糖菓子の弾丸は打ち抜けない」には海野藻屑というトンでもない名前が出てきたし、七竈という美少女もいる。この短編集では田中紗沙羅が変と言えば変なのだが、トンでもない名前は見当たらない。ただし紗沙羅の設定が、「整った目鼻立ち。横幅は少女二人分。巨漢の美少女。」(p13)と、やっぱり変なのである。

 地理的な感覚に関しては、例えば主人公は、益田市から松江のミッション系の女子中学校に入っている。本文にも松江は益田の「近くの都会」(p8)と書かれているが、益田市は島根県の西のはずれ。殆ど山口県である。一方松江市は島根県の東の端、隣はもう鳥取県だ。両者の距離は160㎞以上もある(注:益田駅~松江駅)。決して近くはない。他の作品には、下関にサンゴ礁の島があったり、中国一の大都会だったり・・・。伯備線の近くに余部鉄橋があると言ったり。

 帯やカバーの後ろ側には「「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」の後日談を含む」と書かれており、期待していたのだが、結論を言うとどの話が該当する作品かよく分からなかった。おそらく隣の県の益田市の話である「暴君」と「脂肪遊戯」がそうなのかなと思う。しかし、「砂糖菓子の弾丸」の舞台は鳥取県境港市だ。地理的に離れすぎている。
 
 ミッション系の女子中というのは2005年までは松江にあった(現在は共学)。当時の時刻表は分からないが、今だったら特急に乗らないと始業時間に間に合わない。各駅に乗れば片道4時間程度かかるので、山陰線の便利の悪さを考えると、益田から松江に通学というのは、まずありえないと思う。

☆☆☆☆

※初出は、「風竜胆の書評」です。

 

 

 

 

 

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